454 実戦対決、決着にゃ~
くっ……なんだというんだ!
家康は、四体の【影人形】、十一体の【土猫】、十体の【風猫】が突如現れて混乱中。【影人形】は一体が刀を使って攻撃をするので、家康は残りの【影人形】の徒手空拳にも同じ対応をしてしまう。
土の塊の猫が足元をチョロチョロし、ヒットアンドアウェイで足を引っ掻くので、こちらにも意識が持っていかれる。
さらには、風の塊の猫がピョンピョン跳ねて引っ掻いて来るので、どの攻撃を優先していいかを考え、極力受けない闘いをしてしまう。
しかし、そんなシラタマの攻撃は、戦国の世を征した家康に、数分後には看破されてしまう。
フッ……落ち着いて考えれば、なんのことはない。風と土の猫の攻撃なんて、
ただ、刀を持った奴だけは注意じゃ。秀忠より速い攻撃に、まったく意識の切っ掛けが掴めないから、いつ攻撃して来るのかわからん。それと、腕を切り落としてもすぐに復活するし、他の人形が刀を拾うから、攻撃が止まらん。
じゃが、秀忠に毛が生えた程度じゃ。余裕で対応できる。
家康は、【猫人形】に引っ掛かれても、黒い【影人形】にだけ注意して軍配を振るい、闘いながら考える。
問題は、あの猫の姿が消えている事じゃ。場外は負けになると知っているから、舞台の上に居るのは確実。まず、間違いなく、
候補はみっつ。影人形、風の猫、土の猫。土の猫だけ風の猫より一匹多いところを見ると、これが正解……という罠じゃろう。
ふたつは実態の無い物ばかりだから、一匹足して、わざと引かせようとしているのは見え見えじゃ。風の猫も、全て儂に向かって来て触れたから外せる。
残りは影人形が四体。その中で、上手く立ち回っているようじゃが、儂に近付かない人形が一体ある。儂が気付かないとでも思っておったか?
これで間違いない。あとは、わしが気付いていると悟らせず、どの機会で始末を付けるかじゃ。有無を言わさず、殺す。もしくは、明日の試合に出れないほどの傷を
一撃で、確実に、軍配を当てる……この軍配にわしの呪力を乗せれば、鉄を斬り裂くぐらい、なんの事はない。それも悟らせない為にも、勝負の瞬間に呪力を乗せる。簡単な作業じゃ。
ひとまず、数を減らして、炙り出してやろうかのう。
ここから家康は、冷静に一匹ずつ【猫人形】を消して行く。【土猫】が足元に来れば踏み潰し、尻尾で叩き潰す。【風猫】が飛び込めば大きな手の平と、太い尻尾で掻き消す。
【影人形】の刀を軍配で受けながら、着実に【猫人形】の数を減らし、半数以下になった瞬間、それは起こる。
ふふん。焦っておるのう。
【影人形】、【風猫】、【土猫】の一斉攻撃。まずは【猫人形】が四方八方から家康に飛び掛かった。
だが、家康はこれを無視。【風猫】がガンガンぶつかり、【土猫】が足をカリカリ引っ掻く中、一直線に縦に並んだ【影人形】を、家康は正面に捉える。
その【影人形】は、刀を持った一体目がジャンプすると、次々に続く。そして、一体目は刀を振りかぶる。
ふんっ! それは
家康は、【影人形A】を無視。すると刀は【影人形A】の手から離れ、後ろの【影人形B】が握る。その【影人形B】も刀を手放し、【影人形C】に。【影人形C】から【影人形D】へとバトンタッチしていく。
来た! 最後はお主が刀を振ると思っておったぞ!!
家康は最初から、今まで近付かなかった【影人形D】を警戒していた。さらには、シラタマから放たれた攻撃の意思を感じ取って、軍配を振りながら呪力を流し、【影人形D】の胴体を真っ二つに斬り裂いたのであった。
「とった!!」
家康の勝利宣言……
「ハズレにゃ~」
それとほぼ同時に、シラタマの
「なっ……ぐわ~~~!!」
そして家康が驚いた瞬間、後ろ向きに放り投げられたのであった。
* * * * * * * * *
時は少し戻り、家康の目の前に
わしは塵旋風に入って姿を隠すと、せっせと魔法を使っていた。まず最初に使った魔法は鉄魔法。戦闘機の修理用に持っていた黒魔鉱を刀の柄に薄く
次に影魔法。わしそっくりの【影人形】を作ると刀を握らせる。皇帝との戦闘で【シャドーマン】なる【影人形】が白魔鉱の武器を握っていたので、黒魔鉱ならいけると思ったが、上手くいったようだ。
その【影人形】は、刀を握ったらすぐに突撃。家康を斬り付けているだろう間に、三体の【影人形】を追加する。
【影人形】に家康が戸惑っている隙に、【土猫】十一体、【風猫】を十体作ると、塵旋風を解除する。そして一声かけてから【影人形】三体を走らせ、そのすぐあとに【風猫】と【土猫】を一斉に走らせる。
【影人形】には複雑な命令を乗せて、猫人形には簡単な命令。おそらく家康は、【影人形】を警戒すると思っての命令だ。
思った通り、家康は猫人形は無視していたから、わしは安全圏で時々命令を上書きしつつ、戦いを見守っていた。
わしはどこに居たのかというと、影の中。服部
その呪術を使って、最後に走らせた【土猫】の影に潜み、家康の影に重なった瞬間に乗り移って、わしは高みの見物……いや、低みの見物。
影の感じから家康が慌てているのを楽しみ、動きが落ち着いた頃には、わしの罠に嵌まる事をわくわくして待つ。
予想通り、数を減らしに掛かったので、一斉突撃から【影人形】の刀バトンタッチ。最後の一体が攻撃する瞬間に、家康の足をカリカリしている【土猫】にまじって、わしも合わせて攻撃。その意思で、これまた予想通りに家康は動いてくれた。
「とった!!」
家康が勝ち誇った声を出したので、影から這い出して後ろから足を抱いていたわしも乗ってあげる。
「ハズレにゃ~」
「なっ……ぐわ~~~」
そして、投げっぱなしジャーマン。家康は高々と飛んで行き、舞台から出てしまった。
「こ、これしき!」
もちろん、そんな事で、タヌキの化け物は場外負けにはならない。家康は空中で風の呪術を使って舞台に戻ろうとする。
もちろん、わしもそんな事は読み切っている。
「ぐっ……」
放り投げた瞬間に、刀を持った【影人形】を走らせ、場外で浮いている家康に斬り付ける。その攻撃で、家康は軍配で防御して呪術の詠唱が止まり、すぐに詠唱に戻ろうとするが、ちょっと遅い。同時に走らせていた【土猫】二匹が乗っかった。
「こんな物!!」
「ざ~んね~んにゃ~。ニャメて全部壊さなかったのがマズかったにゃ~。終わりにゃ~」
「な、なんじゃと~~~!!」
家康が自分の体に風の呪術を当てるが、もう遅い。重力魔法を使って【土猫】を重くしているからだ。普段は使いにくい重力魔法だが、わしの魔力で作った物に加え、あまり動きの無い現状なので、上手く重さが増えてくれている。
その重たい【土猫】に乗られた家康は一瞬耐えるが、徐々に重力を増やせば、ゆっくりと地面に近付く。もしも呪術ではなく、地面に足をつけていたならば耐えられただろうが、空中では耐えられるわけがない。
家康は顔を真っ赤にしながら【土猫】の重さに耐え兼ね、地面に背中をつける。
「勝者! 猫の~王~。猫の~~王~~~」
嬉しそうな玉藻の勝ち名乗りに、わしは
さすがは五尾の化けタヌキ。重力百倍でも、風魔法でそこそこ耐えたな。ここから強さを逆算すると、白穴熊ぐらいあるかもな。まぁわしの敵ではないけどな。
わしが家康を見つめていると、立ち上がって近付いて来た。
「いい試合じゃった」
握手? 将軍からやり方を聞いておったのかのう……てか、何かやらかしそうじゃな。
わしは少し警戒しながら家康の手を取ると、ギュッと握られてしまった。
「にゃ!? 痛いにゃ~!!」
「おお、すまんすまん。闘いに浮かれて、つい、力が入ってしまったわい」
別に痛くはないけどな。でも、乗ってあげるのが礼儀じゃろう。
家康が手を離すと、わしはフーフー息を吹き掛けて、痛みを減らす演技をする。
「あれほどの式神を使うとは、なかなか面白い呪術じゃったぞ。それに、服部の呪術も盗んだか」
「せっかくにゃんで、さっそく使わせてもらったにゃ。アレが無ければ、ご老公に勝てなかったにゃ~」
「たしかに、すっかり騙されたわい。じゃが、次はそうはいかんぞ。わしも本気を出させてもらうからな」
「それは怖いにゃ~。もっと手を抜いて欲しいにゃ~」
「ぬかせ、このタヌキ」
「猫だにゃ~」
「わはははは」
「にゃはははは」
こうしてわしと家康はにこやかに背中を向け、観客の大歓声を聞きながら、両陣営に戻るのであった。
* * * * * * * * *
五重塔に戻った家康は、怒りの表情。いや、シラタマに背中を向けた瞬間から顔は豹変し、控え席に居た秀忠達の背筋を凍らせた。
その秀忠は家康と共に五重塔に入り、声を掛けられないまま、ずっと土下座をしている。
「あの猫……儂が思っていたより遥かに強いぞ」
家康の発言に、秀忠は少しだけ面を上げる。
「そ、そんなにですか?」
「呪術では、完全に上を行かれた。力はまだわしに足りないじゃろうが、秀忠では届かん。どうりで秀忠が簡単に負けるわけじゃ」
「も、申し訳ありません!」
シラタマの強さを聞いても、秀忠は自分を責めるように謝る。
「その気持ちがあるのなら、次は奴の腕でも足でも捻り潰せ。死ぬ気になれば、それぐらい出来るじゃろう」
「はっ! この秀忠、必ずやあの猫の力を削ぐと誓います!!」
「ふむ、その意気じゃ。最後の人間将棋では、副将が決め手になるはずじゃ」
「副将……」
秀忠は家康の言いたい事を先に予想する。
「あのコリスとかいう
「それだけじゃない。イサベレもおる。いや、綱引きに出ていた二人の女子、呪術対決に出ていた黒猫とオニヒメ。猫の国は、我らと張り合える面々ばかりじゃ」
「たしかに……全員出場するとなると、かなり熾烈な闘いになりそうです……」
「心配するな。わしが王将で出る」
家康の発言に、秀忠は目を輝かせる。
「おお! 父上の采配が拝めるのですか!!」
「くっくっくっ。戦国時代を思い出し、血が沸くのう……」
家康は笑い顔から鋭い目付きに変わると、勢いよく立ち上がる。
「これより軍義を執り行う! 出場者を集めろ!!」
「は、はは~」
こうして徳川陣営では、夜遅くまで軍義が執り行われるのであった。
* * * * * * * * *
一方、オクタゴンに戻ったわしは……
「にゃあにゃあ、シラタマちゃ~ん?」
「にゃあにゃあ、シラタマ~?」
たくさんの猫が舞台を駆け回っていた事で、さっちゃんやワンヂェンに馬鹿にされ、各国の王から笑われていた。
猫が猫を使う事がそんなにおかしいか!? 勝ったんじゃからいいじゃろ! 労いの言葉のひとつでも掛けてくださ~い!!
リータとメイバイ以外、わしを労ってくれないので、笑う皆に「にゃ~にゃ~」罵詈雑言を浴びせ掛けてエスケープ。食堂に逃げ込んだ。
しかし、逃げ込んだ先にも先客がおり、ここでも笑われてしまう。
「ぷっ……あははは。猫が猫を使っておるとは、笑い死ぬところだったぞ! あはははは」
先客とは、ちびっこ天皇。いつの間に来たのか知らないが、玉藻とテーブル席で晩メシを食ってやがった。
「笑うにゃ~! てか、にゃんでわし達を差し置いて、勝手に食ってるんにゃ~!!」
しばしちびっこ天皇と「にゃ~にゃ~」喧嘩していると、耳を塞いでいた玉藻がわしを抱き締めて来た。
「にゃ!?」
「にゃっ……玉藻……ボクにはしてくれにゃいのに、にゃんでそんな猫にゃんかに!!」
「『にゃ~にゃ~』うるさ~~~い!!」
どうやら玉藻は、わし達が「にゃ~にゃ~」喧嘩していたから、わしを物理的に黙らせる為に抱き締めたようだ。さすがに玉藻の巨乳と馬鹿力で締め付けられたからには、わしはぐったりして魂を吐き出すのであった。
ちなみに、ちびっこ天皇がわしの口調をマネしていた事は、二千年後の歴史学者の頭を悩ませる事になったのであったとさ。ホンマホンマ。
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