127 わしは心を読まれやすいのかにゃ?


「どうかにゃ?」

「う~ん。安い物ならあるけど、女王様の贈り物にするには弱いね」

「そうにゃんだ。にゃら、ガウリカの故郷で買うかにゃ?」

「ここより品揃えが悪いからなぁ。もう一軒当てがあるから、そこを覗いてから考えるか」

「わかったにゃ。その前にごはんにしないかにゃ? お腹へったにゃ~」

「あたしのお勧めの店でいいか?」

「いいにゃ! 楽しみにゃ~」


 広場の露店で女王への贈り物を探していたわし達であったが、なかなかいい物が見つからず、昼食をとる事となった。

 ガウリカのあとに続き、わしはスキップしながらついて行く。わしが嬉しそうにしているのが気に食わないのか、リータとメイバイに両脇から抱えられて連行されてしまった。

 そのまま店に入ると、リータ達に抱き抱えられていたせいか、ぬいぐるみに間違われ、声を出すまで猫コールは起きなかった。


「もう、二人が抱えて移動したほうがいいんじゃないか? そのほうが静かだよ」


 うっ。ガウリカは核心をついて来やがる。じゃが、わしにも人としての尊厳が……いや、猫としての尊厳? なにかしらの尊厳があるんじゃ!


「そんにゃこと言うにゃ~」

「潤んだ目で見るな! このたらし猫!!」


 ひどい! 異議申し立てをしただけなのに……。リータとメイバイは、慰めて撫でているのか、撫でたいから撫でているのかわからんな。


 そんなやり取りをしているとテーブルに料理が並び、わしは料理に目を奪われる。


 匂いから気付いていたけど、やっぱりカレーか。パンじゃなく、ナンと……これはクスクスかな? パンやパスタ以外の穀物の変化じゃ。米に一歩近付いた!


「辛いけど大丈夫か?」

「大丈夫にゃけど、食べてみにゃいとわからないにゃ。それじゃあ……」

「「「いただきにゃす」」」

「いただきにゃす?」


 わし達の食事の挨拶に、ガウリカは首を傾げる。だが、その姿は無視して、わし達はカレーを食べようとするが、ある事に気付く。


「どうやって食べるのですか?」


 そう。スプーンが無い。


「ガウリカ。見本を見せてくれにゃ」

「こうやって右手で混ぜて食べるんだ。左手は使うなよ? それが昔からの作法だ」

「わかったニャー」


 ガウリカはクスクスとカレーを右手でまぜて食べ、メイバイはマネをして食べ始めるが、リータがわしを見て来た。


「シラタマさん……」

「リータは手で食べるのは嫌にゃ?」

「スープみたいで、少し抵抗が……」

「じゃあ、スプーンを出すからそれで食べるにゃ。わしもスプーンで食べるにゃ」

「ありがとうございます」


 わしの手は、毛むくじゃらだから食べづらいからな。仲間が増えてありがたい。さてさて、このカレーとクスクスはどんな味かな~……うまい! でも、辛い! 辛いがうまい。エミリの作ったカレー風もうまかったが、本場には勝てないな。

 しかし、左手で食べてはいけないとは、元の世界の宗教みたいじゃな。この国には宗教があるのか? 東の国では宗教なんてなかったんじゃが……


「辛いニャー!」

「メイバイは辛いのはダメか。こっちのナンに少し付けて食べな。あと、この飲み物が甘いから、口直しに飲むといい」

「リータは大丈夫にゃ?」

「少し辛いけど、大丈夫です」

「そんなこと言って、猫は大丈夫なのか?」

「辛いけど美味しいにゃ~」

「そうかい。喜んでくれてるならいいよ」


 今まで気付かなかったが、ガウリカは面倒見のいいお姉さんって感じじゃな。お姉さんと言うより、男勝りの姉御が似合うな。


「何か変なこと考えてないか?」

「ニャンデモナイにゃ」

「あたしが男っぽいとか?」


 心を読まれた! どうしてわしの周りには心を読むスキル持ちが多いんじゃ?


 わしは顔に出ていたと思い、両手で顔をムニムニと揉みほぐす。


「やっぱりか。顔を揉んだところで……」

「ガウリカさん!」

「この食べ物はなんニャー?」

「ああ、それは……」

「にゃ~?」


 ガウリカが何か言おうとすると、リータとメイバイが話を逸らした。


((顔じゃなくて、尻尾なんだけどな~))


 わしは不思議に思ったが、心を読むスキルを持っていないので、二人の心の声は届かないのであった。



 昼食を終えると猫コールの街中を抜け、大きな建物の中に入る。ガウリカは店主に挨拶して来ると言うので、商品を見ながら待つ事にする。


 美術館? それとも骨董品屋か? 古美術商ってヤツかもな。絵画や古そうな物が多くある。お高い値段が書いてあるけど、価値がわからんな。じゃが、壊して弁償しろとか言われたら厄介じゃし、念の為、注意しておくか。


「メイバイ。触るにゃよ?」

「なんで私だけに言うニャー!」

「リータはそんにゃ事しないもんにゃ~?」

「え? あ、そうですよ!」

「いま、触ろうとしていたニャー!」

「少し気になっただけです」

「どれにゃ?」

「これです……」


 ティアラか……。金細工で宝石が散りばめられていて、これもお高い。リータは指輪も欲しがるし、案外、乙女じゃな。じゃが、ティアラはリータより、さっちゃんのほうが似合いそうじゃ。


「ちょっと高いから買ってやれないにゃ~」

「欲しいとかじゃなくて、気になっただけです」

「にゃにがにゃ?」

「ここに埋め込まれている宝石なんですが……」

「おお! お目が高い!!」


 わし達がティアラを囲んで話をしていると、店主らしき太った男とガウリカがわし達の元へ歩み寄る。


「そのティアラは年代物のティアラで、彼の古代文明の王妃がつけられていたと言われています」

「この埋め込まれている宝石はにゃに?」

「そちらはまだ解明されていませんが、ダイヤと似ている事から、ホワイトダイヤと呼んでいます」

「へ~。カットも綺麗にゃ~。古代には、こんにゃ技術もあったんにゃ」

「そうですね。我々もこの技術があれば、貴族様に宝石を、もっと高く売り付ける事が出来るのですがね」

「店主。お主も悪にゃの~」

「いえいえ。お猫様には敵いません……って、猫!?」

「猫だにゃ~」

「「クスクス」」


 今頃かよ! さっきまで饒舌じょうぜつに語っておったじゃろう。知識をひけらかしたくて堪らないのかな?


 太った店主はわしの姿に一通り驚いた後、神妙な顔になって、ガウリカにゆっくりと近付く。


「ガウリカさん……」

「なに?」

「買った! こちらのペットを売ってください!!」

「ペットでも売り物でもないにゃ~!!」


 その後、店主は諦めずにわしを口説いて来たが、脂ぎった顔の男に身を売るわしではない。


 毛皮も尻尾も売れるか~~~!!



 わしの買い取り希望を熱心にする店主を宥めながら、女王に送る品をガウリカと共に見て回る。石像や宝石、絵画やドレス。多種多様な高級品を紹介されるが、ガウリカのお眼鏡に適わないみたいだ。

 そんな中、リータはわし達から離れて何かを見ていたので、わしも飽きて来ていたから、近付いてみる。


「リータ。にゃに見てるにゃ?」

「この宝石も気になるんです」


 宝石か……乙女かと思ったが、これは前世の記憶かもしれんな。リータの前世は岩だったんだから、宝石に何かしら引っ掛かるところがあるのかもしれない。

 この値段なら、わしのお小遣いでも何個も買えるし、指輪の装飾にいいかもしれん。


「リータ。この安物の宝石から、気になるモノを仕分けしてくれにゃ」

「わかりました」


 リータの仕分けが終わると、ガウリカと商談中の店主の元へ行き、買い取りをお願いする。


「多く買い取ってもらえるのは嬉しいのですが、ほとんど、宝石としては最低ランクですよ?」

「いいにゃ。それとダイヤで売り物にならないようなの無いかにゃ? それも売って欲しいにゃ」

「それぐらいなら、サービスでお付けします」

「ありがとにゃ」


 店主が買い取りの手筈をしに奥の部屋に下がって行くと、ガウリカがわしに声を掛ける。


「そんなに買ってどうするんだ?」

「まだわからないにゃ。それより贈り物は決まったかにゃ?」

「候補は何個かあるけど、決め切れていない。猫達も見てくれ」


 う~ん。絵画や芸術品は見てもよくわからん。大きな宝石に、装飾の綺麗な湾曲した剣。ティアラも候補に入っているのか……女王でも似合うかな?


「わしはこのティアラに一票入れるにゃ」

「この剣なんか、いいと思ったんだがな~」

「たしかに綺麗だから、男だったら喜びそうにゃ」

「私はこの大きな宝石がいいニャー。結婚指輪にして欲しいニャー」

「そんにゃ高い宝石を贈れる男にゃんて、貴族や王族ぐらいにゃ」

「シラタマ殿なら出来るニャー」

「にゃんでわしにゃ~」


 わしとメイバイが遊んでいると、ガウリカの候補を熱心に見ていたリータも、どれにするか決まったようだ。


「私もティアラですね。金細工も素晴らしいし、石も綺麗です」

「ティアラに二票か……良い品だが、もうひと押し欲しいんだよなぁ」

「それにゃら取り置きしてもらって、先にガウリカの故郷を見に行くにゃ。そこで見付からなかったら、帰りに買うって事でどうにゃ?」

「手数料は必要だが、それが無難か。どれくらいで戻って来れる?」

「今日中に着くから、三、四日かにゃ? あ、スティナの依頼があるから、最長で一週間にしとくかにゃ?」

「わかった」



 わし達の話がまとまったところで店主が宝石を持って戻って来たので、わしは支払いを済ます。

 ガウリカは取り置きのお願いを念を押してしていたが、店主が震えていたので、何かしらの脅しをしたに違いない。でも、怖いから聞くのはやめた。



 古美術商のお店を後にして、もうひとつの仕事、ハンターギルドの依頼の品を探しに、コッラトのギルドにお邪魔する。もちろん猫コールはお約束だ。

 そして、もうひとつのお約束も発生した。


「モンスターがハンターギルドに入って来るなんて、狩ってくれって事でいいんだよな?」


 もちろん、先輩ハンターにからまれる後輩ハンターのイベントだ。わしが猫だからからまれているわけではないはずだ。いや……猫だからからまれた!


「ダブルか? こいつは弱そうでラッキーだ」

「毛皮も尻尾も高く売れるぞ」

「いやいや、喋る猫なんて、生かして売ったほうが高く売れそうだ」


 南の国のハンターは野蛮じゃな。人身売買まで行うとは……猫じゃけど。こいつらなら、痛い目にあわしてもいいじゃろ?


 わしがガウリカに目配せすると、まったく違う答えが返って来る。


「だから抱き抱えて入れって言ったんだ」

「ぬいぐるみ扱いするにゃ~!」

「あんたらもやめておきな。こいつに手を出したら東の国を怒らせる事になるよ」

「姉さん!?」

「ガウリカの姉さん。戻って来たのか!?」

「お前達、久し振りだね」


 ガウリカを姉さんと呼んだハンター達は、わしを押しのけてガウリカを囲み、再会を喜びあう。


 またテンプレ回避じゃ……。たまにはボコボコにして回避させてくれてもいいと思うんじゃがなぁ。わしだってストレスを感じるんじゃぞ?


「シラタマ殿の出番が取られたニャー」

「言うにゃ~。それより依頼ボードを確認するにゃ」

「はいニャー」


 わしとリータとメイバイは、うるさいハンターギルド内を歩き、依頼ボードの前に立つ。狙いは高ランク。白と黒の目撃情報を探す。


 う~ん。買い取りたいと言う依頼はあるけど、場所が書いていないな。生息地がわかればいいんじゃけど、それも無し。空振りじゃな。


 わしは高ランクの依頼ボードから離れ、低ランクの依頼を見ていたリータとメイバイに近付くと、わしに気付いたリータが依頼ボードを指差す。


「シラタマさん。これはどうですか?」

「にゃ? Dランクの依頼で白い巨象の調査にゃ? わし達の目的地のさらに南西にゃ……」

「見付からなくても、失敗にならないみたいですよ」

「巨象って言うぐらいにゃら、大きいのかにゃ~?」

「大きかったら、シラタマ殿の飛行機なら探しやすいニャー」

「そうだにゃ。他に当てもにゃいし、受けてみるかにゃ」


 わし達は受付に移動し、依頼を受ける。カウンターのお姉さんはわしの姿に驚き、あわあわしていたが、なんとか受注してくれた。最後に頭を撫でたいと言い出したので、迷惑料として支払ったが、リータとメイバイに睨まれた。



「ガウリカ。わし達の用事は済んだにゃ」

「ああ、悪い。お前ら、この猫に言う事があるんだろ?」

「は、はい!」


 ガウリカに声を掛けると、ガウリカはわしにからんで来たハンター達を整列させる。


「姉さんの知り合いとも知らず、とんだ迷惑をおかけしました!」

「「「すみませんでした!」」」

「もう済んだ事にゃ。それよりガウリカの知り合いだったにゃ?」

「ああ。昔、かわいがってやったんだ」


 ガウリカの発言にハンター達はコソコソと話し出す。


「アレが、かわいがり?」

「拷問じゃなかったのか?」

「俺なんて傷が残っているぞ」

「ああん!?」

「「「「ヒッ! なんでもないです~」」」」


 ハンター達の愚痴が聞こえたガウリカが睨み付けると、ハンター達は声を合わせてごまかしているが、メイバイはその声が気になったようだ。


「シラタマ殿。あいつらは怖がっているのか、喜んでいるのか、どっちニャ?」

「後者かにゃ?」


 そう。ハンター達は怒られても嬉しそうにする、そっちの趣味をお持ちの人達であった。


「シラタマ殿も怒られると嬉しいニャ?」

「嬉しくないにゃ~~~!」


 わしは断じてそっちの趣味は無い! ホンマに!!

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