236 巫女様にお願いにゃ~


「「猫にゃ!!」」

「「喋ったにゃ!!」」

「「ぬいぐるみにゃ?」」

「「………」」


 わしと巫女らしき黒猫は、お互いの特徴をひと通り叫ぶと、押し黙る。


 このやり取りは……初めてわしを見た人々のやり取りじゃな。まさか、わしがやる日が来るとは思わなんだ……

 しかし、巫女が黒猫で喋っているとは驚きじゃ。人の……猫の事は言えんが……。あ、だから猫耳族は、わしが喋っても驚かなかったのか。

 それにしても、あの姿は変身魔法か? そこまで魔力があるようには見えんのじゃが……黙っていても仕方がない。


「巫女様にゃ?」「ご先祖様にゃ?」

「「違うにゃ~~~!」」

「「にゃ??」」

「「………」」


 今度は同時に何者かを聞き、否定して押し黙る。


 巫女じゃないのか? いや、さっきの女性は巫女に会いに来たはずじゃ。とりあえず、違う質問をしてみるか。


「「猫にゃ?」」

「「猫だにゃ~」」

「「………」」


 くそ! パクり猫と常にハモってしまう。巫女も何か言いたげだけど、またハモってしまいそうで言い出しづらそうじゃな。ここはひとつ手を上げて……


「「どうぞどうぞにゃ」」

「「………」」


 だが、黒猫巫女も同じ考えだったのか、ゆっくり手を上げ、お互いに譲り合う。


「「にゃ~~~!!」」

「「………」」

「「じゃんけん、ポン!」」

「うちの勝ちにゃ~!」

「わしの負けにゃ~」


 お互いハモっていたのが嫌だったのか、叫び、目を合わせるとうなずき合って、じゃんけん。黒猫巫女は喜んで飛び跳ね、わしは床に手をつける。


 く、悔しい……何が悔しいって、わしの黒版に負けるなんて、これほど悔しいことはあるまい! 背は変わらないが、わしよりスタイルが流線型でモフモフ加減も少なく、かっこいいってのも悔しさをにじませる!


「それで、本当にご先祖様じゃないにゃ?」


 わしが床を叩いていたら、黒猫巫女から質問が来た。


「違うにゃ~。里の者にさんざん説明したから、その件はもうやめてくれにゃ~」

「あ~。わかるにゃ~」

「そうにゃの?」

「うちもご先祖様の生まれ変わりと言われて育ったにゃ。物心付いた頃に否定したけど、なかなか信じてもらえなかったにゃ~」

「お互い苦労したんだにゃ~」

「本当にゃ~」


 今日一日だけでも猫耳族は面倒臭かったのに、これを何年もやったのか……かわいそうじゃけど、いまはそんな世間話をしている場合じゃない。


「わしからも質問していいにゃ?」

「いいにゃ」

「巫女様は予言が出来るって聞いたけど、本当にゃ?」

「巫女でも予言者でもないにゃ~」

「じゃあ、にゃんでみんにゃは予言を信じているにゃ?」

「何度か適当に言った事が当たったにゃ。外れているほうが多いのに、いまだに当たると信じているんにゃ」

「にゃるほど……里の者は頭が固すぎるにゃ~」

「本当にゃ~。だから話すのが面倒で、アイツらに会いたくないにゃ~」


 里の限られた者にしか会わないって、たんに引き込もっていただけじゃったのか……


「それで……えっと~……」

「名前かにゃ? わしはシラタマにゃ。巫女様は、にゃんて言うにゃ?」

「うちはワンヂェンにゃ。巫女様って呼ばないでくれにゃ」

「あ、ごめんにゃ。それでにゃにかにゃ?」

「シラタマは、にゃんでそんにゃ姿をしているにゃ?」


 その言葉、そっくりそのまま返したい! ……が、話も進まないし、ちゃんと答えよう。


「わしは変身魔法を使って、この姿をしているにゃ。元の姿は完璧な猫にゃ」

「戻れるにゃ? 見せてにゃ~!」

「わかったにゃ」


 わしは変身魔法を解いて、猫又に戻る。背が縮み、着流しに埋もれると、モソモソと姿を現した。


「あんまり変わらにゃいんだにゃ~」

「にゃ……」


 わしのこの姿を見て驚かないどころか、言われたく無いことを言いやがる……

 ああ、丸いですよ~だ!


 わしは苛立ちを隠し、着流しに潜って人型に変身する。


「ワンヂェンも変身魔法を使っているにゃ?」

「魔法は得意だけど、そんにゃ魔法は知らないにゃ。この姿も、何故、こんにゃ姿で生まれたのかもわからないにゃ~」


 先祖返り……隔世遺伝ってところか。巫女って事は、ワンヂェンは女なんじゃろうな。何歳かはわからんが、女ならば聞きづらい。


「シラタマは、にゃんでこんにゃ姿になったか、わかるかにゃ?」

「その姿の事で悩んでいるにゃ?」

「諦めてはいるけど、わかるにゃら知りたいにゃ」


 まぁそうじゃろうな。猫の姿では、結婚したがる男は……わしには居たから居るかもしれんな。


「ちょっと難しい話になるけど、いいかにゃ?」

「わかるにゃ!?」

「可能性の話にゃ。だから、正確ではないにゃ」

「それでもいいにゃ! 教えてにゃ~!」

「ご先祖様は猫だったにゃ。それが人間と結ばれて、ワンヂェンのような子供が生まれたとしようにゃ」

「うんうん」

「その子供がまた人間と結ばれて、猫耳族になったと仮定するにゃ。これは、ワンヂェンに猫の血が半分、猫耳族が四分の一って事になるにゃ」

「難しいにゃ~」

「要するににゃ。ワンヂェンは、猫の血が色濃く出てしまったという予想にゃ」

「猫の血にゃ……にゃるほど……じゃあ、一生この姿なんにゃ……」


 諦めているとは言ったが、嫌なのか? わしも嫌だから当然か。女の子みたいじゃし、少しかわいそうじゃな。

 魔法が得意と言うのなら、魔力量も多いのかな? それなら変身魔法を使えば、人間の姿になれるかもしれん。

 教えてやるか。……いや、ここはタダで教えずに、協力してもらおう。


「わしに協力してくれたら、変身魔法を教えてあげるにゃ」

「本当にゃ!?」

「協力してくれたらにゃ」

「するにゃ~! にゃにしたらいいにゃ?」

「わしは帝国を滅ぼしに、山を越えてやって来たにゃ」

「あの帝国をにゃ……」

「それで猫耳族に協力を仰ぎたかったんにゃけど、わしがご先祖様じゃないと言った途端、話が進まにゃくなったにゃ」

「あ~。アイツらにゃら有り得るにゃ」


 ワンヂェンは納得が早く、うんうん頷いている。


「でにゃ。ワンヂェンの嘘を、本当にして欲しいにゃ。わしを猫耳族の光にしてくれにゃ」

「う~ん。それで通じるかにゃ~?」

「ワンヂェンの言葉でも無理にゃ!?」

「一度否定しているにゃら、なかなか信じないにゃ。アイツらの頭は固いからにゃ~」

「たしかに……じゃあ、こうしようにゃ」



 わしはワンヂェンに提案し、草案をまとめると、二人で建物を出て長の屋敷に向かう。その途中、里の者に見られて拝まれてしまい恥ずかしくなって、二人で走って屋敷に駆け込む。

 そして、メイバイ達のいる部屋に飛び込んだ。


「シラタマ殿……黒猫ニャ!!」

「「「「巫女様~~~!」」」」


 わしを見付けたメイバイは、あとから入って来たワンヂェンに驚き、里の者は巫女様と拝み倒す。


「シラタマ殿。その黒猫はなんニャ?」

「どう言ったらいいかわからにゃいから、あとで詳しく話すにゃ」

「絶対ニャ-?」

「絶対にゃ。ワンヂェン。頼むにゃ~」

「わかったにゃ~」


 メイバイと話しているわけにはいかないので、ワンヂェンに振るが、その口調にメイバイが食い付く。


「シラタマ殿と口癖が一緒……ムグッ」

「いまは邪魔しにゃいでくれにゃ。にゃ?」

「聞くにゃ! 皆の者、このシラタマは……」


 わしがメイバイの口を塞ぐと、ワンヂェンの、里の者に対する説得が始まった。ワンヂェンがわしを光の正体と説明するが、案の定、信じてもらえず、次の行動に移す。

 場所を変え、ゾロゾロと里の生命線、溜め池に移動する。ここでわしが奇跡を皆に見せて、無理矢理納得させようという腹だ。


 ワンヂェンから聞いてはいたが、大きくて深い穴じゃな。里の端に、こんなに大きな穴が開いていて危険じゃないんじゃろうか?

 底も見えんし、水も確認できんな。雨が少なくなかったら水が見えると聞いていたが、本当なんじゃろうか?

 穴も気になるが、周辺の景色のほうが気になる……ちょっと形は違うが、アレは棚田じゃないか? ここからでは、何が栽培されているかわからないが、米の可能性が……


「それじゃあ、シラタマ。やってにゃ~……にゃ!?」


 わしはワンヂェンの言葉を無視して走り出す。そしてひとっ飛び。マンションのベランダみたいに作られた棚田の一番上まで飛び上がる。


 これは……やはり田んぼか? あっちのむしろの掛けられた箱は……稲の苗? い、稲じゃ!! やっと出会えた……


「にゃ~~~」


 わしは喜びのあまり、その場に座り込み、涙を流す。どれぐらい時間が経ったであろうか、メイバイとシェンメイがわしの元までやって来た。


「シラタマ殿……泣いてるニャ-?」

「グズッ。メイバイ……」

「どうしたニャ-? どこか痛いニャ-?」

「違う、にゃ~~~」

「メイバイ。シラタマは、なんで泣いているの?」

「う~ん。たぶん喜んで泣いてるニャ。ここで何を作っているニャ?」

「里での主食。お米よ」

「うぅぅ。にゃ~~~」


 シェンメイの説明に、わしの泣き声はさらに大きくなる。


「あ! シラタマ殿は、そのお米が食べたいみたいニャー」

「そうなの??」

「あとで食べさせてあげてくれないかニャー?」

「まぁいいけど……それより、巫女様が待ってるから、やる事をやってからね」

「ありがとニャー」

「にゃ~~~」

「ほら、シラタマ殿。行くニャー」


 わしはメイバイに抱きかかえられて、棚田から下ろされる。二人とも、棚田を飛び跳ねて登って来たらしく、帰りも飛んで降りるものだから、今度は恐怖で叫んだら、メイバイにうるさいと怒られた。


 そうして地上に降りると、メイバイの胸の中でグズグズ泣いていたわしは、ワンヂェンの前にポイっとされた。


「シラタマ。大丈夫にゃ?」

「グズッ。大丈夫、にゃ~~~」

「全然大丈夫そうに見えないにゃ~」

「シラタマ殿。これが終わったらお米が食べられるニャ。何をするかわからないけど、頑張るニャー!」

「お米にゃ?」

「うぅ。わかったにゃ! 【超極大水玉】にゃ~~~!!」


 ワンヂェンの質問は無視。メイバイの激励には応え、わしの全魔力の九割を使った水の玉を出現させる。しばらく浮いていたが、残りの魔力が少ないので、一気に穴の中に落とす。

 勢いよく落としてしまったが、穴は深かったので、少し水しぶきが上がっただけで、あふれる事はなかった。


 ……みっともなく泣き過ぎた。たかだか米と言いたいところじゃが、待ち望んだ米じゃ。致し方ない。

 とりあえず水は……お! かなりの量の水を入れたから、水面が見えておるな。もう一回同じ量を入れれば、六割ぐらいになりそうじゃ。

 ワンヂェンの言う通りなら、これで里の頭の固い者でも、わしを予言の光だと認めるじゃろう。上手くいけばじゃけど……



 わしは恐る恐る、セイボク率いる猫耳族に視線を移す。


「シラタマ様は、猫耳族の救世主様じゃ~~~!」

「「「「「はは~~~!」」」」」


 変わり身、早っ!!


 思ったより効果覿面こうかてきめんで、救世主様と拝む猫耳族に、わしはいまひとつ納得がいかないのであったとさ。

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