667 勇者ベティの試練にゃ~
猫の国に帰ったわしは忙しい。今日も朝から猫耳小説家の取材を受けて、昼からはキャットタワー屋上の縁側でお昼寝。
「ねえ? シラタマ君って王様よね??」
今日はベティが付きまとっているので無視してお昼寝。
「まだ王様らしいところ見てないんだけど!!」
「ゴロゴロゴロゴロ~!!」
わしが気持ち良く寝てるのに、ベティが雑にわしゃわしゃするので仕方なく相手してあげる。
「こんにゃ高い所から下々の者を見下ろしているのって、王様らしくにゃい?」
「ホントだ! 人がゴミのようだ~……て、なるか! 仕事の話よ!!」
「わし、王様にゃからやることがないんにゃ~」
「シンプルにツッコムわ。んなわきゃあるか~~~い!」
漫才師みたいにツッコムベティには、面倒だけど猫の国の仕組みの説明。わしが楽する為に民主化して、基本的に冒険家とハンターが王族の主な仕事となっていると教えてあげた。
「楽がしたいから民主化って……せっかく王様にまで上り詰めたんだから、世界征服するとかハーレム作るとかしたらいいじゃない」
「にゃんでそんにゃ面倒なことしなくちゃいけないにゃ~。そんにゃことしたら、勇者が召喚されて暗殺されるにゃ~」
「あ……たしかにシラタマ君って魔王寄りね……じゃあ、あたしが勇者役するから世界征服して!」
「わしだったら、勇者が育つ前に芽を摘み取るにゃ……」
「勇者やめます!」
リアル勇者と魔王ごっこをやりたがっていたベティは、わしに睨まれて立候補を取り下げた。どうあがいてもわしに勝てるわけないと思い出してくれたようだ。
「あ~あ。あたしもシラタマ君ぐらい強くなれたらな~。人間じゃ無理なのかな?」
「……知らないにゃ」
「なんか間があったよね?」
「そんにゃのないにゃ~」
「はっは~ん……何か強くなる秘訣があるのね! 吐きなさい!!」
「ゴロゴロ~」
ベティはわしを拷問しているみたいだけど、撫でられているとしか感じない。なのでそのまま寝てしまおうかと思ったが、脅して来たので目を開けた。
「リータ達を使うにゃよ~」
「だってそうでもしないと教えてくれないんだもん……」
「はぁ~~~」
中身はババアでも見た目は幼女では、涙ぐまれたらわしは弱い。
「ぶっちゃけ危険なんにゃ。これをやっちゃうと、イサベレみたいに百年生きる大食いになってしまうんにゃ」
「そう言えばイサベレ様って異常に長生きね。見た目も若いし……」
「たぶん三百歳まで生きると思うにゃ」
「三百!?」
「そんにゃ生き物になりたいにゃ?」
「うっ……」
強くなるには人間をやめなくてはいけないと聞いたベティは、さすがに尻込みして諦めるのであっ……
「ま、いっか。若い時間も長いみたいだし、冒険もいっぱい出来そうね。その方法、教えてちょうだい!」
「もう少し悩んでから答えを出そうにゃ~」
ベティはやる気満々になってしまったので、とりあえず見学だけは許してしまうわしであった。
だって、あることないことリータ達にチクるとか言うんじゃもん……
今日はリータ達も猫耳小説家の取材を受けていたのだが、お昼を食べたら体を動かして来ると言ってソウに走って行ったので、わしもベティを背負ってダッシュ。
ちょっと飛ばし過ぎてベティの首が折れそうになったらしいが、無事、ソウの役場に到着。大型エレベーターに乗って地下空洞に移動したら、ベティは興味深々に辺りを見ている。
「うっわ~。運送会社の倉庫みたい。こりゃまたやり過ぎてますな。うんうん」
「だから隠してるんにゃろ。喋ったら一生ここに閉じ込めるからにゃ~」
「フォークリフト、乗ってみていい?」
「にゃにしに来たんにゃ~」
ベティはまた駄々っ子みたいになりそうなので、先に処置。
「ペ、ペダルに足が届かない……」
「大人になるまで待たなくちゃにゃ~」
「くそ~~~!!」
どうせ乗れないと思ってフォークリフトに乗せてあげたら、ベティは悔しがる。そりゃ幼女では足が届くわけが……わしは土魔法で下駄を履くからなんとか届くんじゃ!
だから幼女では……あれ? 玉藻ってどうやって乗ってたんじゃろ??
自分の身長は棚に上げていると、玉藻も少し前はベティよりちょっと背の高い幼女だったから疑問が浮かんだが、そう言えば尻尾でペダルを操作していたような気がしたので疑問は消えた。
ベティを肩に担いでそんな事を考えながら別荘スペースに移動したら、リータ達の走っている姿が目に入ったので、バタバタしているベティを下ろしてあげる。
「ただ走ってるだけね。アレで強くなれるの?」
「なれるわけないと言いたいけど、なれるにゃ」
「と言うことは、あの状態で何かやってるのね。魔法かな??」
「ご明察にゃ。重力の魔道具を使って、さらに魔力を吸収しながら走ってるにゃ」
「ほっほ~う。負荷を掛けながらの訓練か。地味なことをしてるのね。でも、吸収魔法を使う理由がわからない。使ったら補充って感じで使うもんじゃないの?」
「そこがこの訓練の肝にゃ」
わしはニヤリと笑ってから続ける。
「魔力量ってのは、魔法を使えば使うほど増えて行くスピードが上がるにゃろ? つまりアレは、体力と魔力量を増やす訓練にゃ」
「う~ん。言ってる意味はわかるけど、まだ強くなる肝の部分が抜け落ちているような……」
「にゃはは。他の場所でやっても、そこまでの効果はないだろうにゃ」
「他の場所?? ……あっ! 機械に目を取られていたけど、ここってすっごい魔力が漲ってる……黒い森以上よ! こんな所で生活して大丈夫なの!?」
ベティがいきなり焦り出したので、頭を軽く撫でて落ち着かせる。
「この魔力濃度の高い空間こそが、強くなる方法の正体にゃ。強い獣の縄張りはどこもこんにゃもんにゃ。そんにゃ所で訓練や生活していると、人間はエルフにクラスチェンジ出来るんにゃ~」
「エルフ……じゃあ、イサベレ様もエルフってこと??」
「イサベレはちょっと違うかにゃ? 小説に出て来るんにゃけど、中国のド真ん中辺りに人里があってにゃ。そこに住む人間がみんにゃ耳が横に向いて長いから、わしがエルフと名付けたんにゃ」
「ちなみにそこには、黒い森は……」
「中国は黒い木と白い木しかないにゃ。エルフは魔力濃度が高い場所で育ったから、全員百歳オーバーの長寿で、イサベレぐらいの戦闘力を持ってるにゃ~」
「うっそ……」
ある程度の説明が終わると、最後にエルフの生態の説明。
魔力濃度の低い土地に行くと大量の食事、もしくは魔力濃度の高い肉を食べないと生きていけないこと。出産の際には魔力濃度の高い場所での静養が取れないと必ず死に至るまでを教えてあげた。
「だから止めてたのか……」
「にゃ~? 引き返すにゃらいまのうちにゃ~」
「まぁ、魔王を倒すには必要なリスクね。甘んじて受けましょう」
「この世界に魔王は居ないにゃ~」
危険性をきっちり説明してもベティは訓練を受けたいと言うので、魔王みずから勇者の訓練を始めるのであった……
「魔王って、わしのことだったにゃ!?」
「他に誰が居るのよ?」
どうしてもわしを倒したい勇者ベティの訓練は始まるのであったとさ。
ベティはまだまだ訓練に耐えられる体を持っていないので、魔法の訓練オンリー。攻撃魔法をガンガン撃たせ、魔力が少なくなったら吸収魔法で回復。また魔法を使わせていたら、リータ達もわし達に気付いて集まって来た。
「変わった魔法の使い方ですね」
「ピストルは魔道具かなんかニャー?」
ベティはおもちゃのピストルから魔法を放っているから、リータとメイバイは不思議に思っているので、わしはネタバラシしてやる。
「いや、にゃんかこっちのほうがかっこいいとか言って離さないんにゃ」
「あはは。ベティちゃんらしいですね」
「本当ニャー。あははは」
「シャーラッーープ!!」
二人がベティを子供扱いして笑うので、ベティに怒られていた。
「ゴメンゴメン。でも、魔法が上手ですね~」
「よく出来たニャー。よしよしニャー」
「えへへ~……て、子供扱いしないでって言ってるでしょ!!」
ベティにぷりぷり怒られてもリータとメイバイは頭を撫でているので、ベティはキレてしまった。
「こうなったら決闘よ! 掛かって来なさい!!」
「シラタマさん?」
「こんなこと言ってるけどいいニャー?」
「格の違いを教えてやれにゃ~」
幼女からの決闘宣言なのに、二人はやりたそうな顔をしていたのでわしは止めない。これでちょっとは生意気な態度が変わるはずだ。
第一試合はメイバイ。
「ちょっ! 速すぎる!!」
ベティはピストルから風魔法を乱射するが、走り回るメイバイに
「もらったニャー!」
「キャーーー!」
メイバイはフェイントからの急接近。模擬ナイフをベティに向けて振り下ろそうとした。
「なんてね」
「ニャ!?」
しかし、メイバイは何かに足を取られて「ビッターン!」て、倒れた。
「何これ!? 体にくっ付いて離れないニャー!!」
「あはは。特性【ガム弾】よ。これで終了っと」
メイバイが地面に張り付いてもがいているところに、ベティは威力を抑えた風の弾丸を撃ち込み、見事におでこに当てた。なので、わしもベティの勝ちを認めざるを得なかった。
「うぅぅ。ズルイニャー」
ベティの【ガム弾】とか言う変な魔法はわしの吸収魔法で吸い取ってあげたら、メイバイはベティを恨めしそうに見ている。
「ズルくありませ~ん。引っ掛かったメイバイが悪いんですぅ~」
「こうなったら本気出すニャー!」
「わっ! こわ~い」
「メイバイ。やめるにゃ」
ベティがわしの後ろに隠れるので、わしはメイバイを止める。
「メイバイはベティをニャメ過ぎにゃ~。これが実戦で、強い人だったら確実に死んでたにゃ~」
「うぅぅ。だってあんな魔法があるなんてわからないニャー」
「もっとよく見ていたら、にゃにか罠を張っていたとわかったはずにゃ。ベティは何度かわざと外してたにゃ~」
「あ、バレてた? シラタマ君にはこの方法は通じないってことね」
メイバイと喋っているのにベティが入って来たので、わしは忠告する。
「調子に乗るのもここまでにゃ。そんにゃ小細工、リータにも通じないからにゃ」
「ふ~ん。あの岩子ちゃん、そんなに信頼してるんだ」
「やってみたらわかるにゃ~」
第二試合のリータが大盾を構えると、開始の合図。そのわしの声で、ベティはピストルを地面に向けて撃ちまくった。
「これでもうあたしに近付けないわ!」
そう。半円状に撃ちまくったので、リータに近付く隙間が無い。後ろに回り込もうとしても、ベティは脇の間からピストルを後ろに向けていたので、しばらくしたら一周してしまうだろう。
「ジャンプしても無駄よ~。きゃははは」
ベティはわざとピストルを上に向けて笑うが、リータはジャンプする気はない。ただ、一歩、一歩進むだけだ。
「きゃはは…は~~~??」
リータにその程度の粘着物質は通用しない。足の裏に付いても力業で引きちぎって前進しているので、ベティの笑いが止まった。
「クソッ!」
なので焦ってピストルから魔法を連射するが、リータの大盾を崩せないでいる。
「なんてね」
またしても、ベティは罠を張っていた。魔法は何もピストルの先から出す必要はない。それを十分意識させ、ピストルから魔法を発射した直後、リータの真横から風の弾丸を複数放ったのだ。
「やると思ってました!」
「ええぇぇ~!?」
しかしリータは読み切っており、ダッシュで弾丸を避けて前進。全て空振りにしたのだ。
「って、罠はそれだけじゃないんだな~?」
「わっ!」
リータがベティに近付くと、リータが右足で踏んだ地面がいきなり爆ぜてバランスが崩れる。
「これでチェックメイトよ!」
ベティはウインクしてピストルを撃った仕草をすると、リータの後ろから複数の風の弾丸が飛び交った。
「どっせ~~~い!!」
しかしリータは大盾を背中に回して力強く踏み込み、爆発に浮き上がる事なく前進。風の弾丸は弾かれ、ベティが構えたピストルは握られたと同時に取り上げられてしまった。
「チェックメイトはこちらでしたね」
「うぅぅ……負けました」
リータがニッコリ微笑むと、ベティは素直に負けを認める。どうもリータに頭を鷲掴みされているので、ただならぬ恐怖心があるから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます