154 旅の朝、さっそく怒られるにゃ~
「シラタマさ~ん……」
「なにしてるニャ……」
旅に向かう朝、わしはリータとメイバイの怒ったような低い声で、目を覚ます。
ん、んん……朝? むう……寝足りない。それに後頭部にある柔らかい物と、抱き抱えているスベスベする物が眠りに誘う……
「どこに挟まっているんですか~?」
「脚にスリスリしてる場合じゃないニャー」
挟まる? 脚?? 昨日の夜はスティナ達と飲んでいて……へ?
わしは二人の声に、重い
生脚……
「へ~~~。エンマさんの脚が、そんなに好きなんですか……」
「へ~~~。私の脚では、そんな事しなかったニャ……」
こ、怖い……後ろの柔らかい物の正体は察しがつくが、振り返ってはいけないと野生の感が言っている。じゃが、それがわかるなら早く起こしてくれ!
「へ~~~。私の胸じゃ、スティナさんのように満足してくれないのですか……」
「へ~~~。起きたのに離れようとしないニャ……そんなに気持ちいいニャ?」
いや、これは恐怖に固まっておるんじゃ。声すら出ない。蛇に睨まれたカエルじゃ。
「へ~~~」
「へ~~~」
うぅぅ……
「へ~~~」
「へ~~~」
「すいにゃせん! 疲れて寝てしまったにゃ~」
「人型で?」
「そうにゃ……」
「私達以外でニャ?」
「……そうにゃ。怖いにゃ~。わざとじゃないにゃ~」
わしが必死に言い訳していると、リータとメイバイの顔が優しくなった。
「そうですよね。昨日、疲れていましたもんね」
「シラタマ殿が、私達以外の女になびくわけないニャー」
おお! 許してくれるのか。これで怒られないで済む。助かった~。
わしが安堵の表情を浮かべていると、エンマとスティナが目を覚ました。
「ん、んん~。あ、シラタマさん……昨日は満足してくれましたか? では、続きを……」
「シラタマちゃん。昨日は激しかったわね~。ぎゅ~」
「にゃ!? にゃんのこと~~~!! ゴロゴロ~」
目を覚ましたエンマはわしを踏み始め、裸のスティナは、わしを大きな物で挟み込む。それを見たリータとメイバイは……
「シ~ラ~タ~マ~さ~~~ん」
「シ~ラ~タ~マ~ど~の~~~」
ゴゴゴゴと言う音と共に、目が光る。
「にゃ!? 違うにゃ! 知らないにゃ!! ゴロゴロ~」
「「ゴロゴロ言うな!!」」
一度は許してくれたが、怒りが再燃して、こっぴどく怒られた。それはもうこっぴどく。ついに二人のポコポコで庭に肩まで埋められる事になってしまった。ホンマホンマ。
怒りの収まらぬ二人も、仕事の時間が近付くとわしを解放する。解放されたわしは急いでシャワーを浴びて、食事を掻き込む。
スティナ達には、しばらく家を開ける事を伝え、戸締まりをお願いして家を飛び出すのであった。
「もう! シラタマさんのせいで、女王陛下の待ち合わせ時間ギリギリじゃないですか!」
「この続きは帰ってからするニャー!」
いや……それってわしのせい? スティナとエンマのせいじゃ……
「すいにゃせん! 睨まにゃいで~」
「まったく……時間がないのにお風呂まで入るなんて」
「そうニャ。いいご身分ニャー」
いや……二人がポコポコ叩くから入るハメに……そのうえ、嬉しそうに揉み洗いと、ブラッシングをしてくれたじゃろう?
「すいにゃせん!」
「「反省して(るニャ)ます?」」
「してるにゃ~。だから、もう怒らにゃいで~」
わしは心の中で言い訳すると、すぐさま二人の目が光り、危険を感じて謝る。何度もそのやり取りを繰り返し、いつもより長く感じる城への道を歩き、女王の待つ城の、野外訓練場へと足を踏み入れる。
やっと着いた……リータとメイバイもおっかさんみたいに、いつしか目から光線を出すんじゃなかろうか? 若干、毛が焦げてる感じがするし……
お! ソフィ達がいる。あっちに逃げるか……いや、毛が燃えそうな感じがする。やめておいたほうが懸命そうじゃ。ホンマホンマ。
わしは
「シラタマ様。おはようございます」
「猫ちゃんおはよ~」
「おはようございます」
「みんにゃ、おはようにゃ~」
わしは、ソフィ、アイノ、ドロテの挨拶に無難に答える。
「何か疲れていませんか?」
みんなに愚痴りたい気分じゃが、スティナとエンマにめちゃくちゃにされたと言ったら、逆に怒られそうじゃからやめておこう。
「そんにゃことないにゃ~」
「また怒られたの?」
ソフィの問いに無難に答えたのに、アイノに当てられてしまった。
「にゃんでそれを……」
「だって……ねえ?」
「シラタマ様が怒られたのは、すぐにわかります」
「そうですね。だって……」
「「ドロテ!」」
「にゃ~?」
いま、何を言い掛けたんじゃ? あ、わしの心を読むスキルの謎か! これはなんとか聞き出さねば。
「ドロテ。いま、にゃんて言おうとしたにゃ?」
「いえ、なにも……」
「にゃあにゃあ? 教えてくれにゃ~」
「何も言ってないです!」
「にゃあにゃあ?」
「「「「「にゃあにゃあ、うるさ~い!」」」」」
え、ええぇぇ……全員同意見ですか。わし、しょんぼり……
わしが項垂れていると、皆が代わる代わる撫で出す。ゴロゴロと撫でられていると、女王と三王女が侍女の三人と猫を二匹、引き連れて訓練場にやって来た。
女王の登場で、皆は姿勢を正し、わしを撫でる事をやめた。皆に解放されたわしは、乱れた毛並みを
「「「「「おはようございます」」」」」
「皆、おはよう。これより南の小国ビーダールに向かう。護衛の任。しかと努めよ」
「「「「「はっ!」」」」」
あら? リータとメイバイまで、騎士のソフィ達を真似して敬礼しておる。女王オーラにあてられたか? むっ……毛が絡まって櫛が通らん。よいしょ。よいしょ。
わしが櫛で毛繕いをしていると、女王がツカツカとわしに近付き、頭をわし掴みにする。
「にゃ!?」
「おはよう……」
「おはようにゃ~。にゃにか怒ってにゃい?」
「怒っていないわよ……私の前で、そんなに緊張感の無い人を初めて見たらついね……」
「やっぱり怒ってるにゃ~! 人じゃなくて猫だにゃ~。許してくれにゃ~」
「そうだったわね。フフフフ」
「「「「「プッ……」」」」」
「「「アハハハハ」」」
「「「「「アハハハハ」」」」」
「にゃ~?」
わしの発言に女王が笑い出し、護衛が吹き出し、三王女が大声で笑う。そのせいか、護衛まで笑い出す始末。わしは疑問の声をあげて、皆の笑いが終わるのを待つしかなかった。
「もういいかにゃ?」
「フフフ。ええ。フフフフ」
「ダメっぽいけど……ここから飛び立つって事でいいにゃ?」
「ええ。フフフ」
まだ笑うか……何がおかしい? わしの姿か? そうじゃろうな!!
笑う皆を他所に、わしは次元倉庫から飛行機を取り出す。飛行機を出すと、笑う皆も興味が移り、飛行機を見て回る。
「こんなに大きな物が飛ぶの?」
「まぁ信じられないかもしれにゃいけど、飛ぶにゃ」
「シラタマなら出来ると思うけど……」
女王は心配しているが、わしは気にせず席順の説明を始める。
「それで席順は、一番ゆったり座れる最後尾が女王と三王女にゃ」
「一番前がいいわ」
「いや……」
「わたしも~」
「さっちゃんまで……」
「「私達も前で、かまわないですわよ」」
わしの説明に女王だけでなく、さっちゃんと双子王女までもが異を唱える。説得しようかと考えたが、昨日の疲れもあり、面倒臭くなってしまった。
「もういいにゃ。わかったにゃ。あとは適当に……あれ? イサベレはどこにゃ?」
「ここに!」
「にゃ!? 驚かすにゃ~」
「ずっといた」
こいつは……いつも無表情な癖にドヤ顔だけは、はっきりしやがる。
「じゃあ、全員いるみたいだし、席順を……やっぱりわしが決めるにゃ。文句無しにゃ~」
話し合って決めてもらおうと思ったが、リータが首を横に高速で振っていたので、わしが決める事にする。
前列に右から女王、さっちゃん、双子王女。後列に三人の侍女さんとリータとメイバイ。真ん中の列は右からイサベレ、アイノ、ソフィ、ドロテ。イサベレの隣は緊張するとの事で、じゃんけんで決まった。休憩の度に交代するそうだ。
ちなみに兄弟達は双子王女に抱かれ、わしは猫型になって、さっちゃんに抱かれる。わしは女王とさっちゃんに、交互に抱かれるらしい。
「それじゃあ、出発するけど忘れ物は無いかにゃ~?」
「ええ。大丈夫よ」
「早く飛んで~!」
「行っくにゃ~。【突風】にゃ~~~!」
女王とさっちゃんに確認を取ったわしは、風魔法【突風】を使い、飛行機を訓練場から離陸させる。程よい高さになると、羽の下に取り付けられている、射出口から【突風】を吹き出し、水平飛行に変わる。
「すごいすごい! 飛んでるよ~」
「サティ。落ち着きなさい……」
「お母様。落ち着いていられません!」
「いいから静かにして……ね?」
「お母様……ひょっとして怖いのですか?」
「そ、そんなわけないでしょ」
うん。女王は無理しておるな。双子王女は冷静にしておるけど、兄弟が苦しそうにしておるから、怖いのかな?
ソフィとドロテも怖そう? アイノは見えないけど、声から察するに嬉しそうじゃな。イサベレは見えないし、声も出さないからわからん。見ても表情は読み取れんじゃろう。
リータとメイバイは大丈夫じゃろうけど、侍女の三人はどうじゃろう? 後ろは視界が悪いから大丈夫と信じよう。
「気分が悪くにゃったら言うにゃ~。あと、王女様方。兄弟が苦しそうだから力を緩めてやってくれにゃ~」
わしの言葉に双子王女は兄妹達を抱く力を弱める。そこを、わしが念話でリータとメイバイの所に行くように伝え、リータ達にも頼む。
飛行機は順調に空を飛び、皆の恐怖も徐々に和らいでいき、一時間もすれば談笑する声が聞こえてくる。
「そろそろ関所にゃ」
一度経験した道中なので、景色を見ながらわしはガイドする。すると、女王とさっちゃんは驚いているようだ。
「もう?」
「望遠鏡を貸すにゃ。たしか、あの辺が関所だったにゃ」
「望遠鏡? 何これ?」
「遠くの物を見る物にゃ。そっちの小さい穴から見てみるにゃ」
次元倉庫から出した望遠鏡を持った女王は、穴を確認してから覗く。
「あ、遠くの物が近くに見える。本当に関所ね……」
「シラタマちゃん、わたしにも貸して~」
「いいにゃ。他に欲しい人いるにゃ?」
全員か……遠慮がちな、侍女さん達まで手を上げておる。
「全員分は無いから、隣の人と使ってくれにゃ」
望遠鏡は旅に必要になるかと思い、六本作っておいたので、それをアイノに回してもらう。
「やっぱりこれ、いいよね~」
「サティは知っているの?」
「前にシラタマちゃんに使わせてもらったの。バルコニーから街の人達が見えて、楽しかったです」
「そうなんだ。遠くの物が見えるって、メガネみたいね」
メガネ? 女王は知っておるのか? まだ単価は高いだろうから、貴族にしか買えないか……。それなら、女王の周りに使っている人がいてもおかしくない。わしが発案者と言うと、うるさそうじゃし黙っておくか。
「メガネもシラタマの発明でしょ?」
また心を読まれた……
「にゃんでわかったにゃ?」
「それゃあ……ねえ?」
女王が三王女に話を振ると、同時に答える。
「「「ねえ?」」」
「にゃんで~~~!!」
この後、またしつこく「にゃあにゃあ?」と聞いたら、みんなからうるさいと怒られる事になってしまった。
誰か教えて~~~!
「ひみつ~」
さっちゃん……だから心を読まないで!
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