450 刺客その二にゃ~
玉藻の事をババアだと思っていると疑われたわしとちびっこ天皇は、言い訳したが、しばらく玉藻にガミガミ言われてぐったり。それでも終わりが見えなかったので、次の準備はどうなったのかと聞いて、玉藻の怒りを逸らす。
「将棋か……シラタマは得意なのか?」
「
「それじゃあ無理じゃな~。じゃがな~……」
「どうかしたにゃ?」
「実は……」
どうやら囲碁の試合は、必ず勝てると玉藻は思っていたようだ。それが負けたから疑問に思って出場者に問うたところ、徳川に金を掴まされ、家族や親類を殺すと脅されていたとのこと。
そんな者を、どうやって口を割らしたのか聞いてみたら、目を逸らされた。
たぶん、脅したと思う。ちびっこが震えているところを見ると、脅しだけで済まなかった気がする……
とりあえず情報が手に入った玉藻は、次の将棋の出場者にも、徳川に同じ事をされていないか問うたところ、口を割らなかったらしい。
試合で力を発揮できないと本末転倒だから、拷問が使えなかったらしいが、やっぱり囲碁の名人に拷問したじゃろ? ちびっこに、それを見せたんじゃろ?
わしの質問には答えてくれないが、その徳川の懐柔策があるから、出場者を変えようかと迷っているようだ。しかし疑いだけで日ノ本最強の将棋名人を外すのも、もったいないらしい。
「ふ~ん……ところで、いまの勝敗はどうなってるにゃ? 点差はかなりあるにゃろ?」
「先は行ってるが、最終戦でひっくり返る程度じゃ」
「にゃ? その最終戦は、点数が高いにゃ??」
「ああ。五点ある」
おお~い? なんちゅう点数設定しておるんじゃ。わしの頑張りが無駄になるじゃろうが……てか、それなら今までの闘い、いらなくね?
「ま、それにゃら、将棋は落としてもいいにゃろ。証拠だけ集めて、徳川に貸しでも作っておけにゃ」
「なるほど……それはそれでありか……」
ひとまず玉藻は証拠集めをすると言って話を打ち切り、その次の試合の話を詰める。わしも様々な案を食事をモグモグしながら出していると、口に物を入れながら喋るなとちびっこ天皇に叱られた。
それが王様のする作法かじゃと? わしは暴君だからいいんじゃ。子供に作法を教わるなんて、王様失格じゃと? 猫だから失格でかまわないにゃ~。もうないのか?
暖簾に腕押し。ずっとモグモグしながら言い訳を続けたら、ちびっこ天皇は涙目。わしは勝利を確信したが、玉藻がリータ達にチクると言うので、めっちゃ謝った。だって怒られたくないんじゃもん。
そうして食事も話し合いも終われば、玉藻とちびっこ天皇はリムジンに揺られて帰って行き、宿場町見学に向かう者もオクタゴンから出て行った。
わしはというと、オクタゴン警備を任されているのでオニヒメと残った。いちおうオニヒメにも遊んで来るかと聞いたのだが、わしを撫でる事にご執心のようなので離れなかった。
なので、お昼寝継続。またイサベレとオニヒメに挟まれて「グースカ」して小一時間が経った頃、それは起こる。
「つっ!? 痛いにゃ~!!」
手首に激痛が走り、わし何事かと飛び起きた。
「やっと起きた」
わしに激痛を引き起こした犯人はイサベレ。何度も殴ってわしを起こそうとしたらしいが、まったく起きなくて、白魔鉱のレイピアに気功を乗せて腕を切ったっぽい。
緊急事態だったから仕方なかったと言ってたけど、酷くね? 動脈が切れていたら吹き出しておったぞ?
「もうちょっと優しく起こしてくれにゃ~。血が出たにゃ~」
「それどころじゃない。すっごく嫌な感じがする」
また嫌な感じか……忍者でも忍び込んだか? いや、オニヒメが対面の五重塔を睨んでおる。イサベレもか?
わしはわざと五重塔から視線を外し、イサベレに質問する。
「あそこに誰か居るのかにゃ? あ、二人もあまり視線を送るにゃよ」
「たぶん……遠いから、人は見えないけど……」
「どうせ狙いはわしにゃろ。ちょっと離れてみるにゃ~」
わしはオクタゴン観覧場を横切り、一番端まで移動して演技をする。着流しの下腹部をごそごそといじり、立ち小便でもするかの動作をしながら、探知魔法を張り巡らせる。
さて、徳川は何をして来るんじゃろう? 距離があるから、遠距離攻撃魔法かな? てか、こんな演技するんじゃなかった。本当におしっこしたくなって来た……何をするかわからんが、早くやってくれ~~~!!
わしが尿意を我慢していると会場が騒がしくなり、ついに探知魔法に何かが引っ掛かる。その何かは、小さいが凄い速度で飛び、何枚も張り巡らせた探知魔法を通り過ぎ、わしの頭を正確に
もちろんわしも、正確な場所と着弾時間を捉えていたので、その小さな物を横目に入れたら素早くキャッチ。
「あつっ!? にゃにこれ??」
キャッチしたものの、熱さに驚いて床に落とす。しかし、演技中だったので、出来るだけ自然に振る舞いながら次元倉庫に仕舞って、元の場所に戻る。
その道中で皿とコーヒーカップを手に持つと、クッキーをポリポリしながら、先ほどの物を次元倉庫から取り出して、皿の上に置く。
鉄の塊……まさか鉄砲か?? 平賀家でも作っていない技術が、何故、こんな所にあるんじゃ? しかもこの鉄……黒魔鉱かも? これなら、わしが当たっても痛いかもしれん。
しかし徳川は、マズイ技術を持っておるな……あとで玉藻に確認を取らないと。
わしは考え事をしながら歩き、元に居た場所に戻ると、イサベレとオニヒメを交えて対策会議。
これでスナイパーは、影武者から照準を外せないだろうから、わしはその間にトイレに駆け込む。我慢していたから当然だ。
とりあえず危機的状況は脱したので、オクタゴン隠し通路から外に出る。正確には、壁に土魔法で穴を開けたから、通路でもなんでもないけど……
オクタゴンから出ると、宿場町側にダッシュで移動。隠密活動中だから宿場町には入れないので、東側に回り込む。
そこには線路と駅があったので、少なからず人が立っていた。なので、見えないように一瞬で駆け抜け、徳川陣営近くまで走ると、警戒しながら大ジャンプ。
少々怖いが叫ばないように口を押さえ、【突風】を操作して、音もなく五重塔の屋根に着地。そこでは、忍者っぽい服装の男が屋根に胸をつけて、棒のような物を構えてオクタゴンを見ていた。
男に見付かりたくないわしは、下の屋根に降りて身を隠し、通信魔道具をイサベレに繋いでコソコソと喋る。
「嫌にゃ感じはどうなったにゃ? どうぞにゃ」
『強くなって来てる』
「じゃあ、ぬいぐるみに穴が開いたら教えてくれにゃ。どうぞにゃ」
『わかった……でも、「どうぞにゃ」ってなに?』
隠密活動中だから、なんとなくかっこつけて、無線でやり取りしてる風で喋っていたのだが、元ネタを知らないイサベレにはわからなかったようだ。
なので、たいした意味はないと説明しながら上の屋根に顔を出して見ていると、イサベレは「何か来そう」と口走る。その瞬間、会場が沸き上がった声と、「パーン」と乾いた音が鳴り響いた。
『あ……本当に穴が開いた』
「わかったにゃ。行動に移すにゃ~」
これで、男は白猫ぬいぐるみ暗殺事件の現行犯。素早く男の後ろに移動して、ガッツポーズをしてるところに声を掛ける。
「にゃあにゃあ?」
「ん? ……んん~??」
男はいきなり声を掛けられて振り向いたが、わしの顔を見た瞬間、望遠鏡のような物を覗いたかと思ったら、またわしに視線を戻した。
「な、何故ここに……」
「まぁ気になると思うけど、眠ってくれにゃ~」
「まっ、うっ……」
何か喋ろうとした男はわしに口を押さえられ、ネコチョップで気絶。それから、男が握っていた物を手に持つ。
やはり銃じゃ……しかも、火縄銃ではなく、スコープ付きのライフルじゃ。徳川はこんな技術を隠しておったのか。
どうりで、玉藻に宣言してまでわしを暗殺すると言えたもんじゃ。これなら、普通の王族では、気付かれない内に暗殺されておった。銃を知らなければな。
さてと、こいつもお持ち帰りするかのう。
わしはライフルを次元倉庫にしまうと、男を担いで空を飛ぶ。今回も恐怖で声を出さないように口を塞ぎ、行きと同じ道をダッシュしたら、オクタゴン屋上に飛び乗る。
そのせいで巡回していたヂーアイを驚かせてしまった。わしもその顔を見て驚いたけど……
だって、梅干しみたいな顔が、つるんつるんになったんじゃもん。
笑いを
「嫌にゃ感じはどうなったにゃ?」
「ん。もう消えた」
「じゃあ、お昼寝に戻るにゃ~」
「その前に説明して。どうしてぬいぐるみに穴が開いたの?」
「さあにゃ~?」
「……犯す」
「こっちで説明するにゃ~」
わしがとぼけると、イサベレが眼光鋭く脅すので、貞操の危険を感じて話す事にした。ヂーアイに少しだけオニヒメを見ているように頼み、男を担いだら食堂に移動する。
「あんまり言いたくにゃいんだけどにゃ~」
前置きをしてから銃についての知識を披露すると、イサベレは何やら難しい顔をする。
「その銃があれば、国力が上がる……」
「まぁにゃ~。わしやイサベレクラスになるのは無理として、子供でも、Cランクハンター程度になれるかもにゃ」
「では、女王様に報告を……」
「待つにゃ~」
「なに?」
「いま、わしは子供でもと言ったにゃろ? こんにゃ危険な物を普及させるつもりにゃの??」
「で、でも……獣には有効」
「言いたい事はわかるにゃ。だけどにゃ、わしの世界では、この銃のせいで多くの人死にが出たにゃ。戦争に使われ、犯罪に使われ、子供が間違って人を撃ち殺したにゃ」
「………」
「これは、わしから女王に話させてくれにゃ。頼むにゃ~」
「……わかった」
なんとかイサベレもわかってくれたので、男への尋問と処置も決めておく。どうせ帰しても家康に殺されそうなので、奴隷紋で縛ってオクタゴンの雑用係に任命。ムキムキ三弟子に仕事を教えるように言って、観覧場に戻る。
観覧場に戻ると、オニヒメがヂーアイの膝の上に座っていた。
「お~。よしよし。そうかそうか」
しかも、ヂーアイは何故か好々ババアになっているので、わしは念話で疑問を口にする。
「こう言ったらにゃんだけど、ババアは恨んでたんじゃなかったにゃ?」
「ま、まぁそうなんだけどさね……娘の子供の頃にそっくりで、情が移ってしまったさね」
「娘は角が生えてなかったにゃろ!」
「なんさね……孫を取られて怒っているんさね?」
「そうにゃ! 返せにゃ~!!」
こうしてわし達は、かわいい孫の取り合いに発展し、オニヒメを餌付けしまくってかわいがるのであった。
「モフモフ~」
もちろん、わしの体を売ってオニヒメを取り戻したのであったとさ。
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