155 砂漠で休憩にゃ~


 わしの心を読むスキルの謎は解けないまま、女王の乗せた飛行機は、快調に空を進む。女王一行は空の旅を楽しみ、見える物を口に出している。


「あれが砂漠?」

「そうにゃ。砂ばっかりにゃ」

「降りて!」

「さっちゃんは、そればっかりにゃ~。降りたら時間を取られるにゃ~」

「だって~」


 さっちゃんのわがままは全て却下。すると、女王も味方になってくれる。


「そうよ。いい加減落ち着きなさい」

「お母様だって、さっき言ったじゃないですか」

「そ、そんなこと言ってないわ……」


 ジーーー


「言ったわよ! だからそんな目で見ないで。ね?」


 さっちゃんに生温い目で見られた女王は負けた。しかし、さっちゃんのほうがわがままが多いので、わしが反論してあげる。


「さっちゃんの言えた義理じゃないにゃ~」

「なによ~!」

「にゃ!? 髭を引っ張るにゃ~。この辺で休憩にするから。にゃ?」

「やった~! いますぐ降りて!!」


 そしてわしも、さっちゃんに暴力を振るわれて負けてしまった。髭を引っ張られるとカールするからやめて欲しい。


「いや……ちょっとぐらい相談させてくれにゃ」

「ブ~~~」


 ブーブー言ってるさっちゃんは無視して、女王に話を振る。


「ここからなら砂漠の街コッラトが近いけど、どうするにゃ?」

「いえ。街には寄らなくていいわ」

「まさか、入国税を払いたくないにゃ?」

「違うわよ!」

「冗談にゃ~。女王も髭を引っ張るにゃ~」


 この似た者親子め! リータとメイバイのポコポコといい、最近、わしに暴力を振るう者が増えておらんか? 動物虐待じゃ。


「今回の旅は短期間でしょ? そんな短期間で、私が二つの国に現れたらおかしく思われるわ。ビーダールでも非公式にしてもらう手筈てはずになっているの」

「にゃるほど。自由に旅も出来ないとは、女王も大変だにゃ~」

「だから今回は、ハメを外すわ!」

「いや、それは……」

「お母様……」

「じょ、冗談よ!!」


 いや、冗談じゃないはずじゃ。わしの心を読んで、髭も引っ張っておるし……読んでおるなら離してくれんかのう? ……離さなね~よ。


「痛いから引っ張るにゃ~! それじゃあ、適当に降りるにゃ~」

「ええ。そうしてちょうだい」



 わしは適当に降りるといいながら、気になるポイントに着陸する。着陸すると人型に変身して、休憩の注意点を説明する。


「これから一時間の休憩にするにゃ。外は暑いけど、みんにゃどうするにゃ?」

「「「「「出る!!」」」」」


 あ~。そうですか。全員ですか。侍女さんまでうなずいていますね。


「にゃら、これを持って出るにゃ。暑かったら魔力を流すにゃ。それでもダメにゃら、飛行機に入るにゃ」


 わしは全員に、旅に必要になるかと作っていた【氷玉】の入った角を渡していく。魔道具が全員に行き届くと扉を開く。熱風が吹き込むが、それも珍しいのか、次々と飛行機から降りていく。


「あつ~い!!」

「にゃ? 無理せず魔力を流すにゃ」

「シラタマちゃんは暑くないの?」

「慣れてるから大丈夫にゃ」


 さっちゃんの質問に答えていると、女王は手で顔をあおぎながら、会話に入って来る。


「その姿を見ていたら、私のほうが暑くなるわ」

「女王も魔道具を使うにゃ。日陰を作って、テーブルセッティングするから、みんにゃちょっと待っててにゃ」


 わしはそう言うと、土魔法で飛行機に被さるように、柱と屋根を作る。そして、大人数なので、次元倉庫に入っているテーブルセットは出さずに、土魔法でテーブルと椅子を作り出す。

 そのテーブルの上には料理長に用意してもらった昼食を、侍女に手伝ってもらいながら出していく。よかれと思ってやっているわしの姿を見て、一部の者は納得いかない顔をしている。


「サティ……シラタマが、また変な事をしてるわよ?」

「そう? いつもの事だよ」

「私がおかしいのかしら?」

「お母様。私も変だと思いますから、大丈夫ですわ」

「魔法をあんな事に使っている時点で変ですわ」


 女王と双子王女だ。それと、侍女も頷いているから、黙ってわしの手伝いをしているのは、仕事と割り切っているのかもしれない。

 わしはその姿を見ていたが、行動が変、変と言っているけど、猫が喋って歩いているほうが変じゃないかのと心の中でツッコムだけだ。皆は何故か頷いていたけど、無視する事にした。


「忘れていたけど、猫が喋って歩いているのも変ね」


 女王……もう忘れてくれ……


 この心の声は無視されて、昼食を食べながら砂漠の話題に変わるのであった。



 食事が始まると、わしは行きたい所があるので急いで食べ、イサベレに少し離れると告げて護衛を頼む。そして、こっそり抜け出す。


 ガシッ!


 抜け出さなかった。


「どこ行くの?」


 さっちゃんに捕まってしまった。


「ちょっと……その辺を……散歩にゃ」

「怪しい……」

「すぐに戻るにゃ。お昼食べて待ってるにゃ」

「シラタマちゃんが急いで食べていたから、わたしも急いで食べたよ。だから大丈夫。わたしも連れてって~」

「いや……さっちゃんがこっそりいなくにゃったら、みんにゃ心配してするにゃ~」

「え~~~! 連れってよ~。シラタマちゃんだけズルい~!」


 始まったよ……。こうなったさっちゃんは、しつこくわしを揺するからなぁ。酔いそうじゃ。しかし、この手の心の声は全部スルーされるのはなんでじゃろう?


「わかったにゃ~」

「本当!?」

「でも、二人で散歩すると、女王に伝えに行くにゃ。これは絶対にゃ」

「うん。わかった!」


 わしとさっちゃんは女王の元へ行き、「散歩して来る」とだけ言って、さっちゃんを抱いて逃げ出す。これは、女王達の誰かがついて来ると言い出しかねないからの処置だ。



 目的の場所までは近くに降りていたおかげと、わしの走るスピードと相俟あいまって、数分で到着した。


「ここは……村?」

「そうにゃ。オアシスのある村にゃ」

「あ~。空から見えた湖ね」

「さあ。入るにゃ」

「うん!」


 わしはさっちゃんを降ろすと手を繋いで歩き出す。門にいる女性に挨拶を交わし、出会った女性に村長の娘、スマンが何処にいるか聞きながら進む。

 しばらく歩くと、キョロキョロしていたさっちゃんは質問して来る。


「シラタマちゃん。すごい人気だね」

「まぁ……いろいろあったにゃ」

「家があちこち壊れているのは関係あるの?」

「……そうにゃ。ここではたくさんの人が亡くなったにゃ」

「……なんでか聞いていい?」

「気持ちの良い話じゃないにゃ」

「これは私が通らないといけない道だから、聞かせて」

「……わかったにゃ」


 わしは話す事を躊躇ちゅうちょしたが、さっちゃんの真剣な目を見て、話すべきだと思い この村であった出来事を話す。丸鼠まるねずみに襲われた村人がどのように戦ったか。どのように死んでいったか。そして、この村の女性の話を聞かせる。

 話を聞き終わったさっちゃんは、神妙な顔になって黙り込む。わしはそんなさっちゃんの手を少し強く握り、さっちゃんも握り返す。


 沈黙の中、村の女性から聞いたスマンの居場所、オアシスのピラミッド型お墓に辿り着く。


「猫様……」

「久し振りにゃ。お墓に手を合わせて来るから、その後、少し話を聞いていいかにゃ?」

「はい」


 わしはさっちゃんを連れて、ピラミッドの中に入る。中央の墓石の前に行き、手を合わせ、二人で死者の冥福を祈る。


 祈りが終わると外に出て、スマンに改めて挨拶をする。


「待たせてすまなかったにゃ」

「いえ。猫様と、またお会い出来て光栄です」

「そんにゃに畏まる必要は無いにゃ」

「そんな……猫様に、こんなに立派なお墓も建ててもらい、感謝の言葉もございません。村の代表として、改めて感謝いたします。ありがとうございます」

「もういいにゃ。顔を上げてくれにゃ~。それより、あの後、どうなったにゃ? 聞かせてくれにゃ」


 深々と頭を下げるスマンに、わしは肩を押して頭を上げてもらった。


「行商に出ていた男も戻り、話し合った結果、やはりこの土地に残る事にしました。十年後には、この村はどうなっているかはわかりませんが、先祖、父が守ったこの村を守り続けていきたいと思います」

「そうにゃんだ……」

「そんなに心配しなくても大丈夫です。元々この村にはオアシスがあるので、多くの旅人が訪れていましたから、私も女性達も、男の一人や二人、捕まえてみせますよ」

「二人は欲張り過ぎにゃ~」

「あら、やだ」


 わしのツッコミに、スマンは照れているのか、関西のおばちゃんみたいな仕草になった。


「にゃはは。でも、その意気にゃら十年後も安泰にゃ。頑張って復興してくれにゃ~」

「はい。このお墓も、後世に伝えていきます」

「それは……」

「なんですか?」


 後世に残さないで! と、言いたいが、言える雰囲気でもない……


「にゃんでもないにゃ。それじゃあ、急ぎの用があるから、わし達は行くにゃ」

「またのお越しを、お待ちしております」



 深々とおじきをするスマンをあとにして、さっちゃんと村の出口に急ぐ。


「ねえ、シラタマちゃん?」

「なんにゃ?」

「人って強いね」

「そうだにゃ」

「この村だったら、この先も続くよね?」

「間違い無いにゃ」

「シラタマちゃんも見守っているしね!」

「にゃんのことにゃ?」

「建物の上にも、中にもいっぱい居たじゃない?」


 あ、居た……居たけどわしじゃない! 石像じゃ。うぅ。忘れていた。さっちゃんを連れて来るべきじゃなかった。このあとのセリフが、心の読めないわしでもわかる。


「わたしの……」

「嫌にゃ!」

「まだ何も言ってないじゃない!」

「さっちゃんには、わしより長く生きて欲しいにゃ。だから、作りたくないにゃ!」

「シラタマちゃん……」


 わしが力強く拒否すると、さっちゃんは感動して猫又お墓を作る事は回避でき……


「じゃあ、別で作って!」


 お墓は回避できたが、違う物をご所望してきやがった。


「にゃんのために~~~!!」

「観賞用?」

「嫌にゃ~~~!」

「どこに作ろっかな~?」

「聞いてにゃ~~~!」

「エヘヘ。楽しみ~」


 この後、わしの言葉をまったく聞かないさっちゃんを抱いて、女王の待つ飛行機までダッシュするのであった。



 飛行機に戻ると土魔法で作った物は片付けて、皆が乗り込むのを確認して離陸する。飛行機の中では……


「で……あんなに急いで何処に行ってたのよ?」


 女王の尋問が始まる。皆も注目しているように思えたが、その視線は無視するしかない。


「散歩って言ったにゃ~」

「嘘おっしゃい!」


 うぅ。女王オーラが痛い。しかし、逃げるように出て行ったから甘んじて受けるしかないか。


「「ごめんにゃさい!」」


 わしが謝ったら、さっちゃんも同時に謝って声が重なった。


「にゃ?」

「サティ?」

「シラタマちゃんに無理言って、連れて行ってもらったの。だから、怒るならわたしにしてください」


 どうした、さっちゃん? 「ごめんにゃさい」って言ったぞ? いや、そっちじゃない。いつもなら、わしに罪をなすり付けてくるのに……


「サティ……出先で何かあった?」


 女王も不思議に思っておるな。「ごめんにゃさい」にか?


「シラタマちゃんが救った村……滅びかけた村を見て来ました。そこでは、多くの死者を出したのに、強く生きる村人達と出会いました」

「そう……サティはどう思ったの?」

「こんな事があってはならないと思いました。もっと早く、もっと多くの人を助けられたらいいと……」

「そうね。それが国のトップに立つ者にとって、大切な心ね。でも……いえ。この話は、またの機会ね……」

「??」


 さっちゃんは女王が言い掛けた事はまだわからないかな? 大を救うためには小を切り捨てる。女王になったら迫られる問題じゃろう。わしも今は、理想を追い掛けて欲しい。女王も「ごめんにゃさい」に、ツッコまないで欲しい。


「サティには辛いけど、いい勉強をして来たのね」

「……はい」

「でも、『ごめんにゃさい』は変よ」

「へ?」


 女王の遅いツッコミに、さっちゃんは意味がわかっていないので、わしが代わりにツッコんであげる。


「いい話が台無しにゃ~~~!」

「シラタマのせいでしょ!」

「にゃんでにゃ~~~!!」


 わしの叫びはもちろん無視されて、撫で回されながら空の旅は続くのであった。

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