281 脅しにゃ~


 空の旅は静かに終わり、飛行機は街の着陸ポイントに降りる。そこからホウジツ達を連行し、内壁の門を潜る。しばらくして、お通夜のように歩くわし達に気付いたリータが、コリスに乗って現れた。


「シラタマさん。そちらの方達は、ソウの街の方達ですか?」

「そうにゃ」

「何かおびえているように見えるのですが……」

「あ~。コリスの説明を忘れていたにゃ~」

「もう! 大事な事なんですから、ちゃんと説明してくださいよ~。この子は優しい良い子だから、怖くないですよ」

「は、はあ……」


 リータの説明に、ホウジツ達は、何故かわしを見た。


「シラタマさん? コリスちゃんより、シラタマさんに怯えていません?」

「そんにゃ事ないにゃ~。にゃ?」

「はは、はい!」

「ほら~。何したんですか!」

「にゃにもしてないにゃ~。にゃ?」

「ははは、はい!」

「……わかりました。案内は私がしますので、シラタマさんはコリスちゃんをお願いします」

「いいにゃ!? コリス。行っくにゃ~」

「モフモフ~」


 わしは仕事が減ったと喜び、コリスと一緒にシェルターに走る。だが、シェルターの前でメイバイに捕まった。


「シラタマ殿~。セイボクさんと、ウンチョウさんが着いているニャー。コリスちゃんと遊んでいないで、挨拶するニャー」

「あ~……コリス~。メイバイと遊んでもらうか?」

「う~ん……みんなでむずかしい話するんでしょ? 巣でねてる~」

「そうか。晩ごはんには呼びに行くな」

「うん!」


 こうして、束の間の休憩をメイバイに奪い取られ、抱きかかえられてシェルターの食堂に連行されるわしであった。



 食堂に入ると、セイボク、ウンチョウ、コウウン、センジが椅子に腰掛けていたが、わしの姿を見て立ち上がるので、「そのままそのまま」と言って座らせる。


「さて、遠い我が街に来てくれてありがとにゃ。みんにゃは、わしの街の説明を聞いてくれたかにゃ?」

「「「……はい」」」

「にゃ? にゃにか変な事でもあったにゃ?」

「「「変な事だらけです!」」」


 センジに続き、説明を受けたにも関わらず、わしの街の変な点を羅列する三人。わしは右から左に受け流し、センジは苦笑いだ。ようやく落ち着いたところで、ホウジツを連れたリータが入って来た。


「シラタマさん!!」

「にゃ!? 急に大声出してどうしたにゃ?」

「ホウジツさんから聞きましたよ!」

「にゃにか怒ってませんかにゃ?」

「脅すなんて、なにしてるんですか!」

「いや……うるさかったから、ちょ~っと……」

「あとで説教です」

「いや……」

「……説教です」

「……はいにゃ」


 どうやらリータは、わしとホウジツを引き離して、怯えている理由を事情聴取していたみたいだ。わしは説教に怯えながら、各街に頼んでいた服を受け取る。

 受け取った服は、夕食の際に配ってもらい、明日から使用してもらう予定だ。



 今日の夕食会議は各街のトップが揃っているので、シェルターの食堂で執り行う。各担当を紹介しながら食事をとり、他所の街の現状を聞く。


「ふ~ん。一番マズイのはソウの街にゃ~」

「も、申し訳ありません」

「まぁ貴族の称号を奪われたら、反発するのはわかるにゃ。どの街も、少なからず反発する者がいるみたいにゃし、みんにゃが帰る前に法律を作ってしまおうにゃ。突貫工事で穴があるけど、そこは各自の采配に任せるにゃ」

「「はっ!」」


 わしの発案に、センジとホウジツが返事をするが、セイボクは返事をしなかったので、元々の法律があったのかと思って声を掛ける。


「猫耳の里には関係の無い話だったにゃ?」

「いえ、我が里でも法律が有りませんし、適用していただけると規律が保たれますじゃ」

「それじゃあ決定にゃ」

「はい!」


 セイボクと話をしていたので、わしは気になる事があったからそのまま話を続ける。


「そう言えば、猫耳の里はあのままでいいにゃ?」

「は?」

「ジンリーからわしの街に残っている理由を聞いたんにゃけど、息苦しく感じる者もいるみたいにゃ」

「……と言いますと?」

「移住にゃ。国は平定したから、もう隠れて住まなくてもいいんにゃよ?」

「あ……」

「気付いてなかったにゃ?」

「なにぶん、里から出ようとも思っていなかったので、考えが行き届いておりませんでしたじゃ」


 今まで暮らしていた故郷じゃし、急に言われても困るわな。じゃが、出たい者もいるはずじゃ。今後の課題としておくか。


「焦る必要はないにゃ。持ち帰って住民に聞いてくれにゃ。わしの街で受け入れてもいいしにゃ。それと先の話だけど、猫耳の里も森を切り開く範囲に入っているから、どうして欲しいか考えておいてにゃ」

「はい!」

「さてと、難しい話は明日にして、今日は酒を用意したから、人族、猫耳族の親睦を深めようにゃ」


 わしが話を変えると、セイボクとウンチョウがお供の者に酒瓶を持って来させる。


「我が里もご用意しましたじゃ。お召し上がりください」

「ラサでも残っていた酒をかき集めて来ました。どうぞお飲みください」

「お! ソウの街は、にゃにもないのかにゃ~?」

「もちろん、とっておきの品を用意しております。お猫様の収納魔法に入っているので、出してくださいませ~」

「おお~! どの街が一番うまいか飲み比べにゃ~。かんぱいにゃ~~~!」

「「「「「かんぱいにゃ~!」」」」」


 こうして食事会議は酒盛りへと変わり、大人組は酒を酌み交わす。ヨキは子供で明日も農作業があるので、早く寝るようにと追い出し、コリスは酒を一杯飲んだだけで寝てしまったので、シェンメイに協力してもらって巣に放り込む。

 子供がまだ一人残っていたので追い出そうとしたら、引っ掻かれた。どうやらノエミだったみたいだ。



 そうして酒が進み、騒がしさが落ち着くと、わしは皆を眺める。


 心配していた人族とセイボクの接触は問題なさそうじゃな。ホウジツの人と柄のせいか? 揉み手でセイボク達を立てているみたいじゃな。

 肩まで組んで、どうやったら小一時間で、そこまで仲良くなるんじゃ? 商人の接待術は凄まじいのう。


 あっちはシェンメイ姉妹とセンジが、何やら語り合っておるな。……男の趣味か? センジはおじさんが好きで、シェンメイ姉妹は若い男の子が好きなのか。

 どちらも熱く語り合っておるけど、声が大きいし、ドン引きじゃ。シェンメイ姉妹は、わしの街から追い出したほうがいいかもしれん。


 ノエミとワンヂェンは仲良しじゃな。ちびっこだから、通じ合うものがあるのかもしれない。

 でも、お互い「にゃ~にゃ~」言って、意思疏通は出来ておるのか? 間でヤーイが苦笑いをしておるぞ? 聞いていてもさっぱりわからんのじゃろうな。


 リータとメイバイはいつも通りわしに甘えて撫でて来るけど、このまま酔い潰れてくれたら、今日の説教は無くなるから出来るだけ飲ませよう。


 あっちは……ケンフとズーウェイか。なかなかいい雰囲気じゃないか? ケンフのリハビリ相手のつもりじゃったが、このままゴールインさせてもいいかも。ズーウェイの性的趣向が問題だけどな。

 ケンフには、女に暴力を振るうなとだけアドバイスしておこう。それじゃあ、フラれるか。


 他の主要メンバーも、久し振りの酒で嬉しそうじゃな。もっと食糧があれば酒作りに移行できるんじゃが……楽しみも必要か。平行してやってみるか。セイボクが持って来た酒を量産したいしのう。



「シラタマさ~ん。飲んでますか~?」


 わしが楽しそうに飲んでいる皆を眺めていると、リータとメイバイが頬を引っ張って来た。


「にゃ? 飲んでるにゃ~」

「私達も撫でてニャー」

「よしよし~。ほっぺを引っ張るのはやめてにゃ~」

「「モフモフ~」」

「聞いてるにゃ?」

「式が楽しみですね~」

「うんにゃ。ほっぺをにゃ?」

「早く式をしたいニャー」

「引っ張るのは……」

「「むにゃむにゃ」」


 寝てしまったか……。式を楽しみにしてるなんて、そんなにわしを王様にしたいのか? わしはちっとも王様なんかになりたくないのに……

 まぁ早く寝てくれたなら、説教が無くなってありがたい。わしもやる事が残っておるし、宴はお開きにするかのう。



 わしが宴の終わりを告げると、残念がる声が聞こえる。まだ飲みたいなら各自に与えた屋敷で飲めとシェルターから追い出し、眠っている者は、男の子部屋、女の子部屋に放り込み、リータとメイバイは優しく車のベッドに寝かせる。


 車の中では、明日の為の作業。ソファーに腰掛け、ウィスキーを片手に深夜遅くまで、物書きを続けるわしであった。







「シラタマさん。起きてください」

「ふにゃ~……」


 どうやらわしは、ソファーで寝落ちしていたらしく、リータにゆさゆさと揺すられて起こされた。


「おはようございます」

「おはようにゃ~。ふにゃ~……」

「おはようニャー。またソファーで寝てたけど、私達と一緒に寝るのは嫌ニャー?」

「にゃ!? そんにゃんじゃないにゃ~。仕事をしていたら寝てしまったにゃ~」

「その書類が仕事ですか?」


 ヤバイ! リータ達に見られたか? 一番上は……ホッ。各地の名産品のリストじゃ。これなら気付かれていないじゃろう。


「そうにゃ。王様は忙しくて困るにゃ~」

「お疲れ様ニャー」

「それじゃあ仕方ないですね。お疲れ様です」


 ん? 珍しい。いつもなら言い訳すると、怒られておったのに……それに、寝ているわしを、強引にベッドに連れ込んでいないのも珍しいな。まぁ実際仕事をしていたから、労ってくれてるのかな?


「それでは朝食会議に行きましょうか」

「少し遅れているから急ごうニャー」

「にゃ? そんにゃに寝坊したにゃ?」

「行きますよ~」

「あ! 待ってにゃ~」


 わしはリータ達に置いて行かれそうになったので、テーブルに乗っていた書類を全て懐に入れて追い掛ける。

 シェルターの門を潜り、街に出ると、朝食の準備をしている住人が目に入るが、まだ始まったばかりだった。

 わしは不思議に思いながらリータ達と配膳を手伝い、眠そうに現れる子供達や、大人達、コリスの手を引くセンジにおはようと言いながら、主要メンバーが席に着くのを待つ。


 主要メンバーが揃えば、朝食会議。働く者には大事な会議があるから、もしもの時にはシェルターに来るように言い、仕事に向かわせる。



 朝食会議が終われば、大事な会議。参加者をシェルターに集める。

 参加者は、猫耳の里からセイボク、コウウン。ラサの街からウンチョウ、センジ。ソウの街からホウジツ、秘書の女性リームォ。わしの街からリータ、メイバイ、ケンフ、ワンヂェン、シェンメイ。わしを含めた計十二人。

 ちなみにノエミは、わしの国の者ではないので、コリスと遊んでもらっている。


 議長は当然王様のわしなので、開始を宣言すると議題を提出する。


「さあて、まず最初の議題にゃ。一番大事にゃ国の名前を決めたいにゃ。みにゃさんに渡した用紙は、今まで考えていたモノを、昨夜寝る間を惜しんでまとめたにゃ。この中からわしにふさわしい国の名前、それと街の名前を決めたいと思うにゃ。ふさわしいモノに丸を付けて、一番多いモノを、わしの国と街の名前にするにゃ。よく考えてくれにゃ~」


 リータに用紙を回してもらうと、受け取った皆は、熱心に用紙を見つめる。


 この多数決で、やっと国の名前が決まるな。多数決だけど、猫は無し。わしが適当に書いた名前が用紙に書いてあるから、猫に決まるわけがない。

 アメリカやフランス、イギリスといった国の名前。ワシントンやパリ、ロンドンといった街の名前。元の世界にある国や街の名前を十個ずつ書いてあるから、選びたい放題じゃ。


 本命は、わしが最初から丸をしているジパングとキョウ。王様のわしの意向を読み取れば、それで決定じゃ。ちゃんと忖度そんたくしてくれよ~?

 まぁ忖度されなくとも票が割れれば、ジパングとキョウが最有力となる。それに決まらなくとも、猫にはならないからどれでもいいな。

 リータ達には多数決をするとは言ったが、猫を入れるとは言っておらん。決して嘘はついておらんから、決まればゴリ押しが出来る。怒られるじゃろうけど、猫以外に決まればわしの勝ちじゃ。


 さあ! アマテラスの予言すらくつがえす、わしの完璧な作戦で国名を決めてくれ!! わ~はっはっはっは~。



 わしが心の中で高笑いをしていると、リータが用紙を回収し、全てに目を通して国名を発表する。


「一名を除き、同じ国名、街の名に丸を付けましたね」


 お! 皆、ちゃんと忖度してくれたみたいじゃな。忖度してくれなかった一人は気になるが、気分がいいから不問にしてやろう。

 さあ、読み上げるがよい! わ~はっはっはっ……


「発表します。シラタマ王が治める国の名は『猫の国』。街の名は『猫の街』と決まりました!」


 は~~~~~~~~~~~~~?


「リ、リータさん? い、いま、にゃんて言いましたにゃ?」

「ですから『猫の国』、『猫の街』と決まりました」

「にゃ……にゃんで~~~~~~~!!」

「ほら、シラタマ殿。見たらわかるニャー」


 わしはメイバイから用紙を受け取ると、目を皿にしてよく見る。そこにはわしが書いた覚えのない『猫の国』と『猫の街』が書き加えられていた。

 どうやら、わしが寝ている隙に、リータとメイバイが書き加えたみたいだ。そして、バレないようにわしを急かして会議を始めたらしい……


「にゃ、にゃんでこんにゃ事に……異議申し立てるにゃ~~~~!!」

「へ~~~。多数決で決まったのにですか?」

「へ~~~。私達を騙そうとしていたのにニャー?」


 わしが文句を言うと、二人は目を妖しく光らせて低い声で語り掛けるので、あまりの恐怖に体がぷるぷると震える事となった。


「にゃ……異議を取り下げさせていただきにゃす……」



 こうしてわしは脅され、国の名は『猫の国』、街の名は『猫の街』と決定し、歴史に刻まれる事となった。


 ちくしょう!!

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