203 面白がるにゃ~!


 ジャガイモを植えて失敗した翌日。アダルトフォーを仕事に送り出し、わしは庭に出て、ジャガイモとの戦いを開始する。


 さて……巨象の血は、植物の成長を促進させる事はわかった。ただし、成長が早すぎて収穫が間に合わない。これをどう使ったら、ジャガイモを上手うまく収穫できるかじゃな。

 う~ん……濃度が高過ぎるのか? 薄めれば効果が減るのでは? いまは朝植えると、夜中に収穫時期が来てしまう。薄めると収穫時期が遅くなるのかな? となると、毎回実験をするには時間が掛かるな。


 何種類か水で薄めた物を用意したほうがよさそうじゃ。用意するのは、二分の一、四分の一、八分の一、十六分の一でやってみるか。

 これで二倍、四倍、八倍、十六倍で、収穫時期がズレるはずじゃ。じゃが、目盛のあるビーカーが無いんじゃよな。

 ひとまず昨日入れた血の量に近いコップを土魔法で作るか。よっと! あとはそれより大きなおけを四つじゃな。これで下準備は完了。


 ここにコップで一杯ずつ血を入れて、水もさっきの倍率で入れる。よし、完成。

 そんで種芋を入れた鉢を四個用意して、コップで一杯ずつ入れる。あとは待つだけじゃな。早い物で一日後ってところか。

 残った水は、痛まないように桶のまま次元倉庫に入れてっと。これで上手くいけばいいのう。


 わしがしげしげとジャガイモの鉢を眺めていると、リータとメイバイが掃除を終えて庭に出て来た。


「どうですか?」

「どうと聞かれても、いま始めたばっかりにゃ~」

「鉢が四つもあるニャ。何か違いがあるニャ?」

「収穫時期がズレてるにゃ。早い物で明日の昼。遅い物で一週間後に収穫かにゃ?」

「楽しみニャー!」

「でも、ジャガイモをずっと見ていると、仕事が手に付かなくなるんじゃないですか?」

「あ~……孤児院の子供を雇おうかにゃ。それにゃら、わし達が見てなくても大丈夫にゃ」

「なるほど」


 エミリはお昼まで居てくれているから、送り届けたあとに院長のババアに頼むとするか。じゃが、明日の分は心配じゃな。あれだけ成長が早ければ、目を離せないかも……


「明日の分だけは、持って歩こうかにゃ? 失敗を人のせいにしたくないしにゃ」

「あはは。シラタマ殿らしいニャー」

「そうですね。そう言えば昨日、フレヤさんが話していた防具ってなんですか?」

「ああ。リータ達の新しい防具にゃ」


 わしが昨日の話をすると、リータとメイバイの顔が曇る。


「私達のですか……」

「そんなの間に合ってるニャー!」

「そんにゃに気を使わないでくれにゃ~」

「だって、また私達ばっかり貰ってしまいます」

「リータの言う通りニャー!」

「今回はリータ達だけじゃないにゃ。わしも作る予定にゃ」

「そうなのですか!?」

「珍しいニャ……」


 そんなに驚かんでも……わしだって物欲はあるぞ? ただちょっと貧乏性なだけじゃ。ちょびっとだけな。  


「それに巨象の皮にゃら、いっぱいあるからにゃ。あとは手間賃だし、二人の稼ぎの中から出せる額にゃ。まぁパーティ資金から出すけどにゃ」

「巨象の皮だって、売れば高いのに……」

「気にするにゃ。お金より、リータとメイバイの体のほうが心配にゃ」

「シラタマ殿……」


 う~ん。この手の話になると、リータとメイバイは渋るんじゃよな~。もう少し頼って欲しいもんじゃ。


「それにフレヤが作るんだから、かわいい防具が出来るはずにゃ。きっと二人に似合って、かわいさが増すにゃ~」

「「かわいくなれる(ニャ)!?」」


 あ……目が輝いておる。失言じゃったか?


「それを着たら、シラタマさんが惚れ直しますか?」

「悩殺できるニャ?」


 うん。話が変な方向に行った。服ひとつでそれほど変わらんと思うんじゃが……おっと、心を読まれる前に答えよう。


「きっとそうなるですにゃ」

「わかりました!」

「悩殺するニャー!」


 ひとまず防具は受け取ってくれるみたいじゃな。しかしメイバイ……防具で、どうやって悩殺するんじゃ? 某ゲームのビキニアーマーでも作るんじゃなかろうか? 念の為、フレヤとは相談を欠かさないようにしよう。



 その後、エミリの作った昼食を美味しくいただき、孤児院まで送り届ける。

 そこで院長のババアと雇う子供を決めるが、ついて来ていたリータとメイバイの強い要望で、男の子がジャガイモの世話係となっていた。なんでもわしに、女を近付けさせない為らしい。

 わしはどちらでもかまわないので二人の好きにさせ、フレヤの仕立て屋に向かう。お店に入ると呼び出された時間ちょうどだったので、すぐに防具の話になった。


「二人も来たんだ。ちょうどよかったわ。これ見て!」


 いきなり紙を渡されたな。デザイン案か? わしも見てみよう。

 ……防具と思しき物は無い。服じゃな。これで防具になるのか? あ! ビキニアーマーまである。しかも裸同然でエロイ! わしがいらん事を考えたせいで、フラグになっておったか……


「これ……すごいですね。水着にしては、生地も少ないです」

「本当ニャー。こんなので、体を守れるニャ?」


 よかった。リータとメイバイも疑問に思っておる。これなら、ビキニアーマーは選ばないじゃろう。


「ああ。それはネタ防具よ。男に受けがいいみたいだから、ちょっと描いてみただけ」


 フレヤの説明を聞いた二人は、怪しい瞳でわしを見る。


「男にですか……」

「受けがいいニャ……」


 うん。男だけど、猫じゃよ?


「これください!」

「悩殺するニャー!」

「にゃんでにゃ~~~!」


 その後、二人を説得するのに手間は取られたが、二人の肌を他の男に見られたくないと言ったら、なんとか納得してくれたみたいだ。


「どれもかわいいですね~」

「私はやっぱりこれかニャー?」


 服に興味を示すとは、二人も普通の女の子だったんじゃな。じゃが、メイバイはまたメイド服を選んでおる。他にもあるんじゃがな~。まぁ変な物はビキニアーマーだけじゃし、どれを選んでも問題ないな。


 二人の楽しそうにデザインを決めている姿を微笑ましく見ていたら、フレヤがわしに話し掛けて来る。


「まだそれに出来るかは、わからないけどね。どれだけ皮を薄く出来るかは、猫君の腕前しだいね」

「そうだにゃ。ここでやってしまうのかにゃ?」

「ここで作業は出来ないから、奥の作業場に行こう」


 わし達はフレヤに続き、カウンター奥の扉を潜る。


 ふ~ん。初めて入ったけど、店と同じ広さかな? そこで女の子が二人、働いておる。孤児院で見たような……


「にゃあ? あの子って孤児院の子かにゃ?」

「そうよ。服を寄付するって言ったら、院長が寄越して来たの。タダでいいって言ってるのにね」

「じゃあ、こき使ってるんにゃ」

「酷い言いようね。まぁそこまで儲かってる店じゃないから、それに近いわ。その代わり、弟子として技術を教えて、おこずかい程度は持たしているのよ」

「あ、ごめんにゃ~。フレヤはあの子達の将来を考えていたんだにゃ~」

「ううん。私にはこれぐらいしか出来ないからね。それに誕生際では居てくれて、助かったから当然よ」


 それでも、働いている女の子の為になる事には代わりない。将来はフレヤと競い合うかもしれんのう。


「それじゃあ、巨象の皮を出してくれる?」

「わかったにゃ」



 フレヤの指示で、わしは巨象の皮の切れ端を次元倉庫から取り出し、テーブルの上に置く。するとフレヤはメジャーを取り出し、切れ端を図る。


「やっぱり分厚いわね。これなら、リータちゃんの盾にでも使えるんじゃない?」

「にゃるほど。黒魔鉱より強かったら考えるかにゃ?」

「あとはこのままの厚みで、胸当てや籠手もいけるわね。でも、ちょっと重いかしら?」


 ふ~ん。フレヤは本当に防具に詳しいんじゃな。真剣な顔で見ておる。


「でも、それじゃあかわいくないな~」


 やはりそこがネックか。このまま作ってくれてもいいんじゃがな。


「とりあえず、半分の厚みに切ってくれる?」

「オッケーにゃ!」


 わしは皆を離れさせると、机の上と平行に刀を振るい、真っ二つに斬ると、鞘に収める。


「……まだ?」

「にゃ? ああ。もう斬ったにゃ」

「え? カチャって音はしたけど、全然動いてなかったじゃない?」

「それは鞘に収めた音にゃ。ほら? 斬れてるにゃろ?」

「本当だ……」


 わしは巨象の皮を手に取り、分けて見せる。フレヤは驚きながら皮を奪い取り、じっくりと確認する。

 そして次の指示を続けて出し、わしはその指示通り、薄くスライスしていく。


「うそ……冗談で言ったのに、紙まで薄くなった……」


 まぁ20センチ四方じゃからな。これが1メートルもあったら、こうも上手くいかんかった。わしの刀の刃先は50センチぐらいじゃからな。

 それにしても、リータとメイバイは拍手しているけど、フレヤがあっちの世界から帰って来ないな。少し急かすか。


「それで強度はどうかにゃ?」

「あ……ちょっと待って」


 わしの言葉に我に返ったフレヤは、皮を引っ張ったり、叩いたり、手持ちのナイフで刺したりしながら強度を確認する。その都度何やらメモを取り、集中しているようだったので、孤児院の女の子を誘っておやつ休憩にする。

 感謝で撫でられたけど、撫でたかったからだと思う。ゴロゴロ言うと、リータとメイバイににらまれたのでフレヤのそばに逃げる。


 それから集中しているフレヤの口にお菓子を入れて遊んでいたら、作業が終わったようだ。


「ムゴムゴムゴムゴ!」

「「「「「にゃ~~~?」」」」」


 フレヤは口にお菓子を入れたまま喋るので、何を言っているかわからず、わし達は疑問の声をあげる。だが、全員「にゃ~~~?」と言っているのは謎だ。

 その後、お菓子を入れた犯人をフレヤが追究して来たので、わしは知らんぷりをしていたら、みんなに指差され、フレヤには針で刺された。痛くはないが、バカな息子のお父さんに怒られそうな、変な声が出るからやめて欲しい。


「それじゃあ、このメモ通り切り分けてくれる?」

「こんにゃに!? にゃろめっ!」

「アレだけ薄いなら、生地に使えるからね。それに初物だから、失敗もあるだろうしね」

「それはそうにゃが……にゃろめっ!」

「リータちゃん達に、かわいい服が欲しかったんじゃないの?」

「えっと~……にゃろめっ!」


 かわいい服じゃなくて、防具が欲しいんじゃけど……。まぁリータ達にはかわいい防具で説得したし、皮もいっぱいあるから、それでいいか。それにしても……


「にゃろめっ! 針で刺すにゃ~! 痛いにゃ~~~! にゃろめっ!」

「「あ……」」

「にゃろめっ! またにゃ~!!」



 わしの変な声を面白がって、リータとメイバイは、針で刺し続けるのであった。


「にゃろめっ!!」

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