237 お米にゃ~~~!


 黒猫巫女のワンヂェンに、里の水問題を解決できれば頭の固い里の者でもわしを認めてくれると聞き、ほぼ解決に至ると猫耳族は手のひら返し。わしは救世主様と拝まれる事となった。


 まだたいした事はしとらんのじゃけど……救世主と呼ぶなら、帝国を滅ぼし、奴隷を解放してから言って欲しいもんじゃ。

 じゃが、これを逃すと、また話がこじれる。このまま押し切るしかない。


「ワンヂェン。水はこれで足りるにゃ?」

「そうだにゃ。これで平年より低いぐらいにゃ」

「まぁしばらく持つって事だにゃ。それで、お米を食べさせてくれにゃ~」

「さっきも言ってたけど、お米がどうしたにゃ?」

「食べたいにゃ~」

「にゃんで目を潤ませているにゃ~!」

「シェンメイ~」

「はいはい。行くよ」


 里の者に拝まれる中、シェンメイに首根っこを掴まれて移動する。途中でメイバイが奪い取ってくれたから、猫のように持たれる事は短かった。

 皆で先ほど話をしていた屋敷の応接室に戻ると、料理に少し時間が掛かると言われ、わくわくして待つ。


「ゴロゴロ~」


 いや。メイバイが撫でるから、ゴロゴロして待つ。それでもまだ来ないので、メイバイに黒猫巫女ワンヂェンの説明をしていたら、わしの目の前に料理が並んだ。


 う~ん……質素。米と小皿とスープ? 見た目と匂いからしてワンタンスープか? いやいや、豪華さなど今はいい。米じゃ!


「食べていいにゃ?」

「いいわよ」

「それじゃあ……いただきにゃす」

「いただきにゃす」


 シェンメイに確認を取ると、わしの挨拶にメイバイが続き、備え付けの箸を持って、米を口に運ぶ。


 むっ……これは……芯が残っておる! 味は米なんじゃが、なんだかなぁ。ふっくらモチモチを想像しておったのに残念じゃ。炊き方がなっておらんのう。


 わしがお米をくちゃくちゃして食べていると、メイバイが不思議に思って質問する。


「どうしたニャー? あんなに泣いていたのに、美味しくないニャー?」

「いや、マズくはないにゃ。でも……」


 メイバイの質問に答えていると、シェンメイが食べ方のアドバイスをしてくれる。


「お米は味がしないから仕方ないわ。この小皿の物を乗せると美味しいわよ」


 小皿の茶色い物は、わしも気になっていた。


「茶色いニャー。まるで……」

「にゃ!? メイバイ、それ以上言うにゃ!! 食事中にゃ~」

「ち、違うニャー! カレーに似てると思っただけニャー」

「あ……にゃははは。わしが先に乗せて食べるにゃ」


 さてさて。わしの思った通りの物かな? パクッ。うん。味噌じゃ! うまい! これで米がちゃんと炊けておれば、完璧じゃったのに……


「やっと泣いたニャー!」

「うぅぅ。うまいにゃ~~~」


 それでも懐かしい味に、わしは号泣だ。しかし、そんな泣いてばっかりのわしは、シェンメイにはおかしく見えているようだ。


「変な人ね。食事ぐらいで、なんで泣くのよ」

「にゃ~~~」

「わかった、わかったから泣きやんで」

「グズッ。この茶色いのはなんにゃ?」

「味噌よ。大豆の保存食ね」


 うん。知ってる。じゃが、聞いておかないと、変に思われるからな。いまさらか……


「いっぱいあるにゃ?」

「いいえ。食糧難でそれほど多くは残ってないわ」

「……米もにゃ?」

「ええ。私達も、それほど食べていないわ」

「そう言えば、米はいつ作るにゃ?」

「それは……」

「救世主様。私がお答えましょう」


 シェンメイの代わりに、セイボクがわしの質問に答える。

 どうやら食糧難が深刻なので、例年より田植えの時期を前倒しで行っているそうだ。だが、稲の育苗は成功しているが、水田に張る水がないので、いつ植えるかで悩んでいたみたいだ。

 しかし、わしの水魔法によって、すぐにでも取り掛かろうとなっているとのこと。いまは里の者で準備を急いでいるらしい。

 味噌は大豆を栽培しているが、塩が貴重で少ない為に、元々あまり多くは製造していないらしい。


「にゃるほど……無理を聞いて欲しいんにゃけど、米と味噌、あと大豆を譲って欲しいにゃ~」

「救世主様の頼みでも、食糧を他から入手出来ない我々では、それだけは出来ません。申し訳ありません」


 まぁ人族と交易もしてないんじゃ、当然の返答じゃな。でも……


「言い方が悪かったにゃ。物々交換でどうにゃ? わしにゃら、かなりの量の肉、塩、あとはジャガイモも用意出来るにゃ」

「本当ですか!?」

「本当にゃ。お近付きの印に、今日狩った猪を進呈するにゃ~」

「お、おお! あ……救世主様は手ぶらですけど、どちらにあるのでしょうか?」

「収納魔法の中にゃ。さっきわしの魔法を見たにゃろ?」

「さすが救世主様。こちらで受け取って、さっそく夕食に出させていただきます」

「ここでは狭くて出せないにゃ」

「は?」


 と、言うやり取りをして米を腹に掻き込むと外に出て、セイボク達の前に、10メートルはある黒い猪を取り出す。


「あわわわわ」

「ジジイ。大丈夫にゃ?」

「この猪は……」

「来る途中にいたから、狩って来たにゃ」

「シェンメイも手伝ったのか?」

「いえ。シラタマ一人で狩って来たわ。その際、数分も掛からなかったわ」

「さすが救世主様じゃ~!」


 納得するのが早くなったのはいいんじゃが、救世主はな~……


「そう言うのはいらないにゃ。これはプレゼントにゃ。米と味噌、大豆をどれぐらい譲れるか教えてくれにゃ。それに見合った、わしの支払いを決めてくれたらいいからにゃ」

「わかりました」


 セイボクが村からお米等を集める間、暇になったわし達は解散。ワンヂェンは自分の根城に戻って行き、わしとメイバイは田植えを見学しに行く。

 勝手に向かっていると、シェンメイが走って追い掛けて来て、一行に加わる。どうやら、案内役を頼まれたみたいだ。



 わし達が棚田に着くと、数十人の猫耳族が、作業に勤しんでいた。


「うわ~。水が昇って行ってるニャー!」

「棚田は高い所にあるからね。魔法使いがああやって、水を操作して送っているのよ」


 田植えの作業を見たメイバイが驚きの声をあげると、シェンメイが簡単な説明をしてくれる。


 なるほどな。上に登った時に、どうやって水を流しているのかと思ったが、魔法だったのか。一番上の田んぼに水を上げて、それを流して、他の田んぼに分けていたんじゃな。


「魔法使いは五人しかいにゃいけど、大丈夫にゃ?」

「まだ集まって来るはずだけど、それでも普段は数日に分けてやっていたから、厳しいでしょうね」

「じゃあ、わしも少し手伝うにゃ~」

「あんなに水を出して、まだ魔力があるの!?」

「水を出すのはきついけど、操作するぐらいなら余裕にゃ」

「力に加え、魔力まで……シラタマの体はどうなっているのよ?」

「シラタマ殿の事を考えても無駄ニャー!」

「あ、そうだったわね」


 うん。楽になったけど、諦められるのも気分がいいものではないな。そんな事より、田んぼじゃ。


 わしは魔法使い達の元へ行き、説明を聞いてから水を田んぼに送る。魔法使いはすでに疲れていたみたいで、わしがやり始めたら休憩しやがった。

 それでも黙々とやっていると、多過ぎると注意を受けたが、お前達がサボって見ていなかったんじゃろ?


 その後、田んぼを水と馴染ませると言うのでわし達も参加。メイバイが泥に足を取られて、わしを泥の中に道ずれにしやがった。手を引いてくれたなら耐えられたのに、まさかジャーマンスープレックスをされるとは……

 そのせいで、しばらく救世主と呼ばれずに巫女様と呼ばれたけど、気付けよ! ワンヂェンは黒で、わしは白だけど、いまは茶色。どうやったら間違うんじゃ!


 作業と猫耳族の態度が面倒臭くなったので、手作業から土魔法に変更。だから、わし一人にやらせて休憩するな!

 文句を言うと、仕方なさそうに馴染ませる作業はわし一人にやらせて、苗を植える作業に移っていた。だ~か~ら~~~!

 ここまで来ると作業員が増えて、女子供おんなこどもも参加し、里の者で苗を植え始めた。なので、わしは一番上まで逃げ出した。





「シラタマ殿~。泥々ニャー」

「こっち来るにゃ。落としてあげるにゃ~」


 わしが一番上から田植えをする猫耳族を見ていると、メイバイが追い付いて来たので、水魔法と土魔法を使って綺麗にする。


「ほい。終わったにゃ」

「ありがとニャ。それにしても、ここの人達は泥々になっても、楽しそうニャー」

「そうだにゃ。去年も雨が少なかったみたいだし、今年は全面使って豊作が期待できるから、嬉しいんじゃないかにゃ~」

「シラタマ殿も嬉しいニャー?」

「うんにゃ!」

「お米もシラタマ殿の故郷の味ニャ?」

「そうにゃ。ここと同じく主食だったから、毎日食べてたにゃ~。メイバイには感謝だにゃ」


 わしがお礼を言うと、メイバイはキョトンとする。


「私? 私は何もしてないニャー」

「そんにゃ事ないにゃ。メイバイと出会わなかったら、ここに来ていなかったにゃ」

「そんな……シラタマ殿は、私のお願いを叶えに来てくれただけニャ。感謝しないといけないのは、私のほうニャ……ニャーーー」


 メイバイは、わしの感謝の言葉を否定して泣き出す。わしはそんなメイバイの膝の上に乗って抱き締める。


「感謝させてくれにゃ。これだけじゃないにゃ。こんにゃ猫のわしを、愛してくれて、ありがとにゃ」

「ニャ……」


 わしは感謝の言葉を述べ、メイバイの唇に、自分の唇を合わせる。メイバイは驚いた顔をしていたが、すぐに目を閉じ、強く抱き締めるのであった。





 田植えの終わりが近付くと、わし達は屋敷に戻った。

 そこでお米等を受け取るのだが、セイボクの用意していた物は無理をしたのか、かなりの量があった。なので、半分だけ受け取り、支払いも少なく感じたので、要求の倍の肉等を支払い、神様の如く崇め奉あがめたつまられた。

 最初から食べ物で釣れば、これほどの苦労は必要無かったかもしれない。


 本題の帝国滅亡への協力は、明日に会議を開くと言うので今日はお開き。まだ食糧に不安がある中、ささやかな宴会をやりたいと言うので参加するが、御神輿おみこしみたいな場所に座らされ、恥ずかしい思いをさせられる。

 仕方ないので、影武者ぬいぐるみを置いて脱出。メイバイを念話で呼び寄せ、黒猫巫女ワンヂェンの根城前に、車の居城を築く。二号車はリータの寝床用に置いて来たので、一号車だ。


「なにするニャー?」

「お米を炊こうと思ってにゃ」

「向こうでもあったから、食べたらよかったニャー」

「まぁ見てるにゃ~」


 わしは土魔法で土鍋を作ると、米と水を入れ、米を水魔法で洗い、鍋に火を掛ける。そして……


「はじ~めチョ~ロチョ~ロ。にゃかパッパッ。赤子泣いてもふたとるにゃ~♪」


 鼻歌まじりに火を見詰める。


「なんて歌ってるニャ?」

「あ、日本語の歌にゃ。最初は弱火、次は中火にゃ、最後は蒸らす行程にゃ。この時、赤ちゃんが泣いても蓋は取っちゃいけないにゃ」

「ふ~ん。それを歌うと、どうなるニャ?」

「たいした意味は無いにゃ。お米の美味しく炊ける方法を、口ずさんでいるだけにゃ」

「そうなんだ。でも、楽しそうニャ。私も歌うニャー」


 わしとメイバイは二人で歌う。蒸らし作業に移っても、他の料理を調理しながらも歌い続ける。お米が美味しく炊けるように……



「「はじ~めチョ~ロチョ~ロ。にゃかパッパッ。赤子泣いても蓋とるにゃ~♪」」



 「にゃ」は、いらんのじゃけど……

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