153 疲れたにゃ~


 今日は朝早くからキョリスの元へ転移した。昨日の約束通り、コリスと遊ぶ為だ。ついでにキョリスとハハリスとも遊ぶことになったのは誤算だった。

 二匹の怪獣にいたぶられ、コリスがそこをつつく。数ヵ月前に戻った気分になって、わしは嬉しい……わけがない!


 昼過ぎに、やっと地獄から解放されて、王都の我が家に転移する。


「ただいまにゃ~」

「お帰りなさい……って、どうしたんですか!?」

「ボロボロニャー」


 我が家にて出迎えるリータとメイバイは、わしの姿を見て心配してくれる。


「ちょっとキョリスとハハリスにいたぶられたにゃ」

「ケンカして来たのですか!?」

「いや。たぶんじゃれてただけにゃ」

「シラタマ殿をここまでボロボロにするリス達……恐るべしニャー」

「みんにゃは、ご飯食べたにゃ?」

「はい。終わりました」

「ごめんにゃけど、にゃにか簡単に作ってくれにゃ。もうペコペコにゃ~」

「今日はエミリちゃんが来てますから、頼んで来ます」

「そうだったにゃ。わしは風呂に入って来るにゃ~」


 わしは昼食をお願いしてから、風呂場に入るのだが……


「にゃんで二人とも、服を脱いでるにゃ?」


 リータとメイバイは、ついて来てしまった。


「シラタマさんを洗うのは私の仕事です」

「いや、一人で出来るにゃ~」

「そんなこと言わずに洗わせるニャー」

「夜、一緒に入ればいいにゃ。にゃ? ……にゃんでそんにゃ顔するにゃ~」


 女の子と一緒に入るのはいまだに抵抗があるので断るが、二人は物凄く悲しそうな顔になった。


「「だって~」」

「はぁ。じゃあ、頼むにゃ。これから行くところがあるからシャワーだけにゃ」

「「はい(ニャ)」」


 わしの拒否に絶望の表情を浮かべた二人だったが、許可を出すと笑顔に変わり、わしの毛皮を揉み洗いする。ゴロゴロと喉を鳴らして綺麗になったわしは、ブラッシングをしてもらってから昼食をいただく。


「ねこさん。聞いてください!」


 エミリがわしの袖を強く掴むので、スープをこぼしそうになってしまった。


「どうしたにゃ?」

「昨日、お城に行ったのに、料理長さんが帰るように言ったんです。早くチョコを完成させたいのに~」


 今日のエミリは顔色がいいな。一日休んで体調は戻ったのかな?


「エミリは昨日、帰ってからどうしてたにゃ?」

「やる事もなかったから、すぐに寝ました!」

「それはよかったにゃ」

「よくないです~。ねこさんからも料理長さんに言ってくださ~い」

「もう言ったにゃ」

「え? ……何をですか?」


 わしの発言に、エミリはポカンとする。


「料理長に、わしはエミリを休ませるように言ったにゃ。だから、怒るならわしにするにゃ」

「なんでそんなことを……」

「最近のエミリは働き過ぎにゃ。料理長も、昨日のエミリの顔色を見て帰したと思うにゃ。その証拠にすぐに寝たにゃ? きっと疲れていたんにゃ」

「いえ、そんなには……」


 自覚が無いのか……。お母さんの料理を作る事は、エミリにとって楽しいんじゃろうな。じゃが、体調を崩すほど必至に働いて欲しくない。


「エミリ……わしも料理長も、エミリの事を心配してるいるにゃ。料理が好きなのはわかるにゃ。でも、エミリに倒れられると、わし達は悲しいにゃ。わかってくれにゃ~」

「わたしはねこさんに心配をかけていたのですか……」

「わしだけじゃないにゃ。料理長もそうにゃが、ババアもマルタも心配していると思うにゃ。自分一人の体じゃないって事をわかってくれにゃ」

「……はい」


 少しはわかってくれたかな?


「シラタマさんの言う通りです! 私もエミリちゃんの料理好きですよ。倒れて食べられなくなると悲しいです」

「そうニャー! いつも美味しい料理を食べさせてくれてありがとニャ。これからも、食べさせて欲しいニャー」

「リータさん……メイバイさん……」

「にゃ~? みんにゃエミリの料理を待っているにゃ。だから、体には気を付けて欲しいにゃ」

「はい!」


 うん。いい笑顔じゃ。リータとメイバイの援護射撃で完全にわかってくれたな。


「二人ともありがとにゃ」

「いえ。本心ですよ」

「それ、食べてもいいニャ?」

「これはわしのメシにゃ! メイバイはさっき食べたにゃ~」


 メイバイがわしの皿に手を伸ばして来たので、取られないように皿を自分のそばまで寄せる。


「見てたら食べたくなったニャー」

「私も食べたくなりました」

「あげないにゃ~」


 リータまで取ろうとするので、わしは体を使って隠すように皿を守る。すると、エミリは笑いながらキッチンに向かい、騒いでいるわし達の元へ料理を運んで戻って来た。


「うふふ。いっぱい作ってあるから、どうぞ」

「二人は食いしん坊だにゃ~」

「「シラタマ(殿)さんに言われたくない(ニャ!)です!」」

「プッ……アハハハ」

「にゃははは」

「「アハハハ」」


 二人の息の合ったツッコミにエミリが笑う。釣られてわしも笑い、二人も笑う。そんな笑顔の食事をとり終え、わしは家を出る。


「じゃあ、行って来るにゃ。買い出しは任せるにゃ~」

「はい。行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいニャー」


 わしは家を出て街を歩き、目的地の城へ辿り着く。そして門兵に挨拶をして、女王のいる執務室に通してもらう。


「いらっしゃい」

「今日は、さっちゃん達はいないにゃ?」

「サティの準備に手間取っているのよ。早く準備しろって言ったのに……」

「さっちゃんらしいにゃ」

「まったく……こちらで持って行く物は、あとで案内してもらって。サティの物は明日ね」

「わかったにゃ~」


 わしが返事をすると、女王が顔を覗き込むように見て来た。


「シラタマ。なんだか疲れてない? 大丈夫?」

「ああ。大丈夫にゃ。ちょっとキョリスと遊んで来ただけにゃ」

「キョリスって……あの?」


 あ……さっちゃんがキョリスに会ったこと、女王に言い忘れていたな。さっちゃんが会ったと言うと怒られそうじゃから、これは秘密にして……


「そのキョリスにゃ」

「生きているの!?」

「ピンピンしてるにゃ」


 ん? 驚いておる。女王の焦った顔は新鮮じゃな。


「……で、そのキョリスとシラタマが遊んだって、どういう関係?」

「家族ぐるみの付き合いにゃ。子供を助けた時に、キョリスと母親と仲良くなったにゃ」

「そ、そう……」


 女王の顔を見たところ、やはりキョリスは恐怖の対象なんじゃな。


「そうにゃ! いい忘れてたけど、キョリスから伝言にゃ」

「なに!?」

「キョリスを狩りに来るにゃら、滅ぼすって言っていたから気を付けるにゃ」

「へ~。そうなんだ~」


 あら? あっちの世界に行ってしまった。


「そういう事は、早く言いなさい!」


 お早いお帰りで……


「まぁその情報だけでも価値があるわね」

「感謝しろにゃ~」

「ああん!?」


 お、おう……調子に乗り過ぎた。女王オーラが突き刺さっておる。


「まあまあ。旅の話をしようにゃ~」

「そうね。こちらから手を出さなければいいのよね。さっきの話の続きは……」


 やや疲れた顔をした女王は、旅立つ時間とビーダールでの滞在期間、滞在先、それと、バハードゥ王との会談の日時を伝える。


「滞在期間は思ったより短いんだにゃ」

「女王だからね。そんなに城を空けるわけにはいかないのよ」

「わかったにゃ。それじゃあ、失礼するにゃ」

「あ! ちょっと待って」


 わしが立ち上がると、女王も立ち上がって近付いて来た。


「にゃにか忘れていたにゃ?」

「あんな話し聞かされて疲れたのよ」

「にゃ? ……にゃ~! ゴロゴロ~」


 わしは女王に抱き締められ、女王の持ち時間いっぱいになるまで、撫でられまくった。その甲斐かいあって、どうやらキョリスショックから立ち直ったみたいだ。

 そうして毛並みの乱れたわしは、メイドさんの案内で、ビーダールに運ぶ小麦や、女王、双子王女の持ち物、その他旅行に必要な物を次々と次元倉庫に仕舞っていく。



 持ち物を収納し終えるたわしは、さっちゃんの部屋に向かう。だが、ただならぬ雰囲気を感じ取り、扉を少し開けて覗く事にする。


「サティ! まだ持ち物が決まっていないのですの!」

「だって~」

「だって~、じゃないですわ! もう明日ですわよ」

「うぅぅ……」


 さっちゃんは説教中か。双子王女の邪魔をしたら、わしまで怒られそうじゃし、今日のところはおいとましようかのう。


 わしがそおっと扉を閉めていると、さっちゃんと「バチッー!」と目が合った。その瞬間、さっちゃんは凄い形相で走り、扉を開く。わしはさっちゃんの顔に驚いて、逃げ遅れてしまった。


「シラタマちゃん! 助けて~」

「にゃ!? 嫌にゃ! 離れるにゃ! わしを巻き込むにゃ~!!」

「そんなこと言わずに~」

「嫌にゃ~。逃がしてくれにゃ~」


 抱きつくさっちゃんを引き離そうと頑張っていたら、双子王女がわしの真後ろに立っていた。


「シラタマちゃんは、邪魔しに来たの?」

「違うにゃ! 挨拶に来ただけにゃ」

「それが邪魔になると思わなかったの?」


 笑顔が怖い……笑ってるんじゃよな? うっ……目が一瞬光った! 怒ってらっしゃる。


「怖いにゃ~。覗いたら、忙しそうだったから、帰るところだったにゃ~」

「シラタマちゃ~ん」

「にゃ!? 泣くにゃ~」


 さっちゃんがわしの胸に顔を埋めてなくものだから、双子王女は目を合わせてコクリと頷く。


「こうなったら仕方ないですわね」

「そうですわね」

「にゃにも仕方なくにゃんてないにゃ。すぐに帰るにゃ~」

「もう離さない~」

「離してくれにゃ~」


 結局、さっちゃんの旅の支度に付き合わされるわしであった。だってさっちゃんの悲痛な叫びより、双子王女のわしを見る笑顔が怖かったんじゃもん。



 夕暮れ時にやっと解放されたわしは、乱れた毛並みのまま帰路に就く。


「ただいまにゃ……」


 玄関でわしを出迎えてくれたリータとメイバイは、朝と同じく驚いた。


「わ! どうしたのですか?」

「ブラッシングしたのにぐちゃぐちゃニャー」

「明日は早いから、もう寝るにゃ……」

「え? 本当にどうしたのですか?」

「シラタマ殿が、珍しく疲れているニャー」


 そりゃ疲れるよ! 朝からリス家族にいたぶられ、二人にゴロゴロ言わされ、女王に撫で回され、さっちゃんに泣き付かれたんじゃからな! さあ、わしの心を読むがよい!


「それが、スティナさん達が来られています……」


 うん。読んでくれたみたいじゃな。じゃが、バットニュース!


「宴会が始まっているニャー」


 よし! まだわしの存在は知られていないし、寝室に逃げ込もう。


「シラタマちゃ~ん。早く~」


 なんでわかったんじゃ~!



 スティナに呼ばれたわしは、渋々、宴会をしているアダルトフォーの輪の中に入る。


「あれ? シラタマちゃん。毛並みが乱れているわよ」

「本当ですね」

「何かあったの~?」

「今日は疲れたにゃ……」


 スティナ、エンマ、フレヤの声に元気なく答えたわしだったのに、スティナは酒の入ったグラスを押し付けて来やがった。


「じゃあ、飲むしかないわね!」

「一気に、どうぞ」

「早く飲みなよ~」

「猫……お前も大変だな~」


 飲んで疲れを癒すって、昭和の親父か! あ~。昭和の親父ですよ~だ!!


「リータ、メイバイ……」

「どうしました?」

「なんニャ?」

「こいつらはわしが引き付けるから、早く寝て、朝になったらわしを叩き起こしてくれにゃ!」

「わかりました……」

「頑張るニャ……」

「どっからでもかかってくるにゃ~!」


 リータとメイバイが寝室に消える中、わしは気合いを入れて、グラスに入った酒を一気に飲み干す。


「お! そうこなくっちゃ~」

「シラタマさん。さすがです」

「猫君。もう一杯~」

「ガウリカも飲むにゃ~!」

「あ、あたしを巻き込むな~!」


 こうして、いつもの飲み会は始まり、飲むペースの上がったアダルトフォーは、バッタバッタと倒れていった。


「スティナ。お前で最後にゃ!」

「あら~。私に勝とうって言うの~」

「さあ! 飲むにゃ~!」

「シラタマちゃんも~」


 サシの勝負に持ち込んだわしとスティナは、互いのグラスに酒を注ぎ、飲み干す。そうして何度も繰り返すと、お互いに限界が近付く。


「やるわね……ヒック」

「お主もにゃ~。ヒック」

「ムニャムニャ。シラタマさ~ん」

「にゃ!? エンマ、くっつくにゃ!」


 長い戦いに決着がつきそうになったその時、寝惚けたエンマがわしに絡み付いてきた。


「モフモフ~」

「そ、そこは触るにゃ~! ゴロゴロ~」

「あらん。気持ち良さそうね~」

「スティナまで……挟むにゃ~! ゴロゴロ~」


 この後、わしは二人にゴロゴロ言わされ、酔いと疲れのせいで、そのまま眠りに落ちてしまうのであった。

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