205 リータ、メイバイVS猫にゃ~


 巨象の血で栽培されたジャガイモを食べたリータとメイバイは、わしに襲い掛かる。

 メイバイは両手に持つ黒魔鉱のナイフを素早く振り、リータは拳を何度も振るう。わしはその攻撃をかわし、木を盾に使いながら説得を繰り返す。


「リータ! メイバイ! やめるにゃ~!!」

「まだまだで~す!」

「楽しくなって来たところニャー!」


 わしの説得は聞く耳持たず。二人は目配せすると、協力して攻撃して来る。

 メイバイが先手でナイフを振るい、わしが避けた方向に、リータが土魔法【土壁】を置いて詰め寄る。

 わしのスピードならば余裕を持って避けられるが、避けた先にはメイバイが先回りしてナイフを振るう。これも避けるとリータが迫って拳を振るい、避けた先には土の壁。そして上からメイバイが降って来る。

 わしはビックリて横に避けようとしたが、そこにリータの姿が見えたので、壁をネコパンチで突き破り、大きく距離を取る。


 ふぅ……完璧にわしの動きを先読みされておるな。行く先々で、どちらかが待ち構えておる。よく訓練に付き合っているから、くせを見破られたか? それとも心を読んでか? どちらにしても、これで諦めてくれたらいいんじゃけど……


「やっぱりシラタマ殿は凄いニャー! この速さでも全然当たらないニャー!」

「私の速さじゃ当たらないから、隙を突いているのに、それでも当たりませ~ん。メイバイさん。ここは魔道具です!」

「わかったニャー!」

「「ん……」」


 うお! さっきの速度が倍に跳ね上がった。これは……いまの二人は、イサベレより強いんじゃなかろうか?


 リータとメイバイは自分の出した速度に驚いていたが、すぐに慣れ、わしを追い掛ける。

 メイバイは、イサベレより速い速度のナイフさばき。盾にした大木が、一瞬で粉微塵にされ、大木をすり抜けたメイバイにビックリして避けるのが遅れる。

 しかし、わしにはまだ余裕がある。後ろに跳んでかろうじて避けるが、避けた先には大きな【お茶碗】が降って来て、閉じ込められてしまった。

 わしはすぐに脱出するため【お茶碗】を持ち上げようとしたが、大きな音と共に穴が開き、切れ目が作られる。リータとメイバイの仕業だ。リータは拳で穴を開け、メイバイはナイフで斬り裂き、ついにわしに攻撃が届く。


 攻撃は届いたが、防御は間に合った。右から来たリータの拳は、後ろ向きに二本の尻尾で受け止め、左から来たメイバイの二本のナイフは、正面を向いて柄を握った手を肉球で受け止める。

 その衝撃で【お茶碗】は崩れ落ち、ようやく二人の動きが止められたかと思ったが、リータはわしの真下から【土槍】を、メイバイは握った手の指輪から【風の刃】を、ゼロ距離から発射する。なので、一気に速度を上げてかわす。


 二人はわしを一瞬見失うが、勘が働いたのか、同時にわしを見付ける。そして、目配せをして、先手の交代。リータがわしに迫る。


 リータの動きはメイバイより遅いので、わしは余裕を持って木の後ろに隠れるが、リータはおっかさんより強い拳の振り回し。木に拳をぶつけると、折れるどころか根っ子ごと吹き飛ばした。

 木の後ろに隠れたのがあだとなって、ビックリして避けるのが遅れたわしは、吹き飛ばされた木に爪を立ててつかまり、一緒に移動する。

 すると、凄い速度で走るメイバイが追い付き、切っ先を伸ばしたナイフで木を切断し、次の刃でわしを斬り付ける。わしは目が合った瞬間、木を蹴って避けるが、その先には大木が降って来た。


 ネコパーンチ!


 わしは大木をぶん殴ってぶっ飛ばすと、リータとメイバイを見つめる。


 土魔法が来ないって事は、リータは魔力が尽きたのかな? 何やら二人で話し合っておる。

 それにしても、リータのパンチは凄かったな。まさか文字通り、根こそぎ来るとはビックリしじゃわい。ビックリと言えば、メイバイも素早い。大木が無かったみたいに、普通に通り過ぎたな。

 しかし、二人の体は大丈夫じゃろうか? 長く闘わせると、それだけで筋肉にダメージがありそうじゃ。この方法だけはやりたくなかったが、致し方ない。



 わしは二人が同時に走り出すのを見て、ぴくりとも動かずに待つ。


「「くらえ~~~!」」


 すると、二人は同時に襲い掛かる。わしはそれを待っていたので、冷静に魔法を使う。


「【突風】にゃ~~~!」

「「きゃ~~~!!」」


 わしの風魔法を下から受けたリータとメイバイは、空高く打ち上げられ、悲鳴をあげる。


「にゃ~~~~~~!!」


 当然、自分をおとりに使ったので、わしも空高く打ち上げられて悲鳴をあげる。だが、いつもの二人のツッコミはなく、空を泳ぐようにわしに迫ろうとする。


 うぅ。怖いから、この方法はやりたくなかったんじゃよな。しかし、ツッコミが来ないのは、やはり正気がないのか? 空を泳ぐなんて、正気の沙汰とは思えんが……

 とりあえず、風で押し返してっと……距離が出来たし、地上も近付いた。もういっちょ、【突風】じゃ!


「「きゃ~~~!!」」


 今度はわしを残して、二人は空に舞い上がる。わしはその隙に、ふわりと着地して、次の準備に取り掛かる。


 あ~~~。怖かった~。と、そんな感想を言っている場合じゃない。土魔法【蟻地獄】。よし! 土がサラサラの砂になった。二人は……落ちて来たな。

 盗賊みたいに気絶してくれたら楽だったんじゃが、何度も空から落ちている二人じゃ耐性がついておるな。

 おっと、悲鳴が近くなった。痛くないように、風魔法で調整してっと……


 わしは二人を【蟻地獄】の中心に来るように風を当てて、さらにふわりと落とす。二人はサラサラの砂の中に入ると、バタバタとい出ようとするが、もがいても、埋まるだけだ。

 そこを土魔法で顔が出るように調整しながら、固めていく。二人の周りの土は柔らかく、その外側を固くしたので圧力はあるだろうが、痛くはないはずだ。


「ふぅ……。二人とも大丈夫にゃ? 痛くないにゃ?」

「痛くはないですけど、身動きが取れません。出してください!」

「卑怯ニャー! 正々堂々闘うニャー!!」

「もう少し我慢してくれにゃ~」



 さて、二人が狂戦士になった理由と、戻し方を考えないとな。でも、二人の罵詈雑言ばりぞうごんが気になる。

 浮気猫? 食いしん坊? モフモフ? それで悪口のつもりか?

 まぁ正気を失っても、たいした悪口じゃないのなら、二人の愛が深いのだと思っておこう。


 あ、狂戦士になった理由じゃった。ジャガイモが原因なのは確実じゃろう。要は巨象の血じゃ。

 肉を食べた時には、うまい以外の効果はわからんかったのじゃが、ひょっとしたら、何かしらの効果があったのかもしれん。皆に意見を聞いておけばよかったな。


 リータ達は現在、身体能力が跳ね上がっているところを見ると、肉体強化の効果はあるのじゃろう。それと、好戦的か……。肉を食べた人には、そんな反応が無かったんじゃから、他の要因があったんじゃろう。

 となると、ジャガイモ? は、いつも食べておるから外して……水と土? ……全部わしの魔力で出来ていた! なるほど。だからわしは正気でいたんじゃな。

 仮説を立てるなら、わしの魔力と巨象の血が化学反応を起こして肉体強化と好戦的な追加効果が出たってところか。食糧問題が解決すると思ったんじゃが、これでは流通させると、逆に国が滅びてしまう。


 理由はわかったが、リータ達の処置をどうするかじゃな。ゲームなんかの付加アイテムは時間制だったんじゃから、切れるのを待つしかないか。

 食べた物を消化、吸収しきったら、効果は無くなるじゃろう。さすがに、一生とかの呪いじゃないじゃろうしな。

 わ! リータの埋めた穴がひび割れて来た。補強しなくては!



 わしは慌ててリータの周りの土を固め直す。しばらく様子を見ていたが、力を使ったり、叫んだりして、喉が渇いていたみたいだったので、ジュースを次元倉庫から取り出し、ゆっくり飲ませてあげる。

 その後、リータは暴れて疲れたのか眠りに就き、その少しあとに、メイバイも眠りに落ちた。


 わしは二人を心配して見続け、辺りが赤くなった頃、二人が目を覚ます。


「ん、んん~……」

「フニャー……」

「おはようにゃ~」

「「おはよ……え?」」


 二人は挨拶を返そうとしたが、現状に驚き、途中で疑問の声に変わった。


「なんで埋まっているんですか?」

「動けないニャー」

「二人はにゃにも覚えてないのかにゃ?」

「え? なんの事ですか?」

「覚えてるって、なんニャ?」

「会話が成り立つにゃら、もういいかにゃ? ちょっと待ってにゃ」


 わしは土魔法を使って、ふたりを地上にゆっくり戻す。ついでに砂や土も全て除去して、綺麗さっぱりだ。


「覚えてないって、どういう事ですか?」

「狼と戦ったにゃろ?」

「うん。あ、狼はどこニャー?」

「二人の様子がおかしかったから追い払ったにゃ。そしたら、二人はわしに襲い掛かって来たにゃ」

「私が……シラタマさんに?」

「うそニャ……」

「「あ!」」


 二人は信じられないって顔をしたが、どうやら同時に思い出したようだ。


「少しは記憶にあるみたいだにゃ」

「ごめんなさい!」

「ごめんニャー!」

「ジャガイモのせいだから気にするにゃ」

「「ジャガイモ(ニャ)?」」

「あとで説明するにゃ。それより体は大丈夫かにゃ?」

「あ……痛いです!」

「全身筋肉痛ニャー! 動けないニャー!」

「わかったにゃ」


 わしは二人に近付き、ジャガイモの効果を説明しながら回復魔法で痛い箇所を治していく。


「どうにゃ?」

「体の痛みは無くなりましたが……」

「シラタマ殿に暴力を振るったなんて……」

「気にするにゃ……いや。気にして、これからポコポコするのはやめてくれにゃ~」

「「うっ……」」

「うっ、にゃ?」

「ポコポコは暴力じゃありません!」

「そうニャ。じゃれてるだけニャー」

「言ったそばからポコポコするにゃ~!」


 あれ? 全然力が入ってない。痛みはとれたけど、本調子ではないのかな?


「お疲れみたいだにゃ。もう夕暮れだし、王都に帰るにゃ~」



 わしはそう言うと、転移魔法で王都近くに転移する。そこから二人は辛そうに歩き出すので、抱こうかと言ってみたが、断られた。どうやらわしを襲った事を気にしているみたいだ。

 ハンターギルドで狼を買い取ってもらうが、いつもより少ない収獲に、ティーサも心配していたが、遊んでいたと言ったらすぐに納得されて、モヤモヤしながら帰路に就く。


 二人はお疲れなので、お風呂で背中を流してあげ、食事も次元倉庫に入っている出来合いの物で済まし、早目に就寝させる。

 アダルトフォーは来ていたが、リータ達が元気なさそうにしていたので、気を使って静かに飲んでいた。



 翌朝、リータ達は狩りに行こうとしたので、しっかり休むように強く言い、無理矢理にでも休ませる。わしが二人の間で休んでいれば、布団から出るのは難しいのか、素直に寝てくれた。

 二人の寝息につられ、わしもすやすや寝ていたら、スティナに首根っこをつかまれて無理矢理連れ出され、アダルトフォーの中心に降ろされた。


「気持ち良く寝てたのに、にゃにするにゃ~!」

「仕事よ仕事。ティーサから聞いているでしょ?」

「にゃにも聞いてないにゃ……」

「またあの子……はぁ。私達から指定依頼を出して受理したんだから、断れないわよ」

「にゃ? 私達って、なんにゃ?」

「私とエンマ。フレヤにガウリカよ。シラタマちゃんには、引っ越しの手伝いをしてもらいたいの」


 は? そんな依頼、聞いても絶対受けるわないじゃろ!


「わしは受けないにゃ~!」

「だから、勝手に受理しちゃった。てへぺろ」

「職権乱用にゃ~~~!」

「どうせ暇でしょ? こづかい稼ぎにやってよ。それに受理してるから、やらないと失敗扱いになるわよ」


 ひどい! わしに拒否する事すらさせてくれんとは、スティナは悪どい事をしやがる。


「依頼料とは別に、サービスするからん」

「にゃ!? にゃんですか? 怖いから近付かないでくださいにゃ」


 わしが舌なめずりするスティナから後退ると、エンマの足にぶつかってしまった。


「シラタマさんは踏まれるのが好きですものね」

「そんにゃこと、言ったことないですにゃ」


 エンマからも逃げようとすると、フレヤが回り込む。


「猫君は針でチクチクがよかったね」

「それはもう、拷問ですにゃ」


 針を手に持つフレヤの脇、最後の逃走経路はガウリカが潰す。


「しょうがない。抱いてやるよ」

「ガウリカも抱きたいだけにゃ~」

「「「「サービスよ~」」」」

「どこがにゃ~! ゴロゴロゴロゴロ~」


 アダルトフォーにサービスと言う名の拷問を受けたわしは、気持ち良さに負けて、仕事を受けてしまった。いや、リータとメイバイが居間の引き戸を少し開けて、無言で睨んでいたから、やめさせる為に受けたのだ。

 それからアダルトフォーに連行されたわしは、各々の家に出向き、中にあった荷物をそっくりそのまま次元倉庫に入れて、引っ越し先の家の、指定された部屋に吐き出した。


 雑? 箱に入れろ? 皿が割れた? 知らんがな。

 元々部屋の中はぐちゃぐちゃだったじゃろ! 準備もしていないのにわしのせいにするな! そして、納得が早過ぎる!!


 そう。アダルトフォーの家は、家族と住んでいたガウリカ以外は物も多く、足の踏み場もなかったぐらいだ。わしの次元倉庫頼りに、片付けを諦めた皆が悪い。

 これでも出す時に軽く仕分けしたから、元のぐちゃぐちゃよりマシになっている。あとは皆の片付け次第だ。やるかどうかはわからないが……


 その後、引っ越し祝いと言う宴を昼から開いていたが、やっぱり片付けるつもりがないじゃろ? 明日やる? そう言う奴ほどやらないんじゃ!

 わ! 抱きつくな! 撫でるな! そこを触るな~~~!!





「はぁ……またにゃ」

「隣に引っ越して来たのですよね?」

「酒臭いニャー」


 昼から飲み進めたせいか、アダルトフォーは夕飯時には酔い潰れ、いつも通り離れで眠りに就いた。


「帰る為に、隣に家を借りたんじゃなかったのですか?」

「さあにゃ~? 倉庫のつもりなのかも知れないにゃ」

「こんなダメな大人は放っておいて、部屋でゴロゴロするニャー!」

「そうですね。ゴロゴロしましょう!」

「にゃ……」


 そしてわしもいつも通り、リータとメイバイにゴロゴロ言わされて、眠りに就くのであった。


「ゴロゴロゴロゴロ~」

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