126 空の旅にゃ~


「みんにゃ、まだ帰らないにゃ?」


 アダルトフォーは一泊して、コーヒーを振る舞ってやったにも関わらず、昼が近付いても居間でゴロゴロしていやがる。


「だって居心地いいんだもん」


 縁側で作業をしているわしの問いに、スティナは面倒臭そうに答える。


「仕事はどうしたにゃ?」

「「「休み」」」


 どうやらガウリカ以外は、元々わしの家で休みを過ごそうとして集まって来たみたいだ。


「家に帰るより、猫君を観察してるほうが面白そう」

「起きたら建物が出来ていましたしね」

「それは何? モンスターの角?」


 フレヤとエンマはわしの行動が面白いようで、スティナはわしが縁側に並べている物に興味を持ったようだ。


「そうにゃけど……」

「なんでそんなにたくさん持ってるのよ?」

「わしのコレクションにゃ」


 この角コレクションは、森で生活していた時に戦利品として取っておいた物だ。家の明かりもコレクションに【光玉】を入れて魔道具に加工してある。魔道具の専門店に行けば、角の形も加工してあったが、面倒臭いのでそのまま使っている。

 今回は水と火の魔道具に加工して、お風呂に使えるようにする予定だ。光の魔道具の使用回数からいくと、二、三回は湯船を満たす事が出来るはず。

 南の小国ビーダールに旅立つので、これでスティナ達がわしが留守の時に来ても、お風呂に入れる。風呂代を先払いで貰っている手前、仕方がない処置だ。


「そんなにあるなら一本ちょうだい!」

「あげないにゃ~。これはお風呂用に加工するにゃ」

「それじゃあ、シラタマちゃんがいない時でも入れるんだ!」

「まぁにゃ。そう言えば魔道具って、スティナは使えるにゃ?」

「私はハンターだったから、魔道具ぐらい使えるわよ」

「そうにゃんだ!」


 スティナはハンターだったのか……どうやってギルマスまで昇り詰めたか気になるけど、きっと体でも使ったんじゃろう。間違いない。


「他のみんにゃは?」

「街の大人でしたら魔道具を使えるように、簡単な講習を受ける人が多いです。魔力を感じるようになるだけで使えますからね」

「そうそう。便利よね~」


 なるほど。今までさっちゃんが魔道具を使っていたのに、何も思っていなかったけど、さっちゃんも講習を受けていたんじゃろうな。もしかしたら、お金持ちなら子供の頃から習わせているのかもしれないな。


「シラタマちゃんが居ないと、お風呂に入れなくて困っていたのよね~」

「にゃ!? やっぱりこないだ家を空けた時、勝手に入っていたにゃ!!」

「あ、バレてた?」

「匂いが残っていたにゃ。わしの寝室を使うにゃ~!」


 そのせいで匂いに敏感なメイバイに、わしの浮気を疑われた。ずっと一緒に居たのにも関わらず。そもそも誰とも付き合っておらんのじゃが……


「まあまあ。寝室には入らないから、これで許して」

「シラタマさんは、私達の為に作ってくれるのですね。ご褒美です」

「ありがと~」

「挟むにゃ! 踏むにゃ! そこは触るにゃ~!!」


 まったくアダルトスリーと来たら……。だからリータ達は、わしを睨むな!



 魔道具が完成したら、風呂場で簡単な説明をする。広い浴槽は三分の一に区切ってシャワーのタンクと繋いだので、一人で入るには十分なお湯の量を確保できるはずだ。

 お昼になると昼食と旅に必要な買い出しや、各種手続きの為に家を出る。皆で歩いて広場に着くと、昼食をアダルトスリーが奢ってくれた。いちおうは感謝の気持ちがあったようだ。

 昼食を済ませたら、やっとアダルトスリーは帰って行った。


 それからガウリカに必要な物を聞きながら買い揃え、明日の待ち合わせをして家に帰る。リータとメイバイで荷物の確認をしていると夕暮れ時になり、女王の使いがやって来たので、二、三、言葉を交わして、書類と短刀を受け取った。

 今日もサービスをして来るリータとメイバイを落ち着かせ、猫の姿で早めの就寝となった。



 翌朝、待ち合わせをしていたガウリカを伴って、南門から外に出る。


「で……馬車はどこ?」

「いま出すにゃ」

「出す?」


 わしが次元倉庫から飛行機を取り出したら、ガウリカと周りが騒がしくなった。わしはその騒ぎを無視してリータとメイバイを乗り込ませると、騒ぐガウリカを押し込んで離陸する。


 それから機内では、小一時間、ガウリカの質問攻めにあった。


「空を飛んでるんだよな?」

「そうにゃ」

「こんなに大きな物が、収納魔法に入っていたんだよな?」

「そうにゃ」

「お前、猫だよな?」

「猫だにゃ~」

「空を飛んでるんだよな?」

「にゃん回、聞くにゃ~!」

「ガウリカさん……もう諦めてください」

「シラタマ殿のやる事は、考えるだけ無駄ニャー」


 リータとメイバイよ……それは助け船か? わしのHPを削りに来てないか?


「……わかったよ。諦める」


 だから何を諦めておるんじゃ?


「もうそろそろ国境にゃ」

「え! もう!? いや、考えちゃダメだ……」


 ガウリカさん? そこは考えてもいいんじゃないかな?


 ガウリカがブツブツ言い出したところで、関所らしき建物を発見したので質問してみる。


「本当に関所を通らにゃくてもいいにゃ?」

「ああ。国境を守る兵士はいるけど、詰め所だ。それに国境は広いから、人の出入りを正確に把握できない。だから、入国税は街に入る時にしっかり取るからな」

「それじゃあ、街に入らにゃかったら入国税が取れないにゃ~」

「長旅で街に入らない奴なんていない。食料もそうだが、馬の疲労を取らないといけないからな」

「五時間もあれば、ガウリカの故郷に着くにゃ」

「あ……考えちゃダメだ。考えちゃダメだ」

「そこは考えるにゃ! さすがに素通りするのは、女王の使いだからダメにゃろ? どこかいい街で休憩するにゃ。珍しい物がある所、ないかにゃ?」

「それなら砂漠の街『コッラト』なんかどうだ? 南の国の外れにあって、私の故郷に行く中継地点だ。キャラバン(隊商)の多く集まる街だから、いろいろな小国の品が集まって来ているぞ」

「それいいにゃ。決まりにゃ~!」



 進路を砂漠の街コッラトに向け、空の旅は続く。


 狭い機内なので、やる事も無くなって暇になるので、皆には望遠鏡を渡して何か面白い物があれば報告してもらう。ガウリカは時々ブツブツ言っていたが無視してあげた。


 そして飛行時間が二時間を過ぎた頃に、砂の地平線が見え始める。


「ニャー! あれ、全部砂ニャー!」

「危ないから騒ぐにゃ~。リータ。メイバイを後ろに連れて行くにゃ~」

「はい。メイバイさん行きますよ」

「ニャーーー」


 年上のメイバイより、リータのほうがよっぽどしっかりしておる。わしも砂漠の景色なんて初めてじゃから、騒ぐメイバイの気持ちはわからんではないがな。


「ガウリカ。コッラトはどの辺にあるかわかるかにゃ?」

「う~ん……もう少し西に向かったほうがいいかな」

「オッケーにゃ!」


 ガウリカの指示に飛行機を飛ばし、コッラトの近辺に着陸する。いい滑走路が無かったので垂直に降りたら、皆に怒られた。ゆっくり降りたのに、墜落しているみたいで怖かったみたいだ。

 まだ街までは距離があるので車に乗り継ぎ、街の門に向かう。門に並ぶキャラバンの最後尾に並び、騒ぎは無視する。


 列は進み、ついにわし達の順番となると、ガウリカ、リータ、メイバイの順に降りてもらったら、門兵に大きな声で問いただされてしまった。


「お前! これはなんだ?」

「あたしに聞かれても、わからないんだよな」

「じゃあ、次に降りて来たお前!」

「えっと~。馬のいない馬車です。魔力で動いているそうです」

「そんな物があるのか……」


 ガウリカとリータが質問に答えるここまではよかった。


「なんだその耳! 尻尾! 本物か!?」

「本物ニャー。でも、シラタマ殿以外の男は、お触り厳禁ニャー」

「あ、怪しい者を、この街に入れるわけにはいかない……」


 メイバイの返答の、ここまでもギリよかった。


「わし達は怪しい者じゃないにゃ~」

「猫が立って歩いて喋ってる……」

「入れてくれにゃ~」

「「「「「ぎゃゃぁぁ~~!!」」」」」


 わしの登場で、三段落ち成功! 大パニックじゃ!!




「う、動くな!!」


 コッラトの門に着いたものの、門の前は大パニックとなり、わし達は兵士に取り囲まれ、剣を向けられてしまった。


 おお~。ここまでやられたのは初めてじゃな。ローザの街では驚かれたけど、話しは聞いてもらえたんじゃが、国民性か? よく考えれば、得たいの知れないわしに対して、これぐらい仕事をするのが丁度いいのかもしれない。


「兵士の鏡にゃ~」

「なに感心してんだよ! これ、どうすんだ!!」


 わしが感嘆の声を出して見ていると、ガウリカが怒りまじりにわしを揺らしてくる。なので、安心させる為に声を掛けてあげる。


「女王からいい物を預かっているから大丈夫にゃ。皆の者、頭が高いにゃ~!!」


 わしが懐に開いた次元倉庫から、女王から渡された物をゴソゴソと出そうとしたら、リータ達にジト目で見られていた。


「シラタマさん。その言い方では、よけいこじれますよ」

「すぐ調子に乗るニャー」

「この猫は……」


 うっ。みんなに生温い目で見られてしまった。魂年齢でいけば一番年上なのに……あれ? リータが一番年上か。アホなこと考えていないで真面目にやろう。


「わし達はハンターにゃ。東の国の使いで、この国に訪れたにゃ。この短剣と書状を確認してくれにゃ」

「猫がハンター?」

「言いたい事はわかるにゃ。こっちはハンター証にゃ。みんにゃも身分証を出すにゃ」


 わし達は身分証と、女王から受け取った短剣と書状を兵士に渡す。


「家紋も書状も本物みたいだな。内容も猫がたくさん出て来る。信じられん……」


 猫が出て来る? 何が書いてあるのか、すんごく気になるんじゃけど……。読んでみたいけど、残りの書状は蝋で封書してあるから確認できん。渡した書状は返してくれるのかな?


「C級ハンター。ペット。商業ギルド会員。親友。ペット。使者……」


 ああ、聞かなくてもだいたいわかった! ペットが二回も出て来るのは気になるがな!


「で……通っていいかにゃ?」

「は、はい……皆も剣を下ろせ! この度は使者様に剣を向けてしまい、申し訳ありませんでした」

「いいにゃ。立派に仕事をしている証拠にゃ」

「寛大なお言葉、ありがとうございます」

「そんにゃにかしこまらなくていいにゃ。わしのせいで騒ぎが起きると思うけど、許してくれにゃ~」


 こうして、女王の短刀効果で丁寧な対応になった門兵の案内で、わし達は門を潜り、無事、コッラトの街に足を踏み入れるのであった。



 それからガウリカの案内で露店を回る事にするのだが、わし達が街中を歩くと、猫コールが起きてめちゃくちゃうるさい。


「猫、猫とすごいな……」


 ガウリカが周りを見てからわしをガン見するので、ぷいっと目を逸らしてメイバイを見る。


「メイバイが猫耳でかわいいから、見られてしまっているにゃ」

「私のせいにするニャー! でも、かわいいって言ってくれたから許すニャー」

「メイバイさんいいな~」

「もちろんリータもかわいいにゃ」

「シラタマさんったら、もう!」


 わしがリータの馬鹿力でバシバシ背中を叩かれていると、ガウリカがわしの姿を指摘して来る。


「お熱いようで……それにしても、そんなモフモフの毛皮を着ていて暑くないのか?」

「わしの一張羅を脱ぐわけないにゃ!」

「シラタマさん。それじゃあ脱げるように聞こえますよ」

「にゃ!?」

「たしかに見てるだけで暑いニャー」


 まぁわしが同じ立場なら、そう思うじゃろうな。飛行機から降りた瞬間、熱風がキツかったから、すぐにわしの周りを氷魔法で包んだから暑くない。いまは涼しいぐらいじゃ。


「暑くてもシラタマさんなら、いつでも抱けますよ……あれ?」


 リータはそう言ってわしをおもむろに持ち上げると、不思議そうに抱き締める。


「どうしたニャ?」

「冷たい……」

「ちょっと貸すニャ! ホントニャー」

「あたしにも貸して」


 なにその貸し借り……


「本当だ……冷たくて気持ちいい。それにこの抱き心地……みんなが抱きたくなる気持ちもわかる」

「ダメです。返してください!」

「シラタマ殿は、私達のニャー!」


 今のところわしは誰の物でもないんじゃけど……。ガウリカも、わしを奪い取られて悲しそうな顔をするな!


「なんでこんなに冷たいのですか?」

「氷魔法で包んでいるにゃ」

「私もシラタマ殿に包まれたいにゃ~」

「わしの毛皮はやらんにゃ!」

「メイバイさん、言い方がおかしいですよ。私も氷魔法で包む事は出来ますか?」

「やってもいいけど、たぶん寒いにゃ」

「私! 私もやってニャー!」

「じゃあ、メイバイからやってみるけど、寒かったら言うにゃ。【雪化粧】にゃ」

「冷たくて気持ちいいニャー」

「本当ですか! 私もお願いします」


 リータのお願いに、わしが魔法を掛けようとした瞬間、メイバイが体を震わせて手を掴んで来た。


「ちょ、ちょっと待つニャ……ガチガチ……さ、寒いニャー!!」

「【解除】にゃ。にゃ? わしくらい毛皮が無いと寒いんにゃ」

「うぅ……暖かいニャー」

「やっぱりいいです。シラタマさんを抱いています」

「それもにゃんだし、魔道具でも使うかにゃ?」

「あ! それいいな。やってくれ」

「わかったにゃ」


 ガウリカがわしの案に賛成してくれたので、適当な大きさの角を三本取り出し、【氷玉】を注入して三人に渡す。東の国で用意していたマントを羽織って、中で氷の魔道具を使えば、涼しくなるといった寸法だ。


「暑い時に魔力を流すにゃ」

「シラタマさんでいいのに~」

「メイバイと取り合いになるから、これで我慢してくれにゃ~」

「……はい」



 残念そうにするリータや、寒がるメイバイを連れて街中を歩くと、しだいに人が増え、露店が多く集まる広場に出る。


「わあ。すごい活気ですね」

「猫、猫とうるさいけどな」


 リータとメイバイは人混みに驚き、その人混みが指差すわしをガウリカが非難する。


「もうちょっとオブラートに包んでくれにゃいかにゃ?」

「事実だ。何か掘り出し物があるか覗いてみよう」


 わしはガウリカの冷たい言葉でハートブレイク。だが、リータとメイバイが慰めて頭を撫でてくれた。たぶん撫でたいだけだろうけども……

 少し出遅れたわし達は、急かすガウリカに続いて露店を見て歩く。ガウリカは露店の店主と軽く会話を交わし、わしはスパイスを見付けると大量に買い込んでいく。


「そんなにスパイスを買って、どうするんだい?」

「王都で買うと高いにゃ。それにいろんな種類があるから、料理のレパートリーも増えるにゃ」

「そうか。東の国ではスパイスも売れるのか。参考になるな」

「ガウリカは店主とにゃにか話していたけど、にゃにを話していたにゃ?」

「どこに高価な物が集まっているか聞いていたんだよ。もう少ししたら着くよ」


 ガウリカと話ながらしばらく歩くと、宝石や絵画、貴金属の露店が並ぶ通りに入った。すると、メイバイが目を輝かして露店に近付き、わしとリータも隣に立ってきらめく宝石を見る。


「キラキラしてるニャー」

「メイバイさんは宝石が好きなんですか?」

「ううん。ただの憧れニャ」

「それを好きって言うんですよ」

「メイバイも仕事してるんだから、買うといいにゃ」

「好きな殿方に貰うのが憧れなんニャ。シラタマ殿~?」


 なにそのウインク……わしに買えと? そう言えばメイバイは、リータとさっちゃんに贈った指輪を欲しがらなかったな。宝石が付いていなかったからか? 白魔鉱でも高いと思うんじゃけど……


「シラタマさん!」


 リータさんはウインクが下手じゃな。両目をバチバチつぶっておる。


「はぁ……探しておくにゃ~」

「「やった~(ニャー)」」

「なんでこの猫がモテるんた?」


 ガウリカよ……深く共感するぞ。


 喜ぶリータとメイバイと、不思議そうにわしを見るガウリカと共に、女王への贈り物探しは続くのであった。

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