234 猫耳の里に到着にゃ~


 シェンメイはわしのやる事に諦めきれないみたいなので、休憩がてら、説明する事となった。


「猪が消えた……」

「わしの収納魔法は大容量だから、これぐらい楽勝にゃ。とりあえず、椅子に座るにゃ~」

「なんで森の中に、椅子とテーブルがあるのよ!」

「いま、魔法で作ったにゃ。さっき見た、子供達の家も魔法で作ったにゃ」

「あの大きな建物も……くさっ!」

「あ、コーヒーはダメだったにゃ。麦茶に変えるにゃ~」

「温かい……収納魔法から取り出したのよね?」

「……そうにゃ」


 メイバイの味方をするのはしゃくじゃが、いい加減諦めてくれんかのう。質問に答えるのも面倒になってきたわい。


「それで猪は……」

「それはもういいにゃ~! わかったにゃ。わしの力を見せてやるにゃ」

「どうやって?」


 わしは席を立つと、土魔法で直径2メートルの円を描く。そして、その中心に立つ。


「この中からわしを押し出してくれにゃ」

「そんなの勝負になりもしないわ」

「もう忘れたにゃ? シェンメイの斧を片手で受け止めたにゃ。それである程度、わしの力はわかったにゃろ?」

「あれは驚いたけど、純粋な力勝負なら、私が負けるわけがないわ」

「試してみたらわかるにゃ~」

「……わかったわ」


 シェンメイが立ち上がると、わしはメイバイに開始の合図を頼む。


「いいニャー? はじめニャー!」


 メイバイの開始と同時に、シェンメイはわしを蹴り飛ばそうとする。


 身長が倍も違うから仕方がないが、一手目が蹴りか。体重も軽いから、下からの攻撃に弱いんじゃけど……致し方ない。


 わしは上から下に肉球を落とし、力と速度で蹴りの力を相殺する。


「グッ!」

「にゃ!? 痛かったかにゃ? ごめんにゃ~」

「試合中に相手の心配? なめるな~!!」


 シェンメイは怒り、わしに拳を振り落とす。今度は上からの攻撃なので、肉球で受け止めれば痛く無いはずだ。


 おお! かなり重たい攻撃じゃな。土魔法で地面を固めていなかったら、数発で地面に埋まっていたな。これだけ重ければ、シェルターにヒビが入るはずじゃ。

 しかし、押し出せと言ったのに打撃ばかりじゃな。それに真っ直ぐ過ぎる。もう少し考えて闘えばいいものを……リータのパワーに、ソフィの真っ直ぐさが備わった感じじゃな。


 シェンメイは拳を何度も振り落とすが、わしはその拳を簡単に、ぷにょぷにょと肉球で受け止める。


「もうわかったにゃろ? 諦めるにゃ~」

「まだよ!」


 ソフィと闘った時を思い出すのう。あの時も意地になって、剣を振るっていたな。


 シェンメイは殴るのはらちがあかないと、両手を広げ、わしを抱き締めて持ち上げる。


「私は馬鹿ね。最初からこうすればよかったのよ」

「正解にゃ」

「フフ。余裕ぶってるけど、焦っているんでしょう?」

「いんにゃ。シェンメイのほうこそ、焦らにゃくていいにゃ?」

「どういうこと?」

「こういうことにゃ!」


 わしは両手にゆっくり力を込める。すると、シェンメイの顔が歪み、締める力を強くする。それでもわしのほうが力が強いので、徐々にだが、抱き締めた腕に空間が生まれる。

 ここでシェンメイは、焦ってわしを円の外に持って行こうとするが、一気に腕を開き、抱き締めから脱出。足が地に着くと、今度はわしがシェンメイの足に抱きつく。


「は、放せ!」

「まぁまぁ。わしの力を見せるって言ったにゃろ? 遠慮するにゃ~」

「なにをするつもりなの!?」

「気をしっかり持ってるにゃ~~~!」

「うわ~~~~!」


 わしはシェンメイを、空高々に力業で放り投げると、シェンメイは悲鳴をあげながら空を舞う。

 このままでは、地面に打ち付けられて怪我をするので、飛び上がってシェンメイをキャッチ。お姫様抱っこのまま、轟音をあげて着地する事となった。


 あちゃ~。シェンメイが暴れるから落下地点がズレて、円を出てしまったわい。足も完全に埋まって、失敗じゃ。


「わしの負けにゃ~」

「え? うそ……」


 わしの発言に、シェンメイは信じられないといった顔をしておるな。まぁ試合に勝って、勝負には負けておるから仕方がない。


「これがお姫様抱っこ……」


 ん? 試合の事じゃない? お姫様抱っこっちゃ、お姫様抱っこじゃけど、サイズが違い過ぎるからお姫様じゃなく、大きな荷物じゃ。


「で、どうだったにゃ?」

「初めての経験で、悪くないわ」

「お姫様抱っこの事じゃないにゃ~!」


 シェンメイの的外れな返答にわしがツッコンでいると、メイバイも声を荒らげてツッコム。


「そうニャー! 試合は終ったんだから、シラタマ殿から早く降りるニャー!!」

「え? え、ええ」


 シェンメイは何故か頬を赤らめ、モジモジしながらわしから降りる。その行動に、わしは意味がわからなかったが、埋まった足を土魔法で抜いて、テーブルに戻る。


「それで、わしの力はどうだったにゃ?」

「……強かったわ。それも、私よりもかなり」

「いちおう言っておくけど、あれで本気の十分の一にゃ」

「うそ……」


 シェンメイが驚く中、メイバイはわしの強さを補足する。


「シラタマ殿は、50メートルを超える白い獣も狩った事があるニャー」

「ありえない……」

「まぁ信じられないだろうにゃ。こっちで白いリスの伝説があったにゃろ?」

「ええ。でも、百年も昔の話だから、もう生きてないんじゃない?」

「生きてるにゃ。それがわしの訓練相手で有り、友達にゃ」

「私も会わせてもらったニャー。おっきくて怖かったニャー!」

「もう、ついていけない……」

「じゃあ、諦めるにゃ」

「諦めるのが正しい判断ニャー」


 さあ、シェンメイはどう出る?


 わしとメイバイの見守る中、シェンメイは麦茶を口に含むと、ゴクリと喉を鳴らし、声を発する。


「諦めるしかないわね……」


 その言葉に、わしとメイバイはガッシリと握手を交わす。あとから、自分で諦めさせる事に精を出していた事が納得できなかったが……



 休憩を終わらせると、再び走り出す。メイバイが疲れて走れないと駄々をこねたので、お姫様抱っこだ。どう考えても、シェンメイをお姫様抱っこしたから、嫉妬でやってと言ってると思うのだが、何度聞いても違うと言われた。

 その後、走っているとシェンメイが止まれと言うので止まるが、メイバイが降りてくれない。仕方がないのでシェンメイに何故止まったのかと聞くと、認識阻害の魔道具があるらしい。

 シェンメイが岩に触れている間に通れと言うので、歩を進める。そうしてシェンメイもその場を通り抜けると、絶対に勝手な行動をするなと言われたので、二人で頷く。

 そこでメイバイを降ろすが、残念そうな顔をしていた。絶対、我が儘だったと思う。なんかつついて来るし……


「勝手な行動をするなと言ったでしょ!」

「そんにゃ事してないにゃ~」

「イチャイチャしてるでしょ!」

「にゃ~?」

「もういいわ! 着いたわよ!!」


 シェンメイは何を怒っているんじゃ? メイバイと、ちょっと遊んでおっただけなのに……

 それはそうと、着いたって言ったけど、里は何処にあるんじゃ? 木ばっかりで建物ひとつ無い。小高い丘にも、岩と木が生えてるだけじゃ。あ、方角的に、飛行機から見た煙の位置に近い気がする。あの煙は猫耳族の仕業だったんじゃな。


「ここが里にゃ? みんにゃ何処にいるにゃ?」

「こっちに来て」


 わし達は、辺りを何度も確認するシェンメイのあとに続き、大きな岩に近付く。その岩の裏に回り、シェンメイが蓋らしき岩を上げると、人が通れる穴が開いて、その中に梯子はしごが見えた。


「地下にゃ?」

「そうよ。降りるわよ」


 シェンメイ、わし、メイバイと続き、長い梯子を降りると広い空間が現れ、シェンメイが飛び降りるので、着地を確認してからわしも飛び降りる。続いてメイバイが時間を開けずに飛び降りて、下敷きになりそうだったのでキャッチする。


「またイチャイチャと……」


 シェンメイが言うような事はしてないので、わしは無視する。


「愛人だから、それぐらいするニャー」


 メイバイも無視して!


「あ! 門があるニャー!」

「二人はここで待ってて」

「「わかったにゃ~」」


 シェンメイが門に近付くと、脇の扉から二人の男が出て来て、何やら喋っているようだ。


 ふ~ん。猫耳族は顔もそうじゃが、アジア系の服装なんじゃな。と言うより、飾りっ気がないからか。

 しかし、里が地下にあるとは、驚きじゃ。光は……若干暗いが、辺りを見るには支障が無い。丘かと思っていたが、ドーム状の網が掛かっているのかな? 光が漏れて入って来ている。

 認識阻害の魔道具も使っておったし、これほど手の込んだ里なら、人族に見つからんわけじゃ。



 わしとメイバイが辺りを見回していると、シェンメイに呼ばれたので門に近付く。メイバイも空気を読んで、わしから降りて歩いている。そうしてわし達が近付くと、門番の男達は驚いた顔をしているので、わしから挨拶をしてみる。


「こんにゃちは~」

「「ご先祖様!?」」

「違うにゃ~」


 うん。猫耳族の第一声は、これなんじゃな。猫やぬいぐるみと言われるのも嫌じゃけど、ご先祖様もいい気がしないな。


「わしはご先祖様じゃなく、シラタマと申すにゃ。こっちはメイバイにゃ。よろしくにゃ~。それで通っていいにゃ?」

「ええ。付いて来なさい。絶対に私から離れないで」

「わかってるにゃ~」


 門番の男達はわしをガン見しているだけなので、シェンメイが答えてくれたので、あとに続く。門を抜けると家が多く立ち並び、多くの人が生活していると見て取れる。


 ふ~ん。木造家屋か。道も整備されているから、街ぐらいの大さの村って感じじゃな。治水なんかはどうなっておるんじゃろう?

 雨が降れば、ここは水に沈んでしまわんのじゃろうか? 家は全部、高い位置にあって階段が付いているから、そこまで水が来るのか? まぁそんな心配をしなくても、長く暮らしていそうじゃし、対策はバッチリなんじゃろう。

 それよりも気になる事が……


「にゃあにゃあ、シェンメイ?」

「どうしたの?」

「みんにゃ、わしを見て拝んでにゃい?」

「ご先祖様だと思っているのよ」

「にゃ! そうだったにゃ。早く否定しにゃいと大変にゃ事になるにゃ~」

「もう諦めなさい」

「いやにゃ~!」

「どうして?」


 ……どうして? なんでわしは、ご先祖様を拒否しておるんじゃろ? いやいや、メイバイから聞いたご先祖様の人物象は、到底受け入れられん!


「だって、ご先祖様は女をいっぱいはべらせていたんにゃろ? そんにゃ奴と一緒にされたくないにゃ~」

「どの口が言うんだか……もう侍らしていたじゃない!」

「ふ、二人だけにゃ~!」

「どうせ二人じゃ足りないんでしょ。……私もまだ、結婚相手がいないわよ?」

「なに言ってるニャー! シラタマ殿には、リータと私しかいないニャー!!」


 う~ん……メイバイの言い方じゃと、二人は決定になってしまっているな。これで擁護になっているのか? じゃが、これに乗っておかないと、シェンメイまで増えてしまう。

 その他の猫耳族も、ご先祖様効果で寄って来られるとわしが困る。またアイ達に、コソコソ言われてしまうわい。


「そ、そうにゃ~。わしの結婚相手は二人しかいないにゃ~」

「結婚ニャ!? 私もいいニャー?」


 あ……やっちまったかも……


「ニャーーー!」

「にゃ!? 泣くにゃ~。噛むにゃ~。そこは触るにゃ~~~!」

「嬉しいニャーーー!」

「だから、勝手な行動するな!」

「にゃ!?」

「ニャ!?」


 大騒ぎしていたわしとメイバイは引き離され、シェンメイに担がれて連行される。メイバイは肩に担がれてバタバタし、わしは首根っこを掴まれ微動だにしない。


 う~ん。猫の持ち方だと正しいんだろうけど、もうちょっと持ち方に気を使ってくれんかのう。


 わしが考え事をしていてもシェンメイの足は進み、里で一番大きな建物に連れて行かれ、降ろされた。その建物の前には、猫耳を生やした老人、おじさんやおばさん、男や女、多くの猫耳族がわしを待ち構えてこう言う。


「「「「「ようこそ、ご先祖様~~~」」」」」


 と……。


 もちろんわしも、声を大にして否定を叫ぶ。


「違うにゃ~~~!!」

「いやいや、その姿は……」

「その神々しい毛色は……」

「丸みのある、そのフォルムは……」



 即座に否定しても、なかなか信じてくれない猫耳族であったとさ。

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