238 焼き魚、最強にゃ~


「「いただきにゃす」」

「「「いただきにゃす?」」」


 わしとメイバイが歌って料理をしていたら、魚の焼ける匂いに誘われ、黒猫ワンヂェンとお付きの猫耳女性が出て来て、何故か一緒に歌い出した。

 わしの影武者を見破ったシェンメイも探しに来たらしかったが、こちらも魚の匂いに反応し、何故か歌い出した。

 理由はわかっている。食べたいんじゃろ? 魚をガン見しておるし……


 最初は無視していたが、ドンドン距離が近くなり、擦り寄って来たから料理の邪魔になったので「待て!」と、言って食べさせる事にした。「待て!」って、言ったんじゃから近付くな! これだからドラ猫は……

 そして、手を合わせて「いただきにゃす」と、言ったわけだ。疑問に思うなら、マネしなくてもいいんじゃぞ?


「「「「ニャーーー!」」」」


 うん。全員、先祖返りしてしまった。メイバイの口癖の「ニャ」は、魚を食べる時だけは、素だったんじゃな。


「美味しいにゃ?」

「「「「ニャーーー!」」」」

「それはよかったにゃ」


 喋れよ! いい加減メイバイも、魚の味に慣れて欲しいものじゃ。まぁわしも冷めないうちに食べるとするかのう。


 まずは味噌汁。ズズ~。あぁ。幸せじゃ……。味噌の在庫は少ないが、今日だけは、この幸せを我慢できんかった。

 次に米を……パクッ。これじゃよ! ふっくらモチモチ。これでこそ、米ってもんじゃ。くっ……目の涙が邪魔じゃ。うまい! うまいぞ~!!


 わしがお米と味噌汁ばかり食べていると、魚が消えていた。誰が食べたかわからなかったが、幸せなので気にしない。

 魚が無くなったせいもあって、皆も米と味噌汁に手を伸ばし、口に入れると驚いた顔をする。


「シラタマ……これはお米にゃ?」

「そうにゃ。それがどうしたにゃ?」


 ワンヂェンが驚いた顔で質問するが、わしは驚く理由がわからないので質問で返してしまった。


「いつもと違って、すっごく美味しいにゃ~!」

「あ~。アレは炊き方が悪いにゃ。さっき歌っていた通りに炊くと、芯が無く、ふっくら炊けるにゃ」

「弱火、中火、蒸らすだったかにゃ? ヤーイー。明日からやってにゃ~」

「はい。わかりました」

「それで……魚はもう無いにゃ?」


 まだ食うんかい! わしは魚を食ってないのに……


「誰がわしの魚を食ったか、名乗ったらあげるにゃ~」

「「「「はい(にゃ)!」」」」


 全員かい! あんだけ猫になりきっていたのに、よく分け合えたな。まだ人間の心が残っていた事にビックリじゃわい。


「里の者、全員に渡す量は無いから、噂を広めるにゃよ~?」

「「「「ニャーーー!」」」」


 出したそばからそれかい……


 わしが次元倉庫から焼き魚を取り出し、皆に与えるとすぐにかぶりつく。このままでは一瞬で消えそうに思えたので、多く出して、わしはゆっくりと食事を楽しむ。

 多く出したせいか、皆、食べ過ぎてお腹をさすって横になり出した。動けないらしく、片付けもわしに押し付けられ、ブツブツ言いながら片付ける。



 食事が済むと、やる事も無いのでお風呂を取り出し、ゆっくり一人で入ろうとしたら、メイバイに尻尾を掴まれた。連れて行けと駄々をこねられ、仕方なく抱いて移動する。

 メイバイを洗っていると、ワンヂェン達も許可無く入って来やがった。わしは男だと何度も言ったのに、ぬいぐるみにしか見えないからいいらしい。


 仕方ないので、お風呂の使い方を説明してから湯に浸かる。


「「はぁ~~~。極楽にゃ~」」


 メイバイまで同じ事を言ってしまっているな。いつも一緒に入っている弊害へいがいか。

 それにしても、ワンヂェンは真っ黒じゃな。わしと同じく、ぬいぐるみにしか見えん。背も低いし、毛深いから胸を確認できないな。まぁ見た感じ、小さいんじゃろう。

 逆にシェンメイは、体もデカイが胸もデカイ。それよりも気になるのは筋肉か。さすが筋肉猫と二つ名を付けられるだけあって、筋肉がキレておる。

 あっちのワンヂェンの付き人は……奴隷紋? まだ消えていないみたいじゃ。アレで生活をしておるのか? 危険じゃないのか?


「ムウ……なに見てるニャー!」


 わしがヤーイーの背中を注視していると、メイバイが怒る。


「にゃ!? そんなんじゃないにゃ~」

「私より、あの人の体が好みなんニャ……」

「違うにゃ~。背中にゃ。よく見るにゃ~」

「背中ニャ? アレは奴隷の……」

「ふぅ。ヤーイーがどうしたにゃ?」


 わしとメイバイが痴話喧嘩……話をしていると、ワンヂェンが湯船に入り、残りの二人もお湯に浸かる。


「そのヤーイーは、奴隷だったんにゃろ? 奴隷紋は解除しないにゃ?」

「それが出来たら苦労しないにゃ~。うちでも、封印するのがやっとで、定期的に掛けないといけないにゃ」


 なるほど。本来の力を抑える事は出来ているから、里での自由が許されているのか。ここはわしの出番……いや、ここは……


「それなら、シラタマ殿……ムグッ」

「「「??」」」


 わしはメイバイの口を塞いで、念話で黙っているように伝える。その行為に不思議に思ったワンヂェンは、わしに質問して来る。


「どうしたにゃ?」

「わしの知り合いに、奴隷紋の解除が出来る者がいるにゃ」

「本当にゃ!?」

「ただ、その者は人族にゃ。この里に入れるのはダメにゃろ?」

「う~ん。その人族は帝国の者にゃ?」

「いや。山を越えた国の者にゃ」

「シラタマとメイバイだけじゃ無かったんにゃ!?」

「そうにゃ。猫耳族が二人、人族が四人。全部で六人で来たにゃ」


 わしが人数を伝えると、何故かワンヂェンは首を傾げる。


「六人と一匹じゃないにゃ?」

「六人にゃ」

「シラタマは人じゃないにゃ。猫にゃ~!」

「そこは流して聞いてくれにゃ~」

「無理にゃ」


 くっ……この猫、わしを猫扱いしやがって……。猫じゃけど……ワンヂェンも猫じゃけど!!


「ワンヂェンだって、猫で数えられたら寂しいはずにゃ~!」

「うっ。たしかに……その中に、奴隷紋が解除できる者がいるにゃ?」

「そうにゃ。教えるのも得意だから、里の者に教える事が出来るにゃ。どれだけ元奴隷がいるかわからにゃいけど、たった一人の人族を入れるだけで、奴隷紋を全て除去できるにゃ」

「う~ん……二人で長と掛け合ってみようにゃ。巫女のうちだけでは無理だけど、救世主もいれば、いけるんじゃにゃいかにゃ~?」

「あ~……面倒臭いにゃ~」

「本当にゃ~。ヤーイーたち元奴隷がいないと、話し相手にも困るにゃ~」


 ワンヂェンの話し相手は、元奴隷だけなのか。アレだけ面倒臭いと、喋りたくもなくなるわな。


「もう面倒臭いし、明日、朝一で連れて来るにゃ」

「それだと、門で止められるにゃ」

「秘策があるから大丈夫にゃ。ワンヂェンの許可だけくれにゃ」

「にゃにをするかわからないけど、ヤーイー達の為に協力はするにゃ~」

「ありがとにゃ~」


 その後、お風呂から上がったわし達は各自解散。メイバイと車に乗り込むと、通信魔道具でノエミに連絡。リータに泊まる旨を伝える事は忘れない。

 そうして今日も、メイバイにゴロゴロ言わされて眠るのであった。



 翌朝、早くに目を覚ますと、昨日の夕食の時に、メイバイに作ってもらったおにぎりを泣きながら腹に入れ、一人で門に向かう。

 門兵の男に挨拶をして地上に出ると、マーキングしてから猫型に戻って走り出す。肉体強化魔法も使ったから、シェルターのある街跡まで、十分ほどで着いた。


 シェルターのお堀と壁を飛び越え、人型に変身し、リータに朝の挨拶をすると、抱き締められながら移動。ノエミには昨日、迎えに来ると言ったのに、まだ準備中だった。


 乙女の朝は時間が掛かる? ババアの朝の間違いじゃろ?


 ノエミをおんぶすると、リータに今日は必ず戻ると言って、子供達の事を頼む。わしを抱いた時に抱き締めがきつかったから、きっと寂しかったのであろう。

 ノエミはずっとポコポコしていたが、走り出すと揺れが酷かったのか、速度が速過ぎたのか、わしにしがみつき、ポコポコは止まった。


 マーキングをした方向に、三十分ほど走ると里の入口が見えた。思った通り、認識阻害の効果は、目的地がはっきりわかっていれば意味をなさないようだ。

 ホッと胸を撫で下ろしたわしは、梯子はしごを下って飛び降りる。そして、門兵に挨拶をして中に入る。


「待ってください!」


 入れてもらえなかった。


「にゃに?」

「その子供は……フードを取ってください」

「誰が子供じゃい!」

「ノエミ。いま、それはいいからフードを取るにゃ」

「ムッ……わかったわよ。これでいい?」

「あ、大丈夫です。失礼しました。お通りください」

「お仕事、ご苦労様にゃ~」


 人族のノエミ、猫耳族の里に侵入成功。何故、こんなに簡単に入れたかと言うと、ノエミには孤児院で販売している猫耳カチューシャと尻尾を付けさせたからだ。

 リータは自前の物を持っていたから出番が無かったが、わしの買った物が役に立ってよかった。


 里の中に入るとワンヂェンの根城に向かい、メイバイと合流して、皆で会議が行われる屋敷に乗り込む。

 巫女のワンヂェンまで参加するのは珍しい事だったのか、ざわめきが起こっていた。そうして各自席に着くと、セイボクが取り仕切り、会議が始まる。


 まずは自己紹介。少ないわし達から、メイバイ、ノエミを紹介し、猫耳族が自己紹介するが、多いわ!

 五十人近くいて、これでも絞ったじゃと? 主要メンバーだけ残してどっか行け! 会議はいつもこの人数じゃと? だから何も決まらないんじゃ!

 結局、全員自己紹介を始めたので、重要そうなポジションの者だけ残して、あとは追い出した。食事担当の者を残したのは何故か? それは……ゴニョゴニョ。


 食事担当の者が部屋を出ると残った者は、穏健派から、セイボクとおっさん二人。強硬派から、ウンチョウとおっさん二人。

 奴隷解放軍から指揮官コウウンと戦闘員シェンメイ。猫耳魔法使いのモンファお婆さん。巫女のワンヂェンと元奴隷ヤーイー。最後にわしたち三人。



 総勢十四人。このメンバーで会議が始まる。



 う~ん。始まったはいいものの、いきなりケンカも始まった。穏健派おっさんと強硬派おっさんの言い争いは見てられん。コウウンのおっさんも強硬派に付いているから、穏健派が押され気味。数合わせをしたのに、失敗じゃ。

 シェンメイは口下手で役に立たんし、モンファお婆さんは起きておるか? うん。寝ておる。こんなうるさい中で、よく寝ていられるな。


「にゃあにゃあ、シェンメイ?」

「どうしたの?」

「このケンカは、いつまで続くにゃ?」

「そうね……人数が少ないから、一日で済むんじゃない?」

「丸一日にゃ!?」

「いつもは人数が多かったから、七日は続いていたわよ」

「そんにゃに!? それで話は決まるにゃ?」

「最終的に多数決になるから、いちおう……」


 マジか。多数決するなら、こんな無駄な時間はいらんじゃろうに……ケンカの内容も、いつ奴隷を解放するかしないかの言い訳をしているだけじゃし……

 致し方ない。ここはわしが仕切るか。


「聞くにゃ! わしがこの会議の議長になるにゃ!!」


 わしは大声で、叫ぶ!


「………」

「誰もシラタマ殿を見ないニャー」

「メイバイ……。言うにゃ~~~」


 くそ! 恥ずかしい思いをしただけじゃ。この一族は、どこまでもわしを苛立たせるな。愚痴っていても話が進まん。まずは注目を集めて、議長を奪い取る!


 わしは次元倉庫からある物を取り出し、皆の前に置く。


「「「「「ニャーーーー!」」」」」


 そう。焼き魚だ。餌付けして、議長になろうという算段だ。


「わしが議長でいいにゃ?」

「「「「「………」」」」」

「許可してくれたら、もう少しあげる……」

「「「「「ニャーーーー!」」」」」

「あ、ありがとにゃ。それじゃあ、これを……」

「「「「「ニャーーーー!」」」」」


 猫耳族は、わしに注意を向けると黙っていたが、魚をあげると言う言葉に反応し、許可するっぽい声をあげたから、焼き魚を取り出す。だが、喋り終わる前に、奪い取るように食べ始めたのであった。


 全員、言葉を思い出せ!!

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