001 猫に転生したにゃ~


 我輩は猫である。名前はまだ無い。

 敬愛する夏目先生の一文が頭から離れない今日この頃……どうやらわしは、猫に生まれ変わったみたいである。人間に生まれ変わらしてくれると言ったあの悪魔(神)を信じたわしが馬鹿じゃった!


 猫に転生してから、早三か月……生まれ落ちたと思ったら、そこは巨大な猫に舐められている最中。驚いて叫び声を発してしもうたが母親との事で、安心したのは束の間。ここから羞恥の授乳タイムが待っておった。

 どうしたらよいものかと考えておったが幸い兄弟が二匹いたので、それをマネてなんとか乗り切った。人間に転生していたと思ったらゾッとするのう。


 授乳タイムが終了すると、次は恐怖の離乳食。母親が噛んで柔らかくした肉。味もなく、気持ち悪いが我慢して飲み込む。それに慣れたら、虫やカエル、ネズミといった小動物を食べる地獄に続く……


 これらの耐え難き苦痛に耐えて来たのも、あの悪魔(神)、アマテラスに、今一度相見あいまみえる為である! さて、この恨みどうしてくれようか……

 その前に、猫がどうやって徳を得るかじゃな。食事で命を貰うのは、徳が減るのじゃろうか?



 愚痴は程々にするとして、ここはおそらく山の中の洞穴みたいだ。まだ幼いので遠出は出来ないから確証は無い。見た事も無い真っ黒な木と真っ白な木があるのは気になるが、野生の猫に転生したと思われる。


 家族は母親と兄弟が二匹。父親は見た事が無い。名前が無いので、勝手におっかさん、男猫、女猫と区別をつけて心の中で呼んでいる。おっかさんはわしたち兄弟より十倍以上デカイが、まだ子供だから大きく感じるだけだと思われる。


 コミュニケーション方法はと言うと、思った事を「にゃあにゃあ」と伝えると完璧に伝わる。猫はこんなふうに会話をしていたのだと驚かされた。しかし、頭の中に直接響いている気がするけど、猫とはそいうモノだと思うことにしている。


 容姿は四匹とも全身真っ白で、見た目はわし以外シュッとしており、見目美しい猫の姿をしている。わしだけが皆と似ていないが、鏡で見たわけではなく小川に映った姿を見たから、さほど違いはないはずだと自分に言い聞かせている。


 疑問に思う事が多々あるが、神にあった事があるわしが猫の生態ぐらいで、いまさら驚く事でもないだろう。



 生まれてからいろいろあったが、今日も我が猫家族は、平和に暮らしている。



「ねえねえ。おかあさん」


 ん? 男猫がおっかさんに何か質問をしている。最近自我が目覚めたのか、よく質問している姿を見るな。なんじゃろう?


「どしてみんな同じような体なのに、一匹だけ丸い兄弟がいるの?」


 ブフゥー! ついにわしの触れて欲しくない部分がつつかれる時が来てしまった! まぁこれは、みんなよりちょっと太りやすい体質なだけだと思うから大丈夫じゃろう。


「ねえねえ。おかあさん。わたしも聞きたいことがあるの」

「なんだい?」

「どうしてみんな尻尾は一本なのに、一匹だけ尻尾が二本あるの?」

「「ねえねえ。どうして~?」」


 ゴホ! ゲホッゲホゲホ……わしもずっと気になっておった。わしの見た目は、座ったら雪だるまに猫耳が生えた感じで、どこかのゆるキャラかと見間違える容姿をしておる。さらに、尻から二本の尻尾が生えておる。

 これって猫又じゃよな? 妖怪じゃ……生まれた時はおっかさんの事を化け猫と思ったけど、わしは100パーセント化け猫じゃ。

 怖くて聞けなかったけど、兄弟たちはどう思うのじゃろう? イジメられる? わし、追い出される? わし、ピンチ!!


 わしが冷や汗を垂らしながら事の顛末を見守っていたら、おっかさんは優しい顔のまま二匹の質問に答える。


「そうね。この話は大人になった時にしようと思っていたけど、ちょうどいいわね」

「「なになに??」」

「私のお母さんから教えてもらった話で、私たちの先祖はね」

「先祖って、な~に?」

「お母さんのお母さん、そのまたお母さんってことよ」


 おっかさんの話に興味深々な兄弟達が見詰める中、おっかさんは昔話を語り始めるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 昔々あるところに長生きした猫がいたそうだ。いつしかその猫は二本の尻尾を生やすと、誰にも負ける事の無いほど強くなり、猫達の長として群れを治め、平和に暮らしていたそうな。


 ある日、その平和が崩れる。


 大きな、とても大きな化け物に群れが襲われ、猫達は成す術もなく殺されて、群れは壊滅的な被害を受けたそうな。


 その化け物に一人立ち向かったのが白くて丸い尻尾の二本ある猫。ご先祖様だ。


 ご先祖様と化け物は、三日三晩激しい戦いを繰り広げ、決着がついた時には、ご先祖様も化け物も死に絶えたそうな。

 その戦いは熾烈を極め、森は焼け、大地は裂け、地形は見るも無残になったそうな。猫達は住めなくなった地を離れ、群れは散り散りとなり、お母さんのお母さん、そのまたお母さんは転々と住み家を変え、この地に移住して来たそうな。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 おっかさんの話を聞き終えた兄弟は目が爛々らんらん。おっかさんは優しい目をわしに向けている。


「「ご先祖様カッコイイ!!」」

「そうね。ひょっとしたら、この子はご先祖様の生まれ変わりなのかもしれないわね。姿形は違うかもしれないけど、大事な私の子供なのは間違いないわ。だから、仲良くするのよ」

「「うん! 仲良くする~」」

「にゃ~~~(よかった~~~)」


 わしは嬉しくなっておっかさんに抱きついてしまう。


「あらあら。甘えたね~」

「あっ!!」

「ずるい~~!」


 そう言って兄弟達もおっかさんに抱きつき、みんなでじゃれあってから、一匹を除いて眠りに就くのであった。


 何その神話!? 森が焼ける? 地が裂ける? 怪獣大戦争か!!


 また謎が増えて、悶々とするわしであった……

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