649 アメリヤ観光にゃ~


 女王がアメリヤ王国に着いた翌日の昼前……


「「「キャーーー!!」」」


 わし達が寝ていたバスが激しく揺れ、女王達の悲鳴が上がったのでわしは飛び起きた。


「夢かにゃ~? ムニャムニャ」

「早く起きてなんとかしなさ~い!!」


 いや、まだ夢の中に居たので、女王に窓から放り出された。そしたらコリスに食べられた。なので飛び起きてエサを放り投げた。

 どうやら地震の原因はコリス。朝ごはんはキャットハウスの冷蔵庫に入っていた物で足りたらしいが、お昼の分が無かったからバスを揺らしてわしを起こそうとしたらしい。


 たしかに巨大リスがバスを揺らしている姿が窓から見えたら怖いかもしれないけど、おとりにするかね~?


 寝起きから納得のいかない事は起きたが、コリスとオニヒメを餌付けしながら聞き取り調査。

 いちおうオニヒメはコリスを止めてくれたようだが、力で勝てないからすぐに諦めたらしい。それは仕方ないかと思ってリータ達はどうしたのかと聞いたら、まだ寝ているとのこと。昨日は寝るのが遅かったから、これも仕方がない。

 やはり、女王が悪いと結論付けたわしであった。


 ちょっとした恐怖体験で女王達は完全に目が覚めたようなので、キャットハウスでブランチ。これから買い食いをする予定だから少な目に出したのだが、女王の顔が怖い。


「買い食いって、なに?」

「買い食いは買い食いにゃけど……食べ歩きって言ったらわかるかにゃ??」

「どっちも意味はわかるわよ! 戦後処理で忙しいって言ってたのはシラタマでしょ!!」

「やることはやったし……わし達は観光する為にアメリカ横断してたんにゃし……」

「はあ!?」

「ここが終着点なんにゃ~」


 途中参加の女王には、旅の話をしてあげて怒りを逸らす。そして昨日お風呂に入っていないメンバーを魔法で洗って、綺麗さっぱり高級な服を着たらキャットハウスを出てバスで移動するのであった。



 アメリヤ王国は昨日戦争があったにも関わらず、死者も無く街への被害も極一部で、邪魔な議員が排除されただけだから、もう通常運転に戻りつつある。なので、お店を見て回るぐらいなら問題ないとジョージから聞いている。

 まず最初にわし達が向かった先は、貴族御用達の商業通り。ズカズカとブティックに乗り込んでやった。


「にゃにこの生地……安物を使ってるにゃ~」

「本当ですね。なのにこの値段って……」

「ボッタくりニャー。こんなのうちじゃあ庶民が着る服ニャー」

「ひっどい店だにゃ~。にゃしゃしゃしゃしゃ」

「「オホホホホ~」」


 何故、わしとリータとメイバイがクレーマーになっているかと言うと、リベンジだ。この店でリータ達が鼻で笑われたと聞いたから、一番綺麗な服を着てやって来たのだ。

 わし達のきらびやかな燕尾服やドレスを見た店員は目を真ん丸にして驚いていたから、どちらの服が上かは一目瞭然だろう。なので、高笑いしてやったのだ。


「民の見本である王族が何やってるのよ。恥ずかしいからやめなさい」


 しかし、わし達の怒りの理由を知らない女王に止められて、リータとメイバイはしゅんとしてしまった。


「わし達は成金にゃからいいんにゃ」

「はぁ~……成金でも王族よ。態度は気を付けなさい」

「「はい……」」


 わしには何を言っても通じないと察した女王は、リータとメイバイに標的を移して服の選び方講座。なかなか勉強になるらしく、二人だけでなく店員まで熱心に聞いている。

 わしは面白くないので、コリスとオニヒメと一緒に遊ぶ。子供の世話はお父さんの仕事だからだ。


 そうこうしていたら女王の講座は終わったらしく、全員が尊敬の眼差しで女王を見ていたのであった。


「では、シラタマ。支払いはお願い」

「わしもこの国のお金持ってないんにゃけど……」

「「「「「ええぇぇ!?」」」」」


 これだけ偉そうにしていた一団が一文無しと知られて、何故かわしが代表して皆から軽蔑の眼差しを向けられるのであったとさ。



「まったく……いい恥さらしだわ」

「ゴメンゴメンにゃ~。うっかりしてたんにゃ~」


 ブティックをあとにして城に向かう車内では、女王達がブーブーうるさい。


「てか、ツケにしてもらってまで買うほどじゃなかったにゃろ?」

「あそこで引くほうが私の名に傷が付くわ」

「見え張ってまで買うにゃよ~」


 ブティックでは、わしの持つ大蚕おおかいこの生地を担保にツケにしてもらったのだが、物々交換をしても女王の支払いには足りなかったので、あとで支払いに来なくてはいけないから面倒臭い。

 とりあえず城に着いたらジョージの居場所を聞いて、サングラスを掛けたわしだけ執務室に乗り込んで謁見だ。


「にゃあにゃあ? お金貸してくんにゃい??」

「い、いくらですか?」

「あるだけ出せにゃ~」

「ええぇぇ~!?」


 いや、カツアゲだ。ガラも悪いので、ヤンキーと言っても過言ではない。アメリカだけに!


「冗談にゃ……て、ことでもないにゃ。観光したくても、お金が無くて困ってるんにゃ~」

「そういうことですか。ビックリさせないでくださいよ~」

「うちのお金を使えたら楽なんだけどにゃ~。そうにゃ! うちとも物のやり取りするかもしれにゃいし、お互いのお金を交換しておこうにゃ」

「あ~……その服、いいですね。確かに買い手が居るかも。でも、交換っていうのは?」

「金や銀の保有量を調べるんにゃ~」


 少しだけお金の価値の話をして、後日、お互いの調べた書類を提出する事で落ち着いたら、部屋の移動。公爵低と侯爵邸から応酬した金銀財宝が積まれた部屋に案内された。


「お~。好きにゃだけ持って行っていいにゃ?」

「ダメに決まってるでしょ!」

「女王が爆買いするから必要なんにゃ~」


 マジで大金は必要なので、適当な言い訳。わし達が使えば使っただけ庶民が潤い、税金として王家に返って来ると説明し、トドメに利子を付けて返金するから二度美味しいと説明したら、ジョージはなんとか折れてくれた。


「賢すぎる……本当に王様なのかも……」


 なんだかジョージは、わしの見た目から想像できない難しい言葉が出て来たからブツブツ言っているが、わしも「本当に王様なのに……」とブツブツ言いながらお金を皮袋に詰めるのであった。



「これ、借用書にゃ。計算ミスがあるかもしれにゃいから多目に返してやるからにゃ」

「ちゃんとしてる……マジで王様? いや、商人って線も……」

「ほにゃ、また夜に顔を出すにゃ~」


 まだブツブツ言っているジョージは置き去りにして、わしはバスに待たせていた女王達と合流。それから貴族街に戻って、高そうな料理店でフルコースを堪能する。


「海魚がメインなのね。なかなか珍しい味わいね」

「気に入ってくれてよかったにゃ~」


 女王の評価はボチボチだが、リータとメイバイは……


「美味しいですけど、エミリちゃんの料理のほうが美味しいですね」

「そうだけど、ここの魚料理はいいと思うニャー」


 やはりボチボチ。コリスとオニヒメは……


「「星みっちゅ!」」


 最高得点らしい。わしもボチボチなんじゃけどな~。


 ちなみにその他、イサベレは無言。侍女は女王と味について盛り上がっていて、メイドウサギは夢中に食べて泣いている。よっぽど美味しいのだろう。

 ちなみにちなみに、ウエイターや呼び寄せた料理長の反応は微妙。女王は褒めていたわりにはダメ出しが多いし、わし達は高級魚を使えと文句を言ったから焦っている。

 あと、変わった見た目の者が多いから、反論するには脳のキャパシティーをオーバーしていたようだ。


 味はボチボチだったが、支払い時に女王がチップを渡せと命令して来たからわしは渋々払い、外に出たら爆買い。

 この日は女王の荷物係となって、城に撤退したのであった。



「女王のせいで、ちょっとしか見て回れなかったにゃ~」


 城の王族食堂で、ジョージに王都の感想を聞かれたから愚痴っていたら、女王も話に入って来る。


「その件は謝ったでしょ」

「お金も半分以上、女王に奪われたにゃ~」

「返すって言ってるじゃない!」


 ジョージはあんな大金を半日で溶かしたと知って驚いているが、わしと女王の仲も驚きのようだ。


「ところでなんですけど、猫の国って本当にあるのでしょうか?」

「そこから疑ってたにゃ!?」

「「「「「あはははは」」」」」


 ジョージがボケるからわしのツッコミが見事に決まり、皆から笑いが起こる。こうしてこの夜は楽しい会食をして、更けて行くのであった。



 翌日は、市勢調査の為に庶民の憩いの広場にてブラブラ歩く。さすがに女王も爆買いした事を反省しているらしく、今日はおねだりして来な……


「ふ~ん……鉄製品の加工がなかなかね。アレも1ダース貰えるかしら?」

「キャンセルにゃ~!!」


 いや、ちょっと目を離したらどうでもいいような物を爆買いしようとするので、何度もわしは止めた。


「なんで止めるのよ」

「欲しい理由を逆に聞きたいにゃ!!」


 ピストル型のキーホルダーや猫なんて、欲しい理由がさっぱりわからん。それも1ダースなんて、さらにわからん。


「リータ達も買ってるじゃない?」

「一個ずつだからにゃ~!!」


 リータ達のせいで欲しがる理由が出来てしまうので、こちらも必死に止めるわしであったとさ。



 皆を見張りながら、わしは買い食いを楽しむ。コリスとオニヒメにもいっぱい買い与えてしまうので無駄遣いとか言われてしまったが、わしの買う物は激安なんじゃ!

 ブーブー……「にゃ~にゃ~」文句を言う皆を引き連れて歩いていたら、行列の出来た露店があったので、テーブル席を確保したら女王達を残し、猫ファミリーで最後尾に並ぶ。


「ここ、気になってたお店にゃ~。エミリのお土産に持って帰らないとにゃ~」

「タコスですか……これでもっと美味しい物が作られるかもしれませんね」

「あ、前が空いたニャー」


 リータやメイバイ達とわいわい喋っていたら、わし達の前に並んでいた人が後ろを見る度にそそくさと逃げて行き、列が短くなって行く。どうやらコリスに驚いたようだ。


「シラタマさんにもですよ」

「コリスちゃんのせいだけにしたらかわいそうニャー」


 どうやらわしにも驚いていたようだ。これでいいじゃろ! コリスはかわいいからね~?


 リータとメイバイにやんわり文句を言いつつ、久し振りに怖がられて気落ちするコリスを宥めながら後ろ向きに歩いていたら、突然露店から、カーリーヘアのかわいらしい幼女が飛び出して来た。


「きゃっ! いた~い」


 その幼女はわしのお尻にぶつかってこけてしまったので、わしは慌てて手を差し伸べる。


「つつつ……」

「ごめんにゃ~。よそ見してたにゃ~」

「いえ、こちらこそいそいで…て……ええぇぇ~!?」


 幼女もわしの顔を見て驚いたので、尻尾が垂れる。


「なんでホワイトトリプルが街中に……ダブルも居る!? ぎゃああぁぁ~~~! イサベレ様、たっけて~~~!!」


 それも、すんごい怖がりよう。幼女は必死の形相でイサベレが居るテーブルに走って行くので、残されたわしは項垂うなだれるのであった。

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