202 ジャガイモとメイバイ


 はぁ。昨夜は酷い目にあったな……


 わしは、リータとメイバイに撫でられ、怒られを繰り返す夜を乗り越え、目を覚ます。


 結局、ぬいぐるみや人形は秘密にしていたみたいじゃな。わしが嫌がると思って隠していたみたいじゃったが、いつかはバレるんじゃから、逆ギレしなくてもいいのに……

 てか、逆ギレなんじゃし、わしが怒られる事じゃなかったのでは? でも、捨てると言ったら悲しい顔をされるじゃろうし、わしが怒られたほうが丸く収まるか。

 どちらとも結婚しておらんのに、完全に尻に敷かれておる。このままでは、わしの威厳が……猫の姿ではまったくないか。はぁ……


 わしが昨夜の事を思い出しながらため息を吐いていると、二人が目を覚まして撫で始める。このままでは仕事に遅れると言うと、二人は渋々だが、動き出してくれた。

 軽く朝食を済ませ、二人の身支度を待っている間にわしは、庭の水撒きを魔法で行う。


 こんなもんかな? しかし雨が少ないから、毎日の水撒きは欠かせないな。これほど緑がある庭は、わしの庭と城の庭ぐらいじゃ。もっと雨が降ってくれたら、王都にも緑が増えるんじゃがな。

 さてと。リータ達は準備が終わったかな? あ! 昨日植えたジャガイモを忘れておった。たしかあの鉢じゃったんじゃが……


「枯れてるにゃ……」


 わしがジャガイモを植えた鉢を眺めて言葉を漏らすと、準備を済ませたリータとメイバイがやって来た。


「どうしたのですか?」

「何が枯れてるニャー?」

「昨日、ジャガイモを植えたんにゃけど、失敗したみたいにゃ~」

「昨日植えたって……もう立派な茎や葉が枯れていますよ?」

「成長しきったあとみたいニャー。本当に昨日植えたニャ?」

「本当にゃ。二人も巨象を解体した場所の跡地を見たにゃろ?」


 わしが質問すると二人は少し考えたが、思い出したようだ。


「あ! 朝に見たら、草が生い茂っていましたね」

「次の日に見たら、全部枯れてたニャー!」

「そうにゃ。たぶん巨象の血は、植物の成長を促進させる効果があると思うんにゃ」

「すごいニャ! 大発見ニャー!!」

「すごいですが、シラタマさんは、そんな物を何に使おうとしているのですか? 食糧不足の改善とか?」

「まぁ……そんにゃところにゃ」


 リータの問いに、わしが肯定するとメイバイは飛び跳ねる。


「さすがシラタマ殿ニャ! その血を配ったら、みんなが救われるニャー」

「う~ん……。一晩で枯れてしまっちゃ使い物にならないにゃ」

「たしかにそうですね」

「じゃあ、枯れる前に収穫すればいいニャー!」

「そうだにゃ。昨日と同じだけ、血を掛けてみるにゃ。すぐに終わるから、狩りに出掛けるにゃ~」


 わしは枯れてしまったジャガイモを引き抜き、新たな種芋と巨象の血を振り掛けると家を出る。

 二人といつも通り南東の森に出向き、カミラ探索と狩りを行うと、夕暮れ前に王都に帰る。

 その後、ハンターギルドに収穫を報告し、ティーサと軽く世間話をして帰路に就いた。



 さて。ジャガイモはどうなったかな? お! かなり育っておる。じゃが、収穫には早いか? 今日はエミリが夕食を作りに来てくれているし、先に夕食を済ませよう。


 わしは縁側から離れ、居間に入ったらちょうど夕食が運ばれていたので、わしも運ぶのを手伝う。

 料理がそろうと手を合わせ、食事の挨拶をする。


「「「「「いただきにゃす」」」」」


 う~ん。またアダルトフォーまで揃っておる……。ここ最近は、毎日来る事は無くなったけど、エミリが来る日に合わせて来てるな。これは気を使っているのか?


「どうしたの? 食べないの?」


 わしがアダルトフォーの生態について考えていると、スティナが尋ねて来た。


「いんにゃ。食べるにゃ」

「ひょっとして、悩みでもあるの?」

「いや。最近、スティナ達が家に来るのが減って、悩みが解決して来たにゃ」

「なによそれ~。まるで私達が悩みの種みたいじゃない」


 もちろんその通りじゃよ。逆にそう思わない理由が聞きたいわ! うっ。アダルトフォーににらまれた。考えるのはよそう。


「まぁ誕生際の時は悪かったわね。忙しいと独り身は食事やなんだと、面倒なのよ」


 スティナが珍しくしおらしくすると、エンマ、フレヤ、ガウリカも続く。


「そうですね。独り身だと、温かい食事にもありつけない時もありますからね」

「そうそう。独り身だと作るのが面倒で、パンだけって時もあるわ~」

「うんうん。わかるわかる」


 どうしたアダルトフォー? 反省して言い訳してる? 珍しい……だが、妙に独り身を強調しておるな。触れるのは怖いからこれはスルーして、ガウリカは家族と一緒に住んでいるから、適当に相槌あいづちしてるじゃろ?

 おっと、ツッコミそうじゃ。ここは黙って料理を食べるのが吉じゃ。気にしない、気にしない。ひとモグモグ、ふたモグモグ。


「なんで何も言わないのよ!」

「かわいそうだと思わないのですか!」

「そうよ! もっと哀れみなさい!」

「そうだそうだ!」


 なにその哀れみの押し売り? ガウリカは相槌しか打たないし……


「みんにゃ自立した素敵な女性にゃ。わしが哀れむにゃんて、みんにゃに失礼にゃ~」

「まぁそうだけど……」


 お! 褒めたら怒りが収まった。これなら正論で押し切れば、アダルトフォーの来襲を抑えられるかもしれない。


「にゃ~? それに好きで独り身なんにゃろ? 自分で自由な独り身を撰んだんにゃから、わしにとやかく言われても困るにゃ~」


 これでどうじゃ? ……ん? なんだかみんなプルプルしておる。わしも寒気で体が勝手に震えておる。これは……やらかした?


「誰が好きで独り身を選んだって~~~?」

「モテないから独り身なのがわからないのですか~~~?」

「仕事ばかりで出会いが無いから独り身だったのに~~~?」

「そ、そうだそうだ~~~?」


 うぉ!? 飛び切りの殺意じゃ……ガウリカも震えて乗っておる。リータ、メイバイ、エミリ。助けて……


 わしは三人に潤んだ目で助けを求めるが、三人はすごすごと自分の食器を持って、ダイニングに消えて行き、居間の扉は固く閉ざされてしまった。

 三匹の鬼に、にじり寄られる猫は、震えながら詫びを入れるが聞く耳持たず。三匹の鬼の怒りが消えるまで、めちゃくちゃにされてしまった。


 その後、わしの長い悲鳴が消えたのを確認して、リータ達は戻って来たが、全裸でピクピクしているわしを見ても、声すら掛けてくれなかった。


 うぅ……アダルトフォーに、犯されてしまった。あんなに激しい撫で回しを受けたのは初めてじゃ。もう少しでってしまうところじゃったわい。

 しかもまだガウリカの膝に乗せられ、撫で回されているから動くに動けない。ガウリカは、わしと一緒に震えていたんじゃから、わしの味方じゃなかったのか?

 とりあえず、黙って食事をとろう。



 わしがゴロゴロムシャムシャしていると冷たい殺気が飛んで来て、音がピタリと消える。その殺気が消えると、またゴロゴロムシャムシャし、殺気が飛んで来る。

 何度かその行為を繰り返していたら、皆、諦めたのか、談笑に変わる。


「それでフレヤさんは、防具を作る事になったのですか?」

「あ、猫君は、エンマから聞いたんだったね。作るよ~。いまはデザインの考え中よ」


 エンマとフレヤが話していると、スティナも気になって会話に加わる。


「へ~。防具なんて、フレヤにしては珍しいわね」

「猫君が手伝ってくれるからね。素材も使い放題だから、やりたい放題できるわ」


 は? 素材を出すとは言ったけど、いつの間に使い放題なんて話になったんじゃ?


「シラタマちゃんが絡むなら、面白い防具が出来そうね」

「そうですね。商業ギルドにも流して欲しいぐらいです」

「猫君の力で、巨象の皮をどれほど薄く出来るかだね。どれぐらいの強度の維持が出来るかも調べなくちゃ」


 三人の会話を聞いていたガウリカも、何やら欲しい物があるみたいだ。


「それならマントなんかも作れないかな? ハリシャ様に連絡を取ったら、マントを御所望だったんだ」

「強度を無視したら出来るかも? それでも、他のマントより頑丈になるかもね」


 う~ん。わしが居るのに、わし抜きで話が進んでおる。声を出してもいいものなのか?


「あの~……ごめんにゃさい! ゴロゴロ~」


 わしが声を発すると、アダルトフォーも殺気を放つ。なので、謝って猫に戻る。


「皆さん。そろそろシラタマさんを許してあげてくれませんか?」

「そうニャー。かわいそうニャー!」


 ようやくリータとメイバイが助け船を出してくれたのだが、アダルトフォーは目配せし、代表してスティナが判決を下す。


「う~ん……反省してる?」

「はいにゃ!」

「許す変わりに、毎日来るからね?」

「にゃ……」

「部屋も空いているみたいだし、私達も住み込もうかな?」

「いや、その……」

「なによ?」


 毎日も住み込みも嫌だと力強く叫びたいが、逆ギレされそうじゃ。ここはやんわりと断ろう。


「荷物にゃんかが入り切らないんじゃないかにゃ~?」

「でしたら、隣の家が空きましたので、四人で借りましょうか?」


 わしのナイスアイデアに、わしよりナイスアイデアを持つエンマがよけいな事を言うものだから、スティナ、フレヤ、ガウリカが乗っかってしまう。


「職場まで近くなるし、お隣さんにはすぐ行けるわね」

「シェアハウス……楽しそうね!」

「あたしも家を借りようと思っていたから助かる!」


 はい? 住み込みは無くなったけど、事態は好転したのか? これでは毎日来られそうなんじゃが……


「決まりね!」

「「「おお~~~!」」」


 あ……決定してしまった。酒盛が始まったな。わしの存在も忘れられているし、いまの内にリータ達の元へ逃げよう。


 わしは静かにリータ達のそばに移動する。そこで、裸だった事を思い出し、服をキョロキョロと探すとメイバイが服を持って手招きするので、受け取ろうと寄って行く。だが……


「いにゃ~~~ん! 返してくれにゃ~~~。ゴロゴロ~」


 返してくれないどころか、リータ、メイバイ、エミリに犯された……わけではなく、撫で回された。どうやら裸のわしを見て、彼女達は盛ってしまったらしい。

 もうわしは、ゴロゴロ言わされ続けて疲れてしまい、三人に撫でられながら、眠りに落ちてしまうのであった。





 ん、んん~……はて? いつの間に寝たんじゃろう? 辺りは真っ暗じゃ。寝息も聞こえるし、みんな居間で寝ておるのか?

 この感触は、メイバイがわしを抱き抱えておるのかな? 暗くてよくわからんし【極小光玉】。わ! まん前にリータの顔があった。


「ん……シラタマさん?」

「起こしちゃったにゃ。ごめんにゃ~」

「あれ? いつの間に寝たんでしょう……」

「さあにゃあ? ひとまずみんにゃに、毛皮を掛けるの手伝ってくれにゃ」

「はい」

「あと、わしの着流しも返してくれにゃ」

「え……」


 リータはわしの着流しを返してくれなかったので、次元倉庫から毛皮を出すついでに、スペアも出して着てやった。

 リータは頬を膨らませていたが、知らんがな。床が抜けるから、ポコポコしないでくださ~い。

 わし達が遊んでいるとメイバイも目を覚まし、アダルトフォーに毛皮を掛けるのを手伝う。居間はリータとメイバイに任せ、エミリをわし達の寝室に運んで寝かせてあげた。


 それらが終わるとジャガイモの事を思い出したので、縁側から庭に出る。


「寒いニャー!」

「寒いにゃら、中で待っていればよかったにゃ~」

「私もジャガイモが気になったニャー」

「仕方ないにゃ~。リータも一緒に使うにゃ~」

「はい」


 わしは次元倉庫からおっかさんの毛皮を取り出し、リータとメイバイに掛けてあげる。そして、【光玉】を使って辺りを照らす。


「あ! 成長してますね」

「もう収穫できるんじゃないかニャー?」

「私もそう思います」

「二人は詳しいんだにゃ~」

「私は国で、農業もやったりしてたニャー」

「私も家の畑を手伝っていましたからね」

「リータの家の事は知っていたけど、メイバイの事は初耳だにゃ」

「そ、それは私が話さないからニャー……」

「ゆっくりでいいからメイバイの事を、もっと聞かせてにゃ~」

「私もメイバイさんの事、もっと知りたいです!」

「シラタマ殿……リータ……」


 メイバイは昔の事になると、話を避けるんじゃよな。死んだ仲間の事を思い出してしまうんじゃろう。今日はここまでかな。


「まぁいまはジャガイモにゃ。二人がいけると言うにゃら抜いてみるにゃ」


 わしは二人の見つめる中、鉢に植えたジャガイモを引っこ抜く。


「「おお~」」


 わしが抜いて持ち上げると、立派な茎の先には、丸々としたジャガイモが付いていた。


「にゃ!!」

「「あ!!」」


 だが、ジャガイモは急速に枯れてしまった。


「遅かったにゃ~」

「「あ~あ……」」

「う~ん……これもゆっくり解決していくしかないかにゃ~」

「そうですね。いつか解決しますよ。ね? メイバイさん」

「シラタマ殿~! リータ~!」


 メイバイは、わし達の言葉の意味がわかったのか泣き出す。そんなメイバイをわし達は抱き締める。その後、落ち着くと寝室にて眠りに就くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る