698 三者会談にゃ~


「……てな感じにゃ。それで~……例の件はどうなったにゃ?」


 時の賢者の残した物は、嫌がらせ程度のメッセージだったのでわしのテンションはダウン。カパック達に一通り時の賢者の説明をしてあげたら話を変える。


「例の件ですか??」

「マチュピチュの仲間入りの話にゃ~」

「それでしたら、話をしてからと言ったじゃないですか」

「あ、そうだったにゃ。じゃあ、明日にでも行こうにゃ」

「簡単におっしゃいますけど、どれほどの危険があるか……」


 カパック達にはマチュピチュに設置した三ツ鳥居の話をまったくしていなかったので、一から説明。ここも魔力のある人が多かったので、補充も十分行えそうだ。

 あとは、連れて行くメンバーの選別だけ。これはわしが口を挟む事ではないので、日当たりのいい場所でランチをしてお昼寝。決まったら起こすように言っておいたのだが、めっちゃ撫でて来ると思ったら、リータ達だった。


「ゴロゴロ~。楽しめたにゃ~?」


 撫でられながら狩りの感想を聞いてみたら、獣が弱すぎていまいちのこと。なので、西に向かって狩りをしていたら海に出たそうだ。


「そんにゃ所まで行ったにゃ!?」

「いや~。ここの人は海まで行っていたと聞いたから、危なくないのかと思いまして」

「思ったより黒い森が狭かったニャー。黒い森から海までのほうが遠かったニャー」

「にゃるほど。調査してくれてたんにゃ~。ありがとにゃ~」


 ちょっと驚かされたが、リータとメイバイの報告を聞いたらクスコの為を思っての行動だったので、感謝のスリスリ。

 しかし、明日は南を攻めるとか言っていたのは止めた。だって、そっちのほうが強いのが居るとか言ってたもん。


 わしが止めるとめっちゃモフッて来るので、気絶しそう。なので、今日の会談の内容を聞かせて話を逸らす。

 もちろん時の賢者の話は期待値が低かったので、すぐに終えて真面目な話だ。


「明日はマチュピチュに行くんにゃけど……護衛でついて来てくんにゃい?」

「シラタマさんに護衛なんて……」

「うんニャ。必要ないニャー」

「わしじゃなくて、マチュピチュとクスコの双方にゃ~」


 クスコから少人数を連れて行く予定だが、どちらも険悪になっては、わし一人では心許こころもとない。スリスリスリスリお願いして、なんとか許可をもらうわしであった。



 そんな事をしていたら、カパックの使いがやって来てたので会議室に戻り、ディナーをしながらお喋り。マチュピチュに行くメンバーを聞いたら、百人以上の団体様。兵士まで入れてやがった。

 これでは戦争に向かうみたいなので、ネコの一声。人数を五人までに絞ってやった。護衛はわし達がするから、誰も死なせない。話し合いもわしが間に入るから、喧嘩に発展する事もないだろう。


「そんじゃあ、また朝ににゃ~」


 明日の予定が決まったら、さっさと撤収。キャットハウスでわいわいやって、就寝となるのであった。



 そして翌朝……


 中庭に集合したカパックを含めた各部族のトップを五人連れて、三ツ鳥居を潜った。


「今日も霧が酷いにゃ~。ちょっと待っててにゃ」


 マチュピチュの天候は濃霧。なので竜巻で霧を集め、四方に吹き飛ばしてやった。


「「「「「おおおお~~~」」」」」


 カパック達の反応は、三ツ鳥居に驚いてギャーギャー騒いでいたが、街並みを見て意外と感動している。マチュピチュは、噂では綺麗な場所と聞いていたそうだ。

 そうして感想を聞いていたら、いきなり霧が晴れたのでわしが来たと気付いたであろう老人が小走りにやって来た。


「シラタマ様! お待ちしておりました!!」


 この背の高い老人は、マチュピチュをまとめるクシ。土下座までして出迎えてくれようとしているので、「濡れるから」と言って止めた。


「思ったより早かったのですね」

「遅くなると心配すると思ってにゃ」

「ところでそちらの方々は……」


 クシは挨拶も早々にカパック達をチラチラ見ていたので、さっそく説明してあげる。


「結論から言うけど、心を強く持ってにゃ?」

「は、はい……そういうことですね……」


 わしの一言で察してくれるクシに、そのままの答えを告げる。


「クスコ王国は滅んでいたにゃ。この人達は、クスコで暮らす複数ある部族のみにゃさんにゃ。えっと……カパックから自己紹介してくれにゃ~」


 全ての部族名を聞いていなかったので、一人ひとり挨拶させて、わしもメモ。その中のケチュア族ってのが、クスコ王国の基盤となる部族だったので、クシは親近感を持っていた。


「ま、積もる話もあるだろうけど、場所を変えようにゃ~」


 老人だらけでは立ち話も辛いだろうと移動し、クシが会談用に準備してくれていた神殿に入る。人数にちょうどいいテーブル席に着いたら、お茶が来る前に会談の始まりだ。


「え~……まずはお互いを知ることから始めようかにゃ? それじゃあ、マチュピチュ側から行ってみようにゃ!」


 わしが司会をすると、クシから語るマチュピチュの歴史。それが終わると、カパックが語るクスコの歴史。各部族が補足して続く。

 わしはどちらもある程度知っていたが、けっこう面白いのでノートにメモ。リータ達は護衛で同席しているからいちおう聞いている。でも、コリスとオニヒメは寝てる。


「お互いの経緯はこんにゃもんかにゃ? じゃあ、今後の話に移ろうにゃ~。ここもクシから聞いたほうがいいかにゃ?」


 人数の少ないマチュピチュ側からどうしたいか聞き、クスコ側にも意見を聞く。

 その結果、どちらも小規模な交流から始めるのはどうかとの結論に至った。


「そんにゃ感じでいいんじゃにゃい? 塩と食べ物の物々交換にゃら、お互いの利害が一致してるにゃ。問題があるとしたら、クスコ側かにゃ~?」


 司会のわしが懸念材料を上げると、カパックが手を上げる。


「その問題とは?」

「クスコのほうが兵力があるにゃろ? 三ツ鳥居を一気にふたつ使えば、もしかしたら乗っ取れるかもしれないにゃ~」

「そういうことですか……」

「あ、いま、計算しちゃったにゃ??」

「い、いえ!」


 わしは失言したかと思ったが、カパックは違う事を考えていたようだ。


「相手を不安にさせない方法は無いかと思いまして……三ツ鳥居と言う道具はひとつだけ置くぐらいしか思い付きませんな」

「そうだにゃ~……我が国にゃら条約を結んで約束を破らないってことにするんにゃけど、どちらも文字が無いから違反しても、証拠が無いとか言い逃れが出来るんだよにゃ~」


 猫の国での国家間の話を詳しく説明していたら、リータとメイバイが手を上げたので発言を許可する。


「どちらも猫の国に入ってもらってはどうですか?」

「そしたらシラタマ殿がルールになるニャー」

「という案はあるけど、猫の国に留学して文字を覚えるってのはどうにゃろ??」

「「なんでスルーするにゃ~!!」」


 なんでもなにも、楽がしたいからだ。国に入れたところで、特に目ぼしい産業もないのでやる気が起きないし……またアルパカですか。その話は、つがいを貰う事でわしの中では落ち着いたんですよ。撫で回さないでください。


 わし達が揉めて……わしが揉まれていると、カパック達とクシ達とで話し合いが行われ、コリスが起きたと思ったら昼食とのこと。

 全員に適当な料理を並べ、リータ達を説得して昼食を終えたら、お昼寝……ダメ? ですよね~。


 またリータ達に揉まれていたら、カパック達とクシ達の話し合いが終わった。


「こういうのはどうでしょうか? 猫の国にその条約書という物を用意してもらって保管していただくのは」

「その約束を破った場合は、シラタマ様が罰を与えるとなれば、お互い危険なことはしないと思います」

「それって、わしが面倒にゃだけでは……」

「一時だけ協力してください。その間に文字を覚えますので」

「こちらも何か支払える物を用意しますので」

「ちょ、ちょっと考えさせてくれにゃ~」


 わしは席を外して考えようとしたら、リータ達がついて来ようとしたので、必死にスリスリして残ってもらい、見晴らしのいい場所で考える。


 脅しまくったからすぐにまとまると思っておったが、そうは上手くいかんか。それにわしが間に立たないと、どちらもいい方向に行かないと思うからやるしかないんじゃよな~。

 どちらも、数人の留学生を猫の国に送るとして、問題はリータ達じゃ。いまも猫の国に入れようと裏工作をしているじゃろうし、どうやって止めたものか……



 リータ達の策略を潰す方法をしばらく考えたら、わしは立ち上がって神殿に戻った。すると、カパックとクシが一緒に近付いて来た。


「あの……いまのところ猫の国に入るつもりはないのですが……」

「王妃様方の気持ちは有り難いのですが、勧誘は止めてくれませんか?」

「ああ。あの二人の言ってたことは忘れてくれにゃ」

「「そんにゃ~~~」」


 どうやらリータとメイバイがしつこく勧誘するから、カパック達に嫌がられていたのでラッキー! わしはしめしめと思いながら、話をするのであった。



「とりあえず、簡単にゃ条約書を作ろうにゃ。最後にわしが口に出して読むから、問題が無い場合は代表者の名前をわしが代筆するからにゃ」


 皆からの確認を取ると、口喧嘩の始まり。基本的に商談なので、お互いの納得いく形に持って行くには必要な口喧嘩だ。

 わしは「まぁまぁ」と宥めながら、猫の国の相場を教えてまとめて行く。かなり熱い口喧嘩になっていたが、終わった頃には、皆、スッキリした顔。初めてのやり取りで楽しかったのだろう。リータ達は消えていたけど……


「お互い暴力行為は無しにゃ。喧嘩になりそうにゃ場合は、わしに裁定はゆだねるにゃ。これで大丈夫かにゃ?」

「「「「「はい!」」」」」


 条約書を清書したら読み上げて確認を取ると、全員いい返事。代表者の名前をローマ字で書き、その後ろには拇印ぼいんを押させた。


「これで双方の約束が取り決められたにゃ。もしもこの条約を破った場合は、破った側から食料をわしが取り立てるから、気を付けるんにゃよ?」

「「「「「ははは、は~~~い!!」」」」」

「「「「「??」」」」」


 わしの恐怖を知らないマチュピチュの出席者以外は悲鳴のような返事をしてくれたので、クスコ側から条約を破る事はしないだろう。

 クシもカパックからわしの恐怖話を聞いたらすぐに納得したので大丈夫だろう。マチュピチュの霧を簡単に吹き飛ばす猫なのだから……


「これにて、一件落着にゃ~」


 マチュピチュとクスコの仲を取り持ったわしは、着流しから左肩を出して扇子で扇ぎ、決め顔。そして……


「それじゃあ、条約はそれでいいとして、最後はわしとの商談にゃ~」

「「「「「はい?」」」」」

「三ツ鳥居だって、タダなわけないにゃろ~」

「「「「「ええぇぇ~……」」」」」


 当然の権利だ。それなのに、これだけ双方に協力してあげているのに皆は嫌そう。最強の猫との取り引きをすっかり忘れていた皆が悪いのに、そんな顔をされる筋合いはない。


 結局はわしの一人勝ちで、三者会談は終了するのであったとさ。

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