204 ジャガイモを食べるにゃ~


「それじゃあ、夜までに用意しておくから、取りに来てくれにゃ。にゃろめっ!」


 わし達は、巨象の皮を薄くスライスする為に、家に戻る。フレヤの要望では、2メートル四方の皮だったので、作業場では場所が狭いので、庭でやろうと言う訳だ。

 そんな訳で、わしはぷりぷりしながら、急いで家に帰る。


「ごめんなさい!」

「ごめんニャー!」


 家に着くなり、リータとメイバイは謝って来た。当然だ。フレヤの店で、ずっとわしを針で刺していたんだからな。


「痛いって言ったのに、やめてくれなかったにゃ……」

「え……痛くないって言ってたじゃないですか?」

「だから、刺したニャー」


 それは心の声! だからって刺さないで!!


「ごめんなさい!!」

「ごめんニャー!!」


 うん。心の声にも的確に謝られた。心の声を聞いている事にも謝って欲しいもんじゃ。


「「………」」


 聞こえない振りをしやがるよ。ここを譲ると、バカな息子の警察官に撃たれてしまうから、折れる訳にはいかない。でも、このまま怒っても、泣き出しそうじゃし、やんわりと注意しておこう。


「もういいにゃ。でも、針で刺すのはこちょばいからやめてにゃ~」

「こちょばいのですか……」

「シラタマ殿の弱点……」

「……やったらもう、撫でさせないにゃ」

「え……そんな……」

「ひどすぎるニャー-ー」

「泣くにゃ~! 刺さなきゃいいだけにゃ~!!」


 結局泣かれて、わしが折れる事となってしまったが、また刺されると思う。だって二人の手には、針が握り締めてあったんじゃもん。


 二人をなだめ終わると、わしは巨象の皮のスライスを開始する。


 さて、頼まれたものの、フレヤの指定した皮の大きさでは、薄くするのが難しい。2メートル四方か……【鎌鼬かまいたち】で切れたら楽なんじゃけどな~……あ! あの魔法でいくか。



 わしは土魔法で平らな台を作ると、その上に巨象の皮を置く。皮の大きさはハンターギルドの買い取り指定に合わせて3メートル四方なので、そのままの大きさでスライスする。

 使う魔法は【光一閃】。これを出来る限り薄く、目で確認できない程の薄さの、4メートルの剣を作り出す。

 その光の剣を横一閃に平行に振るい、紙ほどの厚さにスライスする。わしは慎重に厚さを調整して切っているが、リータとメイバイには素早く振るっているように見えているようで、飛び交う薄い皮に、拍手喝采はくしゅかっさいを送る。


「すごいニャー!」

「本当です。その剣もキレイですね」

「見てるにゃら、手伝ってくれにゃ~」

「あ……何したらいいニャー?」

「散らばった皮を集めてくれにゃ~」

「はい!」

「わかったニャー」

「わしの前には出るにゃよ~」


 リータ達に拍手を送られるのは、恥ずかしいので仕事を与える。スライスした皮は風魔法でリータ達の元に送り、切る厚さが分厚くなるとスピードをアップして切っていく。


 ふぅ……こんなもんかな? 必要枚数より多く切ったし、大きさも1.5倍あるから、足りなくなる事もないじゃろう。


「二人とも、ありがとにゃ」

「いえ。私達の防具ですからね。少しは手伝えてよかったです」

「これでおしまいニャー? まだ手伝う事はないニャー?」

「もうちょっとやる事があるけど、手伝う事はないかにゃ? あ、今日はエミリが来ないから、料理してくれにゃ~」

「もうそんな時間でしたね」

「美味しい料理、作るニャー!」


 二人が夕食を作りに家に入ると、違う作業に移る。高火力の火魔法を使うので、二人がいないほうがちょうどいい。

 今度は白魔鉱のナイフと針を作る考えだ。フレヤは黒魔鉱のナイフを師匠から借りる予定らしいが、借りられる保証はない。

 白魔鉱は少し余りがあったので、小刀程度なら作れる。ついでに針もプレゼントして、わしの出番を減らそうという算段だ。


 ナイフもドワーフの元で少し手伝った経験があるので、【白猫刀】より切れ味の良い物が作れるはずだ。

 今回は重力魔法で圧縮もしないので、短時間で作り出す。針も簡単に作り、ナイフを研ぎ終わる頃に、リータ達がごはんが出来たと呼びに来た。





「「「「「いただきにゃす」」」」」


 フレヤは呼んだんじゃけど、なんでアダルトフォーがそろっているんじゃ? まぁ自分の分は持ち込んでいるからいいんじゃけど、ここで食べる必要はないじゃろ?


「シラタマさん。食べないのですか?」

「あ、食べるにゃ~。うん。美味しいにゃ~」

「それは私が作ったニャー!」

「これもどうぞ。あ~ん」

「あ~ん。これも美味しいにゃ~」


 わし達が仲良く食べていると、アダルトフォーの、スティナ、エンマ、フレヤ、ガウリカがにらんで来た。どうやら、いちゃいちゃしてるように見えたらしい。


「そんにゃに睨むにゃら、他所に行けばいいにゃ~」

「べっつに~。睨んでませ~ん」

「ペットの餌付けにしか見えませんね」

「猫にしか見えないしね」

「喋っているけどな」


 うん。ガウリカ以外、強がりじゃな。


「それより猫君。巨象の皮はどうなった?」

「もう切り終えたにゃ。そっちの端に置いてあるにゃ」


 わしが部屋の隅を指差すと、フレヤは驚きの表情を浮かべる。


「早っ! でも指定より大きくない?」

「大は小を兼ねるにゃ。小さいよりいいにゃろ?」

「そうだけど、ナイフがね~。借りる当てが外れたのよね」

「ああ。それも問題無いにゃ。ほい。ナイフと針にゃ」


 わしは次元倉庫から出来立てのナイフと針を取り出し、フレヤの元へ、皆に回してもらう。


「これって……白魔鉱?」

「そうにゃ。手持ちがあったから、作ってみたにゃ」

「うそ!? くれるの??」

「う~ん……欲しかったらあげるけど、そんにゃに出番があるかにゃ?」

「たしかに……巨象の皮の依頼なんて、今後来ないか~。白い獣の皮も、私に回って来ないしな~」


 フレヤがナイフを貰うかどうか悩んでいると、エンマが会話に入って来る。


「でしたら、商業ギルドの貸出し用にしてくれませんか? いまは作業できる人が限られていて、まったく足りていないのです」

「へ~。そんにゃ事もしてるんにゃ。フレヤがいいにゃら、わしはそれでかまわないにゃ」

「そうね。これは使う人がいないと、宝の持ち腐れね。終わったらエンマの所に持って行くわ」

「ありがとうございます!」


 エンマはお礼を言うと、わしとの契約を交わそうとするので、寄付すると言ってみたら、猫が良すぎると怒られた。人が良すぎるじゃないかと反論したかったが、怒られるのは嫌なので、安く貸出しするようにお願いして、モグモグする。


 その後、食事を終えると片付けをしてからリータ達とお風呂に入っていたら、アダルトフォーまで入って来た。


 お酌? スティナが完全に出来上がってる? わし達の会話に入れなくて寂しかった? 知らんがな。みんなもわしに押し付けないで!


 風呂から上がると、リータ達には早く寝るように言って、アダルトフォーを離れに隔離。次々に出来上がっていくアダルトフォーの隙を突いて、寝室に移動しリータとメイバイの間で眠りに就く。



 翌日は、ハンターの仕事。アダルトフォーには書き置きだけして家を出る。ジャガイモも忘れず持って王都から出ると、南東の森に転移し、狩りとカミラ探索に取り掛かる。

 ジャガイモを鉢のまま抱えているので、出会った獣はリータとメイバイを主軸に狩ってもらい、わしは後方支援。お昼になると休憩だ。


「そろそろ収穫してもいいかにゃ~?」

「茎も葉もしっかりしてますね」

「もういけるニャー!」

「よし! 抜くにゃ~」


 わしは二人に意見を聞くと、ジャガイモを引っこ抜く。


「にゃ! ジャガイモにゃ!!」

「「やった~!」」

「と、安心している場合じゃないにゃ。切り離すから、持っててくれにゃ」

「私が持ちます」


 リータに茎を持たせると、わしは【白猫刀】を抜いて、またたく間にジャガイモを刈り取った。それを水魔法で綺麗に洗うと、皆で調理に取り掛かる。

 メニューは簡単に作れるフカシイモとスライスして焼いただけの物。キッチンは次元倉庫に入っているので、簡単に出来た。それに合う料理も取り出し、手を合わせて昼食をいただく。


「「「いただきにゃす!」」」

「にゃ!? これはジャガイモにゃ?」


 一口食べて驚いたわしは、リータとメイバイを見ると、二人も驚いているようだ。


「すっごく甘いですね!」

「普通のジャガイモと全然違って、美味しいニャー!」

「これにゃら、うまいし早く出来るから、完璧だにゃ!」

「本当です。国の食糧問題も、すぐに解決しますね」

「でも、美味しいから人にあげたくないかもニャー」

「たしかににゃ。巨象の肉のジャガイモ版って感じだにゃ。でも、飢えている人もいるだろうし、そんにゃ選択は出来ないにゃ~」

「そうだニャ。私の我儘で、独占するわけにはいかないニャー」


 よしよし。これで準備が進む。売る前に、必要個数は確保しないとな。いや、麦でも実験しなくては。てか、他の野菜もうまくなるのかな?


「まぁこれを流通させるのは、他の物も確かめてからだにゃ。さて、腹も膨らんだし、デザートを食べてから狩りにいくかにゃ」

「ブレないですね~」

「ホント、食いしん坊ニャー」

「わし一人で食べてもいいにゃ……」

「食べます!」

「食べるニャー!」



 デザートを食べたわし達は、次なる獲物を求めて歩き出す。しばらくして、狼の群れと出会ったわしは、異変に気付く。


 あれ? リータがメイバイ並みの速度で動いている……メイバイもおっかさん並みじゃ。肉体強化の魔道具は……使っておらんな。どうなっておる?


 わしはリータ達の経験のため、後衛に徹し、危ない場合のみ魔法で攻撃をしているが、出番が来ない。

 リータは盾を背負ったまま素早く動き、飛び掛かる狼に拳をぶつけて遠くにぶっ飛ばす。メイバイも飛び掛かって来た狼の首を、ナイフの一振りで斬り裂き、命を刈り取る。

 複数の狼が襲い掛かっても、二人はものともせずに時間差を使って、わしの出番を奪う。


 う~ん。動きがいいんじゃけど、良過ぎる……それにいつもより、前に出過ぎじゃ。このままでは雑魚に囲まれながらのボス戦になってしまう。動きがいいから、調子に乗っておるのか?


「リータ! メイバイ! 前に出過ぎにゃ!!」

「そんな事ないですよ~。アハハハ~」

「シラタマ殿が遅いだけニャー。アハハハ~」

「にゃ……」


 おかしい……二人がわしの言葉を簡単に否定した上、笑っておる。わしを見た時の目もわっておった……

 何か悪い物でも食ったか? そんな冗談を言ってる場合じゃ……あ! 食った!! ジャガイモか!? 巨象の血が植物と科学変化を起こしたとかか? そんな危険な物質は使っておらんはずなんじゃが……

 わからん! わからんものは、いまは置いておこう。いまは二人の心配じゃ。このままでは、囲まれながらのボス戦に入ってしまう。ここは……


「にゃ~~~ご~~~!!」


 わしは強さを隠す隠蔽魔法を解いて、威嚇する。すると狼達は、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。その姿を見たリータとメイバイは、振り返り、わしにゆっくりと近付く。


「どうして逃げて行ったのですか~?」

「シラタマ殿が何かしたニャー?」


 マジか……わしの威嚇を受けて向かって来る者なんて、そう居ないぞ? 前にメイバイの近くでやった時も、うずくまっておったのに……


「なんだか戦い足りないです~」

「そうニャー。せっかくいっぱい居たのにニャー」

「そうだ! シラタマさんが相手してくださいよ~」

「それいいニャー! 訓練ニャー!」


 嘘じゃろ? 二人がわしに殺気を放って武器を向けておる……正気を失っておるのか? これじゃあ肉体強化じゃなく、狂戦士じゃ……


「準備はいいですか~?」

「もう我慢出来ないニャー」


 来る! 覚悟を決めよう……



 二人が駆け出すと同時に、リータ、メイバイVSわしの闘いは始まるのであった。

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