414 虹色景色にゃ~


 さっちゃんの誕生日パーティーから帰って二日間、玉藻のストーキングが続き、わしがやることなすこと王様らしくないと言われた。

 次の準備をしているんだから、王様らしく見えるわけがない。その事を伝えても、準備をするのも王様らしくないと言われてリータ達に泣き付く。

 もちろんリータ達も助けてくれなかった。だが、リータ達もエミリが休んでいたので料理を作っていたから、玉藻に王妃のやる仕事じゃないと言われていた。

 そこからはわしの味方をしてくれると思ったが、なんでもわしが王様らしくないからうつったと言い訳していた。


 わしのせいにするのもやめて欲しいが、玉藻の納得、早くね?


 とりあえずわしは忙しいので、玉藻を置き去りにして、東の国に転移。予定通り、王族女性陣プラスイサベレと兄弟、ローザとエミリを飛行機に乗せて、猫の国にて一泊。

 翌日は、朝早くからバスを走らせて、猫の街近辺のわしの隠れ家に入る。


 隠れ家に入ったメンバーは、東の国から、女王、さっちゃん、兄弟、イサベレ、ローザ。猫の国から、わし、リータ、メイバイ、コリス、オニヒメ、ワンヂェン。日ノ本から玉藻。

 総勢、八人と五匹。……七人と六匹? 九尾のキツネ耳ロリ巨乳、玉藻をどちらに入れていいかわからないからペットも人換算で、総勢十三人!! このメンバーで転移魔法を使った。


「「「「「うわ~~~」」」」」

「「「にゃ~~~」」」


 東の国プラス玉藻とワンヂェンは、転移するなり感嘆の声を出す。


「ローザ! 虹だよ!!」

「本当です……綺麗です~」


 さっちゃんとローザは、キャッキャッと飛び跳ねて感想を言い合い、その他も各々感想を述べているようだ。


 わしが転移した場所は、さっちゃんが言った通り、虹が見える場所。ただの虹では無く、山が虹色に見える場所だ。

 今日のわしの仕事は、さっちゃんと女王に連れて行けと我が儘を言われていた珍しい場所巡りだ。ワンヂェンも先日の頑張りもあり、連れて来てあげた。

 ちなみに双子王女に、女王達が猫の国に来ていた事を勘繰られたが、女王達は前もって考えていた言い訳を使って納得させていたようだ。


 でも、口裏合わせはわしともしてよね? 双子王女がわしから聞き出そうとしてたんじゃぞ? 逃げ回るしかなかったんじゃからな!


 大人数だったけど、ギリギリ魔力が持ってくれてひと安心。女王はソフィ達も連れて行く予定だったようだが、護衛にもならない者は、リータ達の負担が大きい。

 わしは転移のあと、魔力の回復に努めなくてはいけないので辞退してもらった。でも、友達特典で、今度休みの日に連れて来てあげるつもりだ。



 皆が騒ぐ姿を横目に見ながらリータ達を集めると、お座りをして雪だるまのように丸い猫型のわしは、念話で語り掛ける。


「玉藻は騒いでいていいけど、強い奴が現れたら皆を守ってやってくれな」

「わかっておる。そんな奴が居るなら、誰にも譲らんぞ。コンコンコン」


 玉藻がヤル気満々で笑うと、わしはリータ、メイバイ、イサベレを見る。


「今回は、皆の安全が最優先じゃ。数が多いと女王達の元へ届くかもしれん。片時も離れるな」

「はい!」

「任せるニャー!」

「ん。もちろん」


 三人からいい返事をもらえたので、コリスとオニヒメにも頼んでおく。


「リータの指示を聞くんじゃぞ? 頼りにしてるからな」

「「うん!」」


 二人はおやつの入った収納袋を受け取りながらいい返事をくれた。でも、食べるのはもうちょっとあとにしよっか?


「あとはメイバイ。フィルムが無限にあるわけじゃないから、ここでの撮影枚数に気をつけるんじゃぞ?」

「わかってるニャ! 練習通り撮るニャー!」


 カメラ係のメイバイはちと心配だが、フィルムはカメラに入っている物以外はわしが持っているから、使い切ってもなんとかなるだろう。



 皆に指示を出したわしは、その場を離れて黒い森に入る。単独行動をしている理由は、魔力の回復に努めるため。

 次元倉庫の魔力を補填すれば早いのだが、皆がしばらく滞在するのだから、それなら回収したほうがお得だ。わしは貧乏性だからな。


 黒い森はそこそこ魔力が充満しているので、吸収魔法を使って駆け回っていれば、早くに回復するだろう。魔力の節約の為に、隠蔽魔法しか使っていないのでなおさらだ。

 探知魔法で皆を確認できないのは痛いが、近くに白カブトムシクラスの大物はいなかったから、玉藻がいれば問題ない。もしも手こずるような相手ならば、戦闘音が聞こえて来るだろうから、急行すれば間に合うはずだ。


 こうしてわしは、黒い森を駆け回り、獣と接触すると置き去りにして、虹の山から離れずに魔力の回復を行うのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方その頃リータ達は、女王達の警護に勤しんでいた。


 虹の山を一通り歩き回った女王達は、玉藻の【大風呂敷】に入っているテーブルセットでくつろぐ。これはシラタマの魔力消耗が激しいので、玉藻が荷物持ちになっているのだ。

 その間、メイバイは山々をカメラに収め、サンドリーヌや女王達のリクエストを聞きながら写真を撮る。

 楽しそうに駆け回るコリスとエリザベスとルシウスもカメラに収めようと頑張っていたようだが、動きが速すぎて難しいみたいだ。なので、神頼みで一枚シャッターを切っていた。

 一番気を張っていたのは、リータとイサベレ。背中を合わせて360度見渡し、森から獣が出て来ないか見張っている。イサベレの危険察知は万能だが、速すぎる攻撃は対処に遅れる可能性があるので、万全を期す為に見張っているようだ。


 そんな折、イサベレが森の中に獣の群れを発見し、出て来るかどうかリータと話し合う姿がある。念の為、玉藻やメイバイにも念話で、「もしもの時は動けるように」と、リータは伝えていた。

 そうして危惧していた獣の群れの接近は、悪い予測が的中し、森から出て来てしまった。



 2メートルから8メートルはある大きな黒いひょうが数十匹。キョリスクラスの白い豹一匹。リータ達を発見すると、いきなり駆け出した。



「防御陣形です! コリスちゃん達は、女王様方を守って!」


 リータの指示で、女王達の前を塞ぐように、イサベレ、リータ、メイバイが横に並び、その後ろにオニヒメが配置される。

 中央の女王、さっちゃん、ローザ、ワンヂェンの後ろには、コリスとエリザベスとルシウスが囲むように立って敵を睨む。

 万全の体勢なのだが、女王達は初めて見る黒い獣の群れに、恐怖心があるようだ。


「なかなか強そうな奴がおるのう。奴はわらわがもらうからな?」


 防御態勢が整うと、扇子で口元を隠した玉藻が一人、先頭に躍り出た。


「はい。好きなだけやっちゃってください」

「そんなこと言っていいのか? 一匹もそち達に回さんぞ」

「あははは。今日は守る対象が多いので助かります」

「ならば遠慮なくやらせてもらおうかのう」


 リータとの会話を終えた玉藻は、扇子をパチリと閉じてから、変化へんげの術を解除する。


「コーーーン!」


 玉藻の本気。5メートルはある、九尾のキツネだ。ただし、玉藻も力を隠す呪術を使っているようなので、威嚇する声を出しても黒豹は逃げて行かなかった。


 玉藻はニヤリと笑うと、凄い速度で黒豹の群れに突撃。頭突きで弾き飛ばし、九本の尻尾で薙ぎ払う。だが、群れと戦う事に慣れていないのか、十匹ほど横から抜けられてしまった。


 それを見たリータの指示が飛ぶ。


「来ました! メイバイさんとイサベレさんは、引き付けてから攻撃です!」

「わかったニャー!」

「ん」

「オニヒメちゃんは、私の合図で撃ってね」

「うん!」


 オニヒメの隣に立ったリータは、先頭を走る黒豹二匹は無視。三番手、四番手の黒豹を指差して、オニヒメに狙わせる。

 オニヒメはリータの指差す方向に【鎌鼬かまいたち】を放つと、黒豹に当たったり外れたり。一撃で仕留める事は出来ないので、連続で使わせ、傷を負わせると共に、黒豹の脚を鈍らせる。


 その間に、先頭を走っていた黒豹は、メイバイとイサベレに接触。しかし、気功を乗せたメイバイのナイフ二刀流と、イサベレのレイピアで首元を斬り裂かれ、あっと言う間に沈黙。

 どうやら5メートルクラスの黒い獣では、二人には物足りないようだ。


 だが、五匹が近い距離で突っ込んで来たので、二人の手が足りない。二人は傷が付いた黒豹は見逃し、新たな黒豹を斬り裂く。


 リータは、傷を負っていない黒豹をオニヒメに狙わせ、自身は二匹の黒豹を相手取る。まず一匹は、土魔法で足止め。土の壁を作り、その直後に、両隣に土の壁を出して、動きを止める。

 その隙にもう一匹の処理。真正面から飛び掛かって来た黒豹に、気功を乗せたパンチ。一発で顔の骨を砕き、遠くにぶっ飛ばした。そしてもう一匹。壁を抜けた直後に、腹にパンチを減り込ませて、こちらも撃沈。


 リータはオニヒメが相手していた黒豹にも向かおうとしたが、出番は必要なさそうだ。黒豹が近付くに連れて【鎌鼬】は、命中率、威力、数が増し、オニヒメに届かずに血塗れとなって倒れた。


 残り三匹。二匹はイサベレとメイバイが処理しているので、女王達に迫る黒豹はあと一匹。リータはオニヒメの経験の為に譲ろうとしたが、後ろから声が聞こえて、思い留まる。


「「にゃ~ん」」

「エリザベスちゃんもルシウス君もやりたいの?」

「「にゃ~ん」」

「う~ん……危なかったら、手を出すからね?」

「「にゃ~~~!」」


 エリザベスとルシウスは、リータから許可が出たので、嬉しそうに黒豹に突撃する。いちおう補足しておくと、二匹は念話で話をしていたので、リータはペットと話すような飼い主とは違う。


 黒豹に突撃した二匹は接近すると、まずはエリザベスの【鎌鼬】で牽制。三発放った内、一発の【鎌鼬】が傷を負わす。これはエリザベスの予想通り。時間差で放ち、黒豹の動きを先読みして当てたのだ。

 そこをルシウスが素早く飛び掛かる。黒豹の動きが止まった瞬間を狙い、ルシウスの爪と牙が、黒豹の脚を切り裂いた。

 その攻撃からは一方的。動きの鈍ったところを二匹で甚振いたぶり、最後は喉元を切り裂いて命を刈り取った。


 その頃には玉藻も最終局面。取り巻きは蹴散らし、10メートルを超える白豹とタイマンに持ち込んでいた。

 その戦いも一方的。白豹の【風の刃】は玉藻の【風の刃】に掻き消され、爪も牙も、九本の尻尾で弾かれる。そうして戦いに飽きた玉藻は、白豹の首を爪で切り裂き、終わりとした。



 こうして豹の群れは玉藻達の活躍で、呆気なく、短時間で全滅となったのであった。

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