第五章 ハンター編其の三 旅に出るにゃ~

112 キャットカップってなんにゃ~!!


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。ちなみに懐はウハウハだ。


 リータ達の装備を整えたせいでお金に困っていたので、苦手な虫の駆除をリータとメイバイに手伝ってもらった。気持ち悪さで多少苦戦したが、リータとメイバイの協力のもと、大蟻の駆除に成功した。

 販売にも多少苦労したが、黒蟻も良い値が付いたので問題ない。手元に残っているクイーンとキングがどれだけ高く売れるか、いまから楽しみだ。



 金策が上手く行ったわし達は、ローザの街から転移で戻り、王都の門まで車で乗り付けたが、いつも通り車のままでは入れてもらえなかったので、渋々歩いてギルドに向かう。

 車から降りても二人は抱きついたまま離れてくれないので、わしは両脇から抱えられて浮いたままハンターギルドの扉を通った。

 何度も下ろしてしくれと言っても聞いてくれないのから二人に受付カウンターに向かってもらい、ギルド職員の女性に挨拶をする。


「おはようにゃ~」

「きゃっ!?」

「にゃんで驚くにゃ~」

「二人に抱えられているから、てっきりぬいぐるみかと思いまして……失礼しました」


 本当に失礼じゃ! わしのどこがぬいぐるみ……紙一重じゃな。


「今日はティーサは居ないにゃ?」

「はい。準備があるので席を外しています」

「そうにゃんだ。メイバイの試験を受けに来たんにゃけど、受付お願いするにゃ~」

「あ、はい。あれ? どこいったかな……少々お待ちください」


 職員の女性は手元に必用な書類が見付からないらしく、カウンターの上や下をゴソゴソと探している。その間、手持無沙汰になったわしは、リータとメイバイとお喋りして待つ。


「そう言えば、リータは昇級試験は受けて無かったにゃ。いまからでも受けれるのかにゃ?」

「どうでしょうか? でも、私は才能も自信も無いので、受けなくていいですよ」

「いまにゃらいいところいけそうだけどにゃ~」

「そうニャ。リータのパワー、すごかったニャー!」

「それはシラタマさんが見出してくれたのです」


 カウンターの中で探し物を見付けたギルド職員は、わし達の話を聞いていたのか、リータに昇級試験を勧める。


「でしたら、リータさんも受けて見ますか? 普段は登録して一ヶ月以内に受けなければ失効してしまいますが、今回は特別で、一度受けた人でもDランクの方までなら受けれます。いまならまだ受付していますよ」

「でも、私なんかが……」

「リータにゃら大丈夫にゃ。わしが保証するにゃ~」

「シラタマさん……わかりました。受けてみます」

「では、こちらの書類にサインをお願いします。メイバイさんも、ここにお願いします」

「はい」

「はいニャー」


 必要な手続きが終わるとギルド職員に礼を言って、訓練場に抱きかかえられたまま向かうのだが、訓練場の扉を開くと、わし達は驚く事となった。


「なんですか、この人達……」

「また満員にゃ~」

「なんでこんなに人が集まってるニャ?」

「シラタマさんを見に来たとか?」

「わしは付き添いにゃ~。猫のメイバイを見に来たのかにゃ?」

「シラタマ殿より猫じゃないニャー!」


 わし達は満員の客席に疑問を抱いていると、この王都、ハンターギルドのマスターであるスティナが駆け寄って来た。


「シラタマちゃ~ん。待っていたわよ~」

「にゃんでわしを待っていたにゃ? ……嫌な予感がするにゃ」

「それは……あっちで話しましょ。二人は受験者? 受験者は向こうに集まってるから!」

「あっ! シラタマさ~ん!」

「シラタマ殿~!」

「嫌にゃ~! 行きたくないにゃ~~~」


 わしはリータとメイバイから強引に引き離され、スティナに拉致されて行く。二人が抱いていたせいで地に足が着いていなかったので、逃げる事は出来なかった。

 そして観客席の下にある物置に連れ込まれ、わしはテーブルに押し倒された。


「ハァハァ」

「セクハラにゃ~! 襲われるにゃ~!!」

「何言ってるの? お願いがあるから呼んだのよ」

「ハァハァ言ってるにゃ……」

「走ったからよ」

「服が乱れているにゃ」

「普段着じゃない?」

「にゃにもしないにゃ?」

「ナニかして欲しいの~? フゥ~」


 エ、エロイ……酒癖の悪さが無ければ、スティナは美人なんじゃよなぁ……ちょ、ちょっとぐらいいいかな?


「それにゃあ……」

「冗談はさておき、シラタマちゃんには今日の試験官をして欲しいのよ」


 わしは何を考えていた! 猫のわしが人とそんな事をするわけにはいかん。平常心、平常心……


「断るにゃ~!」

「今回はちゃんと指定依頼にするし、利益の一割は分配するからお願い!」


 どうしたスティナ? 前までは、わしが何も言わなかったら金なんてくれなかったのに……調子が狂う。


「わしがやったら全員落ちるにゃ。それでもいいのかにゃ?」

「そこは実力のある者が審査するから安心して」

「一瞬で終ったら審査も出来ないにゃ」

「ルールがあるから、シラタマちゃんは、それに乗っ取ってやってくれるだけでいいわよ」

「今回はリータとメイバイが出るにゃ。パーティ仲間が出てるのは問題無いのかにゃ? わしは甘くしてしまうかもしれないにゃ」

「シラタマちゃんは、そんな事しないと信じているわ。でも、あからさまにやったらわかるから、やるなら気を付けてね」


 止めないの? まぁ本人のためにならないから、そんな事はしないけど。う~ん……これならやってもいいかな?


「わかったにゃ。引き受けるにゃ」

「やった! ありがとう」

「胸に挟むにゃ~! 苦しいにゃ~!」

「して欲しそうだったから、つい……」

「ソンニャコトナイにゃ」


 バレてた! 一瞬の気の迷いだったんじゃ~!!


「これで毎月まとまった収入が見込めるわ。ありがとう! チュチュチュ」

「ちょ、キスするにゃ! 毎月ってなんにゃ!?」

「シラタマちゃんも仕事で忙しいでしょ? 毎週だと大変だろうから配慮したの」

「そんにゃ説明聞いてないにゃ! 毎月なんて聞いてないにゃ!!」

「そうだっけ? でも、言質は取ったわよ」

「それは今回だけにゃ!」

「やってくれないんだ……さっきのこと、リータに言っちゃおっかな~?」

「にゃ、にゃんの事にゃ?」


 スティナはわしの質問に、舌なめずりしながら意地悪な表情に変わる。


「私の誘い……」

「にゃ!」

「私の胸……」

「にゃにゃ!!」

「私の唇……」

「にゃにゃにゃ!!!」

「王女様も聞きたがるかもね……」

「やるにゃ! やるから言わにゃいで~~~!!」


 こうしてわしは、ハニートラップに掛かり、新しい仕事が増えたのであった。






『これより第一回キャットカップを開催します!!』

「「「「「「わあああああ」」」」」」


 バニーガールではなく、キャットガールの衣装に包まれたティーサの開会宣言と共に、満員の観客席が沸き上がる。

 わしはスティナの指示で物置からまだ出るなと言われているので、のぞき見しながら待機している。


 キャットカップってなんじゃ! てか、みんな何が起こるか知っておるのか? 当事者のわしは聞かされておらんのに。うぅぅ。帰りたい……


『それでは主役の登場です! シラタマさんに盛大な拍手を~』

「「「「「きゃ~~~~~」」」」」


 出たくね~! ……主役はわしじゃないじゃろう! 試験を受けるハンターが主役じゃ! これ、毎月やるの? これなら怒られたほがマシじゃ。


「ほら、シラタマちゃん。早く出て」

「やっぱり断るにゃ~」

「へ~……一度引き受けた仕事を断るんだ。信用が大事なハンターとして、どうなのかな~?」


 うっ。嫌なところを突いてきやがる。まだ脅されたほうが断り易いのに……


「行くにゃ! 行けばいいんにゃろ!!」

「行ってらっしゃ~い」



 わしは覚悟を決めて、物置から出る。割れんばかりの歓声を受けながら、ティーサのいる中央にうつむきながら歩く。そしてティーサの指示で、赤い塗料で書かれた1メートルの円の中に立たされる。


『主役も登場しましたので、ルール説明をいたします。ルールは簡単! グループごとに、防御しかしないシラタマさんを、制限時間内にこの円の中から押し出せた人物を当てた人、または、制限時間内に攻撃を当てた回数が多かった人物を当てた人、それも無ければ、制限時間内に攻撃回数が多かった人物を当てた人が、配当の山分けとなります。ただし、ダメージにならない攻撃は無効になります。では、準備が整いしだい開始しますので、少々お待ちください』


 ギャンブルじゃ……また堂々とわしをギャンブルのネタにしておる……だから試験じゃ無いのか!?


 わしが呆気に取られていると、ティーサがそばに寄って来て声を掛ける。


「猫ちゃん、準備は整いましたか?」

「ダメにゃ~。心はバッキバキに折れてるにゃ~」

「猫ちゃんもですか……」

「ティーサもその衣装……恥ずかしいにゃ?」

「はい……恥ずかしくて死にそうです」

「似合ってて、かわいいにゃ~」

「言わないでください……うぅぅ」


 なるほど。ティーサはこの準備があったから、受付にいなかったんじゃな。しかし、顔を真っ赤にして……バニーガールの猫版みたいでかわいいのに。

 今度お酌でもしてもらおうか? って、ティーサの嫌がる事をさせるのは、セクハラになってしまう。わしはスティナとは違う!


「こうにゃったら、一緒にスティナをギルマスから解任してやるにゃ!」

「どうやってですか?」

「こんにゃ酷いギャンブルをやっているんにゃ。女王に言い付けるにゃ!!」

「陛下ならあちらに……」

「にゃ……」


 わしはティーサが目をやった場所を見る。そこには満員の観客席とは違い、ゆったりとした空間があり、女王とさっちゃん、数人の護衛の姿があった。


 何しておるんじゃ!! さっちゃんは手を振っておるから返しておこう。ん? あいつはイサベレ……目をパチパチしてるけど、ゴミでも入ったか? 何故だか寒気がしてきた。


「ク、クーデターを起こすにゃ! 民を先導して女王を失脚させるにゃ!!」

「その民は喜んでいます……」

「……打つ手はにゃいのか?」

「はい……早く終わらせる事に集中しましょう」

「……そうだにゃ」


 わしとティーサは目を合わせて頷き、準備を整える。


 とりあえず、ルールを確認しとくか。えっと……この赤い円から出たらダメって言っておったな。小さい……1メートルぐらいか? わしが大股で開くとギリじゃな。

 足が短いわけではない。小さいからじゃ! またわしは誰に言い訳をしてるんだか。はぁ……

 ここから出なければ剣も魔法も使っていいけど、攻撃はしてはいけない。剣は刃が無ければ良し。

 次元倉庫から刃引きの刀を出してっと。ルールも準備も完了じゃ。



 しばらくして、最初の挑戦者が呼び込まれ、観客席でギャンブルの受付が始まった。訓練場中央ではティーサが音声拡張魔道具のマイクを握り、挑戦者の名前とランクを読み上げる。

 挑戦者はFランク。ハンターになったばかりの若い四人パーティだ。剣士二人と槍士、紅一点の魔法使い。リーダーの剣士からスタートするのだが、ご機嫌斜めのようだ。


「猫! お前のせいで、こんなバカ騒ぎになったんだ! 俺達の華々しいハンターデビューが台無しだ!!」

「「そうだそうだ!」

「みんな。そんなこと言ったら猫さんに悪いよ」


 リーダーの苦情に乗っかる残りのパーティメンバ―。しかし、一人の少女が助け船を出してくれた。


「セルマ。こんな猫、庇うな!」

「それは申し訳ないにゃ……」

「な……謝ったからって許されるか!」

「もちろん許されると思って無いにゃ。でも、わしの話も聞いて欲しいにゃ~」


 わしは新人ハンターの喧嘩腰の姿勢に、弱々しく答える。わしが話を始めると同時に、ティーサの始まりの合図が掛かる。


『制限時間は二分。開始!!』

「くらえ!」

「わしは今日、仲間の昇級試験について来ただけにゃ」

「でやー!」

「ここに入ったら、人がいっぱいでビックリしたにゃ」

「まだまだ~」

「そしたらギルマスに捕まったにゃ」

「はぁはぁ」

『はい! 終了です。次の人、開始!』

「行くぞ!」

「そしたら突然、試験官をやれって言われたんにゃ」

「くそ! 当たらねぇ」

「もちろんそんにゃの出来ないと、わしは断ったにゃ」

「はぁはぁ……もうダメだ」

『は~い。終了。次、開始!』

「余裕こいてんじゃね~!」

「にゃのにギルマスに脅されて……」

「話をやめろ!」

「酷いと思わないかにゃ?」

「マジメにやれ~!」

「マジメにって言われてもにゃ~」

「クソ! はぁはぁ……」

『終了で~す。次はセルマちゃん、行きましょう。開始!』

「お願いします! 【エアカッター】」

「【風】にゃ。テンションも下がるにゃ~?」

「猫さんは悪くないんですね」

「わかってくれるにゃ!?」

「はい。でも、もう少しマジメにやって欲しいです」

「にゃ……」


 わしがグチグチ言いながらも試験は続いていた。

 剣士と槍士の攻撃は刃引きの刀で全てガードし、二分間受け続け、疲れ果てては交代し、最後の一人、魔法少女セルマとの戦闘になっていた事にようやく気付くわしであったとさ。


「ごめんにゃ~~~!」

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