529 猫の国の出し物を見て回るにゃ~


「フレヤの発注はわし個人の事だからやるけど、国の大量発注にゃんか個人で受けるわけないにゃろ~」

「やった!」

「「そこをなんとか!!」」


 わしにヤマタノオロチの鱗の加工依頼が殺到してしまったので断ると、受けてもいいと言ったフレヤはガッツポーズで喜び、エンマと玉藻は諦めが悪い。


「てか、玉藻は自分でやれにゃ~。玉藻にゃら出来るにゃろ~」

わらわも忙しい身でな……」

「名代の仕事は完璧に引き継いだって言ってたにゃ~」

「旅に出ないといけないんじゃ!」

「逆ギレするにゃ~!」


 わしは玉藻と喧嘩して話をうやむやにしようとするが、エンマが喧嘩させてくれない。いきなり腹を踏まれてゴロゴロ言ってしまった。


「せめて加工する技術はありませんか?」

「にゃんで踏むんにゃ~。ゴロゴロ~」

「この姿勢のほうが、交渉が上手くいくと思いまして……」


 いや、腹を踏まれて上から言われても、交渉しているとは思えん。これは、ただの命令じゃ……


「シラタマさ~ん?」

「シラタマ殿~?」


 当然、踏まれてゴロゴロ言っていたならば、リータとメイバイが激オコ。プルプル震えながら、仕事を受けると言ってしまった。



「それは?」

「むかし作ったミニカーにゃ」


 次元倉庫から出した物は、電車やバスを製造する際、職人への説明用に作ったミニな四駆より少し大きな車。もちろん、モーターと宝石で作った雷魔道具入りなので、スイッチを入れたら走る。


「買います!!」

「量産できないから売れないにゃ~」


 ちょっと走らせたらエンマはめちゃくちゃ食い付いて来たが、貴族にしか売れないおもちゃを売るのも、現在の人手不足の中では出来ない。

 なので、宥めながらミニカーを分解バラして、モーターと雷魔道具を取り出す。


「もったいない……」


 もったいなくても、小さなモーターなんてこれしか持っていない。猫の国は大型モーターしか作っていないので、実験にはこれを使うしかないのだ。

 土魔法で持ち手を作り、そこにモーターと雷魔道具を配置。持っていた黒魔鉱を鉄魔法で小さな円盤に加工して、モーターに固定。その円盤の端には、砂状まで粉々にした白魔鉱をまぶして引っ付ける。


「さてと~……これでどうかにゃ~?」


 ヤマタノオロチの鱗を取り出すと、水を掛けながらさっき作った機械のスイッチを入れる。


 キーーーン!


 なんちゃって、ダイヤカッターの出来上がりだ。頑丈な黒魔鉱に、さらに頑丈な白魔鉱の砂をまぶしているので、ダイヤより硬い物でも切る事が出来るだろう。さらに魔力を流せば、切れ味は増すはずだ。

 一通りカッターを上から下へと動かすと、エンマを呼んで切り口を確認してもらう。


「あの短時間で、ここまで切り込みを入れたのですか……しかしその道具は、前にシラタマさんから買った技術に似てますね」

「ダイヤカッターにゃろ? そう言えば、あれは足踏み式だったにゃ~。モーターを使えば、もっと楽になりそうにゃ」

「モーター??」

「にゃ!? 秘密にしてたの忘れてたにゃ……」

「モーターですか……」


 やっちまった……猫の国の技術を、わし自ら漏洩してしまった……


「バスに使われている回転する機械は、そんな名称だったのですね」

「誰が分解したんにゃ~~~!!」

「あ……私も口が滑りました……」


 販売して一年以上経っている事もあり、キャットトレインやバスもかなりの数が輸出されているので、一台ぐらい分解して動力の謎を解明しようとした国があったようだ。

 しかし、モーターの仕組みも電気の謎解きも出来なかったので、商業ギルドに謎解きの依頼が入り、多くの鍛冶職人に調べさせたから、エンマクラスのギルド職員は周知の事実だったらしい。


「それって……女王の指示にゃろ?」

「モーターの事は秘密にしますので、何卒なにとぞ、何卒忘れてください! クビが、クビが……」


 エンマのクビは、ギルドをクビになるのか、物理的に飛ぶのかどちらかわからないが、心の広いわしは聞かない事にしてあげる。


「まぁよくもったほうにゃろ。誰かが調べ始めたら、モーターを単体で売り出す予定にゃったし頃合いにゃ」

「で、では……」

「さっき作ったカッターは、モーターで動いているのを見たにゃろ? しばらくしたらモーターを猫の国から販売するにゃ。だから、カッターはそっちで作ってくれにゃ。それと、モーターを使った便利にゃ物のアイデアがあったら教えてくれにゃ。大きさを変えてやるからにゃ」

「は、はい!」


 エンマはまた新しい産業が生まれるのが嬉しいのか、笑顔で返事をする。しかし、エネルギー問題が残っていたのでポータブルのカッターは厳しい。電池も源斉が開発中だし、小さな雷魔道具では短時間しか使えないので補充が面倒臭い。

 なので、キャットトレインに使っている雷魔道具に線を伸ばし、工房内で使う事で話が落ち着いた。ちなみに玉藻は、東の国から早く輸入できるように確約を取り付けていたようだ。


 商談がまとまったらフレヤがスリ寄って来たので、指示通りヤマタノオロチの鱗を切る。【猫干し竿】に魔力を流し、ついでに斬撃気功をまとっての斬り付け。かなり集中力が居るが、その甲斐あって、カッターよりスパスパ切れた。


「それが【猫干し竿】……凄い切れ味ね~」

「「「「「【猫干し竿】……プププ」」」」」

「にゃんで笑うんにゃ~~~!!」


 すでに文庫本で販売されていた小説は、小金を持っているアダルトフォーだけでなくアイパーティも手に入れたから、わしの刀を見て思い出し笑いをしていたようだ。

 そんなに笑うなら加工しないぞと「にゃ~にゃ~」文句を言っていたら、どれだけ切り分けたかわからなくなり、予定より多く加工したような気がする。


「にゃんか全員で協力してにゃかった?」

「「「「「してないにゃ~」」」」」


 目の前にある加工品は予定より1、5倍しか無かったので、運動量と数が合わないと不思議に思っていたら、残りはアイ達の部屋に運ばれていたらしい。

 全員の策略に引っ掛かってしまったから、わしは五倍も切り分けたとは、この時には気付けなかったのであった。



 翌日は、朝から誕生祭最終日を満喫しようと王都をウロウロするが、屋台も減っていたので面白い物も見付からない。

 なので、猫の国で出していたお店に足を運んでみる。


 まずは中級街に出した猫の国アンテナショップ。ここは大使館として使っているので建物も大きく、サッカー大会出場者や観光ツアーで連れて来た者達も泊まっている。

 一階のお店に顔を出すと、入場規制が掛かるほどの大繁盛。店長と話をしたかったのだが忙しそうなので、大使館職員から聞き取り調査を行う。


 猫の国の民芸品は、大量に運んで余ったら通年で売ってもらおうと考えていたが、もう残りわずからしい。たいした民芸品も無いのに売れた理由は、小説効果がかなりあったと店長は予想しているようだ。

 あとは、日ノ本の商品も少し置いたのも、珍しさから客が入っている要因となっているとのこと。商品は初日に売れてしまい、サンプル品しか残っていないが、これを見に来るだけの人も居るようだ。


 これだけ客が集まれば、主力商品の軽食が飛ぶように売れる。おにぎりと漬物セット。みたらし団子にきな粉餅。平時には飲食ブースでもっと本格的な料理を出しているのだが、餅は串で食べれるようにしたから回転率が高い。

 初日は調理が間に合わなくなったらしいが、いまは観光ツアーの者やサッカー出場者の子供達にも手伝ってもらって、なんとか切らさずに売っているようだ。


 楽しんでもらう為に連れて来たから仕事に駆り出すのはかわいそうに思えたが、店長から言ったのではなく、自発的に手伝っているらしい。

 皆は、タダでこんな大都会に連れて来てもらっているから、ちょっとでもわしに恩返しがしたかったようだ。


 これもそれも、わしのニャン徳が高いかららしい……。ニャン徳ってなに? 人徳の間違いじゃろ? 拝まないで!!


 文句を言いたかったが拝まれてしまっては、後ろから誰かの笑い声が聞こえて来るのでさっさと撤収。次の目的地に移動する。



 次の目的地も大行列で、中に入れない。なので、関係者通路に移動して館長室で話を聞く。

 ここは写真館。東の国の商業ギルドと猫の国で出資して、共同運営している施設だ。出し物は、わしとメイバイが撮って来た写真オンリーだから猫の国でやるべきだろうが、辺境の田舎国家でやっても人が集まらないから意味がない。

 東の国でやれば客は山ほど集まるけど、猫の国から出張させる職員が増えるので、エンマと相談した結果、写真は猫の国、人員は東の国、お金は折半という形となったのだ。


 そこで館長から話を聞くと、客のほとんどは一度目は綺麗な景色に驚くよりも、目で見たような景色が切り取られている事に驚くようだ。

 ただ、客は随時動かすようにしていたので、後ろから押されて止まっているわけにもいかず、二度目の来場でようやく綺麗な景色に感動していたらしい。

 綺麗な景色もそうだが、多種多様な生き物、日ノ本の景色や行った事のない国々の景色、そこで暮らす人々、お城や王族の顔なんかもハッキリ見れて、客はまるで旅行でもしたかのような感想を抱いて帰って行くそうだ。



 写真館はリピーターが多く居て、売上も半端ないと聞けたので次に移動。小腹もすいて来たので、久し振りに本格カレーを食べようとガウリカの店にやって来たのだが、ここも人がいっぱいで入るのに気を使う。

 なので、わしを抱くリータと一緒に入って、ちょっとだけ声を掛けてみる。


「大繁盛だにゃ~」

「ぬいぐるみかと思ったけど、猫か……そうでもないぞ」

「そうにゃの??」

「猫から貰った写真でな……」


 どうやらガウリカは、わしがあげたビーダールの写真を店に飾っていたようで、誕生祭の前半こそは貴族に噂が広がって大繁盛したそうだ。

 しかし後半に入ると、どこで聞き付けたのか中級層が写真を見にやって来て、貴族が敬遠してしまって売上が下がり、最終日の今日は下級層がやって来て、ほぼ商品が売れていないようだ。

 ちなみに貴族街は、誕生祭の期間は下級層も入っていい事になっているが、無礼を働いたら殺されるという噂があるので、普段は怖がられて中級層すらめったに入らないらしい。


「あら~……そうだったんにゃ。でも、にゃんで追い出したりしないんにゃ?」

「まぁな~。考えはしたけど、金持ちだけでなく、多くの人に故郷を知ってもらうのはいい事だと思ってな。それがアンテナショップの役割だろ?」

「おお~。ガウリカも、なかなかわかって来たにゃ~」

「なんてな。本当は前半で、目標売上の倍以上売れたから商品不足だ。下級層でも来てくれて嬉しいよ」

「にゃんだ~。褒めて損したにゃ~」

「あはは。それで、猫は何しに来たんだ?」

「あ、ごはん食べに来たんにゃけど……」


 わしは無理ならいいと言ったが、料理は高価だから下級層では食べられないので用意できるとのこと。それならばと全員を呼び込んで、ビーダール料理を味わう。

 日ノ本組は辛そうにしていたので、コリス達が食べているお子様料理にするかと聞いたら、玉藻と家康は強がって大人メニューを食べていた。辛いなら、我慢しなくてもいいのに……


 とりあえず食後のラッシーで口直しさせ、時間も時間なので、サッカー会場に乗り込む。



 サッカー会場では、皆には貴賓席に先に行ってもらい、わしだけグラウンドに下りて選手に声を掛けようと向かったら、さっちゃんとバッティングした。


「フンッ! 負けるとわかっていて、わざわざこっちに来たんだ」

「そっちこそ、負けて泣いてもしらないからにゃ~」

「なによ!」

「にゃんだと~!」


 わし達が口喧嘩を始めると、不安な顔をした子供達に止められて、各々のベンチに引っ張られて連れて行かれるのであった。

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