002 狩りを習うにゃ~


「今日は、みんなに狩りの仕方を教えるわよ!」


 おっかさんがビシッと手を上げて宣言するが、わしは黙って考えている。


 狩りなら、いつも小鳥やネズミを追いかけてるけど、それとは違うのかな? 兄弟達は蜘蛛やらカエルを取って来たりするけど、わしは生理的に無理じゃ。


「今日は大きな獲物を狙うわよ。血がしたたっておいしいわよ~?」

「「ごちそうだ~!!」」


 二人の兄弟は喜び合う。だが、わしはさらに考え込む。


 血が滴るは、味の表現ではない! ツッコンでしまった……。それより、大きな獲物ってアレじゃよな。たまにおっかさんが持って帰って来る、おっかさんより小さい狼みたいなヤツ……

 狼が中型犬ぐらいの大きさだとすると、おっかさんは3メートルぐらいあるんじゃけど……まさかね。


「今日の狩りは私が見本を見せるから、みんなは見学よ。よ~く見てるのよ~?」

「え~! ボクできるよ~」

「わたしも狩りたい」

「わしは見学でいいかな~?」

「わがまま言わない! シャーーー!!」

「「「はい!!!」」」


 見学するって言ったのに、わしまで怒られた……。おっかさんの怒った顔は、歯がむき出しで超怖いんじゃから怒らせないで欲しいもんじゃ。


「それじゃあ、獲物を捜すわよ。静かについてきてね」

「「「は~い」」」



 住み家の洞穴を出た四匹の猫は獲物を求め、颯爽さっそうと森の中を走る。


 速い! おっかさんも兄弟達も本気で走っているように見えないけど、わしはついて行くのがやっとじゃ。この丸い体のせいか? みんなは空気抵抗が少なそうじゃもんな。



 わしは必死でおっかさん達について行く。しばらくすると、おっかさんは走るのをやめて、わし達に話し掛けて来る。


「ここまでが、私達の縄張りよ。ここより向こうに行ってごらん」


 わし達兄弟はおっかさんの言う通り、トコトコと進んでみる。


 匂いが変わった? それと毛がビリビリするような……変な感じじゃ。


「どう? わかった?」

「ん~。ボクはよくわからないや」

「わたしはわかるよ。匂いが変わった!」

「そうね。正解よ。えらいわね~」

「エッヘン!」

「うぅ~~」

「あなたは何かわかったんじゃない?」


 女猫が偉そうに胸を張ったり男猫が残念がったりしていると、おっかさんは確信したようにわしに問うた。


 これは、感じた事をそのまま言ったほうがいいのか? う~ん……悩んでいても仕方ないか。


「匂いが変わったのと、何か毛がビリビリする?」

「やっぱり。キョロキョロしていたから、そんな気がしたのよね」

「「兄弟すごい!!」」

「そうね。その大きさで感じる事が出来るのは凄いことよ。エライエライ」

「にゃ~ん」


 そんなに褒めるな。照れて変な声が出てしまったわい。でも、気を付けないと。元が人間だとバレるのも怖いしのう。ただでさえ猫又なんじゃし、注意しよう。


「縄張りの場所はわかったわね? 遊ぶ時は、ここまで来ちゃいけないわよ」

「「「は~い」」」

「それじゃあ、ここからは縄張りの外だから慎重に進んで行くわよ。危険だから、私の言う事は必ず聞くのよ」

「「「は~い」」」


 おっかさんは、わし達を引き連れて森の中をゆっくりと進む。そのあとを続くわしは、辺りを見回しながら進んでいる。


 そう言えば、これだけの遠出は初めてじゃのう。兄弟達もキョロキョロと周りを見ながら歩いているな。しかし、あまり景色は変わらないが、森にチラホラ生えてる黒い木が気になるのう。

 幹から葉まで真っ黒で、あんな木など見た事が無い。住処の前に一本だけ真っ白な木もあるし、ここはアマゾンの奥地とかなのかな? せめて富士山の樹海とかなら、元の家に帰れたかもしれんのにな。




「静かに! 草むらに隠れて!!」


 おっかさんの指示に家族全員、サッと身を隠す。しばらくすると、大きくて真っ黒な猪のような動物が目の前に現れた。


 あれは猪? 馬鹿デカイんじゃけど~?? それになんか額に角が二本付いてるように見えるんじゃが……。今だにサイズの基準が無いからわからんが、狼が基準で考えると6メートルぐらいあるかも?

 そう考えると、やはりおっかさんは3メートル近くある……猫なの? ここまで来たら、虎のほうが近くないか? いや、見た目は間違い無く猫じゃ……

 こんなデカイ生物は地球におるのかのう? まさか地球じゃないとか? いやいや、未開のジャングルの奥なら、これぐらい成長していてもおかしくない……かも?


 わしはふと、あの悪魔(神)アマテラスの言葉を思い出す。


『生物が違った進化をした世界もありますよ』


 嫌な考えが頭に浮かび、「違う!」と考えを振り払っていると、角の付いた猪はノソノソと歩き去って行く。それと同時におっかさんは緊張を解き、わし達兄弟に話し掛けて来る。


「今のは、ここを縄張りにしている動物よ。強いけど、隠れていれば見つかることはないわ。もし出会ったら、すぐに隠れるのよ」


 おっかさんの説明を聞いた兄弟達は、気になる事があるようだ。


「ボクなら勝てる?」

「おかあさんより強いの?」

「もちろんお母さんのほうが強いわ。あなた達には早いから、手を出してはダメよ。いい? 怪我をしてまで、獲物をとろうとしてはダメよ」

「どうして~?」

「なんで~?」

「怪我をすると病気になったり、今までとれていた獲物もとれなくなるの。だから、無理をせず、確実に勝てる獲物を狩るのよ」

「うん!」

「わかった~」

「はい」

「それじゃあ、狩りの続きをするわよ~」

「「「は~い」」」


 森の中を慎重に歩き、家族で探索していると、風に乗って微かに嗅いだ事のあるにおいがして来た。


 このにおいは……狼かな? 一匹ではなさそうじゃけど、わからんな。おっかさんは気付いているみたいじゃけど、兄弟達はまだ気づいてないみたいじゃ。

 ここは気付いてない振りをしとくか……あ、おっかさんと目が合ってしもうた。バレたか?


「向こうから、ちょうどいい獲物が二匹来たわね。みんなはここで隠れて、お母さんの狩りの仕方をしっかり見ててね」

「「「は~い」」」


 わしの心配を他所に、おっかさんは静かに移動して草むらに身を隠す。おっかさんが身を隠すと、しばらくして二匹の狼が現れた。


 来た来た。おっかさんの言った通り二匹いるな。さすがは狩りのプロ。あの微かなにおいから数までわかるんだから、おっかさんは凄いのう。

 おっ! おっかさんが動いた。音も立てずに速い! 一瞬で二匹の側面から襲い掛かった。


 おっかさんは一匹目の狼には、頭に左前足を叩き付け、そのまま狼の頭を地面に押し付ける。グシャッと鳴る嫌な音と共に、狼は動きを止めた。


「「おかあさん、強い!」」

「おっかさん、強すぎ……」


 残った狼は驚いたのも束の間、すぐに逃げ始める。おっかさんは慌てる素振りも見せずに、右前足を上げると振り下ろす。すると風が鋭い刃となって、狼の頭と胴体とを切り離した。


「「おかあさん、すっご~い」

「………」


 嬉しそうに飛び跳ねる兄弟達とは違い、わしは呆気に取られて声も出ない。また、悪魔(神)アマテラスの言葉を思い出していた。


「科学が発達した世界もありますし、魔法の使える世界もありますよ。若い人には人気なんですよ」


 つまりわしは、異世界転生したってことなのか~~~!!!

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