057 ハンターになったにゃ~


「モンスターがハンターになりたいだと!」

「猫のくせにナメてるのか!」

「この場で狩ってやるよ!」

「ティーサになにしやがった!」



 わしは現在、四人のハンターにからまれている。四人は殺気を放ち、剣に手を掛け、今にも抜きそうだ。


 一人だけ名前を言っておるが、受付のお姉さんに気があるのかのう。わしに手を掛けたら女王が何をするかわからんぞ? あんな暗号みたいな立て札で裁かれるこいつらもかわいそうじゃし、対話でなんとかしてみよう。


「わしは悪いモンスターじゃないにゃ~」

「ふざけるな!」

「モンスターごときが人間様の言葉を使ってんじゃねぇ!」

「ぶっ殺してやる!」

「ティーサになにしやがった!」


 対話失敗。火に油か……最後の奴はそれしか言う事ないんかい! せっかく女王の魔の手かれ守ってやろうと思ったのに……街に出て、いろいろストレスも溜まっておるし、一発ぐらい殴ってやろう。



 わしは正当防衛を主張出来るように、相手が剣を抜くのを待つ。

 男達が手を掛けている剣に力を込めて握った瞬間、二階から乱暴にドアの開く音がし、ドタドタと階段を降りて来た女性が現れる。


「本当に猫がいるわ……あんた達! その猫に触れるな!!」

「ギルマス、なんでだ!」

「モンスターだぞ!」

「俺達に狩らせろ!」

「ティーサは無事か?」


 うん? テンプレ回避か? さっきギルマスって言っておったが、あのエロイお姉さんがギルマスなのか。もっとゴツイ男を想像しておったわい。しかし、あの胸がはみ出しそうな服装はええのう……じゃなく、けしからん!


「そこの猫! 二階の部屋で話を聞く。ついて来なさい!」

「はいにゃ~」


 わしは二つ返事で応え、エロイお姉さんの尻を追う……言い方が悪かった。ギルマスの後を追う。

 階段をトコトコと二階に上がり、立派な部屋に通される。部屋にはソファ-と机が有り、机の上には多くの書類が積まれている。


「あぁ……また面倒事が増えた……」

「大変だにゃ~」

「あなたよ! あなたのせいよ! はぁ。そこに掛けてちょうだい」


 わしは言われるままに、指差されたソファーに腰掛ける。


「わしがいつ面倒を掛けたにゃ?」

「ついさっきよ!」

「あ……その節は助けて頂き、ありがとうございにゃす」

「これはご丁寧に……って、あなた猫でしょう!」

「猫だにゃ~」


 ノリのいいギルドマスターじゃのう。仲良く出来そうじゃ。エロイ服装は目のやり場に困るけど……


「はぁ。それでハンターになりたいのよね?」

「そうにゃ。女王の手紙に書いてあったと思うにゃ」

「書いてあるけどねぇ……」

「……ダメなのかにゃ?」

「うっ……そんな潤んだ瞳で見ないで。ただ猫が立って歩いて喋っているのが、この目で見ても信じられないだけよ。女王陛下の手紙にも、ハンター登録をするように書かれているから断れないわ」

「よかったにゃ~」

「かわいい……陛下がペットにしたがるわけね」

「いま、にゃにか言ったかにゃ?」

「なんでもないわ。自己紹介がまだだったわね。私はこの王都のハンターギルドのマスター。スティナよ。よろしくね」

「わしはシラタマにゃ。よろしくお願いしにゃす」



 スティナが手を出すので、わしも手を出して握手をする。たが、なかなか手を離してくれない。肉球をプニプニしないでください。


「あの……そろそろ離してくれにゃ~」

「あ、もうひとついい?」

「なん……にゃ~!」


 わしの顔はスティナの豊満な胸に挟まれた。


 痴女じゃ! 服装もエロイが自分から男の顔を挟み込むなんて、痴女としか言いようがない。

 残念ながら、わしのこの華奢きゃしゃな腕では引き離す事はできん。1トンの重力に耐えて生活していたのは言わない約束じゃ。


「本当にモフモフしてて気持ちいい」

「わしも……じゃなくて離れるにゃ~」

「もう少し~」

「せめてその服装はやめるにゃ~」

「あら? お嫌い?」

「お好きにゃ~」

「ノリがいいわね。シラタマちゃんとは仲良く出来そう」

「ハメられたにゃ~」


 この後わしは、散々スティナにいじくり回され、昇天し掛けるのであった。



 もうお婿に行けない! 行く予定もないけど……そろそろ本題に入ってもらわねば。


「いい加減、ハンター登録して欲しいにゃ~」

「あ……忘れてた」


 こ、この女は……


「その前にいいかしら?」

「なんにゃ?」

「陛下の手紙の内容と、注意事項を話しておくわね」


 わしはスティナの話しを黙って聞く。

 ハンター登録をするには満十三歳を過ぎていないと登録出来ない。そもそも人間以外がハンターになった事もないので、わしのハンター登録は特例だそうだ。

 特例だからと言って優遇措置は無し。それはわしが女王に提案したと言ったら、もったいないとスティナには驚かれた。


 その他に、わしが猫だから差別を受ける可能性だ。報酬の受け取り、街へ入れない等の差別は報告するように言われた。

 報告したらどうなるかを聞くと、逆に「聞くの?」と質問されたので、聞くのはやめた。知らない方が幸せに暮らせるはずだ。

 個人的な差別は止めようがないと言うので、立て札の話をしたら「使えるわね」と悪い笑顔をされた。今度、女王には立て札を撤回するように直訴しようと心に誓った。



「それじゃあ、一階に行きましょう」


 わしはスティナに連れられ一階に移動する。一階は猫、猫と騒いでいたが、スティナの後ろからわしの姿が見えると、騒ぎは一段と大きくなる。


「静かに! 静かにしなさい!!」


 スティナの声で、徐々に辺りが静かになる。


「この猫は新しく私達の仲間になるシラタマちゃんよ。みんな仲良くするように!」

「ギルマス! そいつがハンターになるのかよ。モンスターだぞ!」

「モンスター? かわいい猫ちゃんじゃない? こんなにかわいい猫ちゃんが怖いの?」


 擁護ようごしてくれるのはいいんじゃが近い……何とは言わんが、柔らかい物が頭に乗っておる。


「それにこの子は女王陛下のご親友よ。何かしたら、私だけじゃなく陛下からも罰が下ることを承知しなさい!」


 どよめいておるのう。知られたくない称号じゃが、怖がられるよるマシか。でも、こんなに大々的に猫と親友と言っても大丈夫なのか? わしなら女王の気が触れたと思うぞ?


「さあ、わかったならさっさと解散しなさい! ティーサ。シラタマちゃんの登録お願いね」

「あ、はい。ね、猫ちゃん。こちらへどうぞ」

「はいにゃ」



 スティナはティーサに書類を渡し、一言掛けてから二階の部屋に帰って行った。わしはティーサの案内の元、カウンターに移動する。


「それでは登録をしますので、少々お待ちください」


 ティーサはスティナに渡された書類を見ながら、カタカタと石版を叩く。何をしているか聞きたかったが、仕事の邪魔にならないように黙って待つ。後ろでは猫、猫とうるさいが……


「え~と。打ち間違いは無いかな? うん。大丈夫。はい! 完了です」

「もうにゃ? わしは何も聞かれていないにゃ」

「ギルマスからこの紙の通り登録するように言われていますから、聞き取りは不要です。楽で助かります」


 嫌な予感がする……あの紙に何が書かれておるんじゃ?


「登録した内容は、わしもわかるのかにゃ?」

「はい。受付に言ってもらえればわかります。でも、閲覧制限のあるものはギルマス以上の権限のある者でないとわかりません」

「とりあえず、わかる範囲で教えて欲しいにゃ」

「はい。上から読み上げますね」

「あ! 待ったにゃ。その紙を見せるにゃ」



 わしはティーサから紙を奪い取ると、上から文字を読む。




名  前:シラタマ

ランク :F

性  別:雄

生年月日:××××××

職  業:ペット

依頼達成率:00%


備考:職業欄は女王の許可無く変更してはならない。



 ビリビリ……


 わしは黙って紙を破る。


「なっ……猫ちゃん。どうしたのですか?」

「にゃんでもないにゃ。これって変更は可能かにゃ?」

「はい。長く働いていると得意の武器が変わったり、年を取ってから魔法職になる人もいますから可能です」

「じゃあ、職業を魔法剣士に変えて欲しいにゃ」

「それは……出来ません」

「なぜにゃ? わしも職業変わったにゃ! たったいま変わったにゃ~!」

「そう言われましても……」

「お願いにゃ~」

「そんな潤んだ目で見られても……私じゃ何も出来ないの。ごめんなさい! 女王陛下に言ってください」

「うぅぅ……困らせてすまなかったにゃ……」

「たしかにペットはひどいですよね」

「そうにゃ!」

「猫ちゃんならマスコットですよね~」

「それもひどいにゃ~」


 くそ! 女王め! 絶対に変えさせてやる……いや、これも女王の策略くさい。

 そうじゃ! おかしいと思っておったんじゃ。立て札でわしの宣伝をしてくれるって言っていたのに暗号まがいの立て札になっておった。そのせいで宿が取れずに城に戻ろうかと追い込まれた。

 そして今回も、わしは城に怒鳴り込もうとしておる。これはわしを城に戻そうとしているに違いない。こんな策略に乗ってやるか! でも、ペットは嫌じゃ~!


「猫ちゃん。どうかしました?」

「にゃんでもないにゃ……」

「それじゃあ、ハンターの説明しますね」

「……はいにゃ」



 ティーサは仕事内容やハンターランク等の説明を始める。

 ハンターの仕事は動物の狩り。害獣の駆除。植物の採集。要人や商隊の護衛や雑用があるそうだ。

 動物の狩りは人々の食卓に並び、害獣駆除は困っている人を助ける。植物の採集は貴重な香草や薬になる草を集めるらしい。護衛は街道に出る獣や盗賊から守る。雑用は街の便利屋ってところだ。

 それらが依頼ボードに張り出されるから、紙を取ってカウンターに提出すると依頼開始となる。ただし、ランク事に受けられる依頼は自分のランクのひとつ上までしか受けられないとのこと。


 ハンターランクはひとつ上の依頼を、規定の回数達成すると上がる。依頼達成率が低いと、査定に関わるから注意しないといけないらしい。

 そしてCランク以上から期限が発生する。一年以内に規定の達成ポイントが必要になるが、必要ポイントの倍を取れば、ランクを上げる事も可能らしい。そんな事をするなら、次のランクの為に溜めておくようにと助言を受けた。


 最後に、銀色のプレートの付いたペンダント型のハンター証を渡され、首から掛けるように言われた。

 わしは嫌がったが街の外で死んだ場合、死亡証明となるらしく、持ち帰ればギルドから褒賞金が貰えるらしい。ペンダントは必ず付けて出るように、念を押して言われた。


「こんなものかな? あ、そうそう昇級試験を忘れていました」

「昇級試験にゃ?」

「昇級試験はですね、登録して最初はFランクですけど試験を受けて合格すると、最大Cランクからスタート出来ます。猫ちゃんも受けますか?」

「受けてみようかにゃ。ちなみにどんな試験が出るにゃ?」

「剣士だったら試合形式の剣の乱取り、魔法使いなら魔法の実技ですね」

「ペットはなんにゃ?」

「え~と……じゃあ登録しておきます」

「ペットはなんにゃ?」

「日付は……あぁ一日過ぎてる。昨日の朝来てくれていたら、すぐに受けられたのに残念。来週のこの日に来てください」

「だから、ペットはなんにゃ!?」

「それじゃあ、高ランク目指して頑張ってね~。次の方、どうぞ~」


 逃げやがった……最後は目すら合わせんかった。言葉遣いも適当じゃったし、ナメられたか? 結局、職業ペットのわしにはどんな試験が出るのじゃろう?

 考えても無駄か……あ、石板の事も聞き忘れた。もう疲れたし、今度にしようかのう。

 さて、試験まで暇じゃし、適当に依頼を受けよう。家賃も稼がねばいかんしのう。えっと~。あのボードに張り出されてるって言っておったか。



 わしは依頼ボードに移動する。そうするとハンター達は、わしを中心に一定の距離を取り、近付いて来ない。


 う~ん。取り囲まれているみたいで気持ち悪い……何か言いたいなら言ってくれたらいいのに。からまれるよりマシか。

 ソロ希望じゃからパーティー勧誘も面倒じゃしな。しかし、この光景は……ネットゲームでチートジジイと呼ばれていた頃に似てるかも。

 いらん事は考えるのはよそう。悲しくなる。えっと~。ここの依頼はDでE、F……採集と掃除? 建築? 狩りですら無い……あ、ひとつ上があったな。

 Eは……狼、鹿、兎か。全部安い。もっと稼げそうなのがいいんじゃが、上のランクじゃないとなさそうじゃな。明日はこの辺でも攻めるか。帰ろ、帰ろ。



「ね、猫さん?」


 わしは明日からの方針を決め、帰ろうとしたその時、一人のうす汚れた子供に声を掛けられるのであった。

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