527 完成披露式典にゃ~


 城で行われていた大食い大会の会場をあとにしたわし達は、その辺で買い食いしていたら警備兵のアナウンスが聞こえて来たので、正門広場に向かう。


 だが、人が多すぎて進めないので、女王の親友特権発動!


 東の国王族が揃うバルコニーにて見学させてもらう。ただし、おそれ多いと言う者大多数なので、わし以外はバルコニーの入口付近。民から見えない位置で見学するようだ。

 ちなみにわしもそこから見ようとしていたが、女王に首根っこを掴まれて、膝の上で撫でられている。さっちゃんとケンカ中だから離れたかったのに……


 そうしてゴロゴロ言いながらさっちゃんと目が合いそうになったらプイッとお互い目を逸らし、何度かプイップイッとしていたら、ファンファーレが流れて来た。

 その音で王族一同は立ち上がり、わしは抱かれたままバルコニーの一番前まで連れて行かれた。


「では、始めよ」

「はっ!」


 王のオッサンがお付きの騎士に声を掛けると、騎士は手信号で何やら指示を出したと思ったら、ドラミングの音が流れる。

 民衆はどこを見ていいかわからないのか、女王の方向を向いていたが、女王は真っ直ぐ指を差す。全員の視線が布の掛かった建物に集まる中、また高らかなファンファーレが鳴り響き、布がバサッと下に落ちた。


 時計台のお目見えだ。


 民衆は四方にある文字盤を見ても何かわからず、ざわざわしている。そこに、オッサンが音声拡張魔道具を使って説明する。


『建物に目を向けたまま、私の話を聞け。その建物は時計台だ。時計台と聞いて、皆は時の鐘を思い描いただろうが、これは見た通り数字が付いている。もう間もなく針が三時を指す。針と数字をよく見て、もうしばし待て』


 オッサンの説明が終わって、およそ二分後……


 「カラ~ン、カラ~ン♪」と、時計台に設置された鐘が自動で鳴り響き、遅れて王都内の時の鐘の音が聞こえて来た。

 民衆は、何が起きているかいまだにわかっていないようで、ずっとざわざわとしながら、一分、二分と、進む針を見続けている。


 その何が起きているかわからない様子の民衆に、オッサンから魔道具を受け取った女王の有り難いお言葉が掛けられる。


『皆も驚いたようだな。私も初めて見た時には、皆と同じ顔をしていた。この時計台があれば、いまよりもっと、細かく時間を知る事が出来る。春までに、王都内の数ヶ所に設置するから楽しみに待っていろ。だだし、時間にルーズな者は気を付けるように。愛する者を怒らせる事になるからな』


 女王のジョークを聞いた民衆がクスクス笑いながらこちらを見ると、女王はわしの首根っこを持って高く掲げる。


『このプレゼントは、またこの猫から贈られた物だ。猫の国、シラタマ王に盛大な拍手を!』

「「「「「わああああ」」」」」


 民衆の歓喜の拍手を受けてわしは思う。


 わしを王って言ってるくせに、扱い雑じゃね? 王様の首根っこを、猫みたいに持つかね~? ……てか、わしは東の国では猫で通しておったんじゃ! これでは、東の国で買い食いしながら歩けなくなってしまう!!


 わしが文句を言おうとしたら、女王はわしをポイッとさっちゃんに投げ渡す。だが、喧嘩中のさっちゃんは受け取ったわしを、すぐにポイっと双子王女に投げ渡していた。

 女王はやや呆れた顔をしていたが、玉藻と家康を呼び寄せて隣に立たせた。


『時計台は猫の国から贈られた物だが、本来、日ノ本の国で製造されていた物だ。日ノ本の国と言っても聞いた事が無い者が大多数だろう。東の果て、海を越えたその先まで旅をしたシラタマ王が発見した島が、日ノ本の国。そしてこの二人が、日ノ本の住人だ』


 女王からの紹介のあとに玉藻と家康は日本語で自己紹介し、次に猫の国で学んだ英語で説明する。

 民衆はやや信用していなかったが、二人が変化を一部解いて尻尾を出すと、その不規則に動く尻尾を見て、驚く顔が見て取れた。

 それから女王は二人と握手を交わし、オッサンの締めで、時計台完成式典が終わりを告げるのであった。



「わしは猫で通しているのに、にゃんで言うかにゃ~?」


 式典が終わると、わしは女王に苦情。しかし……


「なんでって……まだバレてないと思っていたの!?」


 女王はめちゃくちゃ驚いた顔で返して来た。


「バレてなかったにゃ~」

「へ~……猫の国に猫の王が居て、猫の王様の小説が出ているのに、バレてないと思っていたのね……」

「あ……えっと……その目はやめて欲しいにゃ~」


 女王の残念すぎる人を見る目はわしのハートに突き刺さり、東の国ではとっくに王様だと気付かれていたと、わしの心に刻まれたのであったとさ。



 お城見学を終えたわしは、結局さっちゃんと一言も交わさずに城を出て、お土産のミニ紅白饅頭を受け取り、相変わらず誰かに抱かれて王都をウロウロする。

 そうして我が家でバカ騒ぎをした次の日、王都をウロウロしたあと頃合いかと見て、騎士VSハンターの試合が行われるハンターギルドの特別観覧場に足を運ぶと、見たい試合はちょうど始まった。


「あら~……バカさんとオンニ相手なのに、イサベレはあっと言う間に倒しちゃったにゃ~」


 面白い試合はイサベレの試合ぐらいしか無いかと思ってやって来たのだが、まったく面白くなかった。

 イサベレに先の先を取られたバーカリアンとオンニはブッ飛ばされて一度は耐えたが、二度目も剣を振らせてもらえずにブッ飛ばされて気を失ってしまったのだ。


「イサベレさんは侍講習を受けていないのに、関ヶ原から精度を増していたみたいですね」

「ホント、天才は違うニャー。私達はあんなに苦労したのにニャー」

「まぁ二人もそこそこ早く覚えたんだから、才能がないわけではないにゃ」


 試合の感想よりも、自身の反省をしているように見えたリータとメイバイを宥めていたら、知り合いが後ろに立っていた事に気付かなかった。


「シラタマちゃん……シラタマちゃん!」

「にゃ? あ、スティナ……」

「やっと気付いてくれた」

「どうかしたにゃ?」

「ちょ~っと頼み事があってね。これは私だけじゃなくて、女王陛下のお願いだから応えて欲しいの……」


 二人のお願いは、なんの事はない。試合が早く終わり過ぎたので、誰か出場してくれないかとのお願いだ。

 なので、玉藻と家康が手を上げたけど、女王からは二人だけでなく、わしとコリスの出場は止められていた。そりゃ、関ヶ原であれだけやらかしたんだから、止めるわな。

 ならば、出場者は絞られるので、やりたそうなリータとメイバイ。それと、リンリーも猫の国の出場者として貸してあげた。


 対戦相手も居ないようなので、リータVSメイバイ。リンリーVSイサベレと決まって、四人の女のマジバトルが始まった。



「うっわ~……リータとメイバイ。どうなってるの??」


 二人の試合を見たスティナは、わしに質問する。


「どうと言われても……スティナも小説を読んだにゃろ? わしと一緒に旅をしていたんだから、イサベレぐらいの実力はあるにゃ」


 リータは防御重視の試合運び。メイバイは速さを活かした攻撃重視。お互い実力も手の内もわかりきった相手なので、どちらもやり難そうに闘っている。

 それでも観客は、イサベレ以外でこれほど高度な戦闘を見た事がないので、盛り上がっているようだ。


「それにしてもよ。二人ともキャットカップで闘うところは見たけど、こんな戦闘が出来るなんて夢にも思わないわよ。Aランクのバーカリアンがかすんで見えるわ」

「二人は努力家にゃからにゃ~。でも、実力が拮抗してるから、勝負が付かないかもにゃ」


 開始3分。観客は息もつかせぬ戦闘に言葉を失い、会場にはリータとメイバイの激しい打撃音と風切り音しか聞こえない。

 メイバイの素早い攻撃は全てリータの盾に阻まれ、リータのカウンターはメイバイの速度でギリギリかわされる。

 スティナも二人の熱い闘いに見入って質問を忘れていたが、長い試合になると世間話をして来た。


「そう言えば、王女様と喧嘩してるらしいわね。噂になってるわよ」

「にゃ~?」

「あんなに仲が良かったのに目も合わせないし、昨日の式典でも言葉すら交わさなかったらしいじゃない?」

「まぁにゃ~。向こうから謝って来るまで、口を利くつもりもないにゃ」

「シラタマちゃんから謝ってあげなよ。きっと待ってるわよ」

「それは出来ないにゃ~」


 わし達が世間話をしている間も試合は続いており、10分が過ぎた頃、審判を買って出ていた玉藻が止めに入って引き分けとなった。


「まぁ……引き分けは仕方ないわね。二人を見ても、あれだけ疲れていたら、手を抜いていたわけでもないし……」

「たぶん、もう10分も闘っていたらメイバイがを上げていただろうけど、リータはそんにゃ勝利を望んでないだろうにゃ~」



 二人が息を切らして下がると次の試合、イサベレVSリンリー。開始と同時に、リンリーが仕掛けた。


「何あの子……イサベレ様と互角に闘ってる」


 リンリーの戦闘方法は徒手空拳で、例え真剣を使っていたとしても気功で防げる。イサベレは模擬刀を使っているのに、リンリーが素手で闘っている事にもスティナは驚いているようだ。


「我が国の秘密兵器にゃ~」

「あの子、ハンターにしないの? 私にちょうだ~い!」

「どう扱うか決めかねてるけど、ハンターにはしないにゃ~」

「なんでよ~!」

「挟むにゃ~~~!!」


 スティナの胸に挟まれたわしであったが、リンリーの個人情報は漏らさない。だが、あまりにも気持ちよかったから……しつこかったから、内密にする条件で口を割った。


「まさか、そんなイサベレ様みたいな集団がいるなんて……」

「それに大食いなんにゃ。もしもハンターとして働いて、食費が稼げなかったら犯罪に走るかもしれないにゃ。その場合、わしが近くに居なかったら止められないにゃ~」

「うっ……そんな事をされたら、ギルドの評価が下がっちゃうわ。諦めるしかないか……」

「それが賢明な判断にゃ。いちおう手に追えない獣が出た場合、エルフを派遣しようと考えているけど、たぶん国の話になると思うにゃ」


 スティナが納得したところで、息を切らしたリータとメイバイが帰って来た。


「「はぁはぁ……お楽しみ中??」」

「ち、違うにゃ~! スティナがハニートラップを仕掛けて来たにゃ~!!」


 二人の目が超怖かったので、スティナの胸から抜け出して、二人に飛び付いてスリスリ。必死に言い訳を続けるのだが、疲れていてそれどころではないようだ。

 なので、必死に看病。冷たい飲み物を用意し、肩や足を肉球でモミモミ。何やら変なあえぎ声が出ていたところを見ると、二人は満足してくれたようだ。


「シラタマさんも~」

「サービスするニャー」

「ゴロゴロゴロゴロ~」


 ただ、そのせいでめちゃくちゃ甘えて来るので、夜の危険が増したかのように思うわしであったとさ。

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