第三章 ハンター編其の一 王都を騒がすにゃ~
055 家無き猫にゃ~
我輩は猫又である。名前はシラタマだ。住居はまだ無い……
現在、時刻は夕方。わしは橋の上に立ち、川を眺めている。落ち込んだ時は、ここに来るのがテンプレじゃと孫が言っていたから、それに
まさか泊まろうとした宿屋が、全て断られるとは思っておらんかった。さっちゃんにかっこいい事を言った手前、一日で戻るわけにもいかんし……
どうしよ~~~!!
時は
わしは城門を潜り、街へと足を踏み入れた。歩くに連れて人々が増え、わしを指差し、口々にこう言う。
「猫?」と……
見ての通り猫じゃ。ぬいぐるみって言っている奴もいるが猫じゃ。
かわいい? お嬢ちゃん、ありがとうね。
誰じゃ高く売ろうとしておる奴は!
はい、笑ってやってくださ~い。
触りたい? お母さんの許可が取れたらね。
タヌキじゃない! 猫じゃ!!
危険じゃないですよ~。
はぁ……ツッコミ疲れた。それに恥ずかしい。まぁ初めて見るから仕方がない。城でも初日はこんなもんじゃったしな。売ろうする奴はいなかったけど……攻撃されたら正当防衛で通じるかな?
兵士には話が行っているじゃろうけど、逃げるか……人目の無い所で消すか……目撃情報で、猫、一発じゃから消すのはやめておこう。
たしか女王が王都市民にも猫が現れると、お触れ書きを配布すると言っておったし、この姿にみんなが慣れたらこの騒動も収まるはずじゃ。
あの立て札がお触れ書きかな? さっきも同じ物があったし、気になるから読んでおこう……
わしは立て札に近付き、書いてある文字を読む。そして orz ……猫が文字を読んでいると笑われてこうなったんじゃない。わしの事が一文字も書いて無かったからだ。
なんじゃと~! 女王め……嘘つきやがったな。キャットのキャの字も無いじゃろうが! ん? いま、一瞬キャットって読めた……どこじゃったかいのう?
わしは再度、じっくりと文字を眺める。
縦書きかい! 手の込んだ事を……。左上から横に読んだら、どこそこに獣が出たと書かれたニュースじゃが、右上から下に読むと……
『王都に猫が服を着て、二本足で歩いているが危険は無い。優しい猫なので、石等を投げ付けないように。なお、この猫は女王陛下の御親友なので、傷つけたりペットにすると罰が下されるので注意されたし』
思いの他しっかりした文章! てか、暗号か!! 元日本人のわしだから気付けたんじゃなかろうか? 英語を使うこの国の者にはわからんぞ。これで罰を受ける人は浮かばれないな。
この部分をしっかり書け! あぁ、くそ! ツッコミ疲れてるのに無駄なツッコミさせやがって……女王に文句言ってやる! いや、いま帰ったら女王の思うツボか……さっさとハンターギルドに向かおう。
待てよ……。市民に知られて無いって事は、宿屋にも泊まれない可能性もあるな。先に宿屋を押さえよう。まだ朝じゃし、満員で断る事も出来んじゃろう。
わしはハンターギルドに向かうのをやめて、宿探しをする。わしの後にはゾロゾロと民衆がついて来るが、もちろん無視だ。
ドロテから聞いたお勧めの宿屋は地図によると……この辺かな? あったあった。
わしは宿屋の扉を開けて中に入る。扉には鳴子のような物が付いていて、カランコロンカランとなった。わしは「邪魔するで~」と言いたかったが、グッと我慢する。
音は鳴ったが、人は来ない……声を掛けるしかないか。
「すいませんにゃ~」
……来ない。忙しい時間帯か?
「すいませんにゃ~!」
「は~い。ちょっと待ってくださ~い。すぐに行きま~す」
元気のいい女性の声。一軒目から幸先いいのう。城でも女性には、すぐに受け入れられたからな。これが男なら間違い無く、泊めてもらえんじゃろう。
わしが声の主を待っていると、奥から女性が現れる。
「お待たせしました……猫!? ぬいぐるみ?」
「猫だにゃ~」
「喋った!!」
さっき、すいませんと言って返事をしたじゃろう。お姉さんの頭の上にクエスチョンマークがいっぱい見えるけど、話を進めさせてもらおう。
「泊めて欲しいにゃ」
「猫が? ぬいぐるみが? 泊まる?」
アカン。混乱しておる。
「猫だにゃ~。お金はあるから泊めて欲しいにゃ~」
「猫が泊まる?」
よし。一歩前進。ぬいぐるみが消えた! このままへたな情報を与えずに攻める。
「猫を一人、泊めて欲しいにゃ」
「猫と一人?」
しまった! 一匹と言うべきじゃった。お姉さんも周りを見て探しておる。
「猫を一匹、泊めて欲しいにゃ」
「猫、一匹……飼い主は?」
「いないにゃ~」
「え~と……ちょっと待ってください? あんた~! あんた~!!」
お姉さんが奥に行ってしまった! でも、話は聞いてくれているから、なんとかなるはずじゃ。
ほどなくして、宿の奥からお姉さんと男の声が聞こえて来る。
「猫が泊まる? そんなもん、飼い主にうちはペット禁止って言えばいいだろ!」
「だから、飼い主はいないのよ!」
「飼い主がいない? 猫が喋って泊めてくれって言ったのか? そんなわけないだろう!」
「だから猫が喋って泊めてくれって言っているのよ!」
モメておるな。十中八九、わしのせいじゃが夫婦喧嘩は良くないぞ。
奥から女性と一緒に出て来た男は、わしを一目見て、驚いた声を出す。
「ぬいぐるみ!」
「猫だにゃ~」
「喋った!」
「だから言ってるじゃない! 猫が喋って泊めてくれって言ってるって!」
「お金はあるから泊めて欲しいにゃ~」
「おい……泊めてくれって言ってるぞ?」
「だから~」
いつになったら話が進むんじゃ? 泊めるか泊めないかさっさと決めて欲しい。出来れば泊めてくれ。頼むから……
「泊めて欲しいにゃ~」
「え~と……どうして泊まりたいんだ?」
「ここが宿屋だからにゃ」
「たしかにうちは宿屋だ……」
「……知ってるにゃ」
「………」
うぅ……ガァ~~~! 固まるな! わしもイライラ溜まっておるんじゃ!
「それで泊めてもらえるのかにゃ?」
「ちょ、ちょっと待て! おい、お前。こっち来い!」
二人で相談か。男はどうせいい反応無いし、奥さん頑張れ。頑張ってくれ!
二人はコソコソと話すと、しばらくして決定したのか、振り返る。
「え~と……満場一致で泊めない方向に決まりました」
「にゃんでにゃ~!」
「え~と……毛が抜けるから?」
「掃除するから泊めてくれにゃ~」
「じゃあ、猫だから?」
「じゃあって、なんにゃ!」
「猫だからダメだ!」
「そこをにゃんとか!」
「「ごめんなさい!」」
謝罪を受けたわしは、肩を落として外に出る。
うぅ……泊めてもらえんかった。二人して謝られては仕方ない。こんだけデカイ街じゃ。猫の泊まれる宿ぐらい、一軒や二軒あるじゃろう。次に行こう!
その後、わしは何軒もの宿屋を回った。だいたいは最初の宿屋と同じやり取りの後、ペットお断りと追い出され、男しかいない宿屋はわしを見るなり出て行けと断られる。
子供が店番をしている宿屋はおしかった。子供のご機嫌を取るため、撫でさせたり、抱きつかせたり、髭を引っ張られても頑張って遊んだのに、親御さんの登場で追い出されてしまった。
そうこうしていたら日も傾き、人が集まり過ぎて逃げるしか出来なかった。
こうして今に至る……わ~~~ん!
こうなったら外に出て野宿しかないのう。幸い車にベッドもあるし、さっちゃん達と使ったお風呂もある。食べ物も次元倉庫にあるから、車のキッチンで料理すればいいんじゃ。これは……もう野宿じゃないな。
そうなると先にハンターギルドに行っておけばよかったか。ギルド証があれば出入りは自由じゃったしな。まぁわしに掛かれば壁なんて無いに等しい。バレたら怒られるか。
とりあえず、まだハンターギルドはやっておるかもしれんし行ってみよう。
「ねこさん?」
「にゃ?」
橋から川を眺めていたら少女に捕獲……いや、抱きつかれた。
「にゃにかにゃ?」
「やっぱりねこさんです!」
うん? わしを知ってる? 見覚えがある顔……知り合いはそんなにいないし、子供ならさっちゃんとモア。あとは……
「ローザにゃ?」
「覚えていてくれました! ねこさん!」
もちろん覚えていた。と、思う。ローザはわしが森を出た日に盗賊団から助けた子じゃったはず。間違いないかも!
「元気にしてたかにゃ?」
「はい! ねこさんは?」
「ボチボチでんにゃ~」
「え?」
「元気だったにゃ」
あぶないあぶない。つい昔の癖が出てしまった。
「ローザはどうしてここにいるにゃ?」
「女王陛下が猫を親友だと言ったと聞きまして、もしかしたら、ねこさんかと思ったんです。それで御祖父様が王都に用があると聞いたので、ついて来ました」
「よく、わしを見つけたにゃ~」
「猫が猫がと、街の中はすごかったんですよ!」
「あぁ……今日、初めて歩いたからにゃ」
「そうだったのですか! でも、何をしていたのですか?」
「宿屋を探していたにゃ」
「ねこさんが宿屋?」
「みんにゃそんな反応だったにゃ。それで全部断られたにゃ……」
「そうなのですか……それでは、わたしの家に来ませんか?」
「いいにゃ!? あ……きっとダメって言われるにゃ~」
「ねこさんには助けてもらった恩があります。わたしが必ず説得します!」
「う~ん。それじゃあ、お言葉に甘えるかにゃ」
「それではあちらの馬車に乗ってください」
わしは馬車に乗り込み、ローザの屋敷に向かう。御者の男にはかなり驚かれたが、ローザが説得してくれて事なきを得た。ローザの屋敷に着くとメイドが出迎えてくれたが、やはり驚かれ、説得を繰り返す。
そして屋敷に入り、ローザの後について歩くと、この屋敷の主と思われる立派な髭を
「御祖父様! こちらがわたしを助けてくれた、ねこさんです」
「猫? ぬいぐるみ? 猫さん? 助けた?」
じい様、混乱し過ぎじゃ。今日、出会った人を思うとわからんではないが……
「わしはシラタマと申すにゃ。以後お見知りおき……」
「猫が喋った!」
「御祖父様、喋るねこさんに助けられたと言いましたよ。それよりねこさん、名前があったのですか?」
「さっちゃん……第三王女様に付けてもらったにゃ」
「サンドリーヌ様が!? それじゃあ、ねこさんはサンドリーヌ様のペットなのですか?」
「違うにゃ~~~!」
ローザは勘違いしておるし、じい様は思考停止しておる。わしが泊まるまでは先が長そうじゃ……
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