503 釣りに出掛けるにゃ~
玉藻と家康が日ノ本へ帰った翌日、ソウの別荘でリータ達に叩き起こされたわしは、猫会議に参加する。
今回の開催場所はソウという事もあり、移動時間が短いからもうちょっと寝かせてくれていてもいいのに……
皆さん前乗りしているのですか。それなら昨日、一緒に晩ごはん食べたの……覚えています! まだボケていません!!
若干、寝惚けていたわしは、昨夜の出来事を忘れかけてしまった。なので、リータとメイバイに気合いを入れられてから、猫会議に挑む。
今回も各街の報告を聞いて、「上手くやってね」と言うだけ。いつも通り順調なのですぐ終わりそうだが、ふたつほど面倒な議題があったので、いつもより時間が掛かってしまった。
ひとつは、ハンターギルドの仮稼働。ハンター協会からはほとんどオッケーを貰っているのだが、実地調査が残っているので、近々調査員がやって来るとのこと。
これが終わったら来年の春に、一番森の近い猫耳温泉からハンターギルドを稼働して行く予定だ。
そもそもわしの指示で、東の国のハンターギルドと同じような間取りの建物を作らせ、軍人から民間人になりたい人を集めて仕事をさせていたのだ。施設もハンターも確保しているから、いつ民営化しても問題ない。
ハンター協会からやって来るギルマスと、こちらから出すサブマスの給金に関しては、初年度は国が持たないといけないらしいが、それも各街から支出できるように貯めてもらっていたので何も問題ない。
各街の状況だけ聞いて、「上手くやってね」と言っておいた。
もうひとつの議題は、エルフの里の取り扱い。シウインとユーチェンの挨拶は昨夜済んでいたので、代表選挙の様子や勉強状況を聞かせ、抱負を述べさせた。
さすがはわしの信頼厚いシウイン。英語でハキハキ喋り、他の代表からも温かく向かえられた。
しかし、商売関係で摩擦が生じる。高級野菜類の販売は少ないからまだいいのだが、キャットコンテナの製造権が納得いかないようだ。
たしかに他の街で作られた木箱は売れなくなるし、職人の仕事を奪う事になってしまう。なのでここは多数決。メリットとデメリットをこんこんと説明してから、無記名投票。
その結果、一人の反対者しか出なかったので、正式決定となった。
センジはもうちょっと普通の顔ができんのか? 悔しさがだだ漏れで、一発でバレておるぞ? まだハデな仕事を欲しがっておったとは……
基本、ラサ以外は人手不足なので、職人を他の仕事に回せるから、そこをつつけばどの街も賛成に回ってくれたようだ。
猫耳族の代表はわしの意見には賛成を取る事が多いので、もしも同票になっていたら逆側に立つ予定だったが、今回は必要なかった。
あとはエルフの里の仮稼働と正式稼働の話を詰めれば、各種議題は終了。世間話をしつつ些細な問題を炙り出すのだが、大きな問題があるようだ。
「「「「「早く旅に出てください!!」」」」」
「そんにゃにわしを国から追い出したいにゃか~~~!!」
そう。『猫王様の東方見聞録』は、各街の代表も熟読しており、「いつ行く?」「早く行け」のオンパレード。サインまで全員分書かされて、猫会議は幕を下ろすのであった。
猫会議が終わった翌日。玉藻達から釣りに誘われていたので、朝から京へ転移する。今日も猫ファミリーで京をカッポし、御所にて玉藻と会うと、三ツ鳥居からどこだかわからない神社に移動した。
その神社から出ると家康が突っ立っていたので、挨拶してから移動の話し合い。ここから少し離れているらしいので、バスに乗り込み、玉藻の運転で進む。
リータ達とどこに向かうのかと喋っていたら、海岸にて降ろされた。
「にゃあにゃあ? 釣り場って、川じゃにゃいの? ウナギを捕まえたかったんにゃけど~??」
わしが質問すると、玉藻と家康は申し訳なさそうに答える。
「すまないな。今回は海じゃ」
「準備も済ませているから、今回は海で勘弁してくれ」
「ふ~ん……ま、海でもいいにゃ。にゃにを狙うにゃ? 岸からにゃら、カレイかヒラメかにゃ? クエにゃんて釣ってみたいにゃ~」
「いや……沖に出ようと思う」
「沖にゃ? 危険じゃにゃいの??」
「まぁそうなんじゃが……」
なに、二人の口の重さ……沖なんて出ても、ヤマタノオロチ級が出たら大変じゃ。休暇で来たんじゃから、そんなものと戦うなんて、心休まらん。
……待てよ? よくよく考えてみたら、日ノ本最高戦力が二人揃って船に乗るのって、おかしくない? まるで強敵に立ち向かうような……
「そ、それで、狙いはにゃに?」
わしは不穏な空気を感じて質問するが、その答えはわしの思っている物ドンピシャ。
「「白い魚じゃ」」
「帰らせていただきにゃす!!」
わかりきった答えだったので、わしは被せ気味に拒否って帰ろうとするが、回り込まれてしまった。
「シラタマさ~ん。私も戦いたいです~」
「私もニャー。訓練の成果を見せるニャー」
玉藻と家康ではなく、リータとメイバイにだ。
「ちょ、ちょっと待つにゃ! ヤマタノオロチみたいにゃのがゴロゴロ居たらどうするにゃ~」
「その場合は、飛行機に乗って逃げます」
「コリスちゃんとオニヒメちゃんに頼むニャー」
「にゃんで対策バッチリにゃの!?」
「「お願いにゃ~」」
リータとメイバイが甘えて来たと同時に、わしは後ろから、家康と玉藻に両肩を叩かれる。
「奥方もこう言っておるのだ。決定でいいじゃろ」
「ほれ。シラタマのクルーザーを真似た船も用意してやったぞ」
わし達が喋っている間に、二人は土魔法で船を作っていたようだけど、わしは乗りたくない。
「それはなんにゃ! どこに乗り込むんにゃ!!」
玉藻の作った船は、わしのクルーザーをひとつもマネておらず、横向きにグルグルとぐろを巻いたスタイリッシュなオブジェが海に浮かんでいるだけ。
「隣もにゃに!? そんにゃの、すぐ沈むにゃ!!」
家康の作った船は、見たまんま泥船。タヌキが乗ったら、必ず沈むようなデザインだ。
「「渾身の船なのだが……」」
「言ったにゃ!? まずは二人で操縦して見せろにゃ~~~!!」
どこをどう見たら渾身の出来かどうかわからない船に、二人は意気揚々と乗り込む。ちなみに家康には、
当然、船とは掛け離れたデザインだった為、どちらの船も少し進んだところで沈没していた。
「「渾身の船が……」」
「まだ言うにゃ!?」
役に立たない二人はずぶ濡れで尻尾を垂らしているので、頼りになる、頼りになるこのわしが、新しく船を作る。大事な事だから二度言っておいたぞ。
この人数ならクルーザーでも問題ないのだが、化け物が多く棲息するであろう沖に出るには
乗り込む人数は七人だけなので、ブリッジと数部屋しか用意していない。中央に背の高い建物と、両脇に四角い建物がくっついているだけなので、ほとんど空母のようなデザインになってしまった。
その真下、真ん中に浮きになる程度の空洞があるだけなので、【玄武】に近い防御力があるはずだ。これだけ大きければ波も感じず、黒い魚の攻撃程度ならものともしないだろう。
「でっかいのう。ヤマタノオロチのようじゃ」
「相変わらず、凄い呪力じゃな」
玉藻と家康が船を見上げる中、リータとメイバイが変な事を言って来る。
「おっきいですね~。それで名前は……」
「やっぱりニャー……」
ヤバイ! また猫が付く名前を付けられそう。早く名前を付けねば!! 何かいい名前は……
「エリザベスクイーン号にゃ~」
「「猫は??」」
「入ってるにゃ~。エリザベスは猫にゃ~」
「「う~ん……」」
元の世界で聞いた事ある船の名前を、前後逆にしただけじゃけど、ちょうどいい名前があってよかった。これで、二人も納得してくれるはずじゃ。なにせ、わしの兄弟の名前が入っているんじゃからな。
「「じゃあ、エリザベスキャット号で!!」」
「にゃんでにゃ~!!」
わしの案はすかさず折衷案となり、巨大船の名前は、ある意味「猫、猫」という名前に決定してしまうのであった。ちなみにクルーザーはこの機に、「ルシウスキャット号と命名されるのであったとさ。
名前が決定すると、タラップを付け忘れていたので、全員大ジャンプで乗り込む。といっても、半数しか甲板まで届かないので、わしが【突風】を使って乗せてあげた。
「それじゃあ、出発進行にゃ~!」
「「「「「にゃ~~~!」」」」」
こんなに大きな船の操縦は、元の世界でも出来ない経験であったので、少しテンションの上がったわしは舵をクルクル回して出港させる。舵は雰囲気で付けた物だから、あまり意味はないけど……
動力は例の如く、風魔法。後方下部に噴射口を付けておいたので、そこを目印に風を吹き出して進む。
曲がりたい場合は、前方左右に噴射口があるので、上手く吹き出して曲げる予定だ。減速したい場合には、前方にも噴射口があるから簡単に止まれる。
しかし浅瀬で作ってしまったので、船底が当たって動かない。なので、しばらくは水魔法で持ち上げて進ませる。この中で出来るのは、わしと玉藻しか出来ない出港方法だ。
しばらくして、無事浅瀬を抜けて薄黒い海を進むのだが、何やら後ろで盛り上がっている声が聞こえていた。
「「「「じゃ~んけん、ぽん!」」」」
どうやら、玉藻、家康、コリス、オニヒメが操縦したがってるっぽい。
「やった~! ホロッホロッ」
「「くそ~~~」」
そしてコリスが勝ったっぽい。玉藻と家康は悔しそうにし、オニヒメは肩を落としているように見える。
「まだわしも楽しみたいんにゃけど……」
「「「「ええぇぇ~!?」」」」
「わかった、わかったからを引っ張るにゃ~!!」
皆に服や尻尾やヒゲ、至る所を引っ張られたわしは、仕方なく操縦を譲るのであった。
大きな船の操縦方法は簡単というわけにはいかないので、講習会。まずは舵を握らせる。先ほどは意味のないような事を言ったが、実は意味がある。船のど真ん中である確認と、噴出口の位置が特定できるようになっているのだ。
船は魔力で出された土を使っているので、他者であっても集中すれば、形ぐらいは感じ取れる。これは、飛行機でも検証済みだ。
舵を握って自分の魔力を弱く流せば、噴出口の形がうっすら確認できるので、ここから必要なだけの風を出す事が出来れば、誰でも操縦できる。
ただ、これだけ大きいと噴出口の確認と風の量の調整に、皆、てこずっているように見えた。
コリスから始まり、特に問題なく講習が続き、最後の玉藻の順番となった。
「玉藻はすぐにコツを掴んだにゃ~」
「先だって、クルーザーを操縦した事があったからのう。風の量を多くすればいいだけじゃ」
「面舵、取り舵も問題なさそうだにゃ」
「ああ。こっちのほうが操縦しやすいぞ」
クルーザーは舵取りに土魔法を使っておったもんな。風魔法を使っている最中に属性を変えるのは、たしかに難しいか。魔法の世界に、前世の固定観念で作ってしまったのは、失敗だったということじゃな。
まぁ皆は
「それじゃあ、適当に順番で交代してあげてにゃ~」
わしは次元倉庫からクッションを取り出すとブリッジから出て、寝るのに気持ち良さそうな場所を探す。
甲板は日当たりはいいけど、風がうっとうしいか? やはりここは、室内がよさそうじゃな……ん? リータとメイバイが船首でなんかしてるっぽい。
わしは何をしているか気になったのでトコトコと船首に向かうが、途中で何をしているか気付いて走り出した。
「にゃにしてるにゃ~!!」
「どうです! 渾身の出来です!!」
「私も現場監督で頑張ったニャー!!」
わしが辿り着いた時には、時すでに遅し。船首には、大きなわしの顔と両前脚がくっついており、船尾には三本の尻尾。ブリッジも猫又に変えられており、手摺には所々わしの顔がくっついていた。
「にゃんでこんにゃことに……」
どうやらリータとメイバイは、わしが講習会を開いている最中に製作していて、いっこうに止めに来ないので、いつにも増して張り切って作ったようだ……
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