451 実戦対決にゃ~


 ヂーアイの魔の手からオニヒメを守ったわしが、「さっさと警備の仕事に戻れ」と言って追い払っていたら、宿場町見学をしていた者達が戻って来た。それと同時に将棋対決も決着がついたのか、観客席が「わっ」と盛り上がる。

 どうやら玉藻の嫌な予想は当たっていて、西軍は敗れてしまったようだ。まぁこれは想定の範囲内なので、わしはコリスと兄弟達を連れてオクタゴンを出る。


 そうして選手控え室である天幕に入ると、玉藻が駆け寄って来た。


「そちからやって来るとは、やる気満々じゃな」

「まぁにゃ~。報告と聞きたい事もあったから、急いで来たんにゃ」

「なんじゃ?」

「内密な話にゃから、人払いしてくれにゃ」

「……わかった。皆、外で待機しておいてくれ」


 わしがお願いすると玉藻は何かを感じ取って、コリスと兄弟以外の人?を外に出してくれた。いまだに、キツネとタヌキを人と言っていいかわかりかねる。わしは人じゃけどな!


 控え室にわし達だけになったら、ライフルを取り出して玉藻に手渡す。


「なんじゃ? 何かと思えば、屋台にある空気銃じゃないか」

「重さが違うにゃろ? 馬鹿力だからわからないにゃ?」

「言い方は気になるが……たしかに作りがしっかりしておるな。でも、これがなんだと言うんじゃ?」

「それでわしは撃たれたにゃ。首謀者は徳川にゃ」

「撃たれた? こんな物、たいして脅威じゃないじゃろう」


 玉藻は知らないのか……。と、いう事は、戦で使われた事がないのか。


「これはライフルにゃ。機能は、火薬の爆発を使って鉄の玉を飛ばす物にゃ」

「爆発で鉄の玉をじゃと? そんな物、人に当たったらひとたまりもないぞ!?」

「やっとわしの言いたい事がわかったようだにゃ」

「あ、ああ。しかし、徳川がこれをか……戦でもしようとしているのか?」

「聞いたところ、どうも玉藻対策に作っていたようにゃ。飛ばした玉も、特殊にゃ金属を使っていたから間違いないと思うにゃ」

「という事は、まだ増産されていないのか……」

「まぁこの話は、夜にでもしようかにゃ。係の者が呼びに来たみたいにゃ」

「……そうじゃな」


 係のキツネが申し訳なさそうに中を覗いたので、わしは話を打ち切り、その者を呼び寄せる。予想通り時間が来たとの事で、わしと玉藻は控え室を出て、出場者達と気合いを入れる。


「さて……関ヶ原の競技は残り二戦じゃ。明日の競技の弾みを付ける為に、取り零すでにゃいぞ!」

「おうにゃ!」

「「「「にゃ~!!」」」」

「「にゃ……」」


 玉藻の激励にわしが力強く返すと、出場者は何故か気の抜ける掛け声を返した。それに呆気に取られたわしと玉藻であったが、呆気に取られるならわしのマネするな! だからみんな「にゃ~!!」とか言っておるんじゃろ!!


 やや納得のいかない事があったが、玉藻を先頭に入場する。東軍陣営も同時に控え室を出たらしく、舞台に向かっている途中で対面する。

 そこで直角に曲がり、お互い隣り合って歩く。東軍も先頭は家康だったので、玉藻と何か語り合うかと思って見ていたが、お互い無言を貫き、舞台に上がって整列した。


 5メートルで尻尾の五本ある徳川家康の前に立ったわしと玉藻は、ようやくここで語り合う。


「今度こそは、ご老公が出るのかにゃ?」

「そうじゃ。そちらが望んだ事なのじゃから、汚いなどと言うでないぞ」

「わしは願ったり叶ったりにゃ~」

「まぁそれぐらいせぬと、盛り上がりに欠けるのう。その代わり、審判は妾がやるからな?」

「厳正な審査を期待する」


 家康は問答を終えると、振り返ってその場を離れようとするので、わしは探りを入れてみる。


「にゃあ? いったいいつににゃったら、わしに刺客が来るにゃ? 楽しみに待ってるのににゃ~」


 わしの言葉に家康は歩みを止めて、その他は秀忠に連れられて控え席に向かう。


「向かわせようとしたのじゃがな~。よく考えたら、わしが出れば必要ないじゃろ? その分、儂が楽しませてやるわい」

「にゃんだ~。取っ捕まえて、わしの宝のひとつに加えようと思っていたのににゃ~。江戸の技を全て奪えたのに、残念にゃ~」

「ふん! 簡単にマネ出来ると思うなよ」

「ま、頑張るにゃ~」


 家康の気分を害したところで、わし達も控え席に移動する。すると審判のはずの玉藻までついて来ていた。ただ、玉藻は席に着く事はせずに、わしの前に仁王立ちしている。


「先ほどの会話、どういうことじゃ?」

「だって、刺客を返せとか言って来ないんにゃもん。こっちから言うしかないにゃろ」

「それはそうじゃが……あの反応なら、シラタマに捕まったとバレてしまったぞ」

「まぁこれで、馬鹿にゃ横槍は入れないんじゃないかにゃ?」

「そうじゃといいんじゃが……そう言えばそちの兄弟は、何故、連れて来たんじゃ?」

「ただの保険にゃ~。それより行司がこっち見てるにゃ~」

「あ、ああ。あとは頼んだぞ」


 玉藻はそれだけ言うと、駆け足で行司の元へ向かって行った。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 その少し前、家康は東軍控え席に腰を下ろし、秀忠と話し合っていた。


「孫次郎は、あの猫に連れ去られていた……」

「えっ……どうやって……」

「知らぬ。だが、玉藻に気付かれたのは確実じゃ」

「では、代えの孫三郎は使えないという事ですか……」

「いや、釘も刺して来なかったから、もしもの場合は使う」

「当たればいいのですが……」

「そこが一番の問題じゃな。孫次郎は外したから見付かったのじゃろう。しかし、今回はかなり近い位置から狙える。孫三郎の腕は孫次郎に劣るが、これだけ近ければ確実に当たるじゃろう。忍びに伝えておけ」

「はっ!」


 秀忠は家康の後ろに隠れると、ブツブツ呟く。すると、影が東軍陣営に凄い速さで離れて行き、それを確認した秀忠は長椅子に腰を下ろす。

 先ほど離れて行った影は、忍者。影の中に潜んでいた忍者が、伝令役で離れて行ったのだ。


 こうしてまたしても、徳川からの凶弾がシラタマに向けられるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 舞台は、司会キツネの出場者紹介の最中……


 東軍は、全てがタヌキ。先鋒から中堅までが刀を差した黒いタヌキで、色は例の如く変化へんげの術でイジっているので、たいして強くないようだ。副将と大将は白いタヌキ。刀を差した秀忠と、特に武器らしい物を持っていない家康だ。


 西軍は、先鋒に白髪頭の人間侍。次鋒に白いタヌキ侍。中堅に白いキツネ侍。全て武器を使える神職らしいが、こちらも色は変化でイジっているので強くない。副将には巨大リスのコリスで、大将は一番小さな猫のわし。


 紹介が終われば行司の呼び出しのあと、舞台の中央に立つ玉藻の元へと先鋒が向かう。そこで、玉藻が「はっけよい!」。試合が始まった。


 あらら。早くも人間侍は負けてもうた。呪術で攻撃したが、掻い潜られてカウンターも取れずに斬られてしまったな。まぁ真剣ではない刃引きの刀じゃから、辺りどころが悪くなければ死ぬ事はないじゃろう。玉藻が治してくれてるっぽいしな。

 でも、なんで徳川の刀は真っ黒なんじゃろう? 刃引きの刀に貴重な黒魔鉱を使うとは思えないし、色分けしているだけかな? もったいないもんな。

 はて? 誰かがわしの刃引きの刀に黒魔鉱がふんだんに使われていると言ってる気が……作り直すの面倒なんじゃもん。って、わしは誰に言い訳してるんだか。


 次の白タヌキは~……遠距離から粘っておるようじゃけど、呪術は互角。じゃが、体の切れは、黒タヌキが勝っておるな。すぐに決着が……あ! また懐に潜られて斬られてしもうた。剣の腕では太刀打ちならんな。


 中堅の白キツネは、元々西軍の大将なんじゃから、二連勝ぐらいしろよ~? うん。ダメじゃな。呪術はボチボチなんじゃが、それでは勝てん。黒タヌキは呪術に付き合う気がない。

 ギリギリ捌いて、間合いが詰まって来ておる。刀で相手にするなよ~? 言ってるそばから受けるな! いや、渡り合って……斬られるんかい!!

 先鋒一人に、本来なら中堅から大将まで負けるとは……毎年こいつらは何をしておるんじゃ? ちょっとは修行せいよ。



 わしがツッコミながら試合を見ていたら、白キツネ侍は戻り、行司にコリスが呼ばれたので、わしは最終確認をする。


「コリスにゃらわかっていると思うけど、最初は様子見にゃ。力を把握してから、手加減して叩くんにゃぞ?」

「うん! わかってるよ~」

「そっか。コリスは偉いにゃ~。よしよしにゃ~」

「ホロッホロッ」

「わしの言う通りしたら、美味しいの食べさせてやるからにゃ~」

「やった~!!」


 確認が終わるとコリスを舞台に送り出し、玉藻がコリスと二言ほど会話をしたら、「はっけよい」。

 武器も持たないワンピース姿のコリスは、先鋒タヌキに何やら言われたかと思ったら、「ムキーッ」となって、「ベチコーンッ!」と尻尾で叩き潰した。どうやら侍の剣は、コリスの素早さには対応できないようだ。


「しょ、勝負あり……大丈夫か~!!」


 玉藻はコリスの実力を知らなかったので、観客と同じく呆気に取られながらも勝敗を告げた。だが、先鋒タヌキの両手両足が変な方向を向いていたので、必死に治していた。

 その間わしは、コリスを呼び寄せて撫で回す。コリスはちょっとやりすぎたと反省し、元気が無くなっていたので致し方ない。なので、さっきのは見なかった事にしたら、美味しいのが食べれる権利が復活したと思って元気になった。


「にゃんか喋っていたみたいにゃけど、酷い事を言われたにゃ?」

「うん! あいつ、わたしのことデブっていったんだよ~」

「それは酷いにゃ~。あいつのほうがデブにゃのににゃ~」

「ほんとに~」

「まぁ次からは、酷い事を言われても手加減を忘れるにゃよ?」

「うん。わかった~」


 コリスが聞き分けよく返事をしてくれたところで、次鋒タヌキが舞台に上がった。わしの送り出したコリスは玉藻の前まで行くと、「もう少し手加減しろ」と言われてたっぽい。

 そして「はっけよい」と始まり、次鋒タヌキはコリスに何かを言ったかと思ったら、コリスは「ムキーッ」となって、何もさせない内に「ベチコーンッ!」と尻尾で叩き潰した。


 また玉藻が焦って治療にあたり、わしはコリスを呼び寄せる。


「やりすぎにゃ~」

「だって~。わたしのこと、ブスとかいうんだよ~」

「にゃんだって!? こんにゃにかわいい子に、失礼にゃ~」

「ね~?」

「それじゃあ仕方ないにゃ。今回もおとがめなしにゃ。よしよしにゃ~」

「ホロッホロッ」


 コリスがご機嫌になったところで中堅タヌキが舞台に上がったので、わしはコリスを送り出す。また玉藻が手加減しろ的な事を言ってたっぽい。それと、中堅タヌキには無駄話するなとも注意してたっぽい。

 それから「はっけよい」。試合が始まった。


 今回は、中堅タヌキはコリスの間合いに入らずに、遠距離から呪術を使って攻撃。コリスも今回は聞き分けよく闘い、尻尾や爪で呪術を掻き消している。

 しかし、これでは勝負にならないと感じた中堅タヌキは、呪術を使いながら無理矢理前に出て、コリスの間合いに入る。

 そこでコリスはリスパンチ。だが、コリスの出だしを捉えた中堅タヌキに斬られてしまった。まぁコリスに刃引きの刀なんて効かないので安心して見ていたが、何かがおかしい。

 コリスは「ムキーッ」となって、中堅タヌキを尻尾ホームラン。西軍側にブッ飛ばしたので、わしは慌てて拾いに走った。


 上空高々と打ち上がった中堅タヌキを、「オーライ」と言いながらキャッチしたわしは、胸が陥没していたけどそのまま舞台に連れ戻す。そこで寝かせて玉藻に判断を任せ、わしはコリスを呼ぶ。


「途中まで上手く出来てたにゃろ~? 急にどうしたんにゃ~?」

「なんかアレ、いたかったの~。それでビックリしちゃって~」


 アレ? 刀の事か……


 わしは、コリスが指差すタヌキと一緒に飛んで来た刀に目を移す。


 うそ!? アレ、黒魔鉱の刀じゃね?? あんなので魔力を乗せて斬られたら、さすがのコリスでも怪我してしまうぞ。


「ちょっと斬られたところを見せるにゃ~」

「ここ~」

「にゃ! いっぱい血が出てるにゃ~。痛いの痛いの飛んでいけにゃ~」

「ホロッホロッ」


 前脚に付いたかすり傷は回復魔法で治し、コリスを撫で回していると、額に怒りマークを浮かべた玉藻がやって来た。


「そちはコリスにどういう教育をしてるんじゃ! ちょっとは叱れ!!」


 どうやら玉藻は、三度に渡り、コリスを許し続けたわしを怒っているっぽい。


「そりゃ、コリスはかわいいんにゃから、叱ったらかわいそうにゃろ? にゃ~?」

「ホロッホロッ」

「親バカか!!」


 わしの言い分を納得できない玉藻は、コリスの代わりにわしを叱り付けるのであったとさ。

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