648 女王、アメリカ大陸に上陸にゃ~
わしを怖がった皆が「フニャー、フニャー」と言っていると、どんどん恐怖が薄まり、馬鹿らしくなって笑いに変わった頃、最後の魔法使いが到着した。
各隊の隊長から人員を確認すると、わしはウンチョウに連絡。間違いがない事を確認してから、アメリヤ王国行きの三ツ鳥居の前に立った。
「君達にゃら一個だけでいいにゃろ。もしもの場合は、隣の三ツ鳥居から来てくれにゃ」
「「「「「にゃっ!」」」」」
「プッ……」
「そこ、笑わにゃい!!」
猫兵に対して説明しているのに、猫軍式敬礼を見た女王が吹き出すのでイラッと来るわし。わしがやらせてるわけじゃないのに……
「じゃ、イサベレと女王から通ってくれにゃ~」
三ツ鳥居に呪文を唱えたら、女王をお姫様抱っこしたイサベレが走り抜け、侍女とメイドウサギが続き、わしが一瞬で潜り抜ける。
その後、キョロキョロしている侍女とメイドウサギをわしが一瞬で三ツ鳥居の前から移動させたら、交通渋滞の緩和。猫兵が十人ほど出て来たらあとの事を任せて、わしは近くに置いてあったバスに入る。
「リータ~、メイバ~イ。どっちか居るにゃ~?」
「フニャ~」
わしが声を掛けるとメイバイがあくびで答えてくれたけど、「恐怖の猫王」って意味の「フニャ~」なのか悩む。
「思ったより早かったニャー。フニャ~」
「あれから四時間ってところかにゃ? にゃかにゃか猫軍の統率もよくなったにゃ~。それでジョージ君は、いまはどこに居るにゃ?」
「案内するニャー!」
侯爵邸は入った事がないので、案内してもらえると助かる。でも、忙しいからモフモフの刑はまたあとででお願いします。
何やらイサベレとの仲を疑って来るメイバイに抱かれてバスから出ると、そのまま整列している猫兵の前にて下ろしてもらった。
「まず、言っておかにゃいといけない事があるにゃ。これは銃と言ってにゃ……」
知らない武器がある他国だ。わしの脅しで屈服しているだろうが、もしもの戦闘が起こるかもしれないので、ハンドガンとサブマシンガンをエルフ夫婦に向けて実演してみた。
さすがはエルフ。弾丸はハッキリ見えているので紙一重で避けられる。さらには手に気功を
「見た通り、エルフにゃら簡単に避けられるしダメージは無いんにゃけど、君達には無理にゃ。頭に一発喰らったら死ぬから、戦闘になった際にはすぐに何かを盾にして身を守ってくれにゃ」
「「「「「にゃっ!!」」」」」
「………」
今回は猫兵の変な敬礼に女王は笑わなかったが、ジックリ何かを考えているので逆に怖い。色々と吹っ掛けられそうだが準備は整ったので、猫兵を引き連れて侯爵邸に入る。
メイバイを先頭にゾロゾロ歩き、侯爵の仕事部屋の前に立つ。ノックをして許可が返って来たら、猫兵には待機を言い渡し、わしだけ部屋に入る。
するとわしの顔を見たジョージが立ち上がった。
「シラタマさん。戻ったのですね!」
「女王陛下の、おにゃ~り~~」
「はい??」
ジョージの声は無視。苦笑いするリータも無視。わしは女王を招き入れる。
「うおっ!? 眩しいっ!!」
さすがは女王。オーラが眩し過ぎてジョージの目が潰れ……イサベレさんの光魔法でした~。慣れてないなら、そんな登場するな!!
「イサベレ。そういうの必要ないわ」
「はっ!」
どうもイサベレは勝手に戦争した事を反省しているらしい。だから玉藻がやっていたちびっこ天皇の登場シーンをマネて挽回しようとしたけど、光魔法が強すぎて失敗したっぽい。
「私がイサベレの主、東の国、女王、ペトロニーヌだ。家臣が何やら出しゃばってしまったようだな」
「は……ははい! アメリヤ王国、国王、ジョージ13世と申します。迷惑だなんて、こちらが掛けたので心苦しく存じます!!」
女王とジョージとのファーストコンタクトは、どう見ても女王との格が違い過ぎる。さっきの光は別として、女王オーラが強すぎるのだろう。
「美しい……」
いや、ジョージは女王の美貌に気圧されたっぽい。
「いやいや、シラタマさん! どうなってるんですか!?」
女王登場と美貌に呆気に取られていたジョージが復活したら、わしの元へ苦情が来てしまった。
「にゃんかついて来るとうるさくてにゃ。仕方なく連れて来たんにゃ」
「うるさいって……どう見てもシラタマさんより偉いじゃないですか。そんなこと言ったら怒られますよ」
「わしもジョージ君も、同格の君主にゃ~」
「あ……」
ジョージに自分の立場を思い出させてあげたら、ようやく本題に入る。
「女王ばかり相手していたら時間がもったいないにゃ。援軍の使い方を見せてやるから、議員の元へ連れて行けにゃ」
「そうでした! 行きましょう!!」
ジョージを先頭に仕事場から出ると、ジョージはメイドウサギに驚いた。なので、気のせいだと嘘をついてお尻を押して進ませたら……
「ケモミミ!? 普通、普通、ケモミミ、ケモミミ、普通……耳が長くない??」
壁際に並ぶ猫兵の見た目も気にしていた。
「説明はあとにゃ~」
猫兵にもちょっと変わった見た目の者も居るので、ジョージの足が止まるので押し切り、議員が集められているダンスホールに移動した。
「よくもまぁ、こんにゃ状況で寝てられるにゃ」
議員は数人起きている者も居たが、ほとんどは床に横になって寝てやがる。
「ははは、もう深夜ですからね。それにさっきまで大声で騒いでいたから疲れたのでしょう」
「まぁいいにゃ。起きてる人からやっちゃうにゃ。統括君、準備にゃ~」
「にゃっ! かかれ~!」
猫軍魔法部隊統括が指示を出すと、ダンスホールの端に複数の簡易ベッドが設置され、パーテーションで間仕切りされる。
そこに剣を持った猫兵とエルフに脅された議員が連れて来られると、奴隷紋が刻まれる。
「うっ……酷い声ですね。拷問でもしているのですか?」
一人目が耐え難い苦痛で叫び声をあげると、議員が飛び起きて騒ぎ出し、ジョージも顔を歪めている。
「見たらわかるにゃ」
なので、ジョージやリータ達を引き連れてパーテーションの裏に回ると、議員が両手両足を拘束されて背中を露出しているだけ。猫兵がその上に乗って触っているのだが、力も入っていないのでジョージは不思議に思っている。
「マッサージにしか見えないのに、どうしてこんなに痛がっているのですか?」
「この魔法を受けた人は、めちゃくちゃ痛いらしいんにゃ。ちょうど一人終わったみたいだにゃ。統括君~?」
統括に命令させて、議員を三回まわらせて「ワン!」と言わせてからジョージとの話を再開する。
「この様に、もう反抗も許されない犬にゃ」
「犬のマネをさせる必要は??」
「ないにゃ~。ただ、この声を聞かせてあげたら怖いにゃろ?」
「犬の声はそうでもないですけど……叫び声は怖いでしょうね」
「自分の順番が来るまでは怖がらせてやれにゃ。ちょっとは反省するにゃろ」
「はあ……」
非人道的だが、わしは犯罪者に情けを掛けるつもりはない。ジョージもそれで納得はしてくれたので、猫軍魔法部隊の主要メンバーを紹介しておく。
「この猫耳の男がこの隊の統括にゃから、ジョージ君の指示ひとつでこの隊は動いてくれるからにゃ。それと、耳が横を向いた男女はエルフと言ってにゃ。イサベレぐらいの戦力があるにゃ」
「エルフ……あの物語に出て来るエルフですか?」
「近からず遠からずにゃ。もしも力が必要ににゃったら、あの二人が解決してくれるからにゃ。覚えておいてくれにゃ」
「はあ……あのウサギは??」
「メイド仕事しか出来ないにゃ~。女王のお付きにゃから、触っちゃダメだからにゃ?」
まったく関係ないメイドウサギまでの説明を終えたら、わしはもう寝たい。
「実はうちとアメリヤ王国では10時間ぐらい時間がずれてるんにゃ」
「はい? 言っている意味がわからないのですが……」
「こっちは深夜にゃろ? 猫の国では現在正午ぐらいにゃ」
「えっと……信じられないのですが……」
「説明はまた今度してやるから信じろにゃ。このことから猫兵の体内時間を合わせる為に、二日ぐらいは時間調整が必要になるからにゃ」
まだ信じていないジョージには、二日間のタイムスケジュールを書いた物を渡して就業時間を守らせる。
「犯罪者とアメリヤ軍の一部を縛ったらお役御免ってところにゃろ。一週間を目処に、ジョージ君に反抗しない者を増やして行けにゃ」
「はい! でも、軍は縛る必要があまりないように思えるのですが……」
「あ、言い忘れてたにゃ。アメリヤ軍が奴隷狩りをしていたんにゃけど、ジョージ君のところにはどれぐらい情報が上がっていたにゃ?」
「奴隷にした人数ぐらいですが……シラタマさんがそんなことを言うなら、やはり……」
「上がっていにゃいけど、うっすらとはわかっていたってところだにゃ」
「はい……申し訳ないです」
ジョージはしゅんとしているので、わざわざ
「まぁその仮定で、にゃん人か見せしめで殺していたにゃ。わしが出会ったモノンガヘラ族も、五人殺されていたんにゃ」
「その軍人にも罰が必要になると……」
「そうにゃ。それと、賠償の為の食料も用意しておけにゃ。わしが必ず払わせると言ったからにゃ」
「わかりました。国が落ち着いてからになりますが、必ず支払いに行きます」
諸々の話が終わったら、ジョージにあとの事は丸投げ……任せて、わし達はバスに揺られて公爵邸に戻る。東の国組にはバスを割り当て、猫ファミリーはキャットハウスで就寝。
わしはエルフの里で仮眠は取ったけどもう限界なので、キャットハウスに入って寝たかったのだが、女王に首根っこを掴まれてバスに連れ込まれてしまった。
「にゃに~? 今日だけはこっちで勘弁してにゃ~。明日は城の一室を借りられるって言ってたにゃろ~」
「それはいいのよ」
女王は苦情があるからわしを連れ込んだのだと思ったが、別件のようだ。
「あのジョージ王について話したかったのよ」
「明日でよくにゃい?」
「まだ眠くないのよ~」
「わしは眠いんにゃ~。ゴロゴロ~」
こうしてわしは、寝付けない女王に撫でられながらお喋りするのであった。
「もう寝てる!?」
「ゴロゴロゴロゴロ~」
いや、限界はとうに超えていたので、女王がどんなに雑に撫でようと眠ってやったのであったとさ。
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