251 荒野の戦いにゃ~


 わしの姿のせいで、降伏勧告をする使者が何度も代わり、苛立ったわしが、こちらから使者を送るから待ってろと声を荒らげる。

 使者は、猫、猫と言って自陣に戻って行ったので、しばらく時間を空けてから、わしはシェンメイの走らせる馬に同乗して敵陣に向かう。

 敵陣近くになると、筋肉猫という言葉が聞こえて来て、シェンメイがギリギリと歯を鳴らしていた。


 敵陣とほどほどな距離になると、シェンメイは馬から降ろさずに、わしだけ飛び降りる。


「猫だ……」

「ぬいぐるみ?」

「ホワイト……トリプル?」

「アイツ達の話は本当だったんだ」


 うん。全員、頭にクエスチョンマークが浮かんだな。隙だらけじゃけど、いいのか? 魔法を撃ち込んでやろうか……

 まぁあちらさんも、使者で降伏勧告して来たし、礼儀に乗ってやるか。


 わしは音声拡張魔道具を使い、帝国兵に語り掛ける。


『え~。帝国兵のみにゃさん』

「「「「「猫が喋った!」」」」」

『わしは猫耳族の王にゃ!』

「「「「「猫が王?」」」」」

『降伏しにゃいと、みにゃ殺しにゃ~』

「「「「「猫が皆殺し?」」」」」

「「「「「………」」」」」


 帝国兵は、わしの皆殺し発言を聞いて顔を見合わせ、言葉を失う。


「「「「「ギャハハハハ」」」」」


 どうやら、面白い言葉と受け取られたみたいだ。


『うるさいにゃ~! セイチュウ将軍ってのを出せにゃ~!!』


 わしは怒りをあらわに叫ぶが、笑いは収まらない。そんな中、一人の男が兵を割って現れる。


「静まれ! 静まれ~~~!!」


 帝国兵は、男の声を聞いて静かになる。皆、肩は震えているが……


 男は、皆が黙るとわしの目の前までやって来た。


「お前が、セイチュウ将軍にゃ?」

「いや。私は部下の副将軍だ。それで、猫が猫耳族の王で間違い無いんだな?」

「そうにゃ」

「送った使者は、事実を話していたのか……」

「にゃんて説明したか知らにゃいけど、事実かにゃ? それで……降伏してくれるにゃ?」


 わしの降伏勧告に、副将軍は鼻で笑う。


「ハッ。この兵力差で、何故、我々が降伏するんだ。お前達が降伏しろ!」

「それじゃあ交渉は決裂したにゃ。戦にゃ~~~!」

「戦にもならん! 使者に王を使う愚行。ここで首を取ってやる!!」

「にゃ!?」


 副将軍は剣を抜き、わしに斬り掛かる。わしは驚きながら刀を抜くと、峰で受け止め、副将軍の腹にネコパンチを入れる。

 突然の出来事に力を入れ過ぎて、副将軍はくの字になってぶっ飛んで行った。


「シェンメイ。馬を出すにゃ!」

「で、でも、シラタマ王を置いて行くわけには……」

「すぐ追い付くにゃ! これは命令にゃ!!」

「は、はい!」


 シェンメイの馬が走り出すのを尻目に、わしは帝国兵をにらむ。帝国兵も副将軍が吹っ飛んだ姿を見て、臨戦態勢だ。皆、得物を抜いてわしを睨んでいる。

 そんな中、吹っ飛んだ副将軍が復活し、わしに怒声を浴びせる。


「貴様~~~!!」

「怒っているのはこっちにゃ! 使者に剣を向けるとは、どういう了見にゃ!!」

「目の前に大将が居たら、討つに決まっているだろ!」


 そうなの? ……うん。わしでも討つな。


「馬だ! 馬を射れ!!」

「【風玉】にゃ!」


 副将軍は、わしが逃げる術が無いと判断したのか、逃げるシェンメイに照準を合わせる。帝国兵は命令を瞬時に聞き入れ、複数人で弓矢を放つ。

 わしはシェンメイに降り注ぐ矢を、風魔法で全て叩き落としてやった。


「それじゃあ、戦の開始って事でいいかにゃ? ほにゃ、さいにゃら~」

「馬鹿が……どっちも逃がすか! 撃て! 撃て~~~!!」


 わしは別れの挨拶を済ますと、後ろ向きに走り出す。シェンメイや、わしに降り掛かる弓矢や魔法は、風魔法で撃ち落とす。

 しばらく走っていると、シェンメイの乗る馬と並走して、追い抜いてしまった。


「うそ……」

「にゃ!? 行き過ぎたにゃ~」

「なんで後ろ向きに走って馬より速いのよ!」

「えっと……猫だからかにゃ?」

「そんなわけないでしょ!」

「それより、攻撃範囲は抜けたから乗せてくれにゃ~」

「……必要なの?」

「にゃいけど~~~」

「はぁ……はいはい」


 わしがシェンメイの伸ばす手を掴むと、軽々と持ち上げられ、抱きかかえられる形で馬に乗り込む。

 帝国軍は兵の隊列を乱さない為か、追っ手を出さず、ゆっくりと前進している。


 しばらくすると、帝国軍と同じく、前進していた猫耳軍と合流する。そこで、すぐにコウウンの元へ向かう。


「お待たせにゃ~」

「ご無事で何よりです」

「アイツら酷いにゃ。いきなり使者に剣を向けたんにゃよ?」

「使者でも、大将ですからね。私でも、手練れの者に斬るように命令しますよ」


 うん。コウウンもわしと同じ考えか。じゃが、猫、猫と話が通じないから、わしが行くしかなかったんじゃ。


「それより準備は済んでるにゃ?」

「はっ! もう間もなく射出します」

「じゃあ、わしも配置にくにゃ~」

「お願いします」


 コウウンと会話を交わすと、猫耳軍の中央、最後尾に走る。わしは配置に就くいても、軍はさらに前進し、しばらくすると、コウウンが声を張りあげる。


『ぜんた~い……止まれ~~~!』


 コウウンの声で猫耳軍は止まる。まだ帝国軍と接触するには距離がある。弓や魔法でも、まだまだ届かない距離だ。


『弓隊。投撃部隊。発射準備~~~!』


 それなのに、コウウンは遠距離攻撃発射の指揮を取る。猫耳軍も、その命令に異を唱えず、素直に従う。

 弓を引き、投撃武器を構え、前衛さえも、木の槍を投げようと構える。届く距離ではないのに……。なのに、コウウンは次の命令を下す。


『放て~~~!!』


 コウウンの命令に、皆、一斉に遠距離攻撃を行う。ただし、出来るだけ高くに攻撃を放った。


「【突風】にゃ~~~!!」


 その攻撃に、わしは広範囲に風を送る。


 そう。高々と上がった遠距離攻撃に、わしが追い風を送り、帝国軍に届かせるという作戦だ。


 帝国兵は、届かない攻撃を笑って見ていたが、風に乗った武器が降り注ぎ、慌てふためく事となった。


「二射目~。放て~~~!!」

「【突風】にゃ~~~!!」


 その次も、その次も、攻撃は降り注ぎ、帝国軍は大打撃を受ける事となった。だが、ついに対抗措置が取られる。盾を頭上に構え、前進しだした。


『よし。ここまでだ! 後退準備~~~!』


 帝国軍は大打撃を受けているが、コウウンは追い討ちを掛けない。


『両翼。中央に集まりつつ、全軍後退~~~!!』


 猫耳軍は、追い討ちを掛けないどころか、後退しだした。わしはその波に乗らずに、コウウンが後退して来るのをジッと待つ。いや、動けなかった。


 あの感覚……。先の大戦で銃を放った時と似ている……。い、いまはそんな事を考えている場合ではない! 集中じゃ!!


 わしが両頬をモフモフと叩いていると、引き上げて来たコウウンが声を掛ける。


「王よ。どうかなさりましたか?」

「ああ。にゃんでもないにゃ。それより、首尾はどうにゃ?」

「これ以上無く、上々ですね。予想外の攻撃のせいで、帝国軍も我々に合わせて、固まって動いています」

「にゃはは。コウウンの作戦通りに動いてくれているんにゃ」

「はい。これほど上手く行くとは思いませんでした」

「わしとしては助かるにゃ~」

「いえいえ。このままなら、こちらの軍が傷を負う事が無いので助かります」

「それじゃあ、わしはリータ達と合流するにゃ。あとは任せたにゃ~」

「はっ! お任せください」


 わしはコウウンとの会話を終わらせると、後方に駆け、最初の位置から動いていなかった、リータ達と合流する。


「リータ、メイバイ。準備はどうにゃ?」

「大丈夫です!」

「私もニャー!」

「にゃはは。それは心強いにゃ」


 二人はわしの質問に、大きな声で返してくれた。


「ノエミとケンフも、準備は大丈夫かにゃ?」

「あとは押すだけでしょ? 楽勝よ!」

「出来れば強い敵と、正々堂々闘いたかったのですが……」

「二人は余裕そうだにゃ。ケンフには、残って居たら譲ってあげるにゃ。でも、みんにゃ。手負いの獣は危険だって事だけは忘れないでくれにゃ。まだにゃにが起こるかわからないからにゃ。十分気を付けてくれにゃ」

「ええ!」

「ワン!」

「はい!」

「わかっているニャー!」


 ノエミとケンフは軽口を叩くように返事をするので、注意するように促すと、リータ達も含めて力強く返事をしてくれた。


「よし! 合図があるまで待機にゃ~」


 皆、緊張感を持って待機するが、わしはリータとメイバイに撫でられるので、ゴロゴロと待つ。

 そうこうしていると、猫耳軍は元に居た場所まで戻り、停止する。


 その姿を見て、わし達は最前列に移動し、コウウンの隣に立つ。


「もうそろそろかにゃ?」

「はい。いけそうですね」

「合図と突撃の準備を頼むにゃ~」

「はっ!」


 わしの言葉にコウウンは、全軍を鼓舞する為に声を張りあげる。


『聞け! これより、王の攻撃の後、総攻撃を仕掛ける。皆、気を引き締め、作戦通り動くのだ!!』

「「「「「おおおお!!」」」」」

『王よ! 帝国軍に、目に物を見せてください!!』

「わかったにゃ~~~!」


 わしは返事の後、一呼吸置いて広範囲に魔法を使う。


「土魔法……【解除】にゃ~~~!!」


 わしは前日に準備していた罠を仕掛ける。その結果、帝国兵は足場を失い、次々と落とし穴に落ちていく。


 わしの仕掛けた罠は簡単。広い土地に升目状に多くの穴を掘って、その上を硬い土魔法で蓋をしただけ。ただしその中には、これまた魔法で出した水が少量入っている。その結果……


「「「「「ギャーーー!!」」」」」

「足が~!」

「腕が~!」

「痛い~!」

「目が、目が~~~!」


 そこかしこから、帝国兵の悲痛な叫び声が聞こえて来る。しかし、升目状に穴を掘ったので、生き残りは半数近くいる。

 なので、次の魔法を使う。


「【旋風つむじかぜ・いっぱい】にゃ~~~!!」


 突如、穴の数だけ渦巻く風の柱が立ち上がる。穴の中心にマーキングしておいたので、正確、かつ、簡単に行えた。

 無数の【旋風】は、穴にあった少量の水と共に、ある物質を空に舞い上げる。


「トドメにゃ! 水魔法【霧】にゃ~~~!!」


 空に舞い上がった水と、ある物質は霧散し、帝国兵にまとわりつく。逃げ場は無い。もちろん猫耳軍が被害を受けないように、風魔法でガードしている。


「「「「「ギャーーー!!」」」」」

「目が、目が~~~!」

「痛い! 傷に染みる~!」

「股間が熱い~~~!」

「ヒッ。ヒ~~~!」

「「「「「辛い~~~!!」」」」」

「「「「「水~~~!!」」」」」


 そう。わしが使ったある物質とは、唐辛子モドキだ。これは戦争で使えるのではと、森で大量に集めておいた。

 唐辛子モドキは粉状になるまで細かく切り刻み、水と一緒に入れて霧に変えたので、辛さの激痛に耐えかねて、帝国兵はこのような事態となったのだ。


 う~ん。阿鼻叫喚……地獄絵図とはこの事じゃな。猫耳軍は……あらかじめ説明しておいたのに、恐怖で震えておる。

 気持ちはわかる。視界を失って、叫びながら穴に落ちて行っておるもん。


「シラタマさん……」

「怖いニャー!」


 どうやらリータとメイバイも、わしと同じ思いのようだ。なので、わざわざ口に出して同じ思いだとわしは伝える。


「わしもにゃ……」

「「「「「あなたがやったことでしょ!!」」」」」


 ええ。そうですよ~だ!


「「開き直るな(ニャ)!!」」

「にゃ~! ポコポコはやめてにゃ~~~!」


 わしは総ツッコミを受けた後、心の声を読んだリータとメイバイに、埋められ掛けてしまうのであったとさ。

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