アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

@ma-no

第一章 森編 猫の生活にゃ~

000 プロローグ


 冬の寒さが和らいだその日。縁側で日向ぼっこをしている老人の命が、いまにも尽きようとしている。


 わしも今日で百歳か……今までいろいろあったのう。

 金持ちとは言えないが、食べる物に困らない少年期。悲しみの多かった激動の青年期。苦労は多かったが、幸せな出会いに恵まれた壮年期と中年期。晩年は……孫とオンラインゲームばっかりしておったな。

 戦争で大切な者もたくさん失ったが、その後は妻と出会い、子供、孫、曾孫ひまごまで見ることが出来るとは……

 今日もわしの誕生日を祝う為に、多くの者が集まってくれておる。辛く悲しいことがあったが、幸せな人生だったのう。



 老人は思い出を反芻はんすうしながら目をつぶる。



 そして老人は、新たな旅立ちに出るのであった……



「ここは……」


 老人が目を開けると、そこは川に浮かぶ船の上。周りには見た事もない美しい風景が広がっていた。


「さっきまで縁側にいたはずなんじゃが……これは……夢か? こんなに綺麗な夢は初めてじゃ」


 老人は自分の夢だと思い込み、周りを見渡しながら川の流れのままに船の進路を任せる。それからしばらくすると、船はひとりでに着岸した。


「夢なんだから歩かせなくてもいいんじゃが……船は動かないみたいじゃし、どうしたものか……」


 きょろきょろと辺りを見渡すと、小高くなっている丘に柔らかい光が差している場所を発見する。


「とりあえず、あそこを目指すか……しかし、綺麗な場所じゃのう。女房にも見せてやりたかったのう。いや、夢の中では無理か。じゃが、わしの見た景色にこんな綺麗な場所はあったかのう?」



 老人が綺麗な景色に目を奪われながら歩いていると、いつの間にか光の下へ辿り着いていた。


「お待ちしていました」


 そこには、見た事もない美しい女性が立っており、優しい声で語り掛けて来た。


 なんじゃ、このべっぴんさんは!? この世の者とは思えぬほどの美人さんじゃ~!!


 老人が見惚れながら呆けていると、女性が話し掛けて来る。


「嫌ですわ。そんなに褒めても何も出ませんよ」


 あれ? 声を出していたかな?


 老人が悩んでいると、また女性に話し掛けられる。


「私は考えていることを読む力があるのですよ。なにせ、私はあなた方が神と呼ぶ存在ですからね」


 そう言って女性は威張りながら胸を張る。そして、驚いて声も出せない老人に向けて自己紹介を始める。


「鉄之丈さん、『死後の世界』へようこそ。私はアマテラスと申します」

「アマテラス? あのアマテラス??」

「そう言えば、鉄之丈さんの生まれた場所では、私のことが受け継がれていましたね。でもあの話は、名前以外いろいろな話がまざったり創作されている箇所が多いので、正確とは言えませんね」


 なんで名前を知っているんじゃ? 死後の世界? アマテラス? これは夢じゃないのか??


「あらあら。混乱していますね。それでは、あなたの現状について、整理してご説明いたします」



 どうやらわしは死んだらしい。



 生とし生けるものが命を落とすと「死後の世界」という場所に魂が集められるみたいだ。そしてその魂の徳の高さによって、次の魂の宿り先が決まるとのこと。徳の高さで選べるコースは、大まかに言うとふたつ。


 輪廻転生コースと転生コース。


 輪廻転生コースは、元の世界に生まれ帰る。徳が高いと霊長類。さらに高いと人間。ランクも、貧乏人、金持ち、危険な地域、安全な地域と選べるらしい。徳が低いとアメーバーや単細胞生物、ノミやミジンコとなるみたいだ。


 転生コースは、元の世界ではなく、違う次元。地球とは違う進化を遂げた世界の生物に魂を宿らせるみたいだ。

 爬虫類が進化した世界や、鉱物が生命体となった世界、科学が地球より発展した世界、科学の代わりに魔法が発展した世界もあるらしい。



「鉄之丈さんは、稀に見る徳の高い魂ですので、り取り見取り。記憶を持ったまま転生も出来ますよ。私のお勧めは、魔法の使える世界ですね。日本の若い人に大人気なんですよ。と言っても若い人では、高齢の鉄之丈さんのように徳を貯める時間が少ないので、行くのは難しいんですけどね」

「そう言われましても、わしは若くないですからのう」

「何を言っているのですか。次に宿る体は赤ちゃんからですよ? そんな年寄り染みていて、いいのですか!」


 軽く怒られてしもうた……


「たしかにそうですな。これから新しい人生が始まるのですから、心機一転、若人わこうどに戻ったつもりで頑張ろうかのう」

「若人って……はぁ~。まぁいいです。それでは希望のコースと、ご希望があれば遠慮せずにおっしゃってください」

「いきなりですな。少し考えさせてくれませんかのう?」

「あ、そうですね。どうぞどうぞ」


 さて、どうしたものか……まず輪廻転生か、違う世界への転生じゃったな。さっき言っていた科学の発展した世界はかれるのう。もしかしたら、宇宙旅行なんて出来るかもしれんしのう。


「出来ますよ」


 考えているんだから、わしの心を読んで、合いの手を入れないでいただきたい。

 それとも、おすすめの魔法の世界か……手から火を出したりするんじゃろうか? 孫とやったオンラインゲームみたいじゃし、たしかに惹かれるが……

 いま、チラッとアマテラス様を見たら何か言いたそうにウズウズしておったな。これは早く決めたほうが良さそうじゃのう。



「決まりました。輪廻転生コースでお願いします」

「ええぇぇ~! 久しぶりに徳の高い人が来たのに、もっと面白い世界に行きませんか~? 魔法、カッコイイですよ~?」


 あからさまに残念そうにされた。口調まで変わって、どうした?


「輪廻転生だと簡単過ぎて、仕事した感がないんだも~ん」


 子供か! それと心も読むな!!


「ええぇぇ~!」

「もう決めましたので、輪廻転生でお願いします!」

「残念ですが、わかりました……それでは地域、経済状況、容姿、その他ご希望はありますか?」

「そうですね。息子が継いでくれた会社が気になりますので、家から50キロ圏内で金持ち、美男子でお願いします。この条件でも記憶は持って行けるのですか?」

「もちろん大丈夫ですよ。それでは、そのように手配しますね。次の人生も楽しんで来てください。では、良い旅を……」


 それだけ告げるとアマテラスは両手を鉄之丈に向け、何か呪文のような言葉を呟く。すると鉄之丈の体は輝き出し、光の球へと変わる。

 その光の球はふわふわと浮上し、鉄之丈は新しい人生に向かって旅立つのであった……


「良い旅を……」


 アマテラスは再び旅立ちの言葉を告げると背を向け、新しく「死後の世界」に来る魂に会いに行くのであった。鉄之丈の魂が他の魂とぶつかり、進路を変えたと気付かずに……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 ん、んん~……何かで拭かれている感触がある。産まれたのか? と、言う事は……ここは病院のベッドか。


 鉄之丈は目をこすり、開き辛いまぶたを開けると、そこには巨大な化け猫の姿があった。


「にゃ、にゃああぁぁ~~~!!(ぎゃ、ぎゃああぁぁ~~~!!)」


 鉄之丈が驚きいて大声をあげると、巨大な化け猫は優しく語り掛けて来る。


「どうしたの? 何も怖がらなくていいのよ。お母さんが守ってあげるからね」


 どうやら鉄之丈は猫に転生してしまったようだ。


 本人の希望は叶わずに……

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