524 きらびやかなパーティーにゃ~


「と、とりあえず、謝罪は受け取るから、罪の軽い者は許してやれにゃ。特に会長……」

「お、おお! よかった。本当によかった……」


 レイフは心底ホッとしたらしく、握手を求めて来たからするのだが、わしじゃなかったら骨が折れてるぞ? やはりわしに嫌がらせしに来たのではなかろうか……

 何度もお礼を言うスキンヘッドのおっさんに手を握られているのは気持ち悪いので、さっさと手を離せと命令したら、今度は「がばがは」笑いながら背中をバシバシ叩く。

 なんか「握手したらもう親友だ」とか言ってるけど、そんなわけがなかろう?


 わしが迷惑そうにしていたら、女王がレイフの人となりを教えてくれたけど、一言だった。


 見たまんま、がさつなんだって。


 たしかに超がさつに見えるけど、これでよく次期会長にまで昇り詰めたなと質問すると、ハンターからめちゃくちゃ人望があるらしい。なので、有能な人物が全ての仕事をしてくれるから、レイフはふんぞり返っているだけでいいようだ。


「まるで、どこかの王様みたいでしょ?」


 女王がわしを見ながらそんな事を言うが、王様に詳しくないわしは、誰を指しているかわからない。皆がウンウン頷きながらわしを指差しているが、本当にわからない。わしではないはずだ!!


 とりあえず皆の冷たい視線が突き刺さって痛いので、レイフと今後の話に移る。

 レイフからの謝罪は大粛清だけではなく、お金も用意されていた。それも、わしが要求しようと思っていた額よりも十倍以上多い。

 ハンターギルドを建てる費用を五ヶ所も半分持ってくれるし、ギルマスとサブマスの初年度の給金を、こちらも五ヶ所まで持ってくれるとのこと。さらには、ハンターやギルド職員の増員までしてくれるらしい。


 あまりに待遇が良すぎるので、謝罪とは別に恩でも売ろうとでもしているのではと聞いてみたら……


「その通り! 俺のマブ達で参謀をしている奴が、信頼を取り戻すついでに恩を売ろうと言っていたんだ! あ、これは言ってはならんかったヤツだ。ま、いっか。がっはっはっはっ」


 秘密情報はだだ漏れ。だから調子に乗ってハンター協会の裏事情を探ってみたら……


「運営費? しらん。ハンターの数? しらん。マブダチの歳? しらん!」


 裏事情どころか、表の事情も親友の年齢すら知らなかった。おそらく、レイフの裏表の無さを熟知している参謀が、レイフにあまり情報を流さないようにしているのだろう。

 たぶん「恩を売る」発言も、参謀が喋らせていると思う。こいつは参謀の傀儡かいらいではなかろうか……


 まぁこの程度の恩なら貰っておいても損はないだろう。ただし、人の増員に関しては猫の国の住人の仕事を奪う事になるから、必要になったらこちらから要請する事で落ち着いた。

 ただ、レイフに口約束だけでは心配なので、念書をちゃちゃっと書いて、連名でサインして両方に証拠を残す事にする。これを参謀に必ず渡すように指示を出しておいた。お使いぐらい、レイフにも出来るだろう。


 あとは、ハンター協会からの書類関係に目を通し、女王に立ち会ってもらって連名でサイン。何やら女王もホッとした顔をしていたのでその事を聞くと、これ以上揉めない事を望んでいたようだ。


「さあ、これで全て解決ね。行くわよ」

「にゃ~~~?」


 女王が立ち上がってわしの首根っこを掴むので、わしは疑問を口にする。


「いまは誕生祭。城に行けば、各国の要人が揃っているんだから、シラタマの口から説明しなさい」

「え~! 面倒にゃ~。リータ~、メイバ~イ。助けてにゃ~~~」

「「行ってらっしゃいにゃ~」」


 どうやらこれも、王様の仕事らしい。わしは二人に怖い笑顔で見送られ、女王の乗るリムジンに揺られ、城に売られて行くのであったとさ。



 城では、そうそうたる面々が揃うキラキラした会場にポイッと投げ捨てられそうになったので、せめて着替えさせてと言って別室に移動する。さすがに普段着では場違い感が半端ないので、燕尾服えんびふくに着替えた。

 その時、着流しにミニ玉藻がくっ付いていたので何をしに来たかと質問したら、パーティを見に来たらしい。どうして普通に参加しないのかと聞くと、尻尾をモフられる心配があるから家康も参加しなかったんだって。


 着替えが済んだら女王と登場し、ハンター協会との揉め事は解決した事をわしの口から報告する。

 各国の要人は安堵の溜め息がすんごい大きな音で漏れていたので、女王誕生祭は、もしかしたら猫の国の情報を聞きに来た人が多かったのかもしれない。


 皆の心配事が無くなったところで、キラキラした要人の群れの中に、わしはポイッと投げ捨てられた。

 こんな超豪華なパーティーは、わしも初めての経験なのでどうしていいかわからないが、要人の目が超怖い。握手にサインにモフモフまで要求して来る始末。

 どうやら小説を熟読している者が多かったようで、王様としてより、冒険家として扱う人が大多数。さすがにこんな人数にサインできないので、握手で勘弁してくれと言ってみたら、めちゃくちゃモフられた。

 ちなみに、ミニ玉藻は女王の胸元に退避しており、わしが悲惨な目にあっている姿を見て、参加しなくて正解だったと胸を撫で下ろしていたらしい。



 小一時間ほどの騒ぎの中、女王がグラスをチンチン鳴らしたら皆は正気に戻ったので、わしはフラフラと歩き、さっちゃんに抱きついた。


「あはは。大人気だったね~」

「またビリビリにゃ~」


 わしの燕尾服は大蚕おおかいこ製なので、そこそこの防御力があるはずなのに、猛要人の攻撃力には足りなかったようだ。


「大丈夫よ。代えの服を用意しておいたわ」

「そうにゃの? じゃあ、お言葉に甘えるにゃ~」


 パーティー用の服なんて多く作っていないので、綺麗な服を受け取ったら、もう一度お色直し。おそらく大蚕の糸で編まれた白い燕尾服に身を包み、わしは会場に戻る。


「わ! ピッタリね。かわいい!」

「かっこいいって言ってにゃ~」

「あはは。男の子だもんね。かっこいい!」

「はぁ……てか、こんにゃに高そうにゃ服を貰ってもいいにゃ?」

「シラタマちゃんにはお世話になってるからね。それぐらいお安い御用よ。それに……」


 さっちゃんが何かを言い掛けた瞬間、会場の光が消えて、中央が円形に照らし出された。


「にゃんかこれから出し物でもあるにゃ?」

「あるっちゃあるんだけど~……はい。手を取ってくれる?」


 さっちゃんが左手を、手の平を下にして差し出すので、わしは肉球を上にして受け取る。


「これがにゃに??」

「じゃあ、次は~……あそこまで、私の手を引いて歩いて」


 あそこ? ……て、照明で照らされている所か。あんな所、目立ってしょうがない。ただでさえ、モフられて疲れておるのに行きたくないのう。


「もう帰りたいんにゃけど~?」

「それはダメよ。私に恥を掻かすつもり?」

「恥にゃ?」

「次期女王の私が、ダンスの相手にシラタマちゃんを選んだのよ? ここで断られたら、私は皆に哀れな目で見られるわ。そんな事になったら大恥よ」


 はい? もしかして、わしはさっちゃんの策略に引っ掛かったのか……。てか、こんなぬいぐるみみたいな奴をダンスの相手に選ぶほうが恥ずかしくない??

 かと言って、さっちゃんに恥を掻かすわけにもいかない……のかな~? ダメじゃ。わしの見た目のせいで、恥ってなんだったかわからなくなって来た。

 とりあえず、さっちゃんが恥ずかしくなくなるのなら、乗ってやるか。


「わしはダンスにゃんて踊れないんにゃけど、それでいいにゃ?」

「私がリードするから大丈夫。ほら? みんな見てるよ」

「わかったにゃ。その大役、わしが務めさせていただくにゃ~」


 わしはさっちゃんの手を持ち、足を引いてお辞儀をしてから、手を引いてダンスフロアー中央に移動する。すると合図でも出されたように、楽団の演奏が始まった。

 そこで、もう一度お辞儀。さっちゃんと向かい合ってお辞儀をし、さっちゃんの出す手と同じ形で一歩前に出る。しかし、さっちゃんのほうが背が高くなっていたので持ち上げられて、抱きつく形となってしまった。


 う~ん……これがダンスか? わしは浮いているから足は踏まないで済んでいるけど、さっちゃんはぬいぐるみを抱いて一人で踊っているようにしか見えんじゃろう。やっぱりこっちのほうが、かわいそうに見えね??


 わしは心配そうにさっちゃんを見るが、さっちゃんは満面の笑みで前に出たり後ろに下がったり、クルクル回ったり。わしの心配は、まったく気にしていないようだ。

 さっちゃんのダンスが一分ほど続くと、女王とオッサンも加わり、双子王女、他国の王族、貴族等がパートナーと共に踊り、ダンスホールが埋め尽くされる。



 わしはさっちゃんの笑顔を見つめながらクルクルし、楽団の演奏が終わった頃にようやく下ろされて、全員の拍手の音でダンスは終了となった。



「本当に、あんにゃのでよかったにゃ?」


 元の席に戻ったわしは、ゲラゲラ笑うミニ玉藻を遠くにぶん投げてから、シャンパンを飲みつつさっちゃんに問う。


「いいのよ。貴族の男子が狙っていたから迷惑だったの」

「貴族……にゃ! わしを盾に使ったにゃ!?」

「やっと気付いたみたいね」


 やられた……どうりでわしを睨んでいる男が多いわけじゃ。さっちゃんをナンパして、オッサンの後釜を狙っている奴等が山ほど居たんじゃな。

 この中から一人を選び、さっちゃんの夫になるのか……是非とも、さっちゃんを大事にしてくれる優しい人を選んで欲しいもんじゃ。その時には、わしも審査してやるからな!

 睨んでいる奴等は、全員顔を覚えて落としてやる! 特にそこのハゲ散らかしたおっさん! お前いくつやねん。このロリコンが!!


「ところで、一人ぐらい、いい人は居るのかにゃ?」

「居るよ~。その殿方は丸くてモフモフで~」

「まだわしを狙ってたにゃ!?」

「あははは。冗談だよ~」


 さっちゃんは冗談と言いながら、わしと結婚した未来図を語る。毎日モフモフし放題や子供は何人欲しいとかは、百歩譲っていいとして、猫の国を東の国に併合する事をたくらんでいたので、全然冗談に聞こえない。

 女王までその夢物語を有りかもしれないと言う始末。ただの猫ではさっちゃんの旦那には相応しくなかったのだが、国土と数々の技術が付いて来る事は、メリットがあると思ったようだ。

 双子王女まで、何故かわしを推して来る。わしが仕事をしない事は看過できないが、わしの出す様々な政策は目を見張る物があり、意外と賢いと褒めてくれた。


 だが、王のオッサンが大反対。すでに既婚者であるわしはさっちゃんに相応しくないとか、子供がわしみたいに丸々したブサイクなのは嫌なんだとか。


 別にわしの事なら怒る事はなかったのだが、まだ見ぬ子供の事を言われたら腹が立つ。


「誰が丸くてブサイクなんにゃ~!!」


 いや、どう聞いてもわしがののしられていたので、オッサンとの激しいケンカになるのであった。


「バーカ、バーカ!」

「なんだと~! 待て~~~!!」


 こうしてわしは、オッサンを罵るだけ罵って我が家に帰ったので、さっちゃんの婿候補の話はうやむやになるのであったとさ。

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