056 からまれたにゃ~


 わしは名前の由来とさっちゃんとの関係、これまでのいきさつを簡単にまとめてローザに話す。ローザのじい様はなかなか再起動をしないが、一応聞いていると思われる。


「それじゃあ、サンドリーヌ様の事件にねこさんは深くかかわっていたのですか?」

「そうなるにゃ」

「それで女王陛下の親友になったと」

「成り行きにゃ」

「ねこさんが王都にいる理由はわかりましたが、どうして宿屋を探していたのですか?」

「王都で暮らすにはお金がいるにゃ。だから女王のはからいでハンターになるにゃ。それで住む場所が必要だから、宿屋を探していたにゃ」

「ねこさんがハンターですか?」

「似合わないかにゃ?」

「いえ、そんな……少し変わっているなぁと思いまして……」


 そんなに言いづらそうにせんでも……わしはどちらかと言うとハンターに狩られる側じゃ。少しどころか、だいぶ変わっていると思うぞ。


「でしたら、宿屋が見付かるまで家に泊まってください。命を救われたのですからそれぐらいさせてください」

「いいのかにゃ?」

「御祖父様。よろしいですよね?」

「うん? ああ……え?」

「御祖父様! 話を聞いていましたか?」


 話は聞いていたが頭に入ってないって感じじゃのう。いい加減復活して欲しいもんじゃ。


「あ~。ゴホン! 先日は孫娘を救って頂き感謝する。シラタマ殿でよろしいか?」

「呼び捨てでいいにゃ。それと、わしにゃんかにかしこまる必要も無いにゃ」

「それでシラタマは……猫なのか?」


 再起動したけど、そこから? わしのセリフはこれしか無いけど……


「猫だにゃ~」

「そうか。猫なのか……」

「御祖父様! どこからどう見ても猫ですよ」

「そ、そうだな」


 立って喋るのを除けばな。じい様の顔にはそう書いておる。


「御祖父様。ねこさんは泊まる所がないから、家に泊めてあげて欲しいのです」

「孫娘の命の恩人だ。それぐらいさせてもらおう」

「本当にゃ!?」


 やった! 泊まる所ゲットじゃ。これもわしの人徳ってやつじゃ。ん? 猫徳? ニャン徳? どうでもいいか。しかし、何か忘れてたいる気がするな。


「それに女王陛下のご親友を、無下に放り出す訳にもいかんしな」

「にゃ!!」

「ねこさん、どうしたのですか?」

「二人は城下にある立て札は読んだかにゃ?」

「わたしは読んでないです。御祖父様はどうですか?」

「報告は受けたが、特に変わった内容ではなかったぞ」

「やっぱり気付かないにゃ。あれには……」


 わしは立て札の解読方法と内容を話す。そんな事があるのかと疑われたが、メイドさんに確認してもらい、事実だと知ると呆れていた。



「だから、わしを泊めていると女王がペットにしたと勘違いするかも知れないにゃ」

「御祖父様、どうしましょう……」

「我が家が駄目なら家を借りるのはどうだ? わしが商業ギルドに掛け合ってやろう」

「お金が無いにゃ。もう野宿するにゃ。王都内で野宿してもいいのかにゃ?」

「でしたら先日、話をしていたあの家はどうでしょう? 家は使えませんが土地は使えるでしょう?」

「あの家ならペルグラン家の所有物だから、タダで貸す事が出来るな」

「タダはダメにゃ! ちゃんと払うにゃ。……安くして、月末払いにゃら……ゴニョゴニョ」



 ローザの家から土地を借りる契約を交わす事となり、苦難の宿探しは終りを告げた。今日はもう遅いので、明日、家を見に行く事にしてローザの家に泊めてもらう。

 夕食が終わるとお風呂を勧められたので入ろうとしたら、ローザも一緒に入ると言い出した。わしは断ったが、結局、一緒に入ってしまった。じい様の目が怖いから断ったのに……

 お風呂から上がると何処で寝たらいいかと尋ねる。するとローザに一緒のベッドに寝ると駄々をこねられ、断る事が出来ずに一緒に寝る事にした。

 お風呂もベットも猫型だったから何も問題は無いはずだが、じい様の目から血の涙がこぼれていた。


 翌朝、朝食を済ますと、じい様は仕事で出掛けると言うのでローザの案内で貸してくれる家まで向かう。少し遠いが馬車はじい様が使うので、手を繋いで歩く。

 殺気を感じて後をチラッと見たら、じい様の手が強く握られ、血がしたたっていた。……わしを敵視するのはやめて欲しい。



 じい様の殺意から逃れ、歩いているとすれ違う人から「猫」の言葉が飛び交う。朝で人通りも少ない道だったので、昨日ほど人はいないが、それでも気になる。

 ローザも気になっているみたいだが、到着するまで手を離さなかった。


「ここです!」

「ここかにゃ……」


 上流地区を抜け、中流地区の外れ、王都の壁も近く、すぐそこが下流地区になる場所に立つ家。ローザはその家を指差す。


「丸焦げだにゃ~」

「数カ月前に火事になりまして……でも、庭は広いですよ!」

「そうにゃが……にゃんで火事になったにゃ?」

「ここは元々空き家だったのですけど、孤児が身を寄せ合って暮らしていたそうです」

「勝手に住んで、じい様は許していたのかにゃ?」

「孤児が最近増えていたので黙認していたみたいです。たまに炊き出しもしていたとか……」


 あのじい様、孤児に施しをしておったとは、ただの孫コンじゃなかったのか。そう言えば、ローザも領民に対して寛大じゃったような……じい様から引き継いでおるのかな? わしには寛大じゃないけど……


「立派なじい様にゃ」

「はい!」

「それで、にゃんで火事になったにゃ?」

「冬の寒さが堪えたのでしょう。火を使ったみたいです」

「子供は大丈夫だったにゃ?」

「中には亡骸は無かったと聞いています」

「よかったにゃ。ところで建て直しはしないのかにゃ?」

「少し前に建て替えようとしたのですが、タイミング悪く、女王陛下から貴族に、金銭を無駄使いしないようにお達しがあったらしく、しばらく建て替える予定が無いみたいです」


 女王が金の使い道なんかに指示を出すのか……農作物の不作があるから、指示を出しているのかな?


「お金に余裕が出来たら壊してもいいと言ってましたよ」

「なら建ててもいいかにゃ?」

「たぶん大丈夫だと思いますけど、お金の方は大丈夫なのですか?」

「頑張るにゃ~」


 お金は無いけど魔法はあるから、家ぐらい簡単に建てられる。どんな家にしようかな~。


「今日はここで寝るのですよね? テント等、持っているように見えないのですが大丈夫ですか?」

「大丈夫にゃ。この中で寝るにゃ」



 わしはローザに少し離れるように言い、次元倉庫から車を取り出して庭に置く。


「なんですかこれは! どこからこんな物が出て来たのですか?」

「車にゃ。収納魔法からかにゃ?」

「車? 収納魔法? あ! あの時も朝になったらお風呂が消えていました。収納魔法に入れていたのですね。てっきり土に返したと思っていました。それにしても、こんなに大きな物を……」

「とりあえず、これがあるから雨風はしのげるにゃ」

「わたしも入ってもいいですか?」

「いいにゃ。でも、にゃにも無いにゃ」


 わしは土魔法でドアを開け、ローザを中に入れる。


「どこが何も無いんですか! ベッドもソファもあります! なんでそんな物が……」

「趣味にゃ」

「趣味って……これはなんですか?」

「キッチンにゃ」

「キッチンまで……そう言えば、助けてもらった時に飲んだスープ、今まで飲んだ中で一番おいしかったです。また飲みたいです!」

「大袈裟だにゃ~。お昼も近いし、ここで食べるかにゃ?」

「はい!」



 わしは次元倉庫からスープを取り出す。スープだけでは味気無いので、さっちゃんの事件の時に食べた、余ったパンも添える。


 一ヶ月以上も前に作ったスープだけど、さすが次元倉庫。中は時間が止まっているだけあって味もそのまま、温かいままじゃ。


「うぅぅ。この味です。おいしいです~」


 泣くほどうまいって大袈裟な……。いや、盗賊にさらわれた時の恐怖を思い出してる? 食べさせたのは逆効果じゃったかも……


 わしは泣きながら食べるローザの涙をハンカチで拭ってあげる。ローザはありがとう、ありがとうと言ってわしを撫でる。お礼より撫でる事が目的な気もするが、口には出さなかった。



 そうして食事を終えると、ローザを屋敷まで送り届ける。


 貴族の娘さんじゃ。何かトラブルに巻き込まれては大変じゃ。わしのせいでトラブルに巻き込まれそうじゃが、一緒にいれば守る事は出来る。だから安全じゃ! 言い切ってやったわい。


 ローザも無事、屋敷に送り届け、一日遅れでハンターギルドに向かう。ハンターギルドは大通りに面して建っているので、仕方なく大通りを進む。

 そうすると、大勢の人が集まり、猫、時々ぬいぐるみの言葉が飛び交う。


 うぅぅ。恥ずかしい。昨日よりかわいいって声が多い。怖いって言ってる奴はついて来なくていいのに……こうも人が集まるならフードを被るしかないか?

 でも、いざフードを取ってビックリされるより、最初から見せて慣れてもらう方がいいじゃろうし……誰かタヌキって言いやがった!



 わしが道行く人の言葉を聞き流し、大通りを進むと、一際大きな建物が見えて来た。


 あれがハンターギルドか。看板も出ておるし間違いないな。しかし、緊張してきた。ちゃんと登録出来るじゃろうか? 女王の手紙、大丈夫じゃろうな? 立て札の事もあるから心配じゃ。

 これしか頼る物も無いし、しゃくじゃが女王を信じるしかない。行くぞ!



 わしは決意を胸にハンターギルドの扉を開ける。すると扉に付けられた鳴子がカランコロンカランと響き、ハンター達の視線がわしに集まる。


「猫?」

「ぬいぐるみ?」

「立ってるぞ」

「かわいい」

「モフモフしてそう」

「中に人が入ってるんじゃない?」

「あれ、ホワイトダブルじゃないか?」

「おい! モンスターが狩られに来たぞ!」

「「「ギャハハハハハ」」」


 ぬいぐるみに着ぐるみにモンスターか……ひどい言われようじゃ。まぁ猫又は妖怪じゃからモンスターは正解じゃな。騒がしいが、混乱している今の内に事を済ませよう。

 受付は……あそこか。あの優しそうなお姉さんに話し掛けてみよう。


「お姉さん。ちょっといいかにゃ?」

「猫ちゃんが喋った!」


 お姉さんも絶賛混乱中じゃ。このまま続けても大丈夫じゃろうか? 続けるしかないか……


「ハンターになりたいにゃ」

「猫ちゃんがハンターに!?」

「シーーーにゃ! 声が大きいにゃ。この手紙をギルドマスターに渡して欲しいにゃ」

「これは……ちょちょちょ、ちょっと待って。渡して来ます!」



 わしの渡した手紙を見たお姉さんは、一目散に奥の階段に消えて行った。


 なんじゃ? あの焦りようは……それにあんな走り方されたら、わしを怖がって逃げたみたいじゃ。なんか周りの視線も鋭くなった気がする……


「モンスターがハンターになりたいだと!」

「猫のくせにナメてるのか!」

「この場で狩ってやるよ!」

「ティーサになにしやがった!」



 孫よ……見ておるか? 新人にからむ先輩ハンターじゃ。テンプレが発生したぞ! わしは新人に見えない猫じゃけど……

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