048 ぶっ飛ばすにゃ~


 わしはギャハギャハと笑う、五人の男をにらみながらつぶやく。


「はぁ……笑いながら死ねばいいにゃ。【風玉】にゃ!」


 わしは死ねと言いながらも、ちゃんと手加減した【風玉】を五つ作り、男達に撃ち込む。


「おい! 魔法が来る。避けろ!」


 男達はリーダーらしき男の声に我に返り、ギリギリ避ける。避けると体勢を整え全員得物を抜き、こちらに向ける。


 チッ。外したか。そのまま笑ってった方が幸せだったんじゃがのう。


「テメー! 猫! 汚いマネしやがって」

「隙を見せる奴が悪いにゃ」

「ぶっ殺してやる!」



 そう言って、一人の男がわしに斬り掛かる。わしは簡単に避けて、刀を半回転させ、カウンターで横一閃に振るう。しかし、男は剣を振った勢いのまま前転で飛び、刀をかわす。

 わしは追撃しようとするが、ナイフが飛んで来る。ぴょんっと避けるが、着地先に連続してナイフが飛んで来るので、ぴょんぴょんと避けていく。

 投げナイフを避けていると最初に斬り掛かってきた男が近付いて来るが、注意を引いているのが見え見え。わしは投げナイフの誘導先にわざと行く。すると、後ろから長剣がわしを薙ぎ払う。

 わしはしゃがみ、避けると長剣の男に刀を振るう……が、途中で止めて、すぐに後方に跳び退く。長剣使いの男の後ろから、二本のナイフを持った男が現れたからだ。

 しかし、跳んだ場所が悪く、四人の男に囲まれてしまった。


「ちょこまかと避けてくれたが、これで終わりだ」

「そうかにゃ?」

「強がり言ってんじゃねぇ!」

「あ、後ろ危ないにゃ」

「あぁ?」



 わしが指摘をした直後、アイノの風魔法【エアカッター】、エリザベスの【鎌鼬】が飛んで来る。どちらの魔法も地面に傷を付けるが、避けられてしまい、土埃が舞う。

 わしは【突風】を使い、土埃と共に男達も吹き飛ばす。男達は風に押されながらも、五人が一カ所に集まる。


 そうして土埃が去ると、わし達の集合した姿が男達の目に写し出される。



「どうにゃ? 相手の手の内はわかったかにゃ?」


 わしは打ち合わせ通りに全員を相手取り、手加減して闘っていた。その結果見えた敵の姿はこうだ。

 アクロバティックな剣士。投げナイフ使い。長剣パワータイプ。ナイフ二刀流。もう一人は動かなかったが、持っている得物から察するに剣の二刀流じゃろう。


「騎士とは違った闘い方ですが、初見でなければなんとかなりそうです」

「みんなはどうにゃ?」

「ほとんど前衛だから狙い撃ちするわ」

「ソフィと私で前衛は任せてください」

「にゃ~」

「ルシウスも前に行くってにゃ」

「そうなのですか? よろしくお願いします」

「にゃ~ん」

「エリザベスは、投げナイフの奴をもらうと言ってるにゃ」

「エリザベス様、お気をつけて」

「わしは一番強い、動かなかった男を相手するにゃ。それじゃあ、行っくにゃ~」

「「「「「にゃ~~~!」」」」」


 わしは担当が決まると無造作に歩き出すが、気の抜けた掛け声に足を滑らせ、こけそうになった。


 え? なにその掛け声……いつ決まったの? いや、後ろを見てはいけない、見てはいけない。



    *    *    *    *    *    *



 わし達が話し合っている同時刻、風で飛ばされ、一カ所に集まった男達も話し合っている姿があった。


「あのぬいぐるみ、どうなっていやがる」

「あの猫も魔法を使っていたぞ」

「ホワイトが二匹か……やっかいだな」

「ダービドのアニキ、どうする?」

「ぬいぐるみは俺がやる。残りは女と子猫だ。お前達が負けるわけがないだろう。行くぞ!」

「「「「おう!」」」」


 ダービドと呼ばれた男の指示に、仲間の男達は返事し、わし達を睨み、得物を構えるのであった。



    *    *    *    *    *    *



 ソフィ達は敵を待ち構え、わしは一人、リーダーらしきダービドと呼ばれた男に向けて歩く。

 すると、男達はダービドを残し、わしを避けてソフィ達に向けて歩く。


 あちらさんも同じ作戦か。人(猫)数も力もこっちが上じゃが、心配じゃし、ちゃっちゃと終わらすかのう。



 わしはダービドと一定の距離まで近付くと歩を止める。


「お前はなんだ?」

「見ての通り、猫だにゃ~」

「ハハハハハ」

「笑っていると死ぬにゃ」

「ああ。わかっている」


 ダービドは一瞬笑ったが、すぐに顔を引き締め、両方の腰にぶら下げた二本の剣を抜き、構える。わしもそれに合わせて【白猫刀】を抜き、剣先を下にだらりと構える。


 右は上段。左は中段か……二刀流なんて、この目で見るのは初めてじゃ。やっぱり強いのかのう? わし、わくわくしてきたぞ。


「構えないのか?」

「これがわしの構えにゃ」

「なら……行く!」



 ダービドはひとっ飛びで間合いを詰め、左の剣で突きを出す。わしは右にかわしそのまま回り込もうとするが、突きは変化し横に斬り付けてくる。

 わしはその剣を後ろに退き、ギリギリで見切るが、ダービドはさっきの突きと逆に足を入れ替え、右手の剣を縦に振るう。

 わしはこのまま斬ろうかと考えたが、あまりに早く終わるのも味気ないので、大きく後ろに跳んで距離を取る。


「いまのを避けるか……」

「ショックかにゃ?」

「少しな。オンニですら受け止めるのがやっとだったのに、完璧に避けたのはお前が初めてだ」

「オンニ? お前はオンニと闘った事があるにゃ?」

「猫のくせに知っているのか。あれは楽しかったな」

「ちなみに、どっちが勝ったにゃ?」

「横槍が入って決着はつかなかったが、あのまま続けていたら俺が勝っていた」

「ふ~ん。そうにゃんだ~」

「お前……信じて無いな?」

「信じてる。信じてるにゃ」


 オンニと互角か……ソフィ達もまだ前哨戦ぜんしょうせんじゃし、ちょっとぐらい遊んでも良さそうじゃな。



 わしは次元倉庫から刃引きの刀を取り出す。


「収納魔法……俺を真似て、付け焼き刃の二刀流をしても勝てんぞ」

「誰が真似すると言ったにゃ」


 わしは【白猫刀】を鞘に戻す。


「……何がしたい?」

「秘密にゃ」


 単純に【白猫刀】で相手にするにはもったいないだけじゃ。綺麗な刀じゃから、下手に受けて刃零れさせたくないしのう。


「ふざけてるのか? まぁいい。死ね!」



 ダービドは、また突きを繰り出す。わしは今度は逆の左に避ける。するとダービドも流れを変えて、右手上段から剣を振る。

 わしはそのまま左にかわし、回り込んで刀を振る。当たったと思ったが、ダービドは前に跳び、体を捻りながらカウンターの左の剣がわしを襲う。

 死角から来た攻撃だが気付くのが遅れても、わしのスピードなら十分に避けられる。


「これも避けるか」

「もう終わりかにゃ?」

「まだまだ!」


 また突きか……力が無いからフェイント見え見えじゃ。ほれ。右の剣が来た。避けて闘うのがわしのスタイルじゃが、たまには受けて闘ってみるか。


 わしはダービドの剣を刀で受ける。金属どうしのぶつかり合いで、大きな金属音が辺りに響く。


 耳がキィーンときた! やっぱり受けるのはやめようか……いや、こいつがニヤリと笑っているのが気に喰わん。捕らえたとでも思っておるのか? わざと受けたんじゃ!



 ダービドはそこから右に左、フェイントを交え、変則的に剣を振るう。わしはその剣をいなし、捌き、受け止め、弾き、叩き落とす。


「守ってばかりでは勝てんぞ!」

「じゃあ、攻めてやるにゃ」



 わしは間合いを詰めると、下からダービドの腰辺りに刀を振り上げる。ダービドは上から剣で叩き止めるが、わしはそのまま振り抜く。

 ダービドの剣は押し負け、刀は腰を掠める程度だったが、ダービドは驚きを隠せない。わしは気にせず返す刀で反対側の腰目掛けて斜めに振り下ろす。

 すろとダービドは慌てて後方に跳び、大きく距離を取る。


「くっ……そんな成りで、力があるのか」

「猫は見た目によらないにゃ」

「少しはやるようだな。それなら本気で行く。よそ見などしてると、一瞬で死ぬぞ!」


 あら。バレてたか。だってみんなが心配じゃもん。特にエリザベス……投げナイフが来たら【鎌鼬】で切り裂き、そのまま男に攻撃して、上手いなあと見ておったが、アレ、絶対いたぶって遊んでおる。

 エリザベスは笑っておるし、投げナイフの奴は至る所に切り傷が出来ておる。さっさと倒して、他を助けに行けばいいものを……おっと!


「よそ見をするな!」



 わしがエリザベスを見ていたら、ダービドが怒り、攻撃して来た。わしは咄嗟とっさに刀で受ける。


 危なっ! さっきより速くなっておる。肉体強化か? よっと! 攻撃も重くなっているし、間違い無さそうじゃ。ほいっほいほいっと! 手数も増えたが、まだまだわしのスピードには届かないのう。



 わしはよそ見をしつつ、ダービドの猛攻を受けては返し、返しては受ける。


 うん。いい運動じゃ。ソフィやドロテじゃこうはいかん。しかし、自称オンニより強いこいつを見る限り、オンニやイサベレも高が知れてるな。

 また強くなり過ぎてしまった。チートジジイ改め、チート猫じゃ。う~ん。語呂が悪い……チートキャットかな? ……自分で自分の首を絞めておる。やめよう。


 いらんこと考えていたら、エリザベスはやっと倒したか。倒したと言うより限界が来たってところじゃな。ソフィ達は……特に怪我はしておらんな。

 アイノの魔法で相手の気を引き、ルシウスが陽動で走り、ヒットアンドアウェイの攻撃で相手を崩して、ソフィとドロテが痛手を与えている。息の合った連携攻撃で、徐々に削っているって印象じゃな。

 ここにエリザベスが加われば、一気に勝負が付きそうじゃ。相手さんも肩で息をしておるし、わしもそろそろ決着と行こうかのう。



 わしはダービドの剣を弾くと、大きく距離を取り、語り掛ける。


「もう飽きたにゃ。降参したらどうにゃ?」

「ふざけるな! 俺達五人組に失敗は無い!!」

「じゃあ、トドメを刺してやるにゃ」

「来い!!」


 わしはさっきよりもスピードを上げ、ダービドの懐に入る。ダービドはなんとか反応して両手に持った剣を同時に振り落とす。

 しかし、わしはもうそこにはいない。ダービドの真横に回り込んでいる。そして、左に構えていた刀は、すでに右にある。


「ぐあ~~~!」


 ダービドは、わしの刃引きの刀の一撃を受けて、吹っ飛んで行く事となった。


 あちゃ~。そういう倒し方になったか。わしが刀を帯に差してから、時間差で倒すってのを狙っておったのに……漫画のようにはいかんのう。

 いちおう、決め台詞ぜりふだけやっておくか。


「またつまらぬモノを斬ってしまった……にゃ」


 おしい!!

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