156 王族の会食にゃ~


「見えたにゃ~」

「もう!? はや~い!」


 女王を乗せた空の旅はお昼休憩を挟み、昼二の鐘(午後三時)過ぎに、目的地の南の小国ビーダール王都をとらえた。

 騒ぐ機内の者に着陸すると伝え、飛行機は王都の外れに着陸する。


「シラタマちゃん。ここから歩くの?」


 わしと一緒に、最後に飛行機から出たさっちゃんは、遠くに見える外壁を見ながら質問する。


「車で移動するにゃ」

「あの車? この人数じゃ、乗りきらないんじゃない?」

「ちゃんと対策して来たから大丈夫にゃ」


 わしはそう言うと次元倉庫に飛行機を仕舞い、いつもの車と、連結用に作った二号車を取り出す。


「わ! 新しく作ったの!?」

「そうにゃ」

「一台ちょうだい!」

「あげないにゃ~!」

「ケチ~」

「あげても、わししか運転できないにゃ」

「そっか。残念……」


 さっちゃんは残念と言いながらも、まだ諦めていない表情をしていたので、わしは違う話を振って忘れさせようとする。


「それより席順を決めるにゃ。さっちゃんは……」

「一番前!!」

「はぁ。女王と双子王女は、後ろが広いからそっちに乗ってくれにゃ」

「「「え~~~!」」」


 さっちゃんは子供だから前がいいのはわかるとして、三人までそんなに叫ばなくても……


「いや、前に乗ると窓が大きいから、人に見られやすいにゃ。それに、女王の為に作ったんだから乗ってくれにゃ」

「つまり私専用車……」


 なにその顔……欲しいのか?


「いや、あげないにゃ。あげないにゃよ?」

「冗談よ。ああ、近々、私の誕生祭があるの知ってる?」

「……知ってるにゃ」

「そうなんだ。フフフフ。さあ、乗りましょう。フフフ」


 なに? その含みのある笑い……車を諦めるからプレゼントを寄越せと? そんなプレゼント思いつかんわ! てか、依頼とはいえ、二つも用意したんだからわしにたかるな!


 もちろんわしの心の叫びは女王に華麗にスルーされ、席順を決めた皆は車に乗り込む。


 一号車には、さっちゃんとソフィ、アイノが運転席に座り、ドロテがソファー。リータとメイバイが兄弟達とベッドだ。

 二号車には、女王と双子王女が後部座席のソファー席に座り、侍女達はサイドの椅子に座る。何か飲み物が欲しければ備え付けの冷蔵庫からテーブルに運べる。

 イサベレも二号車に乗ってもらい、もしもの対応をしてもらう。



 皆が乗り込むと、さっちゃんの膝の上に乗り、土魔法で車輪を回す。連結している二号車の様子はわからないが、飛ばし過ぎて怒られるのは嫌だったので、バレないように、ゆっくりスピードを上げていく。


 車は順調に進むのだが、さっちゃんがうるさい。


「シラタマちゃん。遅い~!」

「いや、けっこう速いにゃ」

「昔乗った時、もっと速かったじゃない!」

「そうにゃけど、飛ばし過ぎたら女王に怒られそうにゃ」


 わしの心配を隣で聞いていたソフィとアイノは、なにやら呆れた顔で、わしとさっちゃんとの会話に入って来る。


「シラタマ様は、また怒られる心配ですか……」

「猫ちゃんらしいわね」

「怒られたくないから、わかってくれにゃ」

「むぅ……じゃあ、責任は私が取る。スピードアップよ!」

「それにゃら……行っくにゃ~」

「やった~!」

「シラタマ様!」

「あ~あ……」


 わしも遅くてイライラしていたので、さっちゃんの言葉を信じてスピードを上げる。ソフィとアイノの、言葉の意味に気付かずに……

 スピードアップした事によって、ビーダール王都にはすぐに着き、門兵に事情をするべく人型に変身したわしは、ソフィを連れて車から出る。


「あ! おっちゃん」

「これは猫殿」


 門兵には見知った兵士のおっちゃんがまじり、わし達を出迎えてくれた。


「おっちゃんがここにいるって事は、話は通っているのかにゃ?」

「はい。バハードゥ王からうけたまわっております」

「あの乗り物には偉い人が乗っているから、このまま街に入ってもいいかにゃ?」

「私が先導して案内しますので、問題ありません」

「よかったにゃ」

「では、手続きをしますのでこちらに」

「ソフィ。あとは任せるにゃ」

「はい」


 入国の面倒な手続きはソフィに押し付け……任せて、状況説明に、わしは女王の乗る二号車に入る。すると……


「シ~ラ~タ~マ~」

「「シ~ラ~タ~マ~ちゃ~ん」」


 怒る女王と双子王女が現れた。


「にゃ!? 怖いにゃ。みんにゃ怒って、どうしたにゃ?」

「どんだけスピードを出すのよ!」


 あ……しまった。さっちゃんが責任を取るって言ったのに、わしだけで来てしまった。このままでは、わしだけ怒られる。ちゃんと説明しなくては!


「あれはさっちゃんが言い出したにゃ。わしは抑えて走っていたにゃ~」

「なんで止めないのよ!」

「それは……さっちゃんが責任取るって言ったからにゃ……だから、わしは悪くないにゃ!」

「「「開き直るな!」」」

「にゃ~~~!」


 こうしてソフィが呼びに来るまで、わしのせいじゃないのに、単独でこっぴどく怒られてしまった。

 ソフィの登場で隙が出来たので、怒りの収まらない女王達から逃げ出し、ドアを魔法で固く閉じる。そして一号車に乗って、兵士のおっちゃんの案内で、街の中をノロノロと走らせる。


 街中では馬のいない馬車は目立ち、人が集まるが、兵士のおっちゃんが兵を操り、無事、高級宿屋に辿り着いた。

 今日は貸切りとのことで、ロビーに集合し、今後の話を女王から聞く。


 何故かわしとさっちゃんは正座で座らされてしまったが、素直に従っている。


「シラタマちゃん。チクッたでしょ!」

「人聞きが悪いにゃ! さっちゃんが責任を取るって言ったにゃ!」

「一人で怒られていたんだから、言わなくてもいいじゃない!」

「さっちゃんが一人で怒られてくれたらよかったにゃ!」

「ぐぬぬぬぬ」

「シャーーー」


 正座で座らされたわしとさっちゃんは、コソコソと口喧嘩をする。だが……


「あなた達……反省が足りないみたいね」


 地獄耳の女王が、凍てつくオーラを放つ。


「「すいにゃせん!」」


 わし達は女王に恐怖して平謝り。しかし、女王が皆のほうに目をやると、さっちゃんがまたからんで来やがった。


「ほら、また怒られたじゃない……」

「シーーー! つぎ怒られたら、にゃにをされるかわからないにゃ」

「そうね……続きはあとでしましょう」

「いや……」

「なによ?」

「シーーーにゃ!」

「う、うん」


 わしはまだ喧嘩をするのかと言いたかったが、女王の燃え盛るオーラを感じて、口を閉ざすように言う。さっちゃんも髪が少し焦げたみたいで素直に従った。ホンマホンマ。


 女王の話は適当に聞いていたが、どうやらこれからバハードゥ王と会食があるらしく、参加者は女王と三王女。護衛として、わしとイサベレが参加するとのこと。

 その他は、日が沈むまで自由行動を許されたみたいだ。おこづかいも支給するとは、女王は三段腹……じゃなく、太っ腹だ。

 わしはうまいこと言えたなとうつむき、笑いをこらえていたら、女王から拳骨をもらった。痛くはないが、皆に笑われたのは恥ずかしい。迂闊うかつな事は考えないようにしようと、心に誓った。


 女王の小言……では無く、予定を聞き終わると各自解散。わし達会食組は、二号車に乗り込み城に向かう。


「小言ってなに?」

「にゃ!?」


 城に向かう道中でも説教を受け、それを笑うさっちゃんも、とばっちりを受けて怒られていた。ざまぁみろ。


「なによ!!」

「にゃ!?」


 だから、心の声を読まないで……



 結局、さっちゃんにも怒られたわしは口を閉ざし、無心になって運転する。代わる代わる撫でられたが、無心にゴロゴロ言っておいた。

 城に着くと王の間に通され、バハードゥ王と妹のハリシャと挨拶を交わす。


「久し振りにゃ」

「いや、そんなに経っていないぞ?」

「あ、そうだったにゃ。にゃははは」

「それで、そちらが……」


 バハードゥが女王を見るので、わしは高らかに自己紹介してあげる。


「こちらは彼の東の大国、女王陛下の……ゴニョゴニョ……様にゃ!」

「シラタマ……」

「「「シラタマちゃん……」」」

「シラタマ殿……」

「シラタマ様……」


 ヤバイ……みんなに生温い目で見られておる。また怒られること決定じゃ。いつも女王って呼んでいたから度忘れしてしまった。たしか、なんとかーヌじゃったような……思い出せん。


「はぁ。東の国、女王のペトロニーヌよ。新王が誕生したと聞き、挨拶に参った。こちらの者は、私の娘、長女のジョジアーヌ、次女のジョスリーヌ、三女のサンドリーヌよ」


 おしい! ヌしか合っておらんが、かなり近かったとわしは思う。あ……女王に睨まれたから、無となろう。


「これは遠い我が国まで、ありがとうございます。私が新王となったバハードゥです。この者は妹のハリシャと申します。若輩者ですが、以後、お見知り置きを」


 ふ~ん。バハードゥは下手したてに出るのか。国の大きさで格の違いがあるのか? それとも、女王オーラのせいか? わしを睨むことで、大きく発したもんな。


「シラタマ……」

「にゃ!? にゃにも考えてないにゃ。怒らにゃいで~」


 またしても女王がわしの心を読んで目から怪光線を放つので、わしは後退る。すると、わしの行動を不思議に思ったバハードゥは、女王に質問する。


「ペトロニーヌ陛下。ひとつお聞きして宜しいでしょうか?」

「よい。申してみよ」

「シラタマ殿は、かなり強い者だと存じています。それを手なずける陛下とは、どのような関係なのでしょうか?」

「ペットよ」


 即答!? 女王はまだ諦めてなかったのか。いや、わしも即答で否定しなくては、バハードゥにペット認定されてしまう!!


「違うにゃ~!」

「どちらですか?」

「ペットよね~?」

「睨まれても、ペットだけはお断りにゃ! わしは自由を愛する猫にゃ。そんにゃこと言うにゃら、実家に帰るにゃ!」


 わしの剣幕に、珍しくさっちゃんが女王に意見する。


「お母様……言い過ぎです」

「そうね。悪かったわ。シラタマとは親友よ」

「猫と親友……」

「おかしな話だと思うけど、事実よ」

「いえ。私もシラタマ殿は、友だと思っております」


 え? いつの間に……バハードゥとはメシを食っただけの仲だと思っておったのは、わしだけか??


「シラタマ殿には国の危機を助けてもらいました。そのシラタマ殿の暮らす陛下の国にも、敬意を払わせていただきます。これからも、良き付き合いを宜しくお願いします」

「ええ。こちらこそ宜しく」


 南の小国ビーダールのバハードゥ王と、東の国ペトロニーヌ女王は笑顔で握手を交わす。この握手の後、数百年と変わらぬ友好関係を築く事となったのは、また別のお話……



 バハードゥ王との挨拶が終わると会食に変わる。城の広間に移動し、食事を交え、今後の話を女王とバハードゥは詰めているみたいだ。

 そんな中、わしはスバイスの効いた食事を頬張りながら、ハリシャと話をする。


「これも美味しいにゃ~。モグモグ」

「シラタマ様に喜んでいただき、光栄です」

「そんにゃにかしこまらなくていいにゃ」

「いえ。国の英雄に礼儀を尽くさないわけにはいきません」

「英雄も真っ平ごめんにゃ」


 ハリシャがわしを称えまくるので、その話を聞いていたさっちゃんは不思議に思ったのか、会話に入って来る。


「ハリシャさん。英雄って、なんの事ですか?」

「それは……」

「シーーーにゃ! さっちゃんに聞かれると面倒になるにゃ」

「なによ、その言い方! 教えてよ~」


 また始まった……ペットにしたがる女王といい、この王族は、わしをなんだと思っておるんじゃ。


「揺らすにゃ~。ごはんがこぼれるにゃ~」

「また食べ物の心配して~」

「フフフ……」

「「にゃ?」」

「いえ、お二人とも仲がよろしいのですね」


 仲はいいとは思うが、さっちゃんまで疑問で「にゃ?」と言わなくてもいいんじゃが……


「仲がいいと言えば、ハリシャはアイラーバと仲良くやってるにゃ?」

「ええ。仲良くしていますよ。先日も、頭に乗せてもらいました」

「へ~。人間嫌いなアイラーバと、そこまでの関係になったんにゃ」

「これもシラタマ様のおかげです」


 アイラーバの近況を聞いて笑っていると、さちゃんは勘違いしたようだ。


「シラタマちゃん。アイラーバって……人間?」

「人間じゃないにゃ。大きな象にゃ」

「象? あの置物みたいな?」

「そうにゃ。キョリスより大きいにゃ」

「あのキョリス様より……」


 あ! 目がキラキラしてる。これは絶対会いたいって言うな。さっちゃんの言いたい事ぐらい、わしにも容易に想像できる。

 さっちゃんもわしの心の声を容易に聞き取れるんじゃから、心の声で答えてやろう。予定が詰まっているからダメじゃ!


「会いたい!!」


 スルーかよ!


「そんなこと言わずに~」


 絶対、聞こえているじゃろ?


「そ、そんな事ないもん!」


 ほら……


「エヘヘ~」


 一人で話すさっちゃんを、不思議そうな顔でハリシャは見ていたので、普通に会話し、口喧嘩に変わると、双子王女に怒られる。

 わしとさっちゃんのしょんぽりする姿を見てハリシャは笑い、王族同士のおごそかな会食は笑いへと変わっていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る