526 敵はさっちゃんにゃ~


 女王に贈ったレコード盤からの音が途切れると静寂が訪れ、皆の視線が女王に集中する。そこに、わしのトドメ。


「それで~……本当にこのレコード、いらないにゃ~?」

「ぐすっ……もう、意地悪いわないでちょうだい。ぐすっ……」

「にゃはは。気に入ってくれてよかったにゃ~」

「はぁ……歳を取るのは嫌ね。涙もろくなったわ。ぐすっ……」

「ほい。ハンカチにゃ~」

「ありがとう」

「それと、B面いってみようにゃ!」

「まだ泣かすつもりなの!?」


 双子王女がレコード盤を裏返し、さっちゃんが針を落とすと「We Are The World」から始まった。

 B面はなんの事はない。誕生日使用ではなく販売目的なので、わし達の語りは無く、曲しか流れて来ない。

 皆は自分の歌ったパートが流れて来ると口ずさみ、三王女は女王の隣に移動して歌詞を教え、一緒に歌ったりなんかもしていた。


 フフン。サプライズ成功じゃ。女王の涙が見れるとは、頑張って作った甲斐があったのう。

 基本的に、カラオケで歌う曲以外はうろ覚えじゃったから、歌詞が大変じゃった。まぁ間違いを正す人は居ないんじゃから、小説家の猫耳娘にうろ覚えの箇所を繋いでもらって、なんとか曲になった。

 さらに大変なのは編曲。分厚い土の部屋に入って歌や音を別々に録音し、その音を一斉に一台のレコードに向けての録音。機材も何も無いから、音量や速度を合わせるのに苦労したわい。


 ゆらゆら揺れて「ホロッホロッ」と楽しそうなコリスの腹にわしはもたれ、録音作業の苦労を思い出していると、女王がわしの隣に座ってコリスに包まれる。


「いい曲ばかりね。それにこれを何度も聞けるなんて、今日の出来事は忘れられないわ」

「だにゃ。写真もあるし、何年経っても思い出せるにゃ~」

「ほんと、凄い時代が来たわね。キャットトレインで移動時間が減って、日ノ本と繋がったら、記録まで鮮明に出来るなんてね」


 レコードに関しては、平賀家の知識で作られている事になっている。

 いちおうそれらしい研究も誰かが発表していたので、それを読んだわしが完成させたと対外的に説明してあるし、玉藻にも口裏を合わせてもらっているので、女王もそこまで疑っていないようだ。


「これから十年、二十年と経てば、もっと面白い技術が生まれているかもにゃ」

「これよりもなんて信じられない……」

「そんにゃ事ないにゃ。だって、産み出した者がここに居るんにゃ。にゃらば、その技術を研究し、新しい技術を産み出す者は必ず現れるにゃ」

「なるほど……たしかに言いたい事はわかるわ。でも、シラタマはそれでいいの? 技術を取って代わられてしまうわよ??」

「それは仕方がない事にゃ。もしもわしがあらゆる力を使って規制したら、その流れを遅く出来るだろうけど、止める事は出来ないにゃ。だってそうにゃろ? みんにゃ便利になればなるだけ、便利にゃ物を欲しがるにゃ」

「そうね。写真の先なんかあったら見てみたいわ。例えば動く写真なんてね。そんなの夢物語かしら? ウフフ」


 女王は自分の口にした言葉を笑うので、わしは真面目な顔で答える。


「それにゃ!」

「それ??」

「それこそがアイデアにゃ。写真の先は、いみじくも女王が言った動く写真……動画にゃ」

「うそ……出来るの?」

「要は、写真を連続で撮るだけにゃ。それを一枚一枚素早く壁に映せば、動いている写真の出来上がりにゃ~。平賀家辺りにゃら、それに気付いて研究してるんじゃないかにゃ?」

「はぁ……そんな物があったら見てみたいけど、私にはついていけそうにないわ」


 わしが熱く語ったせいで女王はキャパオーバーになったのか、ため息をつきながら懐中時計の蓋を開いた。なので、わしも少しクールダウンする。


「それって、イサベレからの贈り物にゃ?」

「ええ。シラタマが買って来てくれた腕時計を使わないのは悪いけど、私はこれが好きなの。ゴメンね」


 やっぱりそっちを使うわな。あのイサベレからのプレゼントじゃもん。もう少し懐中時計が出来るのが早かったら、腕時計の発注はいらなかったかもな。


「いいにゃいいにゃ。女王にゃら、そっちを使うと思っていたにゃ。黙っているように言われていたから、無駄にゃ出費をさせてしまったにゃ~」

「そんな事はないわ。夫も喜んでいたし、家臣の褒美で使えるから、いくらあっても足りないぐらいよ」

「それはよかったにゃ。そう言えば、双子王女から時計台を贈ったと聞いてるけど、お披露目はまだにゃの?」

「明日よ。本当は街の中に作りたかったんだけど、いまは候補地が空いていないから、城の正門広場に作ってもらったわ。明日、城に来るんでしょ? その時にでも見て行って」

「楽しみだにゃ~」

「ええ。本当に……」


 女王は遠い目をして音楽に聞き入り、わし達のプレゼントに満足してくれたようだ。



 音楽を聞きながらさっちゃんとサッカーについてコソコソ喋り、皆でお昼ごはんを食べたら、玉藻の提案した羽子板大会。まずは、わしと玉藻でやり始めたのだが、お互い熱くなり過ぎて、一部の者しか見えないラリーの応酬となってしまった。

 勝敗も、本来の物とはほど遠い。力加減をミスって羽根が木っ端微塵になってしまったので、わしの負けにされてしまった。

 すみで顔を黒く塗られたわしは皆にめちゃくちゃ笑われるが、敗者にはこれが待っていると説明してから、皆に土で出来た板と羽根が渡される。


 だが、わし達のデモンストレーションは見えていない人が多かったから、ルールがわからないんだとか。

 とりあえずリータに手伝ってもらって説明するが、空振り連発。唯一当たった羽根も、わしの腹にめり込んだのでチェンジ! 常人に当たったら死んじゃうもん。

 なので、メイバイに「ゆっくりね? ゆっくりでいいからね?」と言いながら打ち返してもらい、なんとかルール説明は終わった。


 ただ、罰ゲームを嫌って王族はさっちゃん以外やろうとしなかったので、おやつの数を減らす事で罰とし、それが嫌なら墨を罰にしたら、それならばと参加していた。

 羽子板大会の参加者は、終わった頃には女王と双子王女以外は顔が真っ黒となったので、食い意地が張っている奴等ばかりだったようだ。


 でも、ワンヂェンはズルくない? どこを墨で塗られたんじゃ??

 あとさっちゃん……おやつを払えないほど負けたのですか。相変わらず奔放ほんぽうですね。


 黒猫には罰とはなっていなかったが、顔が真っ黒でおやつも食べられない踏んだり蹴ったりのさっちゃんには、頑張った賞でおやつを支給。皆も真っ黒なので、お風呂に放り込んでジャブジャブ魔法で洗ってやった。

 そうこうしていたら女王達の時間が来たようで、わしの顔を見て大爆笑してから城に帰って行った。残されたわしは不思議に思いながら凧上げ大会に参加するのだが、皆がわしの顔を見て「ププププ」笑っている。


「さっきからにゃに? にゃんで笑うんにゃ~」

「「「「「ププッ……パンダ」」」」」


 パンダ?? ……あ! 自分を洗うの忘れてた!!


「それにゃらそうと、早く言ってにゃ~~~」

「「「「「あはははは」」」」」


 新年早々、わしは恥を掻く。わしの顔は、狭い額に墨で「パンダ」と書かれ、目と耳を黒く塗られていたので、そりゃ笑うよ。わしだって、鏡で見て吹き出したもん。


 この日は寝るまでパンダと呼ばれ続けたわしであったとさ。



 翌朝は、白猫で、白猫でサッカー会場に出向く。まだわしの事をパンダと呼ぶ輩がいるから、二度言っておいたぞ。

 本日の対戦相手も体力自慢のチームだったので猫チームは苦戦を強いるが、後半ホイッスル間際に一点をもぎ取って辛くも勝利。東チームは大量に点を取り、6対3で順当に勝ち上がっていた。


 これで、準決勝までのプログラムは終了。決勝戦は、猫チームVS東チーム。因縁の対決だ。なので、わしとさっちゃんは睨み合っている。


「そんなロースコアじゃ、うちの楽勝かもしれないわね。あははは」

「笑ってられるのは今の内にゃ。我がチームは強敵を倒して勝ち上がったんだからにゃ」

「ハッ……うちも強敵の南チームを倒してますぅ~。それも大差ですぅ~」

「うちだって、一点も敵に取られてにゃせ~ん。東チームにも、一点も取らせにゃせ~ん」

「「……フンッ!」」


 さっちゃんがあおって来たのでわしも大人気おとなげなく返したら、空気がめちゃくちゃ悪くなって顔を逸らす。

 そうして、二人してぷりぷり怒りながらサッカー会場から出ると、わしについて来ていたリータとメイバイが心配そうに声を掛けて来た。


「シラタマさんが王女様とあそこまで言い合うのは珍しいですね」

「ケンカはやめて、仲良くしたほうがよくないかニャー?」

「だって敵にゃ~。敵とは仲良く出来ないにゃ~」

「東の国と仲が悪くなると、猫の国に被害が出るかもしれないじゃないですか~」

「そうニャー。大人気ないニャー」

「さっちゃんは敵にゃ! そこに甘えや手加減にゃんて、もってのほかにゃ~!」


 皆に大人気ないと責められながら歩いていると城に近付き、人混みの中を進めば、女王誕生祭の目玉のひとつ、各国の王や貴族、大商人からの贈り物展示場に到着した。

 わし達は特別チケットを使って中に入り、きらびやかな宝石や服を見ながら進み、人混みが出来ているところでは止まってわいわいと喋る。


 商業ギルドに売ってあげたレコードに民は驚きの声をあげていたので、その顔を見て笑い、日ノ本から出品されたみやびな鎧兜には感嘆の声をあげながら、関ヶ原の思い出を語る。

 西の国と南の国から、目立つ物を展示したいと相談を受けた軽車両のボディは、各々の国の特性が出ていてどちらがかっこいいかと話し合い、片方を発注する事となった。

 玉藻と家康も気に入ったようで、別々の国のボディを発注するようだ。


 車のデザインはわしだけでやるといまいちよくなかったので、コラボ出来ると助かる。デザインに惚れて無理して買う者も現れるだろう。

 ボディは各国で作ってもらえばそこにも仕事が生まれるし、足回りを作っている猫の国も潤う。ウィンウィンだ。


 ……魔道具レンタル業もあるから、頭ひとつ出てるけど……



 見学を終えて外に出ると、大食い大会の受付をしていたからコリス達を並ばせてみた。しかし、コリスとオニヒメはつまみ出されてしまった。

 たぶん、大食いだと知ってる双子王女から、二人を出すと食べ物が無くなると言われて止められてたんだと思う。

 ちなみに、ルウが警備兵に羽交い締めにされて追い出されていたので、アイにどうしてかと聞いたら、一度優勝した者は三年間の出場資格が無くなるとのこと。なのに、ほっかむりを被って出場しようとしたんだって。


 しかし、大食い大会に出場できなかったコリスとオニヒメが超ガッカリしていたのでかわいそうだ。だから会場の端に専用テーブルを作って、わしの持っていた串焼きを大皿に盛ってスタート。

 正規の参加者が脱落する中、三人のデットヒートが続き、オニヒメが脱落して、普通の人間のはずのルウとコリスの一騎討ち。

 壇上の出場者はとっくに全員脱落しており、わしの用意したエサも尽きそうだ。なので、ここは大岡裁き。


「コリス! 反則負けにゃ~~~!!」

「え~! まだまだ食べれるよ!!」

「変身は解くわ、その頬袋はなんにゃ! そんにゃ所に溜めてたら、いくらでも入るにゃ~~~!!」

「えへへ~」


 コリスは反省しているようなので、頭を撫でておいた。まだ食べ続けるルウは羽交い締めにして止めて、優勝だと告げておいた。

 すると、エレナが賞金を寄越せと邪神の舞いを踊るので、怖かったから金貨を一枚投げて逃げ出した。


 ちなみに大食い大会会場は、わし達が勝手したせいで盛り下がりまくっていたので、あとで話を聞いた女王にわしはこっぴどく怒られたのであったとさ。

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