502 大御所の帰還にゃ~


 江戸の食べ歩きをしていたわし達はラーメンと出会い美味しくいただくが、わしは泣きながらすすっていたので、転生の秘密を知らない料理長とラーメン屋のあんちゃんには、泣くほど美味しいと思われたようだ。


 うぅぅ……うまい。昔ながらの中華そば。スープは鶏ガラと醤油かな? エミリのお母さんのレシピに試作すら無かったから、もう食べられないもんじゃと思っていたわい。

 中国人のエルフなら作っていてもおかしくないはずなんじゃが、麺類は春雨止まりじゃったからな。中華麺は小麦粉で出来ておったんじゃから、恵美里さんなら作れてもおかしくないと思うんじゃけど……


 とりあえず麺が無くなると、替え玉を注文し、コリスも食べたいと言って来たので二人でまたすする。

 ちなみにエミリと料理長は、今日食べたメニューは全て一口ずつだったが、初めて食べるラーメンは箸が止まらなくなって完食してしまい、キブアップとなっていた。


「そんなに美味しく食べてくれて、有り難う御座います」


 わしとコリスがラーメンを凄い勢いですすっていると、あんちゃんのほうから話し掛けて来た。


「いやいや。こんにゃに美味しい物を食べさせてくれて、こちらこそ感謝にゃ~」

「そう言ってくれて、本当に有り難いです。なかなか客が入らず、やめようかと考えていたところなんで、もう少し頑張れそうです」

「そうにゃの? この味にゃら、行列が出来ていてもおかしくにゃいのに……」

「それがどうも……」


 あんちゃんが言うには、開発して美味しいラーメンが出来たのだが、江戸では目新しい物は敬遠されているらしい。

 匂いもきついので人通りの多い屋台通りでは、他の屋台からここで出すなと苦情が入り、こんな寂れた場所でしか商いが出来ないのでますます客が入らず、今まで貯めた資金も自信を無くしていたようだ。


「ふ~ん……じゃあ、作り方を売ってくんにゃい?」

「へ??」

「こんにゃにうまいにゃら、わしの国でも売りたいからにゃ~」

「国……ですか??」

「ああ。あんちゃんも噂ぐらい知らないかにゃ? 猫の国って」

「関ヶ原で暴れたとかなんとかの、猫の国の事ですか……噂はかねがね」


 たしかに暴れたけど、関ヶ原に来ていなかった人に、どんな噂が流れているか気になるな。でも、いまはそんな事はどうでもいい!


「その猫の国の王様がこのわし。シラタマ王にゃ」

「噂の猫王!?」

「それで、作り方は売ってくれるのかにゃ?」

「えっと……苦労して作ったので、それは……」


 まぁ、そりゃそうじゃろな。じゃが、わしも引けない!!


「だから、タダとは言ってないにゃ。そうだにゃ~……あんちゃんが生きていくのに必要にゃお金、三年分でどうにゃろ? もちろん、屋台の赤字も入れてくれていいにゃ」

「赤字を入れたら、かなりの額になりますが……」

「それだけの価値があると言ってるんにゃ。三年もあれば、江戸でも流行る……いっそ、場所を変えて、京か堺に移住してはどうにゃろ? そしたらぜったい売れるにゃ~」

「ゴクッ……」


 あんちゃんは、わしのぶら下げたニンジンに食い付こうか悩んでいるように見えるので、小判を積みながら見守る。当然、現ナマの力は凄まじく、すぐにあんちゃんの悩みは吹き飛んだようだ。


「わかりました! お言葉に甘えさせていただきます!!」


 このままラーメンを作り続けても、破産するのが目に見えているので、わしの案を全て呑んでくれるあんちゃん。なので、金に目が眩んでいる内に、エミリと料理長に丁寧に教えてくれるように頼む。

 金の力かどうかはわからないが、あんちゃんは懇切丁寧に教えてくれているけど、念話の魔道具で話を聞いていた二人が英語で質問する姿を見て、いまさら外国人だと驚いていた。


 あんちゃんの説明の中で、この商品の名称が「小麦麺」だった為、そんな名前だから売れないんだと言って、正式に「ラーメン」に変えさせた。

 いちおう中華麺や志那蕎麦も候補だったが、どっちにしてもこの世界に無い中国の事だから意味が伝わらない。どうせ伝わらないのなら、ラーメンでいいだろう。味変で、味噌ラーメンや豚骨ラーメンと使いやすいからな。



 なるほどな。恵美里さんは、かん水が見付からなかったから、中華麺が作れなかったのか。あんちゃんも平賀家が公開した技術で作ったと言っていたから、恵美里さんでももどきは難しかったんじゃな。


 二人がラーメン作りに取り掛かったところで、あんちゃんに違う味も作れないかと相談したが、何も思い付かないとのこと。なので、塩、味噌、豚骨、魚介等、様々な案を出して、メモを取らせておいた。

 ラーメン屋の軌道に乗ってからの研究になると言っていたので、うちでもエミリに研究してもらう予定だから、今度、どっちが美味しいか勝負しようと喋っていたら、わしの目の前に二杯のラーメンがドンッと並んだ。


「「どちらが美味しいですか!!」」

「あんちゃんに決まってるにゃ~」


 またしても、勝手に料理対決をしていた二人の勝敗はドロー。だって、どちらが勝ったとしても、納得しないんじゃもん。二人が食べないなら、コリスと一緒に食べるけど……あ、食べるんじゃ。


「あんちゃんさんのラーメンも、たいして変わりませんよ?」

「そうですね……私達のほうが美味しいような?」

「あんちゃんが作ったスープを使ってるんにゃから、一緒の味になるに決まっているにゃ~」


 屋台では、完成間近の食材しか置いていないので、結局は勝敗が付くわけがなかったのであった。





 江戸の食べ歩きから帰って数日……


 今日も暇潰しで猫の街をウロウロしていたら、玉藻と家康にからまれた。なんでもこの二週間、英語の勉強ばかりだったので、息抜きがしたいんだとか。なので、ゴルフに誘って一緒にコースを回る。

 前回ソウで玉藻と回った時は、最初にルールの確認を忘れていて風魔法の応酬となってしまったので、今回は魔法なしのルールを前もって伝えたから、三人でのどかに回っている。


「あ! またOBじゃ……」

「にゃはは。ご老公はもっと力を抑えなきゃだにゃ~」


 家康は初体験ともあり、力加減で苦戦しているようだ。しかし、その都度調整して、だんだんOBが減って来ている。


「くう~……パターが決まらん」

「グリーンは芝目、傾斜があるから真っ直ぐ進まないって、前にも言ったにゃろ~?」


 玉藻はなんとかOBを免れているが、ロングパットばかりで、何度も叩いてしまっている。前回は、ほとんど風魔法で入れていたから、パット感覚がわからないようだ。


「よっと……よし。パーにゃ~」


 わしはあまり攻めず、全てをパーで回る。これは、わしも久し振りなので、細かなミスが多くなっているから攻められないのだ。


「なかなか面白いんじゃが、難しいのう」

「わし達の場合、かなり手加減が必要だからにゃ~。でも、ご老公も最初よりはよくなっているにゃ」

「やはり呪術有りにせんか?」

「玉藻は辛抱足りないにゃ~。呪術にゃんか使ったら、上手くならないにゃ~」


 ハーフはわしがレクチャーしながら回り、昼食を終えてもうハーフは、二人も慣れて来たので世間話をしながら回る。


「ふ~ん……そろそろ帰るんにゃ」

「ああ。一度な。名代の仕事を完璧に引き継いだあとは、もう一度言葉をしっかり学んで、西の地をゆっくり見て回ってみようと思う」

「せわしなく回ったもんにゃ~……お、ニャイスパーにゃ~」


 わしと玉藻がコソコソと喋っていると、家康はパーパットを決めたので、次のホールに喋りながら移動する。


「ご老公も帰るんだってにゃ」

「うむ。浜松もどうなったか気になってのう。一度戻るが、またすぐに来るぞ」

「そうにゃの?」

「何せ、自由気ままな隠居の身じゃ」

「そう言えば、将軍は息子さんだったにゃ。でも、実質ご老公が、東を牛耳ってたにゃ~」

「うむ。シラタマの言う通りじゃ」

「ポンポコポン。それを言われたら耳が痛い」


 わしのツッコミに玉藻もウンウン頷き、家康は恥ずかしそうに頭を掻いている。しかし、わし達にツッコまれても嫌な顔ひとつしないで笑っているとは、家康も丸くなったもんだ。


 そうして楽しくゴルフコースを回っていると、最終ホールでの勝負になるが、家康はすでに脱落していたので、わしと玉藻のグリーン対決となった。


「それを入れたら、わしに勝てるんにゃよ~? 完勝にゃ~。ポンッとやったら誰でも入るにゃ~」

「うるさい! わざとわらわを緊張させようとしてるじゃろ!」

「にゃんのことかにゃ~? わしは応援してるだけにゃ~」

「黙っとれと言っておるんじゃ! もうアドレスに入ったぞ! マナー違反じゃ!!」

「はいはいにゃ~」


 皆にはスイングする際に静かにするのがマナーと言っておいたので、玉藻がアドレスに入るまで十分にあおったわしは、お口チャック。これで外すだろうと見ていたが、残念ながら玉藻は入れてしまった。


「コ~ンコンコン。妾の集中力を見たか!」

「はいにゃ~。見たにゃ~。よっと……これでわしは二位だにゃ」

「もっと悔しがれ!!」


 わしのボールは、ピンそば1メートル切っていた所にあったので、玉藻が騒いでいても関係ない。軽く打ってゲームを終了させたら、負けても悔しくしないわしに突っ掛かって来る玉藻であった。



 それから場所を移動し、サッカー場近くのベンチでお茶休憩。玉藻と家康は、ボールを蹴る子供達の姿を面白そうに見ていたが、それよりもゴルフの勝敗に言いたい事があるようだ。


「さっきは勝利に浮かれていたが、シラタマとは20打以上のハンデがあったんじゃったな」

「そうじゃった。これでは、二人で挑んで勝利を譲られた事を思い出すのう」

「まだ言ってるにゃ~? お祭りでの余興にゃんて、ノーカウントに決まってるにゃ。ま、わしはやる気がないから、二度と闘わないけどにゃ」

「しかし、手加減されるのは、心情的に……」

「だから~。ゴルフはこういうルールなんにゃ。上手い人も下手な人も、分け隔てなく遊べるルールなんにゃ。もしも、晩ごはんでも賭けていたら、わしももうちょっと必死にやっていたにゃ~」

「分け隔てなく……か。まるで茶道の教えを体現したような競技じゃな」

「考え方は近いけど、ゴルフは紳士のスポーツにゃ。誰も見ていない所でズルするようにゃ奴には、絶対に出来ないスポーツにゃ」


 家康の言い方が少し気になったので、ゴルフの概念で論点をズラす。これでわしが日ノ本出身だと思われないだろう。


「おっと。帰る前に、釣りの日取りを決めておかねばならんのう。そちも忙しい身……」

「にゃ~?」

「暇な身じゃけど、都合のいい日はあるか?」


 玉藻さんは別に言い直さなくても……暇じゃけど。


「わしも忙しい身にゃけど、玉藻達に合わせてあげるにゃ~」

「暇そうにしていたから、それは助かるのう」


 ご老公まで暇とか言わないでよくない?


「そうじゃな~……帰ってから三日後なんてどうじゃ?」

「うむ。それだけあれば、一通りの指示は出来るな」

「「では、決定じゃな」」


 もう、わしいらなくない? 二人して仲良く決めよって……


「「決定じゃな?」」


 あ、わしに言っていたのか。こっち向かないから、てっきり二人で行くのかと思っておったわ。


「わかったにゃ。仕事も入れないように気を付けるにゃ~」

「「………」」


 二人は「ちょっとは働け」的な冷たい目を向けていたが気にしない。もちろん二人が帰ってからやる事のないわしは……いや、帰った次の日は猫会議があったのを忘れていたので、しっかり働いてから日ノ本へ向かうのであった。

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