668 アメリヤ王国、再上陸にゃ~


「はぁ~……トマトみたいに握り潰されるかと思った……」


 模擬戦が終わり、リータ達が訓練に戻ると言って離れて行くと、ベティは溜め息を吐きながら安堵していた。


「みんにゃの前で調子に乗るからにゃ~」

「だってあたし強いも~ん。賢いも~ん」

「手加減されていたことに気付けにゃ~」

「気付いていたわよ。あたし相手に本気を出さないなんて……だからよけいからかってやりたくなったのよ」

「言っておくけど、二人ともいいとこ二割しか力は出してないにゃよ?」

「まっさか~。あたしの地雷魔法を踏み潰すなんて、本気じゃないとムリムリ」


 ベティは勘違いしているようなので、リータとメイバイが実技をしている場所を指差す。


「アレ、見えてるにゃ?」

「アレって……何か動いている??」

「リータとメイバイが高速で闘ってるんにゃ」

「嘘ついてるでしょ??」

「音も聞こえるにゃろ~」

「嘘って言ってよ~!!」


 リータとメイバイの戦闘の速度にベティはついていけないとはわかっていたけど、ここまで差があるとは認めたくないようだ。さらにコリスとオニヒメの魔法合戦を指差したら、自分の魔法は児戯だったと酷く落ち込んだ。


「にゃ~? アレが猫の国王族の本来の姿にゃ。ぶっちゃけわしが居にゃくても、一国ぐらい余裕で落とせるにゃ」

「そのトップのシラタマ君は、どこまで強いんだか……」

「それはもう果てしなくにゃ~。あ、そうにゃ。わしもちょっと運動して来るから、適当に魔法の練習でもしててにゃ~」

「う、うん……」


 わしはベティから離れると、リータ達を呼んで練習相手になってもらう。練習の内容は、猫型の動きの確認。四人相手にその場から動かず、皆が疲れて動けなくなるまで攻撃を捌き続けるわしであった。



「あとは~。コリスはもう少しフェイントを入れたほうがいいにゃ~……にゃ?」


 わしが念話で皆の戦闘の総括をしていたら、後ろからベティに抱き上げられてしまった。


「にゃに~?」

「猫!!」

「あ、この姿、ベティの前では初めてだったにゃ。これが本来の姿にゃ~」


 ベティは念話よりも猫の姿にツッコミが多いしめちゃくちゃ撫でて来るので、しばらく相手にしてあげた。そのまま話を聞くと、わし達の戦闘は見えている箇所が少なかったようだ。


「本当に、あんなに強くなれるの?」


 ベティが落ち着いてわしを離してくれたら、人型に変身して受け答えする。


「人間をやめればにゃ。まぁエルフにクラスチェンジするには、半年から一年ぐらいは要するだろうにゃ~」

「あたし頑張る!!」

「にゃりたいんにゃ……」


 これだけ脅してもベティの決意は固そうなので、わしも覚悟を決める。


「わかったにゃ。泣き言いうにゃよ~?」

「やった!!」

「あと、エルフになっただけではリータ達には勝てないにゃ。侍攻撃と気功も覚えてもらうからにゃ」

「何それ?」

「侍攻撃はリータにやられていたんにゃけど、気付いてなかったにゃ?」

「さっぱり……」


 ベティには気付かないレベルだったようなので実演。わしの後頭部におもちゃのピストルを突き付けさせて、攻撃を仕掛けてもらった。


「え? なんでこっち向いてピストルを握ってるの??」


 魔法を発射する前にピストルは上に向けられているので、ベティは意味不明って顔をしている。


「これは先の先と言ってにゃ。相手が攻撃を仕掛ける前に攻撃を入れる高等技術にゃ。日ノ本の侍から習ったにゃ~」

「速く動いたんじゃなくて技術だったんだ……だから、リータにいきなり頭を掴まれてたんだ……気功はどんなの!?」


 リクエストに応え、ベティに土の塊を魔法で作らせたら、それに向けてわしは人差し指をゆっくり動かしてちょんっと触れた。


「破裂した……」

「魔力を使って内部破壊を引き起こす技にゃ。これはエルフから習ったにゃ~」

「すっご……こんな技術がこの世界に存在したなんて……」

「にゃはは。世界は広いにゃろ~?」

「ホントに! 魔法だけにとらわれていたあたしはなんて視野が狭い! 全部覚えて、伝説の白銀の獣だって狩ってやるわ!!」


 テンションの上がったベティはそんな事を言うので、わし達は顔を見合わせて苦笑いしてしまう。コリスはいつも通り。


「なに? 変なこと言った??」

「いや~……無茶にゃことを言うと思ってにゃ」

「まぁ居るか居ないかわからないモノを目標にしちゃ、無茶だと思うか」

「そういうことじゃなくてにゃ~……」

「なによモゴモゴ言って」

「白銀の獣はわしより何倍も強いからやめたほうがいいと思ってにゃ~」

「はあ!? もう見付けてるの!?」

「小説に載ってるにゃ~」


 情報の古いベティには白銀猫家族写真を見せて、その夢は諦めてもらうのであった。


「プププ……これってシラタマ君のお父さんじゃない? そっくりよ」

「そうにゃ。でも、お母さんにバレたら夫婦喧嘩でエルフの里が壊滅するかもしれにゃいから秘密にしてにゃ~?」

「からかってるのにさらっと認めるな!」


 わしをからかうのは、それももう終わった話。なので、わしは塩対応で乗り切るのであったとさ。



 翌日は、訓練熱に火のついた猫ファミリーから暴力を受け、ベティは一人寂しく訓練。その翌日は猫ファミリーは惰眠。次の日にはアメリヤ王国に顔を出すので、時差を合わせる為に寝ておかないといけないのだ。

 ベティにも寝ておくように言ったのだが、今ごろ小説を読み始めたので寝てたかどうかは知らない。面白いからと言うより、いつも情報が古いから、新しい情報を仕入れようと頑張って読んでたみたいだ。


 そのお昼頃、昼食をウトウトしながら食べていたら、知人が訪ねて来て会ったらイサベレだった。どうやら双子王女から一報が入り、ついて来ようと走って来たらしい……

 寝惚けていたから聞き間違いかと思って聞き返したら、本当に走って来たそうだ。まさかキャットトンネルも走ったのかと質問したら、そこだけはキャットトレインに乗ったとのこと。

 どうやらここ最近、連続して三ツ鳥居を使っていたから、女王から許可をもらったのに気を遣って走って来たようだ。それでもキャットトレインで三日は掛かる道のりを一日で走破したんだって。


 来てしまったものは仕方がない。イサベレにも仮眠を取るように言って、今日は猫パーティで惰眠を貪った。



 そしてアメリカ時間の朝に、猫パーティプラスベティは転移。アメリヤ城の庭にある三ツ鳥居の前に着いたら、わしだけ城の中をウロウロ。

 その辺を歩いていた人に、ジョージに面会したい旨を説明して、庭に戻ってまったりとお茶を飲んでいたらジョージが走って来た。


「わしから出向こうと思っていたのに、フットワーク軽いにゃ~」

「いや~。最近仕事漬けで息抜きしたくって~」

「ごはんが目的にゃろ? ハンバーガーでいいにゃ??」

「助かります~」


 白い生き物の料理なんて、アメリヤ王国では食べられない品だから予想で言ってみたら、ジョージは詫びる事なくテーブルに着いた。

 なんだか目の下のクマも酷くて疲れているように見えるので、サービスで白メガロドンのハンバーガーを食べさせてあげる。もちろんコリスが欲しがって来たので、全員分出してあげた。


「あ~。美味しい。力が湧いて来るようです~」

「頑張っているみたいだからサービスにゃ~」

「このお肉って、輸出とか出来ません?」

「これは売り物じゃないからにゃ~……ランクは下がるけど、ハンターギルドで売買している美味しいお肉にゃら輸出してもいいにゃ」

「それでかまいません! 普通の獣肉でも流通は少ないので助かります!!」


 ちょっとしたティータイムから商談が始まってしまったので、お互い用意したお金の価値を記した用紙を交換。どちらも同じ数値だったので、すんなりとレートは決まった。

 しかしアメリヤ王国のお金のほうが価値が低いから、税金面での値下げ交渉が始まった。だが、税金関係はわしでは決め兼ねるので、特使を派遣して鉄の購入と共に決める事で落ち着いた。


 ぶっちゃけ遊びに来たから仕事したくないんじゃもん。


「初めて王様らしい仕事をしてるところを見たわ。でも……」

「ちょっとベティは黙っとこうにゃ~?」

「う、うん。お口チャック」


 ベティにこれ以上喋らせると、先送りにして楽をしている事がバレ兼ねない。ひと睨みしてから、アメリヤ王国の現状を聞いておいた。


 原住民の体調は戻りつつあるようだが、まだ移動させるには不安があるので、その間に身の振り方を決めてもらっている最中らしい。

 わしの派遣した猫軍魔法部隊は、絶賛稼働中。軍部の上層部は掌握したらしいが、末端は多すぎるので終わりは見えないとのこと。

 もうここは、遠征に参加した者を奴隷紋で縛り、内部告発を無理矢理求めて、原住民に非道を行った者を見付けようという話で落ち着いた。


 あとは雑談。太陽光発電の輸出の時期や小説の事を話していたら、コリスが噛んで来た。話し込み過ぎてお昼になっていたようだ。

 わしはまだお腹はすいていないのだが、太陽は真上にあったのでコリスとオニヒメにはガッツリ出して、わし達の前には軽食を並べて雑談の続きをする。



「あっと言う間だったにゃ~。仕事の邪魔だろうし、昼からはその辺ブラブラして来るにゃ~」

「でしたら、部族の皆さんにも顔を見せてあげてください」

「だにゃ。明日からしばらくアメリヤを離れるから顔を出しとくにゃ」

「あれ? 何日か滞在するんじゃないんですか??」

「冒険の続きをしに来たんにゃ~」


 前回、サンダーバードを見る前に帰ってしまった事を語ったら、ジョージより先にベティが反応してわしの膝に飛び乗った。


「金色の鳥!? あたしも見たい!!」

「無理に決まってるにゃろ」

「見た~~~い!」

「また駄々っ子してたってエミリにチクるからにゃ~」


 幼女の力を惜しみ無く使おうとするベティを宥めていたら、ジョージも話に入って来る。


「金色の鳥って、こちらでも目撃例はありますけど、数十年に一度噂になる程度ですよ? デマやなんかでは??」

「シャーマンの婆さんは確実に居ると言ってたし、目撃例があるにゃらさらに信憑性が上がったにゃ。見付かっても見付からにゃくても、それも旅の醍醐味にゃ~」

「それなら戦って来てくれません? このヤマタノオロチとの戦闘シーン、凄くよかったです!!」

「わし、戦いたいにゃんて一言も言ってないにゃろ?」

「そこをなんとか!!」


 どうやらジョージは、仕事の合間の息抜きで小説を読んでいたらしいが、面白すぎて寝る間を惜しんで読んでたんだって。


 だからクマが酷かったのか……


 ひとつ謎は解けたが、いまいち納得できずに、ジョージにあげた小説にサインするわしであったとさ。

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