058 パーティを組むにゃ~


「ね、猫さん?」


 わしがハンターギルドから帰ろうとしたその時、うす汚れた子供が声を掛けて来た。わしは怖がらせないように出来るだけ優しく応える。


「にゃにか用かにゃ?」

「ね、猫さんは猫さんですか?」


 周りのハンター達は「何を当たり前の事を言っている」と騒いでいるが、わしもそう思う。だが、わしは大人。そんな事で怒るわけがない。体年齢二歳じゃけど……


「猫だにゃ~。それで、どうしたにゃ?」

「猫さんはハンターですか?」

「そうにゃ。でも、さっきなったばかりにゃ」


 少し緊張がほぐれた? 顔が明るくなった気がする。


「ボクとパーティを組んでください!」


 わしと? こんな猫のわしとか……しかし、周りがうるさいのう。


「あいつ猫にパーティ勧誘してるぞ」

「猫なんか役に立つはずないのにな」

「あいつ、リータじゃないか?」

「荷物持ちしか出来ないリータか」

「役立たずが役立たずを雇っているぞ」

「「「ギャハハハハハ」」」


 わしを非難していた声が子供に移った……こんな子供に寄ってたかってひどいのう。涙目になっておる。ソロで行くつもりじゃったけど、しばらく付き合うとするか。


「少しの間だけでもいいかにゃ?」

「い、いいです」

「それじゃあ、よろしくにゃ」

「ほ、本当に?」

「本当にゃ。さっきハンターなったばかりだから、いろいろ教えて欲しいにゃ~」

「う、うん!」



 わしが子供とパーティを組むと言うと、一段と周りの声が大きくなる。


「おいおい。パーティ組んだぞ」

「こいつらに何が出来るんだ」

「雑草ぐらい持って来れるだろう?」

「こないだも雑草を持って来たもんな」

「あの猫、リータから雑草の抜き方を教わるのか」

「「「「「ギャハハハハハ」」」」」


 下品な笑い声じゃ。ムカつくのう。じゃが、大人なわしはそんな事では手を出さん。出すならバレないように魔法で……って、アカンアカン。このままじゃ手を出してしまいそうじゃ。外に出よう。


「ここじゃうるさくて話が出来ないにゃ。外に行くにゃ」

「は、はい!」



 わしはリータの手を引き、出口に向かう。だが、出口を塞ぐように男達が立ちはだかった。


「本当に猫がいるぞ!」

「ギャハハハ。なんだこいつ」


 今度こそテンプレ発生じゃ! わしに少しでも触ってみろ。どつき回してやる! 孫よ、見ておれ~!


「リータ! そんな猫と組むなんて許さないぞ!」

「そうそう。俺達の荷物持ち……じゃなく、俺達は仲間だろ?」


 わしに来てくれたら、どつき回すのに……。この子、リータ?に標的がいっておる。パーティ間のいざこざか……ゲームでもあったのう。孫にパーティから追い出されたり……悲しくなるわ!

 それよりも今はリータって子をどうするかじゃな。察するに、こいつらがパーティメンバーと言わず、荷物持ちって言う事は、リータはそれが嫌で抜けたって事じゃな。

 なら簡単じゃ。ボコボコに……じゃなく、話し合いで解決すればいい。


「ちょっといいかにゃ?」

「猫は……喋った!!」


 そこは「猫は黙っていろ!」じゃ、なかろうか?


「猫は黙っていろ!」


 あ、言い直した。この口振りからすると、最初から居なかったのか。女王の親友の下りを知らないのなら、平気で殴りかかって来そうじゃ。


「この子、リータは離れたがっているように見えるにゃ」

「だから、黙っていろと言っているだろ! 猫が人間様の会話に入って来るな!」


 イラッ。誰が猫じゃ! ……わしか。入るなと言われたら、入りたくなるのが人の性じゃ。猫の性か?


「リータはどうしたいにゃ?」

「ボ、ボクは……」

「リータ!」

「はっきり言った方がいいにゃ」

「テメー!」

「さっきも言いましたけど……辞めさせてください!」

「よく言ったにゃ!」

「それで抜けられると思うなよ!」


 男はいきり立ってリータに殴りかかろうとする。わしはリータの前に立ち、拳を受け止め……られない!


「インモ! やめなさい!!」

「ギルマス……」


 ギルマスのスティナが大声で止めに入り、インモと呼ばれた男の拳はわしに届かなかった。


「ティーサが慌てて来たと思ったら、何してるのよ」

「俺は別に……」

「その猫は女王陛下のご親友よ。何かあったら許さないわ!」

「この猫が? いや、俺達はリータと話していたんだ。この猫が、リータを俺達パーティから無理矢理取ろうとしたんだ」

「シラタマちゃん、本当なの?」

「真っ赤な嘘にゃ。リータが抜けたがっていたから、少し助言しただけにゃ」

「君? リータって言ったわね。インモのパーティから抜けたいの?」

「は、はい……」

「はぁ。こんな事で……インモ! パーティの脱退は個人の自由よ。それを力付くで止めるなんて、ハンター倫理に反するわ。リータの自由にさせなさい」

「……チッ。行くぞ!」


 スティナの叱責に、インモパーティはすごすごと去って行った。


「もう! シラタマちゃん。私はこれでも忙しいのよ。問題起こさないでよね」

「わしのせいじゃないにゃ~。それに来なくても解決出来ていたにゃ」

「どうやって?」

「ボコボコにしてやったにゃ」

「シラタマちゃんが? フ、フフフ」


 スティナも、聞こえていた周りのハンターも、わしの発言に一斉に笑い出す。


「にゃんで笑うにゃ~!」

「ごめんごめん。シラタマちゃんの見た目から想像出来なくてね。それにあれでもインモはDランク上位の実力よ。シラタマちゃんは危ないから、喧嘩しちゃダメよ。それじゃあ、忙しいから私は行くわ」



 スティナはわしを子供のようにあしらって、手をヒラヒラと自分の部屋に帰って行った。


 うぅ。納得いかん! それにまた暴れられなかった。孫よ……テンプレってこんなに回避できていいものなのか? もういい! さっさと外に出よう。


「行くにゃ~」

「は、はい」


 外に出ると、ハンターギルドの前には多くの民衆が集まっていた。猫、猫と騒ぎ出し、リータと移動するのもままならない状況となっている。

 なので、一度ギルドの中に戻り、リータに人気ひとけの無い場所を地図で教えてもらい、別々に移動する事にした。

 わしはティーサに裏口を教えてもらい、そこから屋根伝いに飛んで移動する。





 ふぅ。なんとか人に見られずに目的地に来れた。リータは……まだか。しかし、人気の無い場所を教えてもらったけど汚い所じゃな。ゴミ捨て場か?

 人っ子一人いないのはいいけど……くさい。早く来てくれ。


 わしは鼻を押さえ、においに耐えて待っていると、リータが走って寄って来る……が、こけた。


「大丈夫かにゃ?」

「は、はい。いつもの事なので……」


 いつもの事? いつもこけておるのか? まぁそんな事よりくさいから早く話を終わらせよう。


「わしはシラタマにゃ。君はリータでよかったかにゃ?」

「は、はい。リータです。よろしくお願いします」



 まずは、お互い簡単な自己紹介をする。

 リータは二ヶ月前にハンターになった十三歳の剣士。ランクはF。年齢のわりには背が低い気がするが、わしよりは大きい。汚い格好を見ると、あまり稼げていないようだ。


「ね、猫さんは二歳なんですか!? ハンター規定は大丈夫だったんですか?」

「特別にしてもらったにゃ。それより、リータの方が年上だし、ハンターの先輩にゃ。だから、もっと気さくに話をして欲しいにゃ」

「せ、先輩だなんて……ボクなんてダメダメなんです」

「それでも年上にゃ。敬語なんていらないにゃ~」

「そ、そうだね。十一歳も違うもんね」

「その意気にゃ」


 魂年齢はわしの方が遥かに年上じゃけど……同じパーティ仲間に気を使われるのは嫌じゃしのう。しかし、名乗ったのに、いつまで猫と呼ぶんじゃろう? 城でも名前を知ってるのに猫と呼ぶ人の方が多かったか……


「明日、狩りに行くって事でいいにゃ?」

「そ、そうだね。初心者の森って所があるからそこに行こうか?」

「初心者の森にゃ?」

「ボク達、低ランク専用の狩場だよ。Fランクのボク達は危ないから、そこでしか狩りをしちゃいけないの」


 そんな所じゃ稼げそうに無いのう。じゃが、わしは新人ハンターじゃ。これも勉強と思って行くとしよう。


「それでいいにゃ。依頼も受けないといけないし、待ち合わせはハンターギルドかにゃ?」

「朝は込み合うから常時依頼にしない? その方が時間も有効に使えるよ」

「常時依頼ってなんにゃ?」

「登録の時に聞いてない? 薬草や動物は依頼を受けなくても、買い取りカウンターに持って行けば買い取って貰えるの。混み合うのを防止する処置って言っていたよ」


 ティーサめ! 初心者の森も常時依頼も説明から抜けておる。そういえば昇級試験も忘れそうになっていたな。まだ抜けてる事もありそうじゃし、今度問い詰めてやろう。


「わかったにゃ」

「それじゃあ、待ち合わせは外壁南門を出たところ。時間は朝一の鐘(午前六時)が鳴った後でどう?」

「オッケーにゃ!」



 わしとリータは明日の約束をして別れると、わしは無事ハンターになれた事の報告をしに、ローザの屋敷に向かう。帰り道はずっと猫、猫と騒がれるが無視するしかない。

 ローザの屋敷に着き、報告をすると夕食に誘われたので御相伴に預かる。お腹も膨らみ、お礼を言って帰ろうとしたらお風呂まで勧められた。

 ローザのじい様の顔がすごい顔になっていたから断ったが、ローザが悲しい顔をするので一緒に入った。

 このままでは泊まって行けと言われそうなので、じい様に言伝を頼んで屋敷から出て帰路に就く。



 じい様の顔が晴れやかになっていたのは言うまでもない。


 厄介払いか! この孫コンジジイめ!!

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