206 人体実験にゃ~


 巨象の血でのジャガイモ栽培を開始して十日……

 出来るだけ収穫は自分でする中、仕事の間は雇った孤児院の男の子に任せ、全てのジャガイモを収穫を済ました夜、わしは縁側に腰掛けて悩んでいた。


 さて、ジャガイモの収穫は終わったけど、これをどうするかじゃな。食べて確認したいところじゃが、わしが食べても効果がわからない。

 かと言って、リータとメイバイを実験台にするのは気が引ける。それに、二人を力で押さえ付けるのは、わしはやりたくないしな。

 誰か殴って止めてもいい奴がベストなんじゃが……真っ先に頭に浮かんだのはバーカリアンじゃな。バカなら、殴っても問題無いからな。

 次の候補はリータの元パーティメンバー……ダメじゃ。顔も名前も思い出せん。生きてるかも不明じゃな。

 やはり盗賊を捕まえて人体実験をするか? う~ん。人道的にどうじゃろ? 犯罪者じゃからこれも問題無い! ひどい事を言っておるのう。



「どうしました?」

「また、ジャガイモとにらめっこしてるニャー?」


 わしがジャガイモを握って悩んでいると、リータとメイバイが話し掛けて来た。


「ジャガイモは危険だからにゃ~。どうしようか悩んでいるにゃ」

「たしかに食べる事が出来たら、食糧になりますもんね」

「あんな事にならなきゃだニャー」

「ですね」

「誰かに食べてもらえたらいいんにゃけど、候補が見当たらにゃくて困っているにゃ」

「スティナさんか、エンマさんに相談してみてはどうですか?」


 あの二人を頼れば、ハンターを実験動物にしてくれると思うけど……


「まだ実験段階で、あの二人には知られたくないにゃ。一気に広がって、取り返しがつかにゃくなりそうで怖いにゃ~」

「じゃあ、酔った四人に一服盛るニャ! どうせ起きたら覚えてないニャ! シラタマ殿に迷惑かけている迷惑料ニャー!」

「それも考えたんだけどにゃ~」

「二人とも、冗談でもやっちゃダメですよ~」

「やらないにゃ。あの四人に食べさせたら、にゃんだか酷い目にあいそうにゃ~」

「「たしかに……」」


 わしのセリフにリータとメイバイは、わしがおもちゃにされて、めちゃくちゃにされている姿が浮かんだようだ。


「まぁ明日、ギルドでちょうどいい依頼があるか見て来るにゃ。盗賊の依頼があればいいんだけどにゃ~」

「え? 仕事は休みじゃないんですか?」

「個人的な趣味だから、一人でやろうかにゃ~と……ついて来てくれるにゃら、一緒にやるかにゃ?」

「明日ニャ……」

「予定があるにゃ?」

「久し振りに、エスコ君達とパーティを組む約束をしたんです」

「ああ。新人君だったかにゃ? 先約があったんだにゃ~」

「約束だから、ゴメンニャー!」

「いいにゃいいにゃ。それじゃあ、明日の為に、早く寝ようにゃ」

「「はい(ニャー)」」



 今日もわしは二人の間でゴロゴロと言わされ、眠りに落ちる。そして翌朝、三人でハンターギルドの扉を潜った。

 エスコパーティは、もう来ていたみたいなので、リータ達と共に声を掛ける。エスコはわしに謝罪をして来たが、早くしないといい仕事が無くなると言って急かして別れる。

 混み合うギルドが落ち着くのを待っていると、昇級試験で相手をしたハンター達が挨拶にやって来たり、関係ない女性に撫でられた。

 そうこうしていると、リータ達も行って来ると言ってギルドから出て行き、静かになったところで、ゆっくりと盗賊がいそうな依頼を探す。


 う~ん……盗賊がいない。取り合いに参加するのが面倒で、ゆっくりし過ぎたか。しまったな~。お! お尋ね者が残っておった……じゃが、何処に出没するかが書いてない。

 いい実験材料も見付からないし、帰るか~。いや……いい実験材料は、いたんじゃなかろうか? なにより実力もある程度知っている。懸念材料はあるが、行き先も知っているし、ちょうどいい!


 よし。行動開始じゃ!!



 わしはとある人物を追って街道をひた走る。幸いすぐに見付けたので追い抜き、先回りして森に入る。

 しばし隠れて待っていたら待ち人来る。探知魔法を使いながら森に入って来た人物を尾行し、進行方向を確かめる。

 そうしてある程度の予測が付くと、開けた場所に急ぎ、陣を張る。


 おそらくここで、お昼休憩をするはずじゃ。途中に角兎が二匹いるけど、常時依頼にしたと言っていたし、それだけでは帰らないじゃろう。


 さて、準備するか。


 わしは探知魔法を気にしながら、土魔法で屋台のような物を作り、さらに調理をしていく。

 元の世界では、ろくな料理は作れなかったが、この世界に来てから何度も料理をしているので、蒸す、焼く、揚げるでぐらいならなんとか出来る。それに素材がひとつしか無いなら、なおさら簡単だ。


 わしの調理が始まった頃に、追っていた人物は角兎に接触し、そこから思った通り、わしの元へと歩を進める。

 そして料理の匂いが辺りに立ち込める頃に、とある人物は、わしの屋台を見付ける。


「いらっしゃいにゃ~。出張屋台『猫』只今営業中にゃ~」


 わしは料理を作りながら、威勢のいい声をあげる。とある人物は驚くが、二人ほど、冷ややかな目を向ける者がいる。


「シラタマさん……」

「シラタマ殿……」


 リータとメイバイだ。


「そっちのべっぴんさんには、別の料理を出すにゃ~。そっちのかわいこちゃんにも、サービスして同じ物を出しちゃうにゃ~」


 リータとメイバイは、わしのサービストークに頬を赤らめ、声を出す。


「こんな所で、何してるんですか!」

「シラタマ殿は常識を知らないニャー!」


 どうやら怒って顔を赤くしていたみたいだ。


「えっと……料理にゃ。タダだと常識的じゃないから、ちゃんと適正価格にしようかにゃ?」

「そんな事は聞いてません!」

「ジャガイモをどうするかを聞いてるニャー!」

「まぁまぁ。エスコ君。お腹すいてるにゃろ? わしのおごりにゃ。食べてくれにゃ~」

「「「「えっと……」」」」


 エスコパーティは、森に屋台が現れ、リータ達が怒っている姿を見て混乱しているようだ。なので、メイバイとリータが助け船を出す。


「あんなの食べちゃダメニャー!」

「そうですよ。変な効果のある食べ物だから、絶対に食べちゃダメです!」


 うぅ。リータ達がわしの計画をはばむ。当然だけど、少しは協力してくれてもいいのに……。ここはエスコ君を説き伏せてみるか。エスコ君が首を縦に振れば、リータ達も止めるのが難しくなるじゃろう。


「それじゃあ、君達に依頼料を払うにゃ。ジャガイモを食べるだけで、金貨一枚にゃ。もし、明日の仕事に支障が出たならば、慰謝料でさらに金貨一枚にゃ。金貨一枚でも、四人パーティにゃら数日の稼ぎになるんじゃないかにゃ~?」

「お金で釣るなんてズルいニャー!」

「そうかにゃ? 正式な仕事じゃないかにゃ~? ギルドを通していないから、手数料も取られないし、おいしい仕事だと思うんだけどにゃ~? にゃあにゃあ~?」


 エスコ君達は揺らいでおるな。リータとメイバイは、怒りのオーラが揺らいでおるけど……


 わしの質問に、パーティのリーダーであるエスコが答える。


「それは、そんなに危険な食べ物なのですか?」


 まぁ気になるわな。じゃが、食い付いた!


「効果として肉体強化にゃ。それと好戦的になって、誰彼かまわず攻撃してしまうにゃ。まぁ食べる前に、縄で縛ってしまうから、安全面にも配慮するにゃ」

「そうですか……でしたら、やります!」

「エスコ君。いいの?」

「いつもシラタマさんのパーティメンバーを借りているので、少しぐらい恩を返したいんです。だから、やらせてください!」

「決定だにゃ」


 リータ達のおかげで、わりとあっさり承諾しょうだくしてくれたのう。これで巨象の血の使い道が考えられる。


「説教も決定ニャー! 帰ったら覚えておくニャー!!」


 うっ……説教を逃れる方法も考えねば。メイバイさんもリータさんも怖いですよ~?



 こうして実験動物を……被験者を確保したわしは、男三人を縄で縛ってしまう。女性陣には、テーブルセッティングをして、エミリの料理を振る舞う。


「それじゃあ、リーダーのエスコ君には、ある物を四倍に薄めたジャガイモにゃ。隣の彼は、八倍にゃ。その次は十六倍にゃ。はい。口を開けてにゃ~」


 わしは三人に口を開けさせると、ふかし芋、焼いた芋、フライドポテトを食べさせる。そうして三人に丸々一個食べさせたところで、感想を聞く。


「エスコ君。どうだったにゃ?」

「美味しいです! それに力が湧いて来た気がします! いまならシラタマさんに勝てる気がします!!」


 う~ん。リータ達ほどじゃないが、少し興奮しておるか。これはダメじゃな。


「次の彼はどうにゃ?」

「いつものジャガイモより美味しく感じました。力も湧いて来たような? このままでは、いまいちよくわからないですね」


 冷静に受け答えもしておる。かなり効果が薄れているが、まだジャガイモとは違う物みたいじゃな。


「最後の君はどうにゃ?」

「ジャガイモなんですよね? パリパリほくほくの新食感で美味しかったです!」


 うん。興奮しておるが、ただの食レポになっておる。フライドポテトなんかにするんじゃなかった。じゃが、普通のジャガイモに一番近そうじゃ。

 わしも少し食べてみるか……うん。味も普通じゃ。いつも食べておる物となんら変わらない。念の為、焼いてあるほうも……あ、本当に少しうまい。ふかし芋は……ああ。こりゃうまいな。

 味のうまさに合わせて効果が上がっていくって感じかも? これなら、わしでも鑑定できるな。うまくない、普通のジャガイモを作ればいいだけじゃしな。


「セルマちゃんもポテトを召し上がれにゃ~」

「え? 大丈夫なのですか?」

「たぶんにゃ。これ以外は、もう少し効果を確認してみるにゃ。エスコ君。わしと立ち合ってみるかにゃ?」

「はい! やってやる!!」


 わしはエスコの縄を切ると、木刀を投げ渡し、わしに打ち込ませる。前回より力、素早さが共に上がり、鋭い打ち込みだったが、相手がわしでは高が知れている。

 余裕があるので残りの二人の縄もほどき、相手をする。本人達の返答どおり、力が上がっていた者と、前回より少し実力が上がった者とになっていた。


 しばらく三人とも同時に相手をしていたが、疲れが来たのか、倒れていった。


「みんにゃ、体調はどうにゃ?」

「か、体中が痛いです!」

「疲れました~」

「ポテトが食べたいです!」


 エスコ君以外、大丈夫そうじゃな。最後の奴は、ポテトの呪いに掛かった願望じゃしな。


「それじゃあ、おやつでも準備するかにゃ。リータ、メイバイ。この安全なジャガイモで、フライドポテトを作ってくれにゃ~」

「はい」

「わかったニャー」


 わしがエスコ達の治療をしていると、パチパチとフライドポテトの揚がる音が聞こえて来る。エスコ達は初めて食べたみたいで、美味しそうにムシャムシャ食べていた。


 こうしてジャガイモの人体実験は笑顔の中、終了となり、依頼料を払ってから皆で王都へ歩く。

 リータ達は説教を覚えているみたいなので、短くなるおまじないも欠かさない。


 スリスリスリスリスリスリ……


 おまじないが効き過ぎて、説教の代わりに、激しい撫で回しを受ける事となってしまうのであったとさ。

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