525 We Are The Worldにゃ~


 城で行われていたパーティーから逃げ帰ったら、我が家でもカウントダウンパーティーが行われていたので、遅ればせながらわしも参加する。ミニ玉藻を城に置き去りにしたから、ちょっと揉めたけど……


「レイフって、いつになったら帰るにゃ?」


 見慣れぬスキンヘッドおっさんが、両手で高級肉をむさぼっていたからには、わしは質問せざるを得なかった。


「宴と聞いて、俺が参加しないわけにはならんだろう!」

「誰も呼んでないにゃ~」

「まぁそう言うな。親友だろ? がっはっはっ」

「酒がこぼれるから叩くにゃ~!!」


 わしの背中をバシバシ叩くレイフは面倒臭いので、一旦距離を置いてリータ達から話を聞く。


「どうしてあいつを帰してないんにゃ~」

「いちおう帰そうとはしたのですが……」


 どうやらリータはレイフを追い出そうとしたらしいが、尻尾八本バージョン玉藻と家康から話を聞いてみたいと待ったが掛かり、パーティーに参加する事となってしまったようだ。

 最初の内は、レイフからハンター協会の話を聞いていた玉藻と家康であったが思ったより説明が薄く、偉そうな態度に辛抱たまらなくなって離れて行ったようだ。


「玉藻~。ご老公~。責任取って追い出してくれにゃ~」

「「面目にゃい」」

「面目にゃいで片付けようとするにゃ~!」


 自分達で呼び止めた癖に、頭をポリポリ掻いてまったく動こうとしない二人を怒鳴り付けると、不穏な事を口走る。


「ならば、消してしまうか?」

「うむ。日ノ本の海に捨てれば、バレる事はないじゃろう」

「完全犯罪するにゃ~!!」


 二人はヤル気満々なので止めていたら、バカがそれに乗る。


「おうおうおう。面白そうな話をしてるじゃねぇか。いっちょ手合わせしてみるか?」


 レイフだ。いつの間にかわし達に近付いて、盗み聞きしてやがった。


「お前は引っ込んでろにゃ!!」

「こう見えて俺は、その昔はAランクハンターだったんだ。それも素手で熊をも殺す『熊殺し』と呼ばれていてな」

「だから~。自慢話を聞いても意味ないんにゃ~」

「怪我人を出しても悪いし、腕相撲で相手してやるぞ。全員で掛かって来い!!」

「話を聞けにゃ~~~!!」


 まったく話を聞かないレイフには、死んでもらう。特設腕相撲リングを土魔法で作ったら、レディーゴー!


「一番手が大将か。ま、疲れる前に勝負したかったんだ。……ぎゃあぁぁ~!!」


 レイフは家康に腕をへし折られ、わしに完全に治されて、玉藻と手を組む。


「さすがに、こんな幼女に本気は出せねぇな~……ぎゃあぁぁ~!!」


 玉藻にも腕を折られてしまったので、わしが完全に治して、涙目のレイフをリータと手を組ませる。


「ま、まさか、こんな細腕の女も強いとか? ……ぎゃあぁぁ~!!」


 レイフは震える手で力を込めたが、リータにも腕を折られて自信喪失。完全に治しても、わしと手を組んでくれない。


「こ~んにゃ小さにゃ猫が怖いんにゃ~?」

「うっ……うぅぅ。やったら~! ……ぎゃあぁぁ~!!」


 レイフは泣きそうな顔でプルプル震えていたから挑発すると、死を覚悟したような顔に変わって手を組んだので、一蹴。硬く作ったリングをぶっ壊し、地面に半分ほど埋めてやった。


「ぐっ、うぅ……なんだこの化け物揃いの集団は……」

「にゃはは。褒め言葉と受け取ってやるにゃ」


 わしは笑いながらレイフの怪我を完全に治し、土魔法を使って地面から抜いてあげる。


「でにゃ。お前の性格は嫌いじゃないんにゃけど、厚かましいのは面倒臭いにゃ。お偉いさんが頭を下げる姿を見せたかったんにゃろうけど、次、もしも会う機会があれば、話の通じる奴を必ず同席させろにゃ。わかったにゃ?」

「俺も話ぐらい……」

「返事は『ワン!』にゃ!!」

「ワ、ワン!!」

「よし! さっさと帰れにゃ~!!」

「ワン!!」


 こうしてハンター協会会長代理のレイフは、わしの犬となって、猫の国のハンターギルド設立に精を出すのであった……


「猫が犬を飼うとは……コ~ンコンコン」

「ポンポコポン。調教も上手いものじゃな」

「犬を増やしたらケンフが悲しむニャー」

「やっぱりこうなりましたか……」


 わしが強制的に犬に仕立て上げたので、玉藻と家康は笑い、メイバイは初代犬の心配をし、リータは予想していたような顔で見ている。その他も呆れているような目で見て来るので、居心地の悪いわしであったとさ。



「さっき、レイフが『ワンワン』言いながら走って行ったんだけど……」


 レイフと入れ代わりで女王達がやって来て、変な事を言って来たからとぼけてみる。ちなみにミニ玉藻は女王に送り届けてもらって、すぐに本体と合体していた。さっちゃんにおもちゃにされたらしいから……


「さあにゃ~? ちょっと頭でも打ったんじゃないかにゃ~??」

「絶対に何かしたわね……リータ、メイバイ。教えてくれる?」


 わしが喋るつもりが無いと察した女王は、すぐにリータ達の元へ行って聞き取り調査。かなり呆れられたようだが、わしはさっちゃんやローザやフェリシーに撫で回されているので、女王の呆れ顔は見ていない。

 その他のモフモフ、コリス、ワンヂェン、つゆ、お春も、女性陣に撫で回される事で忙しいらしいが、つゆとお春は嫌なら、わざわざタヌキやキツネの姿にならなきゃいいのに……


 その姿のほうが楽なんですか。どう考えても魔法を使っていないケモミミ状態のほうが楽だと思いますよ?


 わしがケモミミ姿を推しても、二人は本当にその姿が楽みたいなので好きにさせる。たぶんわしがケモミミのほうが好きと言えば、そっちに移行すると思うが、愛人希望者にわざわざ言う必要はないだろう。


 そうしてモフモフパーティーやバーベキューパーティーをしていると、今年もあの鐘の音が聞こえて来た。



 カラ~ン、カラ~ン、カラ~~ン♪


 年を跨ぐ、時の鐘の音だ。


 皆で外に出て、空を見ながら今年を振り返り、来年の誓いを立てる。


 静寂の中、もう一度鐘の音が聞こえれば、新年だ。



 わし達は何を誓ったのかをわいわいと喋っていたら、空が明るくなったので、夜空を見上げる。


「にゃ……」


 これが猫花火か!? 女王誕生祭なんじゃから、女王の顔を上げんか! なんでわしの顔が空に花開いておるんじゃ!!


 わしが心の中でツッコンでいると、玉藻と家康が満面の猫花火を眺めながら、大声でお約束の言葉を発する。


「た~まや~~」

「か~ぎや~~」


 その声に一同何事かと二人を見て、さっちゃんが質問していた。


「タマヤとかカギヤとは、なんですか?」

「そうか……その説明が抜けておったのう。どちらも、花火職人を指しておる」

「花火職人ですか?」

「それも知らんのか……。関ヶ原で説明した花火を作っている者が、通称、玉屋と鍵屋と呼ばれておるんじゃ」

「ここでは魔法で上げているらしいな。日ノ本では、花火職人が火薬を使って玉を空に打ち上げ、破裂させて夜空に花を作っておるんじゃ。その職人の屋号を、景気付けで声に出しておるのじゃ」

「なるほどです!」


 玉藻と家康から花火講座を聞いたさっちゃんは、何やら皆とゴニョゴニョ喋ったと思ったら、全員で声を合わせる。


「「「「「ね~こや~~」」」」」

「「「「「キャットや~~」」」」」


 うん。わざわざ日本語と英語で猫と言わんでいいんじゃぞ? バカにしておるのか??


 わしをバカにする皆は首が痛そうに見えたので、レジャーシートと毛皮を支給して庭に寝転んで見させる。わしはと言うと、恥ずかしい事をされているので、縁側に腰掛け、皆の笑顔を眺めている。

 そうしていると、玉藻がわしの隣に腰掛けた。


「コンコンコン。これをやり始めたのは、シラタマらしいのう」

「まぁそうにゃんだけど……まさか毎年やるとは想定外にゃ~」

「うちでも作らせようかのう」

「やめてくれにゃ~。もう恥ずかしい思いをしたくないにゃ~」

「コ~ンコンコン」

「笑ってないで、『うん』と言ってくれにゃ~」


 玉藻はなかなか「うん」とは言ってくれなかったが、もう釣りに行かないと脅して、猫花火製造を阻止するわしであった。

 しかし、そのせいで釣りを思い出した玉藻に、正式な日取りを決めたいと相談され、女王達からも期待していると言われて断れなくなるのであったとさ。





 新年明けましてからは、ダラダラ。今日はお店もやっていない国民の休日なので、全員コタツ虫になってダラダラしている。


「シラタマちゃ~ん。何か面白いことして~」


 しかし、ダラダラに飽きたさっちゃんからリクエストが入り、ぐわんぐわん揺すられたわしは、次元倉庫を開いて面白そうな物を取り出す。


「せっかくにゃし、女王へのプレゼント、忘れない内に渡しておくにゃ~」

「これは……レコードとかいう道具の一部? これには驚かされたけど、もうあるから、他にはないの??」


 わしがレコード盤を渡そうとしても受け取らず、厚かましい女王は別の物をよこせと言って来るが、わしとさっちゃんと双子王女はニヤニヤするだけだ。


「本当にいらないにゃ~? いらないにゃら、他の人にあげよっかにゃ~?」

「何よその顔……いいわよ。その代わり、もっといい物をちょうだい」

「これよりいい物にゃんて、この世界にはないにゃ~」

「だから何よその顔! 私は知ってるのよ。山みたいな魚を持ってるでしょ! それを丸々もらうわ!!」


 女王がますます厚かましくなったところで、わしはレコードの準備をしていたさっちゃん達を指差す。


「ミュージック、スタートにゃ~!」

「ポチッとにゃ!」


 さっちゃんが三人組の鼻の長い悪役みたいな言い方でスイッチを押すと、レコード盤が回り始め、双子王女が慎重に針を落とす。


『ジ、ジジー……お母様、お誕生日おめでとうございます』

『わたくし達の願いは、お母様がいつまでもお元気でいてくれることですわ』

『これより、わたくし達がお母様のお誕生日を祝して、心を込めて歌わせていただきますわ』

『では、一曲目……』

「サティ……ジョスリーヌ……ジョジアーヌ……」


 さっちゃんから始まり、双子王女が祝辞を述べると、女王がレコードと三人の娘を交互に見ていた。その瞬間、ピアノの伴奏が始まり、三王女の歌声が聞こえる。


『『『ハッピーバースデイトゥユー♪ ハッピーバースデイトゥユー♪ ハッピーバースデイ、ディアお母様~♪ ハッピーバースデイトゥユー♪』』』


 わしと三王女は体を右に左に揺らし、ゆらゆらして女王を見ていると、驚きの表情から優しいお母さんの顔に変わり、目が潤んで来た。


『『『ハッピーバースデイ、ディ~ア……お母様~♪』』』


 そして最後のハモリ。皆は三王女の美声に酔いれ、女王は涙をこらえるのに必死のようだ。だが、目をこすっているところを見ると、我慢できないみたいだ。


「三人とも、とっても上手じょうずだったわよ。本当にありがとう」

『続きにゃして、わしからも数曲贈らせてもらうにゃ~』


 女王が感動してお礼を言っているのにも関わらず、レコードからはわしの声が聞こえて来て、なんだかいたたまれなくなる。しかし、レコードは回り続けているので曲が流れて来た。


『『『『『ウィアーザワールド♪ ウィアーザチルドレーン♪』』』』』

「これは……いったい何人で歌っているの? シラタマは歌っていないのはわかるけど、十人以上いない? それに楽器もいっぱい聞こえる……」


 歌を聞きながら女王が困惑して質問するので、わしが答えてあげる。


「この曲には、わしの知り合いがいっぱい出て来るにゃ。メイバイ達にさっちゃん達、オッサンも歌ってるにゃ。それに、エルフの里、ビーダール王族や南の王、西のじい様にも頼んだにゃ~」

わらわと家康、天皇陛下も歌っているぞ。そして、伴奏しているのは、日ノ本の者じゃ」

「ちょ、玉藻は黙ってろにゃ~。日ノ本で、若者に人気の爆音団の演奏だにゃ」

「私も城の楽団にお願いしたんだ~」

「さっちゃんまでにゃ~。まぁいいにゃ。この曲は、わしがいま知る現在で、世界中の協力を得て作った曲にゃ。と言っても、全ての国に知り合いはいにゃいから、世界中は言い過ぎだけどにゃ」

「世界中……」


 わし達が説明している間も女王はレコードを眺め、音に耳を澄ませている。そうして一曲が終わると、また新しい曲が何曲も流れ、レコード盤の溝が終わりに近付いたら、さっちゃんの声と、大勢の声が聞こえる。


『女王陛下……せ~の!』

『『『『『お誕生日、おめでとうございにゃ~す』』』』』


 そうして、パチパチと拍手の音が小さくなっていき、レコードからのプツッと鳴る音を最後に、音は途切れるのであった……

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