003 魔法を習うにゃ~
「「おかあさ~ん」」
わしがおっかさんの魔法に呆気に取られていると、兄弟達がおっかさんに駆け寄る。わしも怪しまれないように遅れてなるものかと走り出した。
「おかあさん食べていい?」
「おかあさん、お腹すいた~」
「そうね。持って帰って食べたいところだけど、一匹食べよっか」
おっかさんはわし達が食べやすいように狼を爪で切り裂くと、兄弟が喜ぶのでわしも続く。
「「わ~い」」
「わ、わ~い」
「いっぱいあるから仲良く食べるのよ~」
ん~。とれたてともあってうまい! ……って、わけもなく、他の食べ物よりマシってところじゃのう。出来る事なら塩胡椒で焼いてから食べたいな。
そう言えば、さっきおっかさんは風の刃のような物を飛ばしていたな。アレが魔法だとしたら、火を出したり出来るんじゃなかろうか?
孫から借りたラノベとか言う本にそんな事が書いてあったはず。内容はたしか、異世界に行った少年が魔法を使って冒険する話しじゃったはず。その本で魔法の使い方は……思い出せん。もう少し、しっかり読んでおけばよかったのう。
わしたち猫家族は、わし以外、美味しそうに狼を食い漁る。
ふぅ。食った食った。満足満足。みんなも満足した顔になっておるな。血塗れで酷い事になってるけど、狼はきれいに残さず食べられておる。猫のする事かと、また疑問に思うけど……
「おなかいっぱ~い」
「もう動けない」
「休んでいる暇は無いわよ。そろそろ戻らないと、血の
「「「は~い」」」
男猫と女猫がお腹をさすっていたらおっかさんは残っていた狼を咥え、軽々と持ち上げ歩き始める。わし達はおっかさんに続いて帰路に就くのであった。
それから翌日、おっかさんの狩り講義が始まる。
「昨日の狩りを見てどうだった?」
「すごかった~」
「かっこよかった~」
「えっと、つよかった~」
わしは何と答えていいのかわからずに、それっぽい事を言ってみる。出来るだけ兄弟達と同じ行動を取っていれば、怪しまれないはずだ。
「ちゃんと狩り方を見てた?」
「「うん!」」
「う、うん!」
「ああやって、出来るだけ気付かれないように近付いて一撃で仕留めるのが狩りの基本よ。あなた達では一撃ってわけにはいかないから、首の柔らかいところを噛み千切るといいわ。こんなふうに……」
おっかさんは一瞬でわしに近付き、首にガブリと噛み付いた。
「ふにゃ~」
「こんなふうにね」
痛くは無いけど、甘噛みがくすぐったくて変な声が出てしまったわい。おっかさんはデカくて圧迫感があるから、練習台にするのはやめてもらいたい。
「おかあさん速い!」
「気持ち良さそう」
「ふにゃ~」
「お遊びはここまでにして、次ね。二匹目の獲物に攻撃したのは何かわかった?」
「えっとね~。風がブァ~ってなってた!」
「ブァ~じゃなくシュパーンだったよ!」
「そうそう」
男猫は派手な身振りで表現して、女猫は攻撃を的確に表現するのう。ここは女猫に乗っかるのが無難じゃろう……ん? いま、おっかさんに見られていた気がする……気のせいか??
「だいたいそんな感じね。あれは魔法って言う物なのよ」
「「まほう?」」
「ま、まほう?」
うん。知ってた。
「そうよ。魔法はね。手で届かない獲物に遠くから攻撃が出来て便利なのよ」
「ボクにもできる?」
「わたしにも~?」
「わ、わしにも?」
兄弟達は目を輝かせて、おっかさんに詰め寄る。わしもマネして詰め寄る。
「お母さんも、お母さんのお母さんに教わって出来るようになったから、みんなも出来るわよ」
「やった~」
「どうやるの~?」
「まず初めに、体の中の魔力を感じるところからね。そして、これと同じ形になるように魔力を外に出してごらん」
男猫と女猫の質問に答えながら、おっかさんは昨日と同じ大きさの【風の刃】を大きな岩に向かって放つ。その【風の刃】は岩を半分ほどえぐり、風は霧散した。
「「やってみる~」」
「や、やってみる~」
兄弟達はさっそく始めると、男猫はウンウンと力を込め、女猫は静かに目を閉じる。わしはとりあえず様子見だ。
男猫、力み過ぎ! このままでは違うものが出て来そうじゃ。その点、女猫は静かなものじゃ。目を閉じ、集中して瞑想をしておる。してるよな? だんだん舟を漕ぎ出しているような……
あっ! おっかさんの目が怖くなって来た。このままじゃ怒られそうじゃし、わしだけでも真面目にやろう。
「コラッ! もっと集中して真面目にやりなさい!!」
「そんなこと言ってもよくわからないよ~」
「だから、体の中にね……」
おっかさんは身振り手振りで説明してるけど、一向に伝わっておらんな。まぁあんな説明でやれって言うのは難しいじゃろう。それより、おっかさんの怒りが飛び火しないように、わしも始めるか。
体の中の魔力を感じるって……アレの事じゃろうか? なんだか体の中に、水のようなモノがダブって感じているモノ。それが魔力だったんじゃな。今まで聞きたくて仕方なかったベスト3に入っているモノの正体がやっとわかった。
生まれてからやる事が無さ過ぎて、暇な時はいつもこねくり回しておったから、これを動かすぐらい一人遊びで培ったわしには造作も無い。どれ、ちょっとやってみるか。
これをこうして、出た時にはさっきのおっかさんの風の刃になるよにイメージして、あの大きな岩を目標に……発射!
シュンッ……ズバッ!
わしの放った【風の刃】を見た兄弟達は、こちらにキラキラした視線を向ける。
「わ~~~~!」
「兄弟すごい!!」
「お、おう……」
簡単に出来てしまった……しかも、おっかさんの風の刃より速くて鋭かった。大岩も真っ二つじゃ。おっかさんは、何か言いたそうに鋭い目でこっちを見ておる。何か言い訳をせねば!!
「い、いまのは……ふにゃ~~~」
「あらあら」
「「だいじょうぶ~?」」
な、なんだ……力が抜ける……意識をたもて・な・い……
突如、急激な脱力感に襲われたわしは、おっかさんの
「ん、んん~……よく寝た。ふにゃ~」
目覚めたわしは、大きなあくびをしながら起き上がる。周りの雰囲気が気になり洞穴の中を見渡すが、そこには誰の姿も無かった。
あれ? 朝はいつも同じ時間に起きるのに、みんなどこに行ったんじゃ? そう言えば……昨日はいつの間に寝たんじゃろう??
昨日はたしか、おっかさんに魔法を習っていて……あっ! おっかさんと同じ魔法を使ったら、いきなり意識が飛んだんじゃった。
アレってやらかしてしまったか? 変に思われていないじゃろうか? 誰もいないって……もしかして、丸くて尻尾の二本ある得体の知れないわしを置いて、どこかに行ってしまったのか??
わしは洞穴から飛び出し、キョロキョロと辺りを見渡す。
居ない……みんなどこに行ったんじゃ……
「にゃ~………」
洞穴の前でうな垂れていると、悲しい声が漏れてしまう。生まれてからいつも誰かが傍にいてくれたから、独りだと寂しさが込み上げて来た。
うな垂れていても仕方がない。きっと皆は狩りに出ているに違いない。ポジティブに行こう! 考えてみたら、独りの時間があるのは初めてなんじゃ。いまの内に魔法の練習でもしておこう。
昨日は魔法の練習をしていて気を失ったはずじゃ。そうだとすると、魔力の使い過ぎて倒れたのかもしれない。何も考えずに全ての魔力を【風の刃】に乗せて撃ったから、今日は少しずつ魔力を調整して撃ってみよう。
まずは魔力の量を確認! ……ん? 昨日より魔力の量が増えてる。いつも体内でこねくり回していた時より多く増えている気がするな。成長による誤差かもしれんから、この件は経過観察にするか。
それじゃあ、まずは1%の魔力量で作った【風の刃】を、あの岩に目掛けて撃ってみるか。1メートル四方の岩に傷でも付けられれば、動物に怪我ぐらい負わせられるじゃろう。
速度、形をイメージして……発射!
ひゅ~~……
「そよ風か!!」
いかんいかん。自分の失敗にツッコンでしまった。年取ると独り言も増えると言うし、自重せねばな。
さすがに今のは魔力量が少な過ぎたのう。次は10%ぐらいに調整してっと……発射!!
ヒュンッ! ガリィィィ!!
おお! 岩に半分ぐらい減り込んだ。速度も速いし威力も上々。これを常時使うとして、威力を上げたかったら魔力量を上乗せすることにしよう。いまは十発が限度じゃが、そのうち魔力も増えて使用回数も増えるじゃろう。
とりあえず、もう二、三発撃って慣れておこう。さっきと同じ魔力量で、新しい岩に狙いを定めて……今度は、連射!!
ヒュンヒュン! ガリィズバ!!
おお! 切断した!! しかし、兄弟達と比べて妙に上手く出来るんじゃけど、猫又って種族のせいか?
さすが物の怪! 妖術が得意とは、伊達に丸くて尻尾が二本も付いてないな。……うん。この話はやめておこう。言ってて悲しくなって来た。
魔法か……わしが元の世界に居た時に、孫に誘われてやったゲームにも出て来たのう。ゲームではいろいろな種類の魔法があったな。火や土、水や雷、その他特殊魔法なんかがあったはず。ここにもあるのじゃろうか?
……はっ!? 火魔法が使えたら肉が焼ける! これは何が何でもやらなくては!! さっきと同じ要領で、魔力を1%に固定。からの、ライターの火をイメージして目の前に着火!
ボッ!
簡単に出来た! これで焼き肉祭りじゃ~!! ビフテキ、ビフテキ食べ放題~!! ……年甲斐もなくはしゃいでしまった。とりあえず火が使えるんだから、他のも使えそうじゃのう。
次は飲むも良し浴びるも良しの、生活に役立ちそうな水魔法でも試してみようかのう。火魔法と合わせれば、お風呂も出来る。夢が膨らむのう。
水なら森に被害も少ないから、強めに10%の魔力。球状にイメージして……出現!
ポヨン……
出た出た。しかしイメージより小さいし、浮遊させて維持させるのはなかなか難しいからしんどいな。この瞬間も魔力が減っているのが感じられる。
風の刃と同じくらいの魔力を込めたのに、大きさは半分以下じゃ。理由はわからないから、また後で考えるとしよう。ひとまず、この水は家族に気付かれないように、あっちの草むらに投げておこう。ほいっと……
バシャッ!
「「にゃ~~~!!!」」
き、兄弟の声……しまった~!
わしは声のした方向に駆け出す。するとそこには、水に濡れたかわいそうな兄弟猫二匹が哀愁を漂わせていたのであった。
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