415 静かでない湖畔にゃ~


 ひょうの群れとの戦いを終えたリータの元へ、続々と戦った者が集まって来る。


「「にゃ~ん」」


 まずはエリザベスとルシウス。嬉しそうにリータの元へやって来た。


「お疲れ様。さすがシラタマさんの兄弟ですね」

「「にゃ~ん」」

「うふふ。次は、いっぱい頼みますね」


 どうやら二匹は、久し振りに暴れられたので楽しかったようだが、物足りなさもあったようだ。そんな二匹の頭を撫でて感謝すると、二匹はさっちゃんの元へ駆けて行った。


「やっぱりオニヒメちゃんが入るといいニャー」

「ん。確実にバランスがよくなった」


 次にやって来たのはメイバイとイサベレ。オニヒメを褒めて頭を撫でている。


「本当ですね。ありがとう」

「うん! ありがと~」


 リータからも褒められて嬉しいからか、笑顔のオニヒメは、何故か感謝の言葉を返す。これは、オニヒメは言葉をあまり知らないので、どう返していいかわからないから、精一杯の返事だったのであろう。


「あれだけ威勢のいい事を言っておいて、すまなかったのう」


 最後にやって来たのは玉藻。全て相手取ると言ったのに、黒豹がリータ達に向かった事を反省しているようだ。なので、人型に変化へんげするより先に九尾のキツネのまま戻り、リータ達に謝罪の念話を送った。


「いえ。これだけ楽をさせてもらっているのですから、謝る事じゃないですよ」

「そうか。シラタマなら、このような群れと戦う場合、どうしておるのじゃ?」

「似たようなものですかね? 私達が戦える程度を回してくれます」

「それって、楽をしたいからじゃないじゃろうな?」

「それはわかりませんが、私達は元々ハンターですから、これが仕事です。経験を積ませようとしていると信じています」

「あやつがな~」


 やや信じられないといった玉藻。まったく王様らしい仕事をしないシラタマを見ては、致し方ない事なのだろう。事実、リータ達が戦っている横で、コーヒーを飲んでくつろいでいる時も多いし……


 そうしてリータが報告を聞いていると、後ろから走る音が聞こえて来る。


「「タマモ様!」」


 サンドリーヌとローザだ。何やら息を切らしてやって来た。


「どうしたんじゃ?」

「凄いです!」

「かっこいいです!」

「あ、ああ……ありがとう?」


 玉藻は、豹の群れの戦いの事を指しているのかと思って返事をしたが、二人の過去形ではない褒め言葉に、首を傾げる。


「「それで……」」


 すると、二人はモジモジしながら言葉を重ねる。


「「モフモフしていいですか!?」」

「は?」


 二人の物言いに、玉藻の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


「すごく綺麗な毛並みですもん!」

「撫でさせて欲しいです!」

「な、なんじゃ? そち達は、わらわを見ても怖くないのか?」

「ぜんぜん! 撫でていいですよね? ハァハァ」

「私もいいですよね? ハァハァ」

「だ、大丈夫か? 目がイッておるぞ??」


 自分より小さな少女二人に、玉藻は後退あとずさる。だが……


「「もう我慢できない! モフモフ~~~!!」」


 サンドリーヌとローザは、モフモフの海に飛び込んだ。いや、玉藻の尻尾に飛び付いた。それから玉藻がどうしていいかわからずに困っていると、女王が駆け寄って来た。


「玉藻。娘達が迷惑を掛けて申し訳ない」

「ああ。これぐらい、お安い御用じゃ」

「そうか。では、寝転んでくれないか?」

「かまわんが……その手はなんじゃ?」


 玉藻は伏せする事はいいのだが、女王のわきゅわきゅする手に疑問を持った。


「頼む!!」

「あ、ああ……」

「モフモフ~~~!!」


 女王の何やら意味不明の圧に押された玉藻が伏せをすると、女王も飛び込む。


「「「モフモフモフモフモフモフ」」」

「………」


 どうやら、女王、サンドリーヌ、ローザは、玉藻の毛並みを見て、持病のモフモフ病が再発したようだ。そうして三人の全身撫で回しを受けた玉藻は、好きにさせてしまうのであった。


 それを見ていたメイバイとリータはと言うと……


「いいニャー。私も……」

「メイバイさん! 待ってください!!」


 メイバイが手をわきゅわきゅして玉藻に近付こうとすると、リータが止める。


「これだけの獣はシラタマさんしか持てないのですから、せめて集めてから抱きつきましょう」

「あ……そうだニャ。次の転移もあるし、シラタマ殿の負担を減らしてから抱きつかないとニャー」

「イサベレさんも手伝ってください!」

「ん。わかった。急いで抱きつく」


 どうやら三人も、巨大キツネに抱きつきたいようで、あっという間に豹の山を作り上げるのであったとさ。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 さてと、完全回復じゃ。


 わしは黒い森を小一時間走り回り、すっからかんになった魔力を吸収魔法で回復させた。それから、虹の山に向けて走りながら考え事をする。


 昔と比べて魔力量が増えていたから、さすがに時間が掛かったのう。これだけ時間が空くと、リータ達がちと心配じゃ。まぁ玉藻が居るから、この辺の獣なら余裕か。

 それはそうと、ここが中国ってことは、虹色の山は『七彩山しちさいやま』かも? テレビで見て、一度は行ってみたいと思っていたんじゃ。まさか死んでから見る事になるとはのう。今度、女房が夢枕に立ったら自慢してやるか。


 わしが鼻歌まじりに走っていると、リータ達が居る場所に着いたのだが、その光景を見て、足が止まってしまった。


 何この状況……。モフモフ聞こえて変だと思っていたら、全員で巨大キツネの玉藻に埋もれておる。

 さっちゃん達はわかるとして、モフモフのコリスや兄弟達まで埋もれておる! どうりで見付からないわけじゃ。色が一緒じゃもん。ワンヂェンは一発で見付けたけどな。

 あとは黒い獣の山があるところを見ると、戦闘があったみたいじゃな。アレはわしに持てって事なんじゃろうな~。

 あまり魔力を無駄遣いしたくないが、玉藻の【大風呂敷】じゃ、持てないって事か……まぁ捨て置くのはもったいない。お持ち帰りするかのう。


 とりあえずわしは、玉藻達の脇にある獣の山に向かうが、わしに気付いた玉藻が悲しそうな目を送って来た。だけど、わしは目を逸らした。あまり関わり合いたくないんじゃもん。

 そうして獣の山を次元倉庫に入れると、渋々皆に語り掛ける。


「あ~……そろそろ、次に行こうと思うんじゃけど、玉藻から離れてくれんかのう?」

「えっ!? なんで!?」


 わしのセリフに、さっちゃんが驚愕の表情を浮かべて反論し、何故か皆も嫌そうな顔をする。


 なんではこっちのセリフじゃ! リータとメイバイもその顔はなんじゃ!!


「そんなもん、またいつでも頼めばいいじゃろう」

「なっ……妾を売る気か!!」

「次の予定が詰まってるんじゃから、さっさと玉藻から離れるんじゃ。次も綺麗な景色が見れるぞ~?」

「無視するな!!」


 玉藻はブーブー言っていたが、綺麗な景色が見れると聞いた皆は離れてくれた。

 すると、すぐに玉藻が九尾のキツネ耳ロリ巨乳に戻ろうとするので、集合写真を撮りたいと説得したら、断られた。だが、全員からの猛プッシュを受けて、渋々カメラに収まってくれた。


 写真撮影を終え、土魔法で作られた土台に置いたカメラを回収したら、メイバイに首から掛けさせ、玉藻が九尾のキツネ耳ロリ巨乳に変化へんげしたら転移。目的の場所近辺の白い木の群生地に転移すると、皆で駆ける。

 ちなみに女王はコリスの背中でモフモフ言って、さっちゃんは玉藻の尻尾にくるまってモフモフ言って、ローザは人型に変身したわしがおんぶし、後頭部に顔を擦り寄せてモフモフ言っている。

 ワンヂェンは、モフモフ言いながら走るメイバイの胸の中で、迷惑そうにしてたけど……


 しかし、その幸せな時間は数分で終わる。


「「「「うわ~~~」」」」

「「「にゃ~~~」」」


 目的地の、真っ青な湖に着いたからだ。元々歩いてすぐの距離だったのだが、か弱いレディーばかりなので運んであげただけだ。たくましいレディーのほうが多いけど……


 そうしてわし達が森から出ると……


「やいやいやい! ここをさんちゃん様の縄張りと知っての狼藉か!!」


 なんかおっきな白いカエルにからまれた。なので、玉藻が舌舐めずりしているから、わしが前に出て念話で対話する。


「お前こそ、さんちゃんの縄張りで何しておるんじゃ?」

「なんだと! さんちゃん様の高貴な名前まで口にするとは、ふてぇヤローだ……ぶっ殺してやる!! ゲロゲ~ロ」


 物騒な事を口走った白カエルは、わしに水掻きビンタ。わしはひょいっと避けて、ネコパンチネコパンチネコパンチ。ボコボコにしてやった。

 いちおうさんちゃんの名前を知っていたから手加減していたので、白カエルはひっくり返ってピクピクしている。そこにわしが近付くと……


「うわ~~~ん! さんちゃん様。たっけて~~~」


 飛び起きてピョコピョコ跳ねて逃げて行った。


 なんじゃあいつ? 三下にもほどがあるじゃろう……


「どうします?」


 わしが逃げて行った白カエルを見ていると、リータが声を掛けて来た。


「まだにゃにか変なのが居るかもしれにゃいから、湖には入るにゃ。さんちゃんは……あそこで寝てるにゃ。挨拶して来るから注意しておいてくれにゃ~」

「わかりました」


 とりあえず皆は固まって動き、湖のほとりで「キャッキャッ」と騒ぎ出す。その間わしは、20メートルはある白いオオサンショウウオのさんちゃんに、タタタタと小走りに近付くと、白カエルの情けない声が聞こえて来た。


「うわ~ん! さんちゃん様、起きてくださいよ~」


 チンピラ白カエルがいくら騒いだところで、さんちゃんは目覚めない。なので、わしは白カエルを憐れみ、念話で声を掛けてあげる。


「さんちゃんは基本、夜型じゃからな~」

「テ、テメー!」

「別にお前達をどうこうするつもりはない。わしはさんちゃんの友達第一号のシラタマじゃ。この名前に聞き覚えはないか?」

「シラタマ……」


 白カエルはわしの名前を聞いて固まる。そして、お座りをして四つ足になった。


「さんちゃん様のご友人に、あっしはなんて事を……申し訳ありませんでした!」


 それは土下座のつもりか? 顔が正面向いたままじゃぞ?


「まぁ気にするな。それより、お前以外に仲間や敵はおるのか?」

「い、いえ。ここにはあっしとさんちゃん様だけです」

「それじゃあ、さんちゃんが起きるまで、しばらく水溜まりで遊ばせてもらうな」

「はい……」


 白カエルと和解したわしは、皆の元へ戻ると安全だと知らせ、バスを取り出して水着に着替えさせる。

 それから湖岸に兄弟達と寝そべって、皆のキャッキャッと遊ぶ姿を見ながら、魔力の回復を待つのであった。

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