第十二章 王様編其の三 猫の国の発展にゃ~

317 猫の国は順調にゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。列車の名前はわしの知らないところで、キャットトレインと決定していた……トホホ。


 試運転の際にホウジツを問い詰めてみると、最初は「魔導列車」と呼んでいたらしいのだが、リータとメイバイの耳に入って変更したとのこと。

 なんでも、猫の国なのに猫が一言も入っていないのはどうしてかと苦情が入ったらしい。ホウジツはそれもそうかと納得し、二人の出した案の「キャットトレイン」で統一したとのこと。


 皆にも名称の変更を伝えたところ、太鼓判を押されたらしいが、わしにも変更のお知らせをして! リータとメイバイに言った? 二人から聞いているものだと思った? 二人が教えてくれるわけがないじゃろ!



 結局、決定事項であったため、わしの反対は聞いてもらえず、キャットトレインの運行は開始した。



 まず開通したのは、ラサの街とソウの街を繋ぐ区間。これは双子王女に知られたくないので耐久テストを兼ね、先行して繋いだ。

 この区間は徒歩三日と比較的近いので、キャットトレインなら片道半日で着く。なので、毎日行って来いをさせ、運転手の練習と整備の練習をさせている。


 次に繋いだのは、ソウの街と猫耳の里を繋ぐ区間。ここは木が多く残っていたので、わし直々に森を押し返して実現させた。

 線路は猫の街の南東外壁をかすめるように繋いだので、ここで人や物を乗せられる。猫耳の里へは、まだ人族を送り込めないから、南東門に作った詰め所で人員交換をしている。


 こうして流通革命を推し進めていると、他の街との物のやり取りが早いので、双子王女が感付き始めた。なので、時間調整をしてごまかしている。

 現在はトンネルでも、軍が線路を繋ぐ作業をしているが、東の国には道の整備と嘘をついて行っている。すれ違う東の国の商人に見られる事もあるが、レールが無いので、バレるわけもない。



 キャットトレインが二台稼働すると、ある程度の物流が円滑になったので、三台目が完成したら、ビーダールに売りに行った。

 ここは、猫の国の民が作業をするには遠過ぎるので、ビーダールの作業員を連れて、わし直々に線路の作り方と運転の仕方、整備のポイント等を実演してあげる。


 線路を海に向けて数キロ作ると、バハードゥと一緒に試乗。かなり興奮していた。海へは馬車で五日以上かかるところを、出発したその日に着くのだから致し方ない。

 もちろん購入も即決定。ただ、高価なので支払いを少し遅くして欲しいと言われた。深刻な食糧不足が続き、最近、東の国から大量の麦を買ったから、国庫が空に近いんだとか。

 まぁそれぐらい想定内。支払いの遅延を認める。利息も無し。ここは第一号なので、宣伝に大いに役立ってもらおう。

 それに、電池になる魔道具レンタル業と運賃から少しピンハネするので、猫の国はキャットトレインが増えれば増えるほど、潤う計算だ。


 外貨は今回は手に入らなかったが、将来的には猫の国からビーダールへの直通列車が走る予定なので、塩や砂糖が安く手に入る。

 わざわざ一番遠い国に第一号を納品したんだから、バハードゥには南の国の説得で頑張って欲しいものだ。



 キャットトレイン以外の外貨獲得手段は、キャットトンネルを抜けた砦での地産品の販売だ。

 東の国と猫の国の砦は治外法権。まだお互いの国民を活発的にやり取りをさせるには、軋轢あつれきがあるだろうと、女王を説得してお互いの国の砦内までしか入れないようにしている。

 本当の目的は、キャットトレインを見られないため。これから行う計画には、サプライズ性があったほうが、力を発揮するはずだ。

 それと、猫の国から国民を出さないためと、金貨の流出を止めるためも、目的に含まれている。


 国民を出さない理由は、死刑予定の貴族が、数十人ほど消えているので、現在探索中だから猫の国から出せない。トンネルに入るにも、わしが面接した者にしか通行証を発行していないので、東の国に逃げる事も出来ないだろう。

 金貨の流出を止めている理由は、単純にうちの金貨の質が悪いので、恥を外に出したくないだけ。

 現在、金貨の交換中なので、貴族の捜索と金貨の交換の進捗状況を見て、東の国の国民の受け入れを開始する予定だ。



 東の国での砦では、米や味噌、醤油やみたらし団子の実演販売、服や装飾品も売っている。一番の売上頭は、光の魔道具のレンタル事業……と言いたいところだが、始めたばかりなので、結果がわかるのはまだまだ先だ。


 いちおう報告では、猫の国に向かう商人は、初めは松明で入ろうとしたのだが、馬車で四日かかると聞いて、渋々、光の魔道具を借りて行ったと聞いている。

 そのしばらく後には、同じ商売を始める者や持参して来た者もいたが、価格を大幅に下げたので、おそらく一人勝ちになるだろう。

 城の地下空洞での補給プラス、キャットトレインでの運賃。コストカットで、我が国に勝てるわけがない。商人達も、安く借りられると喜んで借りて行ったと報告を受けた。

 猫の国の商人が販売している物は、全てわしが売れそうな物をピックアップしているので、なかなかの売上高らしい。

 みたらし団子に至っては、すぐに売れ切れるから、素材と人員の補充が要請されたので、センジとホウジツに丸投げしておいた。


 猫の国の砦で商売を始めた東の国の商人には、ソウとラサにいる商人に買いに行かせてみたが、どれも高価で、冷やかして帰るしか出来なかったとのこと。どうやら、かなり足元を見られているみたいだ。

 かと言って、東の国の商人には何度もこちらに足を運んでもらわなければならないので、買わないわけにもいかない。

 ひとまず二日間、値切り交渉をさせ、諦めて帰る時に、猫の国で使えそうな物は全て買い取らせる。まだ割高だったので、わしのポケットマネーからちょっと出してやった。

 木彫りの置物以外は買い取ってやったので、商人はホクホク顔で帰って行ったらしいから、お得意さんになってくれそうだ。次回も木彫りの猫を持って来るようなら、何も買わずに追い返すがな!



 こうして猫の国は少しずつだが国が発展し、食べる物にも困らず過ごして、建国から二ヶ月半が経った。


「みんにゃ~。帰るにゃ~」

「え? もうですか??」

「まだ早いニャー」


 今日もソウの街の地下空洞で訓練していたリータとメイバイは、迎えに行ったわしの言葉を拒否する。


「明日は東の国に行くんにゃから、早く帰って準備しようにゃ~。それとも、お留守番にするかにゃ?」

「行きます!」

「置いて行かないでニャー!」


 わしがお留守番と言うと、二人は焦って走り寄る。そうしてコリスの手を引いて、わし達は猫の街に帰り、役場兼、我が家の食堂で双子王女と食卓を囲む。


「さっちゃんの誕生日にゃのに、本当に帰らないにゃ?」


 食事の席で、わしは双子王女から東の国に戻らないと聞いていたので、最終確認をする。


「ええ。まだまだ仕事で手いっぱいですからね」

「そうかにゃ~? 最近は優雅にお茶してたりするにゃ~」

「見てましたの!?」

「そりゃ、庭の手入れをしてるのはわしにゃもん」

「シラタマちゃんは、王様になっても変わらないのね……」

「そんな事は庭師にやらせればいいのですわ」

「あ~。たしかに、職業としてはあったほうがいいかもにゃ~。子供にでも仕込んで見ようかにゃ?」

「そうですわね。これから農業も手が空く事も増えるでしょうし、新しい職業は必要かもしれませんわね」

「まぁ今は勉強が先決ですから、秋までに考えておけばよろしくなくて?」


 双子王女はわしの発案から、食事の手が止まり、二人で話し合いを始めた。


「また仕事の話になってるにゃ~。ひょっとして、二人は帰りたくないにゃ?」

「「えっと……そうですわね」」

「そうにゃの!?」

「だって、ここに来て、まだ三ヶ月も経っていませんのよ」

「こんなに早く帰ってしまうと、仕事を投げ出して来たのかと疑われてしまいますわ」

「女王やさっちゃんにゃら、そんにゃ事を思わないんじゃにゃいかにゃ~?」

「それでもよ。もっと街を立派にしてからじゃないと、帰れないですわ」

「それに、王様が国を離れるんだから、私達が守らないといけないですわ」

「わしとしてはありがたいんにゃけど……わかったにゃ。留守は任せるにゃ~」


 双子王女の決意は固いので、説得は諦める。そうしてわし達の話が終わると、ワンヂェンが質問して来た。


「にゃあにゃあ? どうしてうちは誘ってくれないにゃ?」

「その前に……にゃんで家を与えたのに、いつも普通にわし達の家にいるにゃ~!」

「にゃんでって言われても……食事は美味しいし、畳も気持ちいいからにゃ~」

「給料だって払っているし、畳みは販売してるんにゃから、買ったらいいにゃ~」

「え~! シラタマの家のほうが落ち着くにゃ~」


 ワンヂェンは、わしの家に居着いてしまっている。お供のヤーイーも一緒に、空き部屋で寝泊まりし、休みの日には、縁側でゴロゴロしている姿も見る。猫にとっては安らぎの空間なのかもしれない。


「暑苦しいから、くっつくにゃ~」

「シラタマも似たようなもんにゃ~」


 そして王様のわしに対しても、尻込みせずに、意見を言って来る。だいたいが、見た目の事で喧嘩になるのだが……


「それぐらい、いいじゃないですか」

「そうニャー。ワンヂェンちゃんも、家族みたいなもんニャー」


 喧嘩になると、リータとメイバイが必ずワンヂェンの味方をする。おそらく、ワンヂェンに買収されていると思う。たまに膝に乗せて、撫でてる姿を見るからな!


「わかったにゃ~。ワンヂェンの家は、もう取り上げるからにゃ?」

「やったにゃ~!」

「それじゃあ、ごちそうさにゃ」

「待つにゃ! 東の国はどうなったにゃ~」

「勝手について来たらいいにゃ~」


 「にゃ~にゃ~」とうるさいワンヂェンに負けて、わしは許可を出す。ワンヂェンの現在の仕事は治療院での怪我人の治療なのだが、わしがお出掛けする時は、決まって休みを合わせて来る。どこで情報を仕入れているんだか……


 こうして騒がしい食事を終わらせるとお風呂で汗を流すが、大人数で入るから、いつも騒がしい。双子王女の胸を見てしまうと怒られるから、あとから入って欲しいものだ。ホンマホンマ。



 翌日は、双子王女、ケンフ、シェンメイに見送られ、猫の街を立つ。今日のお出掛けは、リータ、メイバイ、コリス、ワンヂェン、お供にヤーイーとエミリだ。

 ヤーイーは、いつもワンヂェンに置いていかれてお留守番をしているので、たまには連れ出してあげた。元奴隷だ。これぐらいの息抜きは、させてあげたい。


 ヤーイーが参加する事で移動は飛行機になったので、少し時間が掛かるが、それも旅の醍醐味。ヤーイーには、いい経験になるだろう。


「飛行機の旅もいいにゃ~」


 ワンヂェン……お前には言っておらん!

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