504 謎のレベルアップにゃ~
リータとメイバイのせいでファンシーになってしまった猫又巨大船「エリザベスキャット号」は海を行く。
いちおう元の形に戻すと言ってみたのだが……
「あ、おネムの時間ですか!」
「お昼寝の時間ニャー!」
と言われ、強引に室内に連れ込まれて膝の上で撫で回されて、見なかった事にさせられてしまった。当然、あまりの気持ちよさに眠ってしまったので、もう一度その件に触れる元気がなくなってしまった。
昼になるとコリスが来たようで、わしは頭をカジカジされて目覚める。なので、高級串焼きを支給してブリッジに顔を出し、甲板で食事を取る事にした。
テーブルセットを用意すれば、わしの次元倉庫に入っている料理を各種取り出し、皆で和気あいあいと食べる。
そうして360度の海原を見ながら食後のコーヒーを飲み、玉藻と家康に話を振る。
「ところでにゃんだけど、ここはどこで、どこに向かっているにゃ?」
「蝦夷地じゃ。そこから北海を南下し、京の沖まで進む予定じゃ」
たしか北海ってのは、日本海の古い呼び方じゃったはず。北海道から日本海を南に抜けるのか。
「ふ~ん……けっこうにゃ長旅になりそうだにゃ~。ちにゃみに、いまはどの辺りに居るにゃ?」
「松前藩を出たから、その近くじゃ」
「言い方が悪かったにゃ。北緯にゃん度で、東経にゃん度?」
「北緯??」
「東経??」
質問に質問を返す玉藻と家康を見て、わしは背中に冷たいものを感じる。
「えっと……海図にゃんかは……」
「海図? 海の地図という事か……ないぞ」
「えっと……移動した距離はわかりにゃすか?」
「わからん。こんな何もない場所で、どうやったらわかるんじゃ」
「という事は……そうにゃん??」
「「そうにゃん??」」
「遭難してるにゃ~~~!!」
「「「「へ?」」」」
わしが叫び声をあげると、玉藻と家康に続き、リータとメイバイもとぼけた声を出しながら辺りを見渡す。
「海しかありませんね」
「うんニャ。何もないニャー」
「どっちに行けば、日ノ本があるんじゃ?」
「ここからどうやって京に進むんじゃ?」
そしてみんなしてわしに視線を集めて来るので、わしは答えを言う。
「それが遭難にゃと言ってるんにゃ~!!」
「「「「まっさか~……」」」」
さらに現実逃避。からの~……
「どどど、どうするんですか!?」
「東! 東に行けば日ノ本があるはずニャ!!」
「どどど、どっちが東じゃ??」
「お、落ち着け。太陽が昇る方向……真上にあるぞ!!」
パニック。皆はワーキャー言いながら、帰る方向を探る。ちなみにわしはというと、冷静なもの。
ブリッジには方位磁石も取り付けてあると説明したのに、玉藻と家康が焦っているので冷ややかな目で見ている。それに、転移魔法があるのだから、いざとなったら転移すればどこにでも帰れる。
それならば、何故、皆を焦らすような事を言ったのかというと、その事を忘れていたからだ。皆のパニックになった姿を見て、冷静になったから思い出したのだ。なので、皆を笑う事をせずに冷静にコーヒーを飲んでいる。
そうしていると、コリスと一緒にお菓子をポリポリしていたオニヒメがわしに近付き、袖をクイクイと引っ張って来た。
「にゃ? どうかしたにゃ?」
「くる」
来る? あ~。オニヒメの危険察知に何か引っ掛かったか。よくよく考えたら、わしの探知魔法は水の中に入らないといけないから、敵を早期に見付けられんな。
いまさら魔道具を船底に付けるのも難しいし、オニヒメが居てくれて助かるのう。
「は~い。注目にゃ~」
オニヒメから魚が来る方角を聞いたわしは、ぶにょんぶにょんと肉球を叩いてみたが、誰もこっちを向いてくれない。
「右舷から魚が来てるみたいにゃ~」
「「「「サ・カ・ナ……」」」」
魚と聞いて、騒いでいた皆はぬるりと振り返るので、ちょっと怖い。
「
「
「私も戦ってみたいです~」
「ニャーーー!」
玉藻、家康、リータはヤル気満々。メイバイは……魚と聞いて久し振りに猫になっているが、ヤル気満々だと思われる。
とりあえずわし達は広い甲板の右側に集まり、海を切り裂く生き物を見据える。
「えっと……フカかにゃ~?」
「あの背ヒレはワニじゃないか?」
「いや。サメじゃ」
わしはサメがなんと呼ばれているかわからなかったので、近畿の古い名称で呼んでみたが、意見が分かれる。玉藻のワニは、おそらく神話の時代から呼び名が変わっていないと思われ、家康のサメは、地域でそう呼ばれているのだろう。
「ワニってのはだにゃ。西の地では爬虫類で、四つ足で歩くんにゃ。とりあえずご老公のサメで統一するにゃ~」
「なんじゃと!?」
「ふふん。江戸で統一するとは、よくわかっておる」
「統一するなら、京じゃろうが~!」
呼び名で若干揉めて「にゃ~にゃ~」言い合っていたら、リータとメイバイが話に割って入る。
「このままではぶつかりますよ」
「おっきいのに大丈夫ニャー?」
おっと。揉めてる場合じゃないか。あの魚影なら、およそ20メートルの白いサメってところかな? 強さは海に浸かっているからわからんが、あれぐらいの大きさなら、わしと玉藻なら余裕じゃろう。
でも、よくもまぁこの巨大船に挑んで来れるな。白サメは船体の十分の一ぐらいしかないのに、バカなのか?
「とりあえず、わしが相手をするって事で……」
「「「「却下!!」」」」
ここであまり強い攻撃をすると、日ノ本の海岸線が波でエライ事になりそうなので、ひとまずわしが戦ってみてから作戦を決めたいのだが、玉藻と家康はそれすら許してくれない。
「漁村には、一週間は海に近付くなと言っておいたから、多少はなんとかなる」
「それに神職も漁村に多く配置してあるからな」
「準備万端だにゃ!?」
どう言ってもわしが戦う事を阻止する玉藻と家康に負けて、まずはリータ達で戦わせる事に決めてみた。もしもてこずるようなら二人に助けを求める事と、もっと大物なら任せる事で納得してもらった。
だってそうでも言わないと、リータとメイバイの悲しそうな顔がかわいそうだったんじゃもん。出来れば、戦って欲しくないけど……
「さて……作戦通り行くにゃ~!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
「【青龍】にゃ~!!」
皆の気合いの入ったかどうかわからない掛け声を聞いて、わしは10メートルはある氷の龍を宙に浮かせる。
白サメは凄い速度でエリザベスキャット号に近付いていたので、速度を見極め、側面に接触する間際に【青龍】を落としてやった。
「「「「あ……」」」」
瞬殺……エリザベスキャット号の右舷と海は凍り付き、白サメまでもが氷に包まれたので、皆はわしをぬるりと見る。
「まだにゃ! リータ、いまの内に距離を詰めるにゃ~!!」
「え……あ、はい!」
白サメは凍り付いて瞬殺に見えたが、分厚い氷に亀裂が入る。わしは氷の違和感にいち早く気付いたので指示を出したら、リータは、メイバイ、コリス、オニヒメを引き連れて船から飛び降りた。
そうして皆が走っていると白サメは暴れまくり、亀裂は大きくなって、氷から顔が出て来た。
「オニヒメちゃん! 氷で拘束!!」
「【氷猫】にゃ~」
そこに、オニヒメを背負ったリータの指示。オニヒメは氷の猫を走らせ、亀裂から入った水を凍らせて、亀裂を埋める。
「一瞬しか持たない! メイバイさん、コリスちゃん!」
「行っくニャー!」
「おいしいの~!」
リータが名を呼ぶだけで、二人は加速。氷上を駆け、白サメに飛び掛かる。メイバイは二本のナイフに斬撃気功を
「コリスちゃん。行くよ!」
「うん!」
「どっせ~~~い!!」
白サメの懐に入っていたリータは、振りかぶってアンダースローのようなアッパー気味のパンチ。この攻撃で白サメは浮き上がり、氷を削ってコリスの元へ。
コリスはバク宙して二本の尻尾で白サメを叩き、空に打ち上げるが、高くは上がらない。
「【氷猫】にゃ~」
そこに、再びオニヒメの【氷猫】五匹が走る。わしの【青龍】にはかなり劣るが、白サメが空けた穴ぐらいは、氷で埋める事が出来たようだ。
「尾ヒレと魔法に気を付けて、一斉攻撃にゃ~!」
「「「にゃ~~~!!」」」
これよりリータは、白サメの目の前に立って動かず、【水鉄砲】を、盾や【光盾】で受け続ける。その後ろからオニヒメが【
その隙に、コリスとメイバイがヒットアンドウェイで、白サメの三本の尾ヒレや体に攻撃を繰り広げる。
その様子を見ていた玉藻と家康は……
「おい……そちの連れは、本当に人間か?」
「あの巨体をぶん殴って浮かしたぞ?」
何やら口をあんぐり開けて質問して来た。
「コリスはリスにゃ~」
なので訂正したのだが……
「「リータの事を言っておるんじゃ!!」」
怒鳴られた。
「人間に決まってるにゃろ~。わしの妻を、化け物を見る目で見るにゃ~」
「どう見ても化け物じゃろうが」
「秀忠でも、あそこまで見事に戦えるかどうか……」
「ひどいにゃ~。リータは化け物でもタヌキでもないにゃ~」
わしがリータを擁護している間も戦いは続いているので、わしも少し引き気味に戦いに目を移す。
とは言ったものの、リータの馬鹿力がレベルアップしている気がする……。たしかに10メートルクラスをひっくり返した事は見たことはあるけど、浮かしてはいなかったな。
コリスならまだわかるんじゃけど、リータがあそこまでぶっ飛ばすのは想定外じゃわい。訓練でも、重力100倍はきつそうじゃったのに……
――それは僕が加護を与えたからですよ――
加護??
――DNAを少しイジって、体の性能を強くしたと言ったほうが分かりやすいですかね?――
なるほど。人体改造したわけじゃ。それで強くなったんじゃ~……て、だれ!?
――やだな~。ツクヨミですよ~――
ツ・ク・ヨ・ミ……出た~~~!!
――それ、姉さんの時にやっていましたでしょ? オバケじゃないんですから、そんな驚き方しないでくれません?? そもそも、
わしが頭の中に聞こえていた声に驚くと、ツクヨミが愚痴を言い出したので、わしは慌てて愚痴を遮る。
いま、DNAをイジったと言いました? なんでそんな人体改造を……
――ああ。姉さんは魔法書を贈ったし、スサノオは何でも叶えると言ってたらしいじゃないですか? それなら僕も何かしないと忘れられてしまうじゃないですか!――
も、元に戻してもらうことは……
――無理で~す。ツクヨミ様が眷属に力を与え、強敵を薙ぎ倒したと『猫王様の東方見聞録』に書いてもらわなければなりませんからね!!――
いや、それぐらいなら、嘘でも書きますから……
――信じられませ~ん。ちなみにちゃんと書かないと……あ! スサノオに気付かれた。それよりも愚痴を……
おい! ちゃんと書かないとどうなるんじゃ!! ……ダメじゃ。接続が切れておる。スサノオに強制的に切られたのかな?
……てか、自分で愚痴って言いやがった! もう愚痴なんかで通信してくんなよ! わしは聞かんからな~~~!!
リータのレベルアップの謎は解けたのだが、ツクヨミまでわしに話し掛けるようになったので、愚痴が来ないか心配になるわしであったとさ。
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