113 ティーサは意外と……にゃ~


 キャットカップ(昇級試験官)が始まり、最初の挑戦者、Fランクハンターの四人の内、三人のハンターは、わしがグチグチ言っている間に試験が終わってしまっていた。


 三人の死体が転がっておる。わし、防御しかしとらんよね? 乗り気でないとは言え、悪い事をしてしまった。ちょっとは試験官らしくマジメにやるか。


「えっと……君は魔法使いかにゃ?」

「さっき使ったじゃないですか~」

「あ、ごめんにゃ~。今からマジメにやるにゃ。さあ! 掛かって来るにゃ~!」

「はい! 【エアカッター】」

「【鎌鼬】にゃ~」


 わしは気合を入れると、魔法少女セルマの攻撃魔法を近くまで寄せてから【鎌鼬】で迎撃する。


 ヤベッ! 魔法少女が真っ二つになってしまう。……よっと。


 わしは【鎌鼬】を操作して、無理矢理直角に落とす。その結果、セルマの足下の地面には、深い切れ目が出来上がり、セルマは尻餅をつく。


「あわわわわ」

「コラー! シラタマちゃんは攻撃しちゃダメって言ったでしょ!!」

「ごめんにゃ~」


 脅えるセルマ、怒るスティナ、怒られてしょぼんとするわし。とりあえず制限時間があるので、セルマを宥めながら試験を再開する。


「今度は自分の周りだけ守るから、怖がらにゃいで。にゃ?」

「は、はい」

「【土玉】×3にゃ~」


 わしはみっつの土の玉を自分の周りに漂わせる。


「好きなだけ撃って来るにゃ」

「い、行きます!」


 セルマは【エアカッター】を、わしに向けて連続して放つ。わしはその都度、周りに漂っている【土玉】をぶつけてかき消す。何度かのやり取りがあり、わしの【土玉】には傷も付かずに、セルマは魔力切れに陥った。


「もうダメです……」

「まだ時間もあるし、その杖で殴るにゃ」

「え?」

「外に出たら魔力切れになる事もあるにゃ。そんにゃ時、どうするにゃ? 死ぬのをただ待つのかにゃ?」

「いえ……」

「魔法使いだからって、ひとつの闘い方にこだわらず、二の矢、三の矢は持ってるほうがいいにゃ。さあ、来るにゃ~」

「は、はい。え~い!」


 セルマは走り、わしに向けて杖を振りかぶる。わしはその大振りの杖を片手で受けようと手を伸ばす。が、セルマはつまずき、前のめりに倒れ込んだ。

 なのでわしは、円から出ないギリギリまで前に出て、セルマを受け止めるが、肩に杖が当たってしまった。

 ティーサは杖での攻撃の判定を悩み、審査員を見る。当然、審査員は首を横に振るが、スティナがすごい勢いで何度も首を縦に振り、ティーサは渋々判定を宣言する。


「ヒット~! そしてタイムアップで~す!」

「「「「なんじゃそりゃ~~~!!」」」」


 スティナ、魔法少女に賭けておったな……イカサマじゃ! ブーイングも起きておる。まさかわしも加担しておると思われておらんよな?

 しかし、魔法少女はいつになったら離れるんじゃろう? わしの胸に顔を埋めないで欲しいんじゃが……


「モフモフ幸せ~」

「いや、そろそろ離れてくれにゃ~」

「はっ! すみません!!」


 幸せそうにしていたセルマがわしから離れると、試験官らしき事をしてみる。


「さっき言ったこと、覚えてるかにゃ?」

「はい!」

「時間があったら、他の受験者の闘い方を見て行くといいにゃ。その中で、自分でも出来そうな攻撃手段を模索するといいにゃ」

「はい。勉強して帰ります。ところで、私をすごくにらんでいる人がいるのですが……」

「ああ。わしの仲間にゃ」

「何か怒ってます?」

「……あとでわしが怒られるから気にするにゃ」

「はあ……」


 転んだから抱きとめただけなのに、そんなに睨まないで! これもそれもスティナのせいじゃ。なにガッツポーズしとるんじゃ!!


 わしがスティナの態度に腹を立てていると、ティーサが近付いて来て声を掛ける。


「猫ちゃん。次、始めてもいいですか?」

「大丈夫にゃ。でも、イカサマはダメにゃ~」

「うっ。ギルマスには逆らえません」

「ティーサを首にしたら、わしが王都を壊滅してやるにゃ!」

「アハハ。その時は頼みますね」



 ティーサはわしの話を冗談だと受け取り、わしから離れ、次のメンバーを呼び込み、観客に説明する。次からはEランクは飛んで、Dランクハンターになるみたいだ。一人の持ち時間も少し延びて、三分になるとのこと。

 人数も一気に増えて、全部で五グループ。四組は五人一組。最後の一組は六人で、ここにリータとメイバイが含まれている。このグループ事に、賭けが行われるらしい。

 Cランクに上がれず、くすぶっているハンターを、この機会に審査するらしいが、ティーサの言い方が悪かったのか、Dランクハンターのほとんどのテンションが下がった。


「誰が落ち目だ~!!」

「誰が年寄りだ~!!」

「誰が長いだけだ~!!」

「二十年やってて悪いか~!!」

「俺だって生きてるんだぞ~!!」


 と、ティーサの酷いハンター紹介で、心に傷を負ったハンター達が、やけくそになってわしに襲い掛かる。

 わしは直接攻撃には刃引きの刀で受け止め、魔法には【土玉】で掻き消し、弓や投撃にはキャッチして返してあげる。そして、二十人の屍が作り上げられる。


 う~ん。ティーサの説明通りの実力じゃったけど、もう少しオブラートに包んであげたほうがよかったのに……何人か泣いていたぞ?

 泣いていたのは弓士と投げナイフの人じゃったけど、あんな紹介されると泣きたくもなるじゃろうな。


 わしがDランクハンターの批評をしていると、ティーサが駆け寄って来た。


「猫ちゃんは疲れないのですか?」

「にゃ? これぐらい平気にゃ」

「すごい体力ですね」

「それより、あんにゃ言い方したらかわいそうにゃ~」

「事実ですよ。ギルドにも貢献していないクズです!」

「ひどいにゃ~。泣いてた奴もいたにゃ~」

「それは猫ちゃんが、飛んで来る矢やナイフを受け取って返すからですよ! 自信無くなるに決まってるじゃないですか!」


 どうやらわしも、ハンターの心を折るのに、片棒を担でいたみたいだ。





 キャットカップも大詰め、最後のグループとなる。わしは大丈夫だから始めてくれと言ったが、お昼休憩を挟むみたいだ。

 試験の参加者には軽食を用意してあるが、観客席には売り子が多数湧いていた。おそらくこの売り上げの為に、少し早いがお昼休憩にしたと、わしは見ている。


 その観客席の様子を見ていたら、リータとメイバイが労いの言葉を掛けてくれた。


「シラタマさん。お疲れ様です」

「すごかったニャー」

「ありがとにゃ。お昼、それで足りるかにゃ?」

「はい。程々にしないと動けなくなってしまいますからね」

「私は足りないニャー」

「じゃあ、収納魔法に入ってる肉、出してあげるにゃ」

「いいニャ?」

「いっぱい食べ過ぎて、動けないにゃんて事にならなかったらいいにゃ」

「わかったニャー!」


 わしは次元倉庫から、焼いた肉の串を多めに取り出し、空いている皿に乗せる。


「多く出したから、わしと最初に闘ったFランクの新人さんにも分けてあげてくれにゃ」

「あの女の子にですか……」

「分けるぐらいなら全部食べるニャー!」

「勘違いにゃ! 大事な試験にゃのに、わしのせいで迷惑を掛けたからにゃ~」

「「本当(ニャ?)ですか?」」

「本当にゃ~」

「冗談ですよ。シラタマさんは優しいですもんね」

「私は信じてないニャ……」

「しつこいにゃ~」


 二人と会話を終えると、わしは観客席に目を向ける。


「シラタマさんは、どこか行くのですか?」

「女王が来てるから挨拶に行って来るにゃ」

「王女様もいるからですか……」

「それもあるにゃ」

「やっぱり二人は付き合ってるニャ?」

「友達にゃ! 行って来るにゃ~」



 わしは駆け足で女王の座っている観客席へと向かう。そして、2メートル以上の高さにある、観客席にひとっ飛びで登る。護衛に失礼な態度を取られたが、気にせず挨拶を交わす。


「邪魔するにゃ~」

「シラタマちゃん、お疲れ様~」

「シラタマ……せめて一声かけてから来なさい。皆も剣を降ろせ」


 わしの登場で、さっちゃんはにこやかに迎えてくれるが、女王は苛立っているようだ。


「みんにゃ、わしのこと知ってるからいいにゃろ~」

「それとこれとは関係ない。女王よ? 偉いのよ? 偉い人の周りには護衛がいるの。ビックリさせないで! わかった?」

「せっかく挨拶に来たのににゃ……」

「わかった??」

「はいにゃ……」


 挨拶に来なかったら怒られると思ったから来たのに、結局、怒られてしまった……。怒られているんだから、さっちゃんはわしの頭をよしよしするの、やめようか?


「それで何用だ?」

「挨拶に来ただけにゃ」

「それだけ?」

「大事な事にゃ。来なかったら二人ともあとから怒るにゃ」

「そんな事は……ねえ、サティ?」

「ないよね~。お母様?」

「目を合わせるにゃ!」


 やっぱりじゃ。この似た者親子め!


「ゴホンッ! それより大蟻を討伐したとは本当か?」


 話を逸らす気か……まぁこれでわしの無礼も話が逸れるし、乗ってやるか。


「もう聞いたにゃ?」

「ええ。それを一人で討伐したのだろ? 信じられぬ」

「一人じゃないにゃ。リータとメイバイも居たにゃ」

「あの者達もか……」

「シラタマちゃん、大蟻ってなに?」

「山の中に、エリザベスぐらいの蟻がいっぱい居たにゃ」

「いっぱいってどれぐらい?」

「卵や幼体を含めると二千匹以上にゃ。うじゃうじゃ居て気持ち悪かったにゃ~」

「うぅ……想像しちゃった」

「それを一人。いや、三人でか……この小さな体の、どこに力があるの? 本当に信じられないわ」


 女王はそう言って、わし脇に手を入れて持ち上げる。


「信じられないにゃら持って帰って来たから、余興がわりに見るかにゃ?」

「兵やハンター達の勉強になるか……頼む」

「オッケーにゃ。スティナに相談してくるから待ってるにゃ」



 わしは観客席から飛び降り、スティナの元へ走る。スティナに事情を話すと、スティナにはまだ連絡が入ってなかったらしく、東の街のギルマスに会ったら、アルコール中毒で殺すと怒っていた。

 だが、大蟻のクイーンとキングをこのギルドで買い取って欲しいと言ったら喜び、公衆の面前で挟まれた。どことは言わないが、怒られない事を祈る。


 スティナの指示した場所に大蟻、精鋭蟻、キング、クイーンと並べ、その大きさに観客は驚き、感嘆の声をあげる。それらを並べ終わるとわしは、女王の元へ戻る。


「大きいわね。それにダブル……」

「すごいね~」

「ちょっと苦労したにゃ」


 見た目の気持ち悪さで……


「ホワイト二匹をちょっとって……イサベレ、あなたなら勝てる?」

「あの大きさだと、一対一でも難しいです」

「そう……」

「わしのおっかさん相手の時はどうしたにゃ?」

「そ、それは……」

「もう気にしてないにゃ。おっかさんの最後の勇姿を知りたいだけにゃ」

「……わかった」


 暗い顔をするイサベレからおっかさんの最後を聞こうとしたら、女王から待ったが掛かった。


「シラタマ。休憩は終わりだと、スティナが呼んでるぞ」

「あ! まだお昼も食べてないにゃ! ここの食べていいかにゃ?」

「大蟻討伐の報酬もあるから、好きなだけ食べなさい」

「ありがとにゃ~」


 わしは食べ物を口の中に詰め込めるだけ放り込むと、モゴモゴと言って女王の元を離れる。さっちゃんに行儀が悪いと、頬袋をつつかれたが、吐き出さずに我慢できた。

 急いでスティナの元に走り、蟻達は次元倉庫に入れて、あとでギルドに買い取ってもらう事になった。


「シラタマちゃん、ありがとうね。これで私の評価もうなぎのぼりよ! このギルドで、ホワイトなんて見たの何年振りかしら」

「目の前にいるにゃ~」

「あ……本当だ!!」


 やっぱり王都はいいのう。わしを見てもモンスター扱いされないし、騒がれる事も少ない。森の我が家も名残惜しいが、ここで永住するのもいいかもしれん。


「さあ、これからも私のために、バリバリ働いてよ~」


 仕事を押し付けられさえしなければ……

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