第九章 戦争編其の二 帝国と戦うにゃ~

229 山を越えるにゃ~


 我輩は猫である。名前はシラタマだ。何度も言うが、ご先祖様ではない。

 東の国と帝国の戦争が勃発したが、わしの大活躍で、わしの大活躍で早くも収束した。大事なことなので、二度言っておいたぞ。

 しかし、帝国の猫耳族に対する非道ぶりにわしは怒り、仲間を連れて乗り込もうとしている。飛行機に乗り込んだのは、リータ、メイバイと、見届け役の魔法部隊副隊長ノエミ。それと道案内に、元奴隷ズーウェイと、元帝国軍人ケンフだ。


 ローザの街から飛び立った飛行機は、メイバイの故郷のある東を目指して進んでいる。その機内では、初めての山越で高度も高いので、リータとメイバイも興味津々のようだ。


「あの山を越えるのですよね?」

「おっきいニャー!」

「そうにゃ。メイバイはあの山を歩いて越えて来たんだにゃ~。大変だったにゃ~」

「……うん」


 あ! その山越えで、メイバイは仲間を全員亡くしているんじゃった。またわしは、メイバイを悲しませる事を……


「ごめんにゃ~」

「私もシラタマ殿に気を使わせて、ごめんなさいニャー」

「メイバイは謝らなくていいにゃ。わしの配慮が足りないのが悪いにゃ~」

「そうですよ。いまのはシラタマさんが悪いです。あとで一緒に埋めましょう」

「にゃ!? 謝ったんだから許してくれにゃ~」

「冗談ですよ」

「……本当にゃ?」

「………」

「答えてくれにゃ~」

「「あははは」」


 お! メイバイも笑った。リータが空気を良くしてくれる為に、あんな嘘を言ったのか。……うん? 頭を横に振ってるな。本気でしたか。


「それより、メイバイに大事にゃ事を聞きたいにゃ」

「な、なんニャ?」

「わしは昨日、何人かの猫耳族と話をしたにゃ」

「うんニャ」

「誰一人、語尾に『ニャ』が付いてなかったにゃ~~~!」

「え?」

「そうなんですか!?」


 わしの重苦しい質問に、メイバイは思っていた質問とは違っていたのか、キョトンとした顔をする。だが、リータはわしと同じ事を考えていたらしく、めちゃくちゃ驚いている。


「ズーウェイ。ズーウェイはドMにゃ?」

「はい。いたぶられる感じ……たまりません。それにシラタマ様といると、スリルがあって、これもまた新しい快感を……」

「も、もういいにゃ」


 ズーウェイの質問は教育的に悪いので、わしが止めるとリータがまた驚く。


「本当です! 普通に話しています!!」

「にゃ~? 猫耳族は、わしと一緒で『ニャ』が付くんじゃなかったにゃ?」

「これは主様が、語尾に『ニャ』を付けるとかわいいと言ってくれたからニャ。だから、仲間のみんなも『ニャ』を付けて喋っていたニャ」


 メイバイの主は踏んだり噛まれたりして喜ぶし、特殊過ぎる趣味を持っているな。メイバイ逹は、性奴隷で買われたんじゃなかろうか? あまり聞きたくないけど、気になる……


「あの……メイバイさんは、しょ、しょ……にゃ?」

「なんて言ったニャ?」

「その……男と女の経験はありますのかにゃ?」

「……あ! シラタマ殿が初めてだったニャー!」


 初めてだった? まだそんな事しておらんよ? リータさん、にらまないで!


「初めてだったとは、にゃんの事ですかにゃ?」

「この恋愛指南書に書いてある、絶頂? アレが初めての絶頂だったニャー!」


 ああ。奴隷紋解除の事ですか。リータさん。奴隷紋解除の事ですよ。尻尾を力いっぱい握らないでください。痛いです。


「メイバイさん。そう言う事は、みんにゃの前で言わないでにゃ。子供も聞いてるにゃ~」

「あ! ノエミちゃん、ごめんニャー」

「誰が子供じゃい! わっちは大人じゃい!!」


 わしが後ろを向いてノエミを子供と言うと、年齢を知らないメイバイが謝り、ノエミがわしに襲い掛かって来た。


「にゃ!? 操縦の邪魔するにゃ~。リータ、頼むにゃ~」

「ノエミちゃん。ちゃんと座りましょうね~」

「子供扱いするな~~~!」


 ノエミはわしをポコポコしていたが、リータに後ろから抱きかかえられ、後部座席に連れて行かれる。リータもポコポコされていたが、防御力が高いせいでまったく効いていないみたいだ。

 しばらくノエミの相手をしていたリータだったが、扱いが面倒臭そうにしていたので、ズーウェイの膝の上に置いて来いとアドバイスした。

 ノエミはズーウェイに後ろから抱き締められ、逃げる事も出来ないらしく、諦めてほっぺを膨らませていた。だから子供扱いされるんじゃ。


 ノエミ騒動が収まると、リータはわしを抱いているメイバイの隣に座って、前方を見据える。


「シラタマさん。いつもより、ずいぶん高い所を飛んでいるのですね」

「あの山がにゃ~」

「あっちの低い所を飛べばいいんじゃないですか?」

「えっと……一番高い山を越えたほうが、気分がいいにゃろ?」

「シラタマ殿も子供だからニャー」

「ノエミと一緒にするにゃ~」

「はいはい」

「ちがうちがうニャー」

「にゃ……」


 わしまで扱いが雑!


「それで越えられそうですか?」

「う~ん……まだ足りないかもにゃ」

「これでニャー?」


 リータとメイバイに子供のようにあしらわれながら、離陸して三十分。いつもの高さから、少し角度を付けて飛んでいる。皆に負担が掛からないように、徐々に高さを上げているが、それでも山のほうが高いように見える。


「もうちょっと角度を付けるにゃ。リータ、メイバイ。二人も後部に移って座ってくれにゃ。みんにゃに耳が痛くなった時の対処法を教えてあげてにゃ」

「わかりました」

「わかったニャー」



 リータとメイバイが席に着くのを見届けると、飛行機の先端に角度を付けて上昇する。もういいかと水平飛行に移るが、まだ足りなく感じたので、もう一度注意してから上昇する。

 リータとメイバイには耳抜きを教えていたので大丈夫だったが、残りは初めての経験なので、驚いているみたいだった。一人喜んでいる者もいたけど……


 かなり上空まで上がったはずなので水平飛行に戻すと、山の頂上が下に見えた。なので、皆に前方を見るように伝える。


「「「「うわ~~~」」」」

「真っ黒です」

「黒い海みたいニャー」

「凄い……」

「ゾクゾクします」


 リータ、メイバイ、ノエミは普通に驚いて、一人おかしな反応で、一人は外を見ておらんな。ケンフは怖いのか? まぁおおむね、わしと同じ感想じゃな。

 山向こうは黒い木の海だが、上空から見ると、深い崖になっているようにしか見えない。所々白い陸地が見えるから、あそこが白い木の集まる場所じゃろう。


「そろそろ山を越えるにゃ~」

「あの高い山が下にあります!」

「上から見たらこうなんニャー」

「感動だわ」

「感じる……」


 うん。ズーウェイの感想が意味がわからん。だが、いったいこの山は何メートルあるんじゃろう? 元の世界での飛行機は高いところで一万メートル。

 その光景に近い高度まで来た気がするが、高度計なんて付いてないから、さっぱりわからんな。


「よし! 山を越えたにゃ。リータ、下がってくれにゃ。メイバイ、ズーウェイ、あとケンフ。前に来てくれにゃ~」

「はいニャー」

「はい」

「ワン!」


 山を越えると高度を下げながら、国の説明をしてもらう為に三人を呼ぶ。ケンフは高い所が苦手なのか震えているが、わしの命令なので頑張って目を開いている。怖いなら言ってくれたらいいのに……あと、返事は「ワン」で落ち着いたの?


「街が二つ見えるけど、あれで全部にゃ?」

「「……たぶん(ニャ)」」


 わしの質問に、メイバイとズーウェイは自信無さそうに答える。


「あ……ケンフにゃら詳しいにゃろ?」

「はい。街が二つと、村が十ぐらいあったはずです」

「村が十ぐらいとは、どういうことにゃ?」

「開拓させては潰れを繰り返しているので、正確な数は……。口べらしで開拓させる場合もありますので……」

「殺すためににゃ!?」

「はい。遠い親戚が、それで亡くなったと聞きました」


 マジか……。帝国は、そこまで困窮してるのか……


「……ケンフはそんにゃ国を、どう思っていたにゃ?」

「年々国土が減っているので、仕方がない処置だと教わりました」

「ケンフの意見を聞きたいんにゃ」

「……正直、酷いと思います」

「そうにゃんだ……」


 まぁこれを酷いと思わん奴は、洗脳されておるんじゃろう。国民を洗脳していないだけ、よかったって事にしておこう。


「ズーウェイ、メイバイ。二人はどっちの街に住んでたにゃ?」

「私は小さいほうかニャー?」

「私は大きいほうだと思います」

「ケンフ。大きいほうに王様が住んでいるにゃ?」

「王では無く、帝国では皇帝と呼んでいます。大きな街が『帝都』、小さな街を『ラサ』と呼んでいます」

「にゃるほど……ケンフだけ残って、二人は下がってくれにゃ」


 奴隷の立場であった二人には、国の詳しい話は聞けないので、ケンフを隣に座らせ、高度を下げて行く。


 帝都か……。【四獣】を向かわせれば一発で終わるんじゃが、猫耳族が何処にどれぐらい居るのかわからないから出来ないな。

 となると、情報収集してからか。帝都から入ってみたいけど、リータとノエミの見た目で騒がれる可能性があるな。わしの見た目は、いまは考えない。実験で小さい街から入るとするか。

 飛行機を小さい街、ラサの近くに降ろしたいが、これも目立つから離れるしかない。車もダメか。馬を入手できればいいんじゃが……

 まずは飛行機を降ろす場所じゃな。どこかいい場所は……



 わしは飛行機を旋回させながら、高度を下げて行く。よく目を凝らして探していると、森の中に煙が上がっている場所を見付けたので、ケンフに質問する。


「あそこに煙が上がっているけど、にゃにかわかるかにゃ?」

「なんでしょう? 狩りをしている者が火を使っているのかもしれません」

「そうにゃんだ……にゃ?」

「どうかしましたか?」

「あの一帯……建物が見えるにゃ」

「ああ。あそこは古い街ですね。森に呑み込まれた跡です」


 森に呑み込まれた街か。ラサの街と近いように見えるし、隠れるには持って来いじゃな。滑走路は無いけど、なんとか降りられそうじゃ。



 皆に着陸する旨を伝えると、旋回しながら高度を下げて行く。程よく下がると、飛行機が降ろせそうな広場へ垂直に着陸。そして、皆を飛行機から降ろしてから、次元倉庫に仕舞い込む。


「ここはどこニャー?」


 皆が辺りをキョロキョロと見回している中、メイバイがわしに質問した。


「メイバイの街に近い場所にゃ。徒歩一日から二日ってところかにゃ?」

「こんな所があったんニャー」


 メイバイと喋っていると、リータも会話に加わる。


「建物が森に呑み込まれていますね。黒い木も少しまじっていますが、安全なのでしょうか?」

「わしがいる限り安全にゃ」

「あ、そうですね」

「念の為、ちょっと周りを見て来るにゃ。リータとメイバイは、お昼の準備をしてくれにゃ~」

「それでしたら私が」


 わしが二人に指示を出していると、ズーウェイが近付いて来た。


「ズーウェイがにゃ?」

「お口に合うかわかりませんが、それぐらいやらせてください」

「う~ん。わかったにゃ。ケンフとノエミは、ここでズーウェイの護衛にゃ。リータとメイバイは……わしについて来るにゃ?」

「「はい(ニャ)!」」


 わしは広場に簡易キッチンと食料品、テーブルセットを取り出すと、調味料を多く使ってくれと念を押す。それと、味見役は二人もいるので聞いて作ってと頼む。

 ズーウェイの腕前を知らないので、しゅうとみたいになってしまった。だって、美味しい物が食べたいんじゃもん。

 もしもの事があるといけないので、硬いお椀型シェルターも作っておいた。探知魔法では、大物は近くにいなかったが、いざと言う時は逃げ込めば、わし達が戻るまで持つはずだ。



 その後、リータとメイバイを連れて、西に移動する。


 建物は石造りの西洋風? アジア風? 壊れているからよくわからんな。まじった感じか? 木がそこそこあるから、ちと歩き難いな。


 わしは【鎌鼬】で木を間引きしながら歩き、街の終着点らしき高い壁に辿り着く。


「ここが街の端ですかね? まだ木が続いていそうです」

「もうちょっと進んでから戻るにゃ」


 近くの壁に穴が見当たらなかったので、ネコパンチで穴を開ける。元々ボロボロだったので、簡単に穴が開いた。このままでは通る時に危険なので、軽く土魔法で補強してから進む。


 街の壁を越え、しばらく歩くと森が切れた……


「故郷の景色ニャー!」

「太陽が山を照らしているので、昼過ぎみたいで不思議です」

「そうだにゃ。慣れるまで、時間感覚が狂いそうにゃ~」


 わし達は、しばし雄大な山を眺める。


「シラタマ殿と故郷に来れて嬉しいニャー」

「私もこんな経験が出来て嬉しいです」

「わしも、二人と旅が出来て楽しいにゃ~」

「「シラタマ(殿)さん……」」


 わしのセリフに、メイバイとリータは笑顔を見せてくれた。


「さてと、そろそろ戻るにゃ~」

「シラタマさん。何か忘れていませんか?」

「そうニャー。忘れてるニャー!」

「にゃに?」

「「埋める(ニャー)!」」

「にゃ!? 覚えてたにゃ~~~!」

「じゃあ、そこに立ってください」

「故郷の土は温かいと思うニャー!」

「にゃ~~~! 勘弁してくれにゃ~~~」


 わしは逃げようと思ったが、逃げるとあとが怖いので、二人にスリスリ擦り寄って埋めないでと懇願こんがんする。

 そのおかげか、今回は膝までで許してもらえた。


 埋めないと言う選択肢はないのかな?


「ありません」

「無いニャー」

「………」


 相変わらず、心を読まれているわしであったとさ。

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