077 商業ギルド会員になったにゃ~


 エンマの叱責を嬉しそうに受けて、職人逹は馬車作りに戻る。セベリの指示の元、馬車作りは順調に進み、最後に猫又のエンブレムを付けて完成となった。


「シラタマ様。完成しました」

「思ったより早かったにゃ~」

「これだけの職人がいますからね。それに前回よりも素晴らしい出来となりました」

「そうだにゃ」


 前回は、二人での突貫工事じゃったからな。わしもセベリも口には出さなかったが、納得のいかない所は多々あった。


 わしとセベリが馬車を眺めていると、ローザとエンマが隣に並ぶ。


「ねこさん。試し乗りしてもいいですか?」

「私もお願いします」

「好きにしたらいいにゃ」


 ローザとエンマに乗りたいと頼まれたので、ローザの馬車だから、好きにするように伝える。二人に続き、周りの職人逹も乗りたいと言い出し、ローザの許可を得て、順番に乗り込む事となった。


 サスペンション搭載馬車に乗った皆の反応は、すこぶる好印象に見える。だいたいが揺れの少なさに、驚きの声を出している。

 その声を聞いていると、リータがわしの側にやって来た。


「皆さん楽しそうですね」

「リータは乗らないのかにゃ?」

「はい。私はいつも車に乗っていますから大丈夫です」

「じゃあ、少し土魔法の勉強をしようかにゃ?」

「お願いします!」


 わしはリータに土魔法で硬くする知識を軽く教え、攻撃に適した形、防御に適した形を実演を交えて教える。リータはわしの見せた土魔法を見よう見まねで使い、すぐに魔力は限界に近付く。



 リータの限界が来て、わし達が休憩していると、試し乗りに出ていた人達も戻って来た。


「ねこさん、すごいです!」

「こんなに揺れが減るのですね」

「猫先生! 快適だったぜ!」

「これならば長旅も苦にならないな」

「いい物を習えた」


 ローザ、エンマ、職人逹から次々と感想が飛んで来る。


「これでおしまいじゃないにゃ。ここからさらに発展させて、より良い物を作って欲しいにゃ」

「あなた逹。わかっていますね?」

「おうよ!」

「もっといい物作ってやる」

「猫師匠の期待は裏切らないぜ」

「それにエンマさんの眼鏡も作れるようにならないとな」

「またあの目に戻られたら、こっちが困る」

「違いねぇ」

「「「「「アハハハハ」」」」」

「あなた逹!」

「め、眼鏡は取るな~!」


 わしは技術発展をお願いしたはずなんじゃが……エンマの怖い目を防ぐ方に話がいっとらんか?


 エンマの叱責の後、少し騒ぎとなったが落ち着くと、今度はわしに感謝の言葉が飛んで来た。


「ねこさん。立派な馬車をありがとうございます」

「わし一人じゃないにゃ。みんにゃで作ったにゃ~」

「シラタマさん。スプリングだけではなく、私の眼鏡まで作っていただき、ありがとうございます」

「ただの気まぐれにゃ」

「猫師匠、ありがとう!」

「猫先生、ありがとうございます」

「そろそろ呼び方を統一するにゃ!」


 馬車は無事完成し、わしはローザ、エンマ、職人達に礼を言われ、照れくさいので……いや、呼び方を本当に統一して欲しいので大きな声でツッコんでやった。

 この後、猫又エンブレムが付いた馬車、キャットシリーズが王都を走り回り、頭を痛める事となるのはまだ先のお話……



 馬車が完成して家に帰ろうとすると、エンマに引き止められ、わしとリータは商業ギルドに連れて行かれる。

 ギルドに入ると、当然、猫、猫と騒がれるが、半分はエンマの眼鏡姿に驚く人々であった。


「なっ……シラタマさんだけでなく、何故、私に注目が集まるのでしょうか?」

「それは、エンマが美人だからにゃ」

「からかわないでください」

「猫さん……私はどうですか?」

「リータはかわいいにゃ~」

「か、かわいいなんて……」


 二人とも、褒め言葉に弱いのかのう? 赤くなっておる。事実じゃけど、精神年齢百二歳のわしからしたら、みんな子供じゃから褒め言葉を言うくらい、なんのことはない。


「それで、ギルド証を作るにゃ?」

「あ……そうでした。ハンター証をお借りしてもよろしいですか? 上書きさせていただきます」

「そんにゃこと出来るんにゃ」

「はい。商人の中には兼業する人もいるので、ハンター証と商業証を分けるのが面倒と言う意見が多かったので、まとめられるようになったと聞いています」

「へ~。それじゃあ頼むにゃ~」

「少々お待ちください」


 わしは首に掛かっているペンダントをエンマに渡す。するとエンマは石板のような物をカタカタと打ち、作業はすぐに終わった。


「これでシラタマさんも商業ギルド会員です。スプリングや工具、眼鏡の技術使用料はギルド証に振り込まれますので、引き出しは別のカウンターでお願いします」

「わかったにゃ」

「それと入会すると、ハンターギルド同様、ランクが付きます。最初は誰でもFランクからとなります」

「ふ~ん。どうやって上げるにゃ?」

「簡単に言うと、商売をして税金をどれだけ納めるかですね。シラタマさんの場合スプリングや眼鏡等が売れれば、一定の料金から税金を差し引かせていただきます」


 わしは何もしないでも勝手にお金が振り込まれ、ランクが上がって行くのか……わしの考えた物では無いから気が引けるが、有り難く貰っておくか。


「ありがとうにゃ」


 わしはエンマに礼を述べると商業ギルドを後にして、リータと手を繋いで家路に就く。



 そして次の日は、ハンターギルドで依頼を受ける。あまりいい依頼も無かったので、困っていそうな村に出向き、解決すると獲物の解体と引き換えに肉を分ける。

 リータが土魔法を攻撃に使えるようになったので、盾と併用して使わせてみたが、動いている動物への命中精度が課題となった。


「上手く当たらなかったです……」

「動いている動物は難しいからにゃ」

「どうやったら当たるのでしょうか?」

「相手の動きを先読みするにゃ」

「難しいです……」

「難しいにゃら、相手が止まった瞬間を狙うにゃ」

「止まる?」

「例えば体当たりして来た動物を盾で受けると、どうなるにゃ?」

「動きが止まります。あ……そこを狙えばいいのですね!」

「そうにゃ。帰ったら、ちょっと練習するにゃ~」

「あれ? 依頼達成の報告はしないのですか?」

「いまは帰って来たハンターが多い時間帯にゃ。明日の人が少ない時間に行くにゃ~」


 わしとリータは王都を喋りながら歩き、帰路に就く。家では今日の反省と、少しリータの訓練に付き合って、美味しくごはんを食べて眠る。



 そして次の日……。予定通りハンターギルドに依頼達成の報告をしに行くが、予定は狂わされた。


「「「「「来たーーー!!!」」」」」


 ハンターの少ない時間帯を狙って来たにも関わらず、わし達は大勢のハンターに出迎えられ、取り囲まれてしまった。


「な、なんにゃ!?」

「俺達のパーティーに入れ!」

「猫ちゃんは、私達のパーティーに入ってくれるよね?」

「いや、俺達だ!」

「私達のマスコットになって!」

「この猫は、俺達の荷物持ちになるんだよ」

「そんなひどい事はさせない。ブラッシング付きでどう?」

「うちはエサを付ける!」

「毎日一緒に寝ようね~?」


 わしが驚きの声を出したのも束の間、ハンター達は口々に勧誘の言葉を述べ、わしとリータは揉みくちゃにされてしまった。


「ぐっ……やめるにゃ! 離れるにゃ~!」

「猫さ~ん!」

「リータ! どこにゃ~!?」


 わしの取り合いがさらに熱くなり、リータの姿は大勢のハンターの波に飲まれていった。


「もう怒ったにゃ! すぐさま離れないと怪我するにゃ~~~!」



 わしは全然離れる気配の無いハンターを見て溜め息を吐き、魔法を使う。わしを中心に風魔法の【突風】を瞬時に50センチほど出し、ハンターを押し返して空間を作る。そして、ハンター達の圧力が消えると、すぐに飛び上がる。

 わしが抜け出した空間は、あっと言う間に潰れるが、かまわすハンター達の肩や頭を土台に飛び跳ね、受付カウンターに飛び乗ると叫ぶ。


「わしは誰ともパーティを組まないにゃ~! わかったら、とっとと帰るにゃ!」


 わしの声を聞いたハンター達は、一斉にカウンターを見て、口々に反論を述べる。


「はあ? リータと組んでるじゃねぇか」

「そうよね。それじゃあ引けないわ」

「リータは……別にいいにゃ」

「リータがいいなら、俺達でもいいだろ? リータより強いぜ」

「私達だって強いから、リータより役に立つわよ」


 ああ言えばこう言う……全然引いてくれない。リータを連れているのが裏目に出たか。もう面倒くさい! 力でねじ伏せてやる!


「お前逹が強いにゃら力を見せてもらうにゃ。わしを仲間にしたいにゃら、最低限わしより強い事にゃ! この条件以外、受け付けないにゃ!!」

「よし! やってやる」

「俺様が先だ!」

「猫ちゃんは私の物よ!」

「私がペットにする!」


 こいつら正気か? わしに勝てると思っておる。元B級ハンターを倒したのを覚えておらんのか?



「あなた逹! これはなんの騒ぎよ!」


 わしとハンター達との騒動を聞き付けたのか、ギルドマスターのスティナが自分の部屋から出て来て大声で問いただす。

 ハンター達が返事をしない中、辺りを見渡したスティナは、カウンターに乗っているわしを見つけて、あらぬ罪を押し付けて来る。


「またシラタマちゃんが騒いでいたの!?」

「わしじゃないにゃ~。悪いのはこいつらにゃ~」


 まったく……スティナは何処を見ておるんじゃ。わしが騒いだ事なんて一度もない。わしのせいで騒ぎが起こる事は多いけど……それでもわしは悪くない!


 わしの言い訳に納得しないスティナは、近くに居たティーサを問いただす。


「ティーサ。どうなっているの?」

「猫ちゃんの勧誘が殺到しています」

「やっぱりシラタマちゃんのせいじゃない」

「違うにゃ~!」

「それで仲間になるなら、猫ちゃんより強くないと入らないと宣言したところです」


 ティーサが騒ぎの原因を簡潔に述べると、ハンター達がスティナに詰め寄り、勝手な要求をし始めた。


「ギルマス、やらせてくれ!」

「私達からもお願いします!」

「そんな事を言われても……いや、これはチャンスかしら?」


 ん? いま、なんて言ったんじゃ? 小さ過ぎて聞き取れなかった。ただ、スティナの顔が悪い笑顔になっているから、嫌な予感しかせん。


 わしの予感はドンピシャ。スティナはよけいな事を大声で言い出した。


「聞け! 猫争奪戦を開催する! 日時は来週。参加したい者は、明日から受付を行うからふるって参加しなさい!!」

「「「「おおおおお!!」」」」

「猫争奪戦って、なんにゃ~~~!!」


 スティナの宣言に、ハンター達は大声で応え、残念ながらわしの叫び声は誰にも届かなかった……



 そうしてハンター達は笑顔でギルドを去り、わしとリータは依頼完了報告と買い取りを済ませ、肩を落としてギルドを出る。


「はぁ……」

「大変な事になりましたね。でも、猫さんは強いから負けませんよね?」

「負けはしにゃいけど、スティナが絡んでいるのが厄介にゃ~」

「ああ~」


 リータも覚えておったか。昇級試験では大々的に観客を集め、賭けまでしていたからな。また見せ物にされるのか……次は、全財産をわしに賭けようかな?




 猫争奪戦の受付が始まってから数日後……


「さっちゃんも見送りかにゃ?」

「うん。ローザとは、またしばらく会えないからね」


 今日はローザが領地に戻ると言うので、リータと一緒に屋敷まで見送りに来た。さっちゃんも護衛のソフィ逹を連れて見送りに来たみたいだ。


「シラタマちゃん……あの馬車は、なんなの?」

「ローザに頼まれて作ったにゃ」

「なにあの猫! シラタマちゃん? かわいい!!」

「サンドリーヌ様の馬車には無いのですか?」


 ローザ……何を勝ち誇った顔をしているんじゃ? そんな挑発みたいなこと言ったら……


「ズルい~! 私の馬車にも付けて!」


 ほらな。こうなるんじゃ。


「ズルいのはサンドリーヌ様です。ねこさんと会えなくなるのは悲しいです」

「シラタマちゃん争奪戦も見れないしね」

「うぅぅ……ねこさんの活躍、見たかったです~」


 ローザは今にも泣き出しそうな顔をするので、わしは優しく微笑みかける。


「わしからも遊びに行くにゃ」

「本当ですか?」

「約束にゃ~」


 わしとローザは指切りをする。そうして約束を交わすと、さっちゃんが何かおかしな事を言い出した。


「ローザ。勝負はまた今度ね」

「サンドリーヌ様。負けませんよ」

「にゃんの勝負にゃ?」

「「どちらがシラタマちゃん(ねこさん)を婿むこにするかよ(です)!!」」


 えぇ~! ここでも争奪戦が起こっておる。猫又を婿にする王女と貴族ってどうなの? ローザのじい様も白目をいておるし……

 と、とりあえず、何か返事をしておこう。こ、こういう場合は……


「わしにも選ぶ権利があるにゃ~」


 わしは目を泳がせながら応えると、偶然アイノと目が合ってしまった。


「「「「「やっぱり、胸か~!!」」」」」


 わしと、とばっちりを受けたアイノは、皆に怒鳴られるのであった。


 て言うか、怒る人、増えてない?

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