235 猫耳族とは、こんな奴だったにゃ?


 猫耳族の里に着くと、皆、わしをご先祖様と呼び、違うと否定を繰り返し、なんとか納得させた。だが、猫耳族の落胆が半端なかった。


「はぁ……ご先祖様じゃなかったのか……」

「はぁ……ご先祖様がいれば……」

「はぁ……ご先祖様なら……」


 なんじゃこのため息とご先祖様コール。そもそも生きていると思っているほうがおかしいじゃろ! あの野郎……死ぬなら知り合いの目の前で死ね! 人間とヤッておいて、そこだけ猫の本能出すな!!


「シラタマ殿~」


 わしが猫耳族の態度の悪さに、心の中で怒っていたら、メイバイが元気のない声を出した。


「どうしたにゃ?」

「みんな悪気がないニャー。だから、怒らないでニャー」

「にゃ? そんにゃに顔に出てたにゃ?」

「う、うん。出てたニャー」


 また心を読んでいたな? 首を振っているから、読んでるじゃろ! また目を逸らすよ。

 まぁここで話を止めていても仕方がない。これほど落胆するには、理由があるんじゃろう。まずはそこからじゃ。


「シェンメイ。みんにゃは、にゃにを落胆しているにゃ?」

「それはご先祖様が現れて、違うと聞いたらショックでしょ?」

「それ以外にゃ~」

「それは話せば長くなるわ」

「聞くから話すにゃ~」

「ええ。まず……」

「待ったにゃ!」

「なに?」

「客が来ても、お茶も出さないにゃ?」

「は?」


 話の前にお茶を出せと催促すると、シェンメイは「何言ってんのこいつ?」って顔をした。それを見兼ねたメイバイが、会話に入って来る。


「シラタマ殿は空気が読めないからニャー」

「読めるにゃ~! 立ち話もなんだからと、読まないのはそっちにゃ~!!」

「はいはい。わかったわかった」

「適当に言うにゃ~!」

「はいはい。シラタマ殿。行くにゃ~」

「メイバイまでにゃ~」


 わしの文句は聞く耳持たず。メイバイに後ろから抱きかかえられ、シェンメイのあとに続いて大きな屋敷に入る。

 ため息の多い猫耳族は解散し、お偉いさんらしき老人と、数人の男と女がついて来る。そして、応接室らしき部屋に案内され、メイバイの膝に座らされる。


 う~ん。いつまでメイバイは、わしを抱いているんじゃろう? これから真面目な話をするんじゃけど、これでいいのかな? 誰も注意して来ないし、メイバイも喜んでいるみたいじゃし、まぁいっか。


 と考えていたが、シェンメイが立ち上がり、わしの頭を鷲掴わしづかみにして持ち上げ、メイバイの隣に座らされた。

 痛くは無いが、二人で引っ張り合うから痛いと言ったのに、なかなか離してくれないハプニングはあったが……


 そうこう遊んでいると、皆の前に湯気の立ったお茶が並び、会話が始まる。


 この香り……烏龍茶? ズズー。烏龍茶じゃ! 懐かしいのう。そこまで好きではなかったが、懐かしい味は悪くはない。


「シラタマ……シラタマ!」

「にゃ?」

「聞いてるの?」

「聞いてなかったにゃ~」

「話せと言ったのはあなたでしょう!」

「ごめんにゃ~。今から真面目に聞くにゃ。えっと~……にゃんだったかにゃ?」

「はぁ。まずは……」


 シェンメイは猫耳族の落胆の理由を説明する。だが、話し下手で、さっぱり頭に入って来ず、選手交替。長い髭をさする猫耳爺さん、長のセイボクが語り出す。



 セイボクの説明では、この国でも水不足が続き、収穫物が少ないとのこと。奴隷の解放を行いたいが、いまいる人口をまかなうのも難しい状態。

 そこに過激派が、いつ奴隷解放をするのか、いつ攻めるかの討論で話もまとまらず、いつも平行線。挙句の果てに、過激派が勝手に奴隷解放をしてしまい、また食糧難に拍車が掛かったとのこと。


 猫耳族は、このままでは滅んでしまうとなげいている時に、巫女様と呼ばれる女性が、この里に光が現れると予言をしたそうだ。猫耳族はご先祖様が帰って来る啓示けいじだと喜び、そんな中、ご先祖様とそっくりのわし登場。違うと知って絶望。


 そして今現在、皆がため息を常に吐き続けている状況だとさ。


「「「「「はぁ……」」」」」


 このため息……わしのせいなの? 巫女が中途半端な予言するから悪いんじゃろ!


「「「「「はぁ……」」」」」


 え~い。うっとうしい!!


「文句にゃら巫女に言うにゃ~!」


 わしが怒鳴ると、セイボクはキッと睨む。


「巫女様は絶対じゃ! 巫女様の予言は外れないんじゃ! ……はぁ」

「だったら、にゃんでため息を吐いてるにゃ~」

「ご先祖様じゃないからじゃ!!」


 振り出しに戻る……か。こんのシジイは早とちりしといて、なんでわしにキレるんじゃ! おっと、またメイバイが心配そうな顔をしておる。


「その光は、ご先祖様じゃなくてもいいんにゃろ?」

「ご先祖様しか有り得ない!!」

「ジジイ、うるさいにゃ! ご先祖様にゃんだから、もうとっくに死んでるにゃ!!」

「そ、そんな……」


 シェンメイの時にも思ったが、この一族は、頭が固いのか? 生きているほうが納得できんじゃろう。メイバイは諦めが早いのに……元奴隷と奴隷じゃない差か?

 ジジイの絶望に満ちた顔も見飽きたし、そろそろ本題に入るか。


「いいにゃ? ご先祖様はいないにゃ。わしもご先祖様じゃないにゃ。これを踏まえた上で聞くにゃ」

「………」

「わしは帝国を滅ぼす為に、山を越えてやって来たにゃ」

「なっ……」

「これは全ての猫耳族の解放を意味する事にゃ。わかるかにゃ?」

「帝国を滅ぼす? そんな事、ご先祖様じゃないと出来ない!」

「出来るにゃ! ご先祖様の尻尾は何本だったにゃ? 二本にゃろ? わしは三本にゃ! どんにゃ敵だろうと、わしが叩き潰してやるにゃ!!」


 どよめいておるのう。おそらくわしは、ご先祖様より強い。尻尾の数だけ見れば、それだけで力の違いがわかるはずじゃ。それにわしの啖呵たんかも力強く聞かせてやった。

 これでご先祖様じゃなくとも、わかってくれるはずじゃ。


「それでもご先祖様じゃないからのう」


 まだかい!


「メイバイ。こいつらの頭、どうなってるにゃ~」

「私に聞かれてもわからないニャー」

「シェンメイも、にゃんとか言ってにゃ~」

「我が一族は、ご先祖様の力は絶対なのよ」

「もう面倒臭いにゃ~。シェンメイを軽々倒したんだから、その事を伝えてくれにゃ~」

「うっ……なんとかやってみるわ」


 早くも失敗! 口下手過ぎ!!


 泣き付いた相手も悪いので、わしはもう一度セイボクの説得に乗り出す。


「もういいにゃ。巫女に会わせてくれにゃ。そいつに会えば、わしが予言の光ってわかるんにゃろ?」

「そうかもしれないが、会わせるわけにはいかん」

「にゃんで?」

「巫女様は猫耳族の秘宝じゃ。部外者どころか、限られた者の前にしか姿を見せる事はしない」


 くっ……ああ言えばこう言う。面倒臭い一族じゃな!


「とりあえず、予言の光が来たと言って来いにゃ。それで会えないにゃら、諦めるにゃ」

「それぐらいなら……」

「おっと……」


 セイボクが立ち上がってドアに向かうと、わしは木で出来た湯飲みをわざと落とし、拾うためにテーブルの下に入る。そして、次元倉庫からある物を取り出して、メイバイに湯飲みと一緒に手渡し、念話であとを頼む。

 それが終わると素早く移動。目にも留まらぬ速度で部屋を脱出。セイボクのあとをつける事に成功する。


 まったく話が進まないから、直接、話を聞きに行ってやる。脅してでも、わしを予言の光と言わせてやるからな! 影武者ぬいぐるみも置いて来たから、しばらくは持つじゃろう。

 ん? ジジイが直接会うんじゃないのか。女性に何か言伝ことづてを頼んでいる。ジジイは……さっき話していた部屋に戻るみたいじゃな。女性をつけよう。


 女性は屋敷から出て行こうとするので、わしは目にも写らぬ速度で移動しつつ、女性のあとをつける。屋敷から出ると、屋根に跳んで上から尾行。

 屋敷から少し離れたお寺のような建物に入って行くので、扉が開いた瞬間に中に入り、天井てんじょうの隅に張り付いて尾行を継続。

 女性はさらに扉を開くので、侵入して物陰に潜む。どうやらここに、巫女がいるらしく、すだれの前にひざまずき、会話をしている。


 失敗した。もう少し近くに隠れていれば会話が聞き取れたのに……それにしても、声が小さい。最初の驚いた声だけデカかったのに、それ以降はコソコソ話しておる。

 二人とも聞こえておるのか? それとも、誰にも聞こえないように音量を落としておるのか? まぁ女性が出て行ってから、ゆっくり話を聞くとするか。


 女性は話が終わると、深くお辞儀をして外に出て行く。わしはそれを見送ると、静かにすだれの近くに移動する。

 巫女がいると思われるすだれを開くのは、女性に対して失礼かと考えたが、悲鳴をあげられると困るので、ゆっくりすだれを上げて忍び込もうとする。


 すると、声が聞こえて来た……


「あ~あ。まさか本当に予言が当たるとは、思っていなかったにゃ~。にゃにか困っていそうだったから、適当に言ったのににゃ~」


 わしがすだれの中に入ると、巫女装束を着た黒い何かがうつ伏せに寝転び、頬杖をついて独り言を呟く。わしはその光景に、驚きのあまり声を漏らしてしまった。


「にゃ……」

「誰にゃ!!」


 わしの声に黒い何かが反応して、声を出す。


「「猫にゃ!!」」

「「喋ったにゃ!!」」

「「ぬいぐるみにゃ?」」


 わしと巫女と思われる黒猫は、驚きの声がハモる事となってしまった。

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